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オレは女子高生・ソフトバージョン  作者: AT
第2章

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40/48

第40話 祖母 オレのおばあちゃん    初出09.1.13

 「ねえ有希、明日から夏休みでしょう?」

オレはかあさんに聞かれて訳もわからないまま返事をした。

「うん・・夏休みだけど・・・どうして?」

「あさっては用事ある?」

「あさっては・・・ううん、特にないけど・・・」

運動部とかは夏休みの間も出なきゃいけないみたいだが、オレが入っている華道部はそういうのは全然ない。

「それじゃ、麻衣と一緒に西新にしじんのおばあちゃんの所に行ってきてくれないかなぁ。」

「おばあちゃんのところ?」

「そう、本当はかあさんが行こうと思ってたんだけど、どうしても外せない仕事が入っちゃって行けなくなったのよ。」

「そ・・そうなんだぁ・・・」

オレは西新のおばあちゃん・・・つまりかあさんのお母さんのことは嫌いじゃない・・・昔は近くに住んでいたから良く遊びに行ったものだ・・・でも・・・今のオレは以前のオレじゃないし・・・そんなオレを見ておばあちゃんがどう思うか心配だ・・・


「やっぱりまだ遠くには行きたくない?」

「う〜ん・・・そういうわけじゃないんだけど・・・」

たしかに西新までは電車と地下鉄を乗り継がなきゃいけないから、それなりに時間はかかる。それはオレにとって緊張を強いるのは確かだ・・・しかし最近ではオレもだいぶ落ちついてきているし、白石先生にもらったお薬を飲んでおけば大丈夫だと思う・・・ナプキンもしておくつもりだから少しなら漏らしても心配ないし・・・

「おばあちゃん・・・わたしを見てどう思うかなぁ・・・ヘンに思わないかなぁ・・・」

「そんなこと心配してたの?大丈夫だと思うわよ。」

「そうかなぁ・・・」

かあさんにそう言われても、オレはどうにも半信半疑だった。だって男の子だった孫が急に女の子になってたらヘンに思わない方がおかしい・・・


「有希が無理ならお盆過ぎになるかもしれないけど、わたしが行くって言っておくけど。」

「ううん・・・わたし行ってくる・・・」

「そう? 大丈夫?」

「うん・・・たぶん。」

「それじゃぁ、お願いするわね。」

「うん。」

オレは本当はあまり行きたくはなかったが、ずっと女になった事を隠している訳にもいかないと思う・・・西新のおばあちゃんは優しいから、かあさんが言うように心配ないかもしれない・・・オレはそうであることを心の中で祈った。


 オレが女になったことはいずれ親戚にはわかってしまうだろう・・・その点、西新のおばあちゃんはまだマシな方かもしれないと思う・・・とうさんの側の親戚とは疎遠だから、もし会わなくちゃいけなくなったらどうすれば良いのだろうか? 熊本のおばあちゃんなんてオレが小さな時に一回会ったきりだというのに・・・もちろんオレはその話を、のちに聞いたから知ってるだけで、その時のことはまだ小さかったから全然憶えていないけど・・・


 しかしオレが女の子になると決めた時には、親戚付き合いのことなんて考えもしなかった・・・オレは自分が女の子になることだけを考えていたが、案外これから人付き合いで大変なことがいろいろあるのかもしれない・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 「それじゃ、これでお供えもの買ってから行きなさい。」

「はい。」

「麻衣も有希のいうことをきくのよ。」

「は〜い!」


 かあさんはオレにお金をあずけると仕事に行った。すると食卓をはさんで座っていた麻衣が言った。

「ねえ、お姉ちゃん。おみやげは何買って行くの?」

「そうねえ・・・麻衣は何がいい?」

「なんばん往来!〈なんばんおうらい〉」

「さかえ屋かぁ・・・さかえ屋なら駅前にあるからついでに買えるわね。・・・でも麻衣って“なんばん往来”好きねぇ。」

「お姉ちゃんだって好きじゃない!」

「まあ、そうだけど・・・」

さかえ屋の“なんばん往来”というのはアーモンド粉のケーキをパイ生地で包み、下のほうにラズベリーのジャムが入っているお菓子だ。実はオレも麻衣もこの“なんばん往来”が大好きなのだ。ちょっと田舎っぽいところもあるが、それがまた堪らない・・・

