第41話 千里 オレの女ともだち 初出09.1.16
夏休みになって数日経ったけど・・・オレはといえば、あまり外にも行きたくないし、今日も自分の部屋でベッドに寝転がりながら、女の子の雑誌JINON〈ジノン〉なんかをながめて過ごしていた・・・こういう雑誌で、いろんな可愛い服を見ると、なんとなく着てみたいと思うのはオレの心が女の子に近づいているからなのだろうか・・・? しかし・・・オレは思うのだが、男だってこんなに毎日女の子の服ばかり着ていたら、今度はこんなのが着てみたいなんて思うのではないだろうか? とはいえ、普通に女の子の服ばかり着ている男なんて、そうそう、いそうにない・・・女装好きの人だって、ふだんは男の服を着ているのではないだろうか?
オレはおばあちゃんに言われてから、女になるってどういうことなのか良くわからなくなっていた。いや・・これまでだって良くわかってるとは言い難かったが、それでも女の子の服を自然に着られるようになったり、女の子らしい仕草や言動が出来るようになれば、いずれは女の子になれるような気がしていた・・・でも、どうもそれは甘い考えだったようなのだ。オレが女の子らしいと考えていたのは、男のオレが考えた女の子らしさなのかもしれない・・・
でも、それが判ったところでオレにはどうすれば良いのか解らなかった・・・オレは元々男なのだから、どんなに頑張ったところで、全てはマネごとなのではないのだろうか?
オレは雑誌を横に置いて携帯を充電器から外した・・・電源を入れてメールを受信する・・・すると佐倉千里〈さくら ちさと〉からメールが来ていた。
オレが普段は常に電源を切っているのはみんな知っているから、オレに連絡するにはメールを送るしかない。それはオレが電話嫌いだからということになっているが、本当はそうではなかった。オレの携帯は中学の時のままだったから、いきなり中学の頃の友達からかけてこられると困るからというのが本当の理由なのだ。もちろん誰がかけてきたかは表示されるから判るが、最近オレは男のころの声の出し方を、良く思い出せなくなっていた・・・だから電話では以前の男友達と話したくなかったのだ。
まあ、オレはそんなに友達が多い方ではなかったから、それほど心配する必要もないかもしれないが、用心するに越した事はない・・・実際一度、中学時代の友達の鈴木から会わないかとメールがあったが、オレは京都の学校に行っているから会えないとメールを返しておいた。元々オレは他県の高校を受験したことになってたし、会いたいと思ったところで今のオレでは会えるハズもない・・・京都にしたのは兄さんが京都の大学に行ってるからだ。
佐倉からのメールは来たばかりだった・・・“できるだけ早く電話して”と書いてある・・・
「何だろう・・・」
オレはすぐに佐倉に電話してみた。
「あ、もしもし・・・千里?」
「うん・・有希にしては早かったね。」
「う・・うん・・・たまたまだけどね・・・」
オレはだいぶ返事が遅いと思われているみたいだ・・・無理もない・・・
「それで? どうしたの?」
「・・・有希も・・・来た・・・?」
「え? 来たって・・・何が?」
「JINONから・・・」
「JINON?」
オレは思わずさっきまで読んでいた傍らの雑誌に目をやった・・・いったいJINONがどうしたのだろう・・・
「・・・JINONがどうかした?」
「え?有希は来てないの・・・?」
「だから、何がよ・・・!」
オレはだんだんイライラしてきた・・・佐倉はもとからあまりハキハキしているとは言い難いが、電話だとよけいハッキリしない・・・いったいJINONが何だというのだろう・・・
「前に送ったじゃない・・・読者モデルの・・・」
「あ〜・・・アレね・・・」
オレはすっかり忘れていた・・・あんなの採用されるハズないと思ったし・・・ん?・・・ということは・・・?