おばあちゃんのところは、いつも持って行ったお供えものを仏壇にあげて、残りをオレたちに出してくれる・・・だから自分が食べたいヤツを持っていった方がいいのを麻衣も知っているのだ。


 「お姉ちゃんそろそろ出かける準備したほうがいいんじゃない?」

「え? でもまだ1時間近くあるじゃない・・・」

「だって、お姉ちゃんこのごろ出かけるまでが長いんだもん!」

「え〜? そんなことないと思うけど・・・」

「長いよ〜! お化粧とか時間かかるんだからもう準備した方がいいって!」

「そ・・そんなぁ・・・・」

オレは麻衣にそう言われ、何も言い返すことも出来ずに、すごすごと洗面所へと向かった。妹にお化粧が長いなんて言われるとは・・・元男だったオレとしては情けないかぎりだ・・・男に言われるならまだしも、女の麻衣に言われるなんて・・・


 でも、たしかに最近は、出かけるまでに時間がかかるようになってしまっているかも知れない・・・女の子は服を選んだり、お化粧をしたりと、いろいろやらなきゃいけないことが多すぎるのだ。それなのにオレときたら、まだ男のころの感覚が抜けきれないから、どうしてもギリギリになって準備を始めてしまう・・・結果、麻衣が言うように出かける予定の時間に遅れてしまうのだ・・・


 顔を洗って二階のオレの部屋に行こうとリビングを通ると、麻衣はまだリビングでテレビを観ていた。

「麻衣もそろそろ準備したほうが良いんじゃないの?」

たまにはオレだってお姉さんらしいことも言ってみたい・・・

「あたしはまだいい、お姉ちゃんみたいにお化粧しなくていいし。」

「そ・・そう・・・」

オレはにべもなく妹に言い返されてしまった・・・

「き・・きょうは・・わたしもそんなにお化粧しないけどね・・・」

オレはそう言って二階へあがった・・・今のオレにはそれくらい言い返すのがやっとだった・・・麻衣は本当の女の子・・・女の子は生まれつき口が達者らしい・・・偽者の女の子のオレが敵わないのも仕方がないのかもしれない・・・



 オレは洋服ダンスを開けると、どれを着ようかと悩んだ・・・命日ってどんな服で行けばいいのか、かあさんに聞いておくべきだったと今さら思う・・・このごろはオレもだいぶ慣れて、あまり選んでもらうことも無くなってきてたから油断していた・・・麻衣にどんなにがいいか聞こうかとも思ったが、ちょっと癪にさわるのでやめにした・・・


 やっぱり命日だからあまり派手なのや、可愛いのは避けるべきだろうと思う・・・でも葬式じゃないから黒い服もなんだし・・・

「そうだ・・・」

お茶を習いに行くときみたいな恰好ならいいのではないかと思い、オレは白いブラウスを選ぶことにした。ピンタックというのだろうか・・・左右に細いタックが数段入ったのを選んでみた。オレが持っている中では、ちょっとエレガントな感じかもしれない・・・だけど丸い衿と膨らんだ袖がそんな中にも少女っぽさも醸し出している。


 部屋着のワンピースを脱いでブラとスリップを着ける・・・白いブラウスだからベージュのものを選ぶのは当然だ・・・男としてはブラウスから透ける白い下着も色っぽいものだと思うが、やっぱり見られる側としては下着が透けるのは恥ずかしい・・・


 ブラウスのボタンを留めてから、両手の甲で髪の毛を衿から抜いた。オレは無意識にしたその仕草が、妙に女っぽくてドキッとした・・・


 これは女になってからわかったことだが、男が色っぽいと思う女の仕草というのは、その多くが長い髪や、服装から自然に出てくる仕草のようだ・・・スカートをはけば足を開いて座るわけにはいかないし・・・長い髪を扱うには、どうしてもそういう手つきになってしまうものなのだ・・・それが解っているのに無意識にやった自分の仕草にドキッとするのは、まだオレの中に男の部分が残っているからなのだろうか・・・


 スカートは薄い茶色・・・黄土色?・・・いやカーキー色と言ったほうがいいのだろうか?ヒザ丈のAラインの物を選んだ。

スキンカラーのストッキングをはいて、スカートを着けてみる・・・考えてみれば最初のころはストッキングをはく前にスカートをはいてしまい、やり直すことも多かった気がする・・・こういう手順も自然に出来るようになっていることに今さらながら気づいた。


 鏡の前に立って全身を映してみた・・・我ながらいい感じではないかと思う・・・清楚な服は似合わないのはオレだって解っている・・・でもこういうのを着なきゃいけない時もあるのだから仕方がない・・・オレはこういう服の時は、自分に似合うかどうかよりも、服の組み合わせだけを考えることにしている。


 化粧はしなくて良いかと思っていたが、やっぱり少しだけすることにした・・・オレが女の子になって初めて会うおばあちゃんに、どうせなら少しでもきれいなオレを見てほしい・・・おばあちゃんには女の子になったオレを受け入れてもらえないかもしれないけど、それでも少しだけでもマシなオレを見てほしいと思う・・・それに・・本心をいえば、このあいだ二光さんに教えてもらった、夏のすっぴんメイクっていうのを一度やってみたかったというのもあった・・・



 ちょうど化粧を終えたころドアの外から麻衣の声がした。

「お姉ちゃん、まだ時間かかるの?」

「え?!」

オレは時計を見て驚いた。もう1時間経ってしまっている・・・これでは麻衣に時間がかかると言われても仕方がない・・・オレはドアを開けた。

「ごめん麻衣、あと髪だけなんだけど・・・」

「わぁ!お姉ちゃんそういう洋服着ると、いちだんときれいに見えるね。」

「な・・なにいうのよ・・・」

なんてお世辞を言う妹なんだろう・・・オレは少しあきれた・・・そんなの本気にするハズがないじゃないか・・・

「麻衣はもう用意できたの?」

「うん。」

麻衣は白いノースリーブのワンピース、衿、肩、裾に紺のライン。お腹の上のあたりに付いている同色の紺色の大きなリボンがポイントになっていて可愛い・・・・オレは自分の考えたことに急に恥ずかしくなった・・・自分がその服を着ている姿を想像してしまったのだ・・・このごろ時々こういうことがある・・・たまたま見かけた女の人が着ている服を自分が着ている想像をしてしまうのだ・・・オレはそのたびに恥ずかしい思いをしてしまう・・・


 「髪の毛ならあたしやってあげるよ。」

「そ・・そう?・・・じゃぁ・・お願いしようかな・・・」

オレは素直にやってもらうことにした・・・それというのもオレはまだ髪は上手くまとめることが苦手なのだ・・・

「どんなのがいいかなぁ・・・」

鏡台の前で妹に髪をセットしてもらうなんて、男のころには考えもしなかったことだ・・・いまだに男の部分も少しは残っているオレにとっては恥ずかしいかぎりだが、麻衣とこういう関係になれたことに嬉しさも感じているのが不思議だ・・・オレが男のころは、ただうるさい妹だと思っていたのに・・・


 麻衣はオレの髪の両サイドをそっと後ろに持っていく・・・

「よし、決めた! お姉ちゃん髪留め持ってたよねぇ。」

「う・・うん・・・いくつかあるけど・・・」

オレはそう言って鏡台の横の引き出しを開けた・・・そこには髪留めやカチューシャなどが入っている・・・自分で買ったのもあるが、ほとんどはかあさんに貰ったものだ。


「これがいいかな・・・」

麻衣はその中から濃い茶色のものを選んだ。髪を霧吹きで湿らせてからドライヤーできれいに伸ばしていく・・・オレは学校ではお下げにしているし、家ではよく後ろで結んでいるから髪の毛に段ができてしまう・・・自分ではなかなか上手く取ることが出来ないが、麻衣は手際よくドライヤーとブラシで真直ぐにしていく・・・そして毛先と前髪をクルクルドライヤーできれいなカールをつけた・・・こういうのはかあさんにやってもらう時も恥ずかしいが、妹だとなおさら恥ずかしい・・・