「・・・もしかして・・・採用の通知が来たの?!」
「・・・うん・・・ていうか・・面接の通知だけど・・・」
驚いた・・・こんなことってあるんだなぁ・・・でも佐倉は可愛いから有り得ない話ではないかも・・・送った写真も可愛く撮れてたし・・・
「良かったじゃない! 行くんでしょう?」
「・・・でも・・・有希にも絶対来てると思ったのに・・・」
「わたしに?!」
オレが採用されるハズはない・・・オレは美人でも可愛くもないし・・・だいいちあんなボケた写真では採用されるハズがない・・・これはみんなは知らないことだけど・・・
「わたしなんか無理に決まってるじゃない!」
「そんなことないよ・・・有希はわたしより可愛いじゃない・・・」
冗談じゃない・・・こんなこと言ってオレに佐倉の方が可愛いと言わせたいのだろうか・・・でもいいのだ、オレは本当の女じゃないから、こういう女の子の駆け引きに関しては心が広いのだ。
「千里の方が可愛いよ!」
女の子との付合いもけっこう気をつかう・・・
「それで・・・直美と弘子は?・・・聞いてみた?」
「・・・ううん・・・まだ・・・とりあえず有希に聞いてみようと思って・・・」
「・・・・」
一番受かりそうもないオレに聞いてみたってこと・・・?
「・・・ねえ・・有希から・・・聞いてくれない・・・?」
「え?! ふたりに? わたしから?」
「・・・うん・・・」
「う〜ん・・・なんか聞きにくいなぁ・・・」
特に岡本は自分が受かりたくてみんなを誘ったみたいだから、もし採用の通知が来てなかったら気まずいことになりそうだ・・・とはいえ佐倉に自分で聞けとも言いにくい・・・
「・・・わかった、わたしから聞いてみるよ!」
「ありがとう有希!」
「うん、じゃぁ聞いてみるから。聞いたらまた電話するね。」
オレはそう言って電話を切った。ちょっと気が重いけど仕方がない・・・佐倉はオレにとっては一番仲がいい大切な女友達なのだ・・・長谷川を除けばだけど・・・もっとも、長谷川は友達という感じでもない・・・秘密を知られすぎてるからなぁ・・・
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オレは岡本直美〈おかもと なおみ〉と原口弘子〈はらぐち ひろこ〉に電話をしたが、ふたりにも通知は来ていなかった。佐倉に通知が来たことを伝えると、原口は「よかったね」と言ったが、岡本はあきらかに不機嫌そうに「なんで有希じゃなくて千里なの?」と言った・・・なんでそこでオレの名前が出てくるのか解らないが、はっきり言って良いとばっちりだ・・・そのうえ岡本は一度4人で会おうと言い出した。
結局オレたちは集まることになったが、オレは正直、女のいざこざに巻き込まれたくはない・・・だが、心配はそれだけではなかった・・・オレはいったいどんな服を着ていけばいいのだろうか・・・?3人とは学校以外で会ったことがないから、どんな私服か見当がつかないのだ・・・もしみんながスポーティーな恰好で、オレだけ可愛い恰好だったりしたら最悪だ!
オレは意を決してタンスの引き出しを開けた・・・そこにはレナと買い物に行った時に買ったジーンズが入っていた・・・オレはパンツ類は穿きたくないと言ったのに無理矢理に買わされたやつだ・・・今となってはレナに感謝しなければいけない・・・
ジーンズは買ったばかりだからサイズもぴったりだ・・・実は男のころのジーンズもあったのだが、このあいだ穿いてみたらボタンが閉まらなくなっていたのだ。最初は太ったのかと思ったが、どうやら男のころよりお尻が大きくなったらしい・・・これも女性ホルモンの影響なのだろう・・・たしかに男だったころよりも丸くなった気がする・・・
女性用のジーンズは股上の短さがヘンな感じだ・・・女性用はどれもこんな感じだとレナが言っていた。パンティーが見えるほどローライズではないけど、それでも小さめのパンティーを穿かなきゃいけない・・・オレは他人にパンティーを見せるつもりなんかない・・・
上は何を着ようかと思った時、長谷川の服装が頭に浮んだ・・・Tシャツ・・・? でもオレはそこまで男っぽい恰好をするのはやっぱり怖い・・・だって男が男っぽい恰好をしたら男に見えてしまうに違いない。結局オレは、上は少し可愛い感じの淡いピンクのフワッとしたのを選んだ。ベビードールって言うんだっけ・・・肩が大きく開いているのがちょっと恥ずかしいけど、袖も膨らんでて可愛いのだ。短かめのワンピースって感じだから過ってパンティーが見えてしまう心配もない・・・ただ、こういう肩が開いた服を着る時は、肩ヒモがあるブラをつけられないのが困るところだ・・・肩ヒモがが無いブラは落っこちそうで不安になってしまう・・・レナに言わせるとブラのヒモが見えてもいいのだそうだが、オレにはまだ見せブラはちょっと恥ずかしすぎてムリだ・・・出来るだけアンダーがしっかりしているのを選ぶしかない・・・
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オレたちは学校がある久留米〈くるめ〉のミスドに集まることにした。オレが少し遅れて行くと3人はもう来ていた・・・女のくせに早いやつらだ・・・
「あ!来た来た・・・有希!」
オレが店に入ると原口が「早く!」と言うように手招きした。どうやらすでにイヤな空気になってるようだ・・・岡本は腕を組んで膨れっ面だし、佐倉はシュンとしてしまっている・・・こんな空気をオレにどうしろって言うんだ・・・
「ご・・ごめん・・待った?」
オレは思わず気になっている髪の毛を手で撫でつけながら言った・・・今日は急だったし、かあさんも麻衣もいなかったから髪も自分でやるしかなかったのだ。だから両サイドを後ろで髪留めではさむだけという簡単な髪型だった・・・ヘンになっていないか気になる・・・
「ねえ有希、おかしいと思わない? なんで千里だけ通知が来るのよ!」
岡本ははっきりモノを言うのもいいけど、佐倉の気持ちも考えないのだろうか・・・?