 そして麻衣は櫛でオレのサイドの髪を器用に分けるとクルクルとねじっていく・・・両サイドをねじると後ろでゴムで留めた。ブラシでその先をきれいに整え、ゴムの上から髪留めではさんだ。

「これでどう?」

「う・・うん・・ありがとう・・・」

こういうところはさすがに女の子だと思った。自分ではしないような髪型でもちゃんと見ているのだろう・・・にわか女の子のオレにはどうやったって太刀打ち出来そうにない・・・


「あれ?気に入らない・・・?」

「ううん、そんなことないよ・・・ただ・・・こんな清楚な髪型・・わたしには勿体ないと思っただけ・・・」

「もう、お姉ちゃんったらまたそんなこと言ってる!」

麻衣は可笑しそうに言った。

「お姉ちゃんがきれいだから、どんな髪型でも似合うんじゃない。」

「そ・・そう・・・? あ・・ありがとう・・・」

いくら何でもそれは言い過ぎだと思ったが、麻衣の心遣いが嬉しかった。オレはその勿体なさすぎる言葉を受け入れることにした。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 オレたちは駅前のさかえ屋でお供え物のお菓子を買ってからおばあちゃんの家に向かった。オレの家から10分ほどの駅、春日原〈かすがばる〉から天神までは西鉄電車で、天神から西新までは地下鉄で行く。時間的にはそれほどでもないが、人が多いところも通らなきゃいけないからオレとしてはちょっとキツい・・・


 それに今日は麻衣とふたりきりで、何かあったら助けてくれるレナも、頼りになる長谷川もいない・・・逆に何かあったらオレが麻衣を守らなきゃいけない立場なのだ。そのうえこれから女になって初めて会う、おばあちゃんのところに行くとあっては緊張しないワケがない・・・


 「お姉ちゃん大丈夫?」

電車のふたり掛けの席のとなりに座った麻衣にそう言われてオレはハッとした・・・自分でも気づかないうちに両手を握りしめていた・・・手の中は汗でびっしょりだ。麻衣がオレの手に自分の手を重ねて言った。

「そんなに緊張することないよ。お姉ちゃんを見て男の子だと思う人なんていないよ!今までも気づいた人いないでしょう?」

「う・・うん・・・それはそうだけど・・・でも・・おばあちゃんは・・・」

おばあちゃんはオレが男だと知っているのだ・・・

「大丈夫じゃないかなぁ・・だってお母さんのお母さんでしょう?」

オレにはそれが大丈夫だという根拠としては、はなはだ頼り無く思えたが、麻衣にそう言われると少しは落ちつく気がした。



 駅に着き電車を降りると、そっと麻衣がオレと手をつないだ・・・はた目には姉が妹の手をつないでいるように見えるかもしれないが、そうでないことはオレ自身が判っている・・・妹を守ろうなんて考えた自分が恥かしくなる・・・麻衣はそんなに弱いコじゃない・・・弱いのはオレのほうだ・・・


 天神地下街へ降りて地下鉄に乗ると、おばあちゃんが住む西新までは駅4つ・・・いよいよ近づいてきてオレも更に緊張してくる・・・そんな中、麻衣の手がこんなに心強いとは思いもしなかった。



 西新に着き、地上へ上がると、夏の日射しとムッとするような熱気が襲ってきた。

「暑いねぇ・・・」

オレはお供え物の包みを麻衣に持ってもらい、バッグからハンカチを出して、そっと汗を押さえた・・・おばあちゃんの家に行くには商店街を通るのが近道だ・・・しかし・・・


 オレが躊躇していると、麻衣がオレの手を引っ張って商店街へ入っていく・・・

「あ・・ちょっ・・・」

オレは一瞬拒もうとしたが、妹にそんな情けない姿を見せたくないという気持ちがそれを止めた・・・


西新の商店街は真ん中にリヤカーが店を開いているから、その左右の人込みはそうとうなものだ・・・買い物のおばさんたちをかき分けるようにして進まなければいけない・・・オレは人にぶつかるたびに男だとバレるのではないかとビクビクしていた・・・しかし、オレたちはバレることなく商店街を抜けることができた。


 「あぁ・・ドキドキした・・・」オレがそういうと

「どうして?」と麻衣が聞いた。

「どうしてって・・・だって、あんな人込みで・・もし男だってバレたらどうするのよ・・・」

「お姉ちゃんったら、まだそんなこと心配してるの?」

「う・・うん・・・ゴメン・・・」

情けない兄だと思うだろうか・・・? しかし妹の反応は意外なものだった。

「バレるはずなんて無いのに、お姉ちゃん可愛いなぁ!」

麻衣はそう言ってオレの腕に手をまわして、しっかりと抱きつくようにひっついてきた。

「あたし、お姉ちゃんが女の子になって良かったって思うよ!」

「な・・なに・・・?」

オレは麻衣の気持ちを計りかねて戸惑った。

「ど・・どうして・・・?」

「だってぇ、お姉ちゃん女の子になって優しくなったもん。」

「そ・・そう・・・?」

「お姉ちゃん男の子のころは、自分のことしか考えてなかったもん。」

「・・・・・」

そうなのだろうか・・・オレはそんなに自分勝手だったのだろうか? 今となってはオレが男のころどんなヤツだったかなんて良くわからなくなってしまった・・・


 「さあ、もうすぐそこだよ。早く行こう!」

「・・う・・うん・・・」

オレは腕を組んだ妹に、なかば引きずられるようにしておばあちゃんの家に向かった。



 大通りは発展している西新だが、おばあちゃんが住んでいる裏通りは昭和の街なみが残っている。おばあちゃんの家は戦争でも焼け残ったというくらいの古い家だった。麻衣は滑りの悪い引き戸を開けて中に入ると大きな声で挨拶した。

「こんにちは〜、おばあちゃん!」

すると奥からおばあちゃんが出てきた。歳は70才くらい、髪には白髪の方が多いくらいだ。前に見た時より白髪が多くなっている。

「麻衣ちゃんね、ようきたねぇ。すっかり大きくなったやないね。」

オレはおばあちゃんと目が合い、引き戸の外で足がすくんだ。

「おや?そっちのお嬢さんはどなたね?」

「うふっ・・おばあちゃん、有希お兄ちゃんよ!」

麻衣の口から“お兄ちゃん”と紹介されオレはギクッとした・・・何と言っていいかわからなかった。

「・・あ・・あのぉ・・・」

「なんね、有希ちゃんね? また女の子の服ば着るごとなったとね。」

「え・・う・・うん・・・」

オレは何とかそう返事をした。おばあちゃんが言った意味が良くわからなかった。

「さ、早う入りんしゃい。」

オレたち二人はおばあちゃんに言われるまま玄関を上がりお座敷へと通された。


 「あ、あの・・おばあちゃん・・これ・・お供え物・・・」

「ありがとね、有希ちゃん、今あげるけん待っときね。」

「・・はい・・・」

オレはドキドキしながら座布団に座った・・・何度も来たことがあるのに初めて来たような気がする・・・おばあちゃんは、何ていうのか知らない足が付いたお盆のようなのにお供え物を乗せて来て仏壇に供えてお参りした。オレたちも見よう見まねで一人ずつ線香をあげてお参りを済ませた。


 「さ、食べんしゃい。」

そう言っておばあちゃんはオレたちが持って来たお菓子を皿に乗せて持ってきてくれた。

「いただきま〜す!」

麻衣はすぐにお菓子に手を出したが、オレはとても物を食べるような気にはなれなかった。


 「お父さんとお母さんは仲ようしとうね?」

「・・う・・うん・・たぶん・・・」

べつに喧嘩してるところは見た事がないから仲は悪くないと思う。でもとうさんとかあさんが顔を合わせるのは食事の時くらいだから、あらためて聞かれると良くわからない・・・