「・・・そんなことないと思うけど・・・だって千里可愛いもん・・・」
「・・・有希なら納得できるんだけど、千里だけってのがどうにも納得できないのよねぇ・・・」
またオレの名前を・・・こんなところでオレの名前を出さないでほしいのに・・・
「ね・・ねえ・・・弘子は? どう思う?」
オレが助けてほしくてそう言うと、
「わたしは元々通知が来るなんて思ってなかったから・・・こういうのは編集部の人がどんなコが欲しいかで決まるんじゃないの?」
「そ・・そうよね・・・」
なんか味も素っ気もない答えだ・・・原口もちょっとは気にいらないのだろうか・・・? まあ、いつもこんな感じといえば、こんな感じだけど・・・
すると佐倉が言い出した。
「・・・わたし・・・やっぱり・・・行かない・・・」
オレが来る前にもいろいろ言われたのだろうか・・・なんか泣き出しそうな感じだ・・・
「え? そんな・・・もったいないよ・・・行ってきたほうがいいって・・・」
「でも・・・直美も弘子も・・・ついてきてくれないって言うし・・・」
何と!・・・ついてきてくれるように頼んだのか?・・・どうりで険悪なハズだ・・・
「でもさぁ・・・受かるかどうかはまだ判らないんだから・・・行くだけ行ってみたら?」
「・・・じゃぁ・・・有希がついてきてくれる・・・?」
「え?! オ・・いや・・わたしが・・・?」
あまりの展開に危うくオレと言いそうになって慌てた・・・どうしてオレが行かなきゃいけないんだ・・・
「・・な・・なんでわたし・・・?」
オレが思わず岡本と原口を見ると、岡本が言った。
「そうね、有希がついていってあげればいいんじゃない?」
すると原口まで
「たしかに有希が行ったほうが良いって言うんなら、有希がついて行くのがスジかもね。」
「・・・・・!」
そりゃあ、スジなんて言われたら、たしかにそうかも知れないけど・・・オレはそんなとこ行きたくない・・・だって緊張するに決まってるし・・・
「ねえ・・・有希・・・」
佐倉は頼るようにオレを見つめる・・・うぅ〜・・・オレってけっこう頼りないヤツなのに・・・困ったなぁ・・・でも佐倉にこんな目で見られると・・・オレとしても放っておけないし・・・
「わかったよ・・・ついて行くから・・・」
オレはそう言わないわけにはいかなくなっていた・・・こんなところで男気を出しても仕様がないのだが、女の子に泣きつかれると言うことを聞いてしまうのは男の性なのだろうか・・・オレだって女の子なのに・・・
「ありがとう有希・・・」
そう言って佐倉はオレに抱きついてきた・・・男ならこんなことされたら嬉しいのだろうが、オレも女の子だから別に嬉しくなんかない・・・それでもちょっとドキドキする・・・でもこれは仕方がないだろう・・・だってオレは男のころから女の子に抱きつかれたことなんて無いのだから・・・それに、女同士だってこんなにきつく抱きつかれたらドキドキくらいすると思う・・・
それにしても面接について行くなんて、困ったことになってしまった・・・