「有希ちゃんは、ずっと女の子の恰好ばしとったとね。」

「ううん・・・高校生になってから・・・」

オレはもじもじしながらそう答えた。

「おばあちゃん、お兄ちゃんね、女子高生になったのよ。」

「なんね、女子高生に男の子がなれるとね?」

「・・あ・・そのぉ・・・」

オレは何と答えればいいのだろうか・・・

「お兄ちゃん、女の子になったんだもんね!」

「・・う・・うん・・・」

麻衣に言われてオレは思わず返事をした。


 「そうね・・・有希ちゃんは小さいころから女の子の服ばっかり着せられとったもんねぇ。また麻希が無理矢理着させとうっちゃないとね?」

「ううん・・・違うよ・・・」

「お父さんとお母さんは何て言いようと?」

「ん?・・わ・・わたしがしたいようにしなさいって・・・」

「そうね・・・あのふたりらしかねぇ・・・」

「・・・・・」

とうさんとかあさんらしいかどうかオレには良くわからない・・・考えてみればオレはふたりの性格をそれほど良く知っているとは言えない気がする。特にとうさんの性格なんて良く知らない。


 「麻衣ちゃん、ちょっと買い物ば頼んでもよかね?」

「うん、いいよ。」

「それじゃ、ジュースば買って来てくれんね。他にも麻衣ちゃんが食べたかとがあったら買って来ていいけんね。」

「うん、わかった!」


 麻衣が買い物に出ていくと、おばあちゃんがオレに言った。

「有希ちゃんは女になりたいとね?」

「・・う・・うん・・・」

実際にはそうとばかりは言えない気もするが、ここはそういう事にしといた方が良さそうだ。なりゆきでこうなってしまったことを説明するのも難しい・・・

「子供のころとは違うとよ?」

「え?!」

「子供の頃は女の子の服ば着るだけやったろうけど、大人の女になるとは簡単じゃなかよ? ほんとに解っとうとね?」

「うっ・・うん・・・」

オレはそう言ったが、ほんとのところオレにも良くわからない・・・

「そうね、有希ちゃんが覚悟が出来とうとなら良かけどね。」

覚悟・・・そう言われるとオレにはまったく自信がなかった・・・


「そういえば思い出すねぇ、このあいだあんたが小学校に入る時、ピンクのランドセルば欲しがりよったもんねぇ。憶えとうね?」

「・・ううん・・・」

オレは首を横に振った。オレはそんなこと全然憶えていない・・・それに“このあいだ”とはどういう事なのだろうか・・・

「あんた黒かランドセルばイヤって言って泣きよったとよ。有希ちゃんはあの頃から女の子になりたかったとかねぇ・・・」

「・・・・・」

おばあちゃんもまた、オレが知らないことを知っているようだ・・・オレはやっぱり元々女の子になりたかったのだろうか・・・?

そういえば歳をとると時間が早く過ぎるのだという・・・おばあちゃんにとってはオレが小学校へあがる頃も“このあいだ”なのだろうか・・・? それならオレが男の子だった期間は、おばあちゃんの中ではほんの少しの間なのかも知れない・・・



 「でも有希ちゃん、ちょっと見んうちに綺麗になったやないね、麻希が有希ちゃんぐらいの頃によう似とうよ・・・」

「そんな・・・わたし・・かあさんみたいにきれいじゃないもん・・・」

「なんね? 有希ちゃんは自分ば綺麗と思わんとね?」

「う・・うん・・・だって・・・」

オレは恥ずかしくてうつむいてしまった・・・オレがかあさんみたいに綺麗なハズがない・・・

「お化粧してるからよ・・・きっと・・・」

「なんば言いようとね。 女ならシャンとせんね、女の腐ったごたるのは男だけで良かとよ!」

「・・・・」

オレって女の腐ったような男なのだろうか・・・でも今は女だし・・・女だって腐ったのはイヤだけど・・・

「有希ちゃん、女は男のごと甘えちゃいかんよ。もっと強くならな。九州の女は強かとよ!」

「う・・うん・・・」

おばあちゃんにそう言われて、オレは自分がさらに恥ずかしく思えてきた・・・たしかにオレの中には女の子になったのだという甘えがあったかもしれない・・・オレだって情けない女にはなりたくない・・・でも・・・オレが強い女になんてなれるだろうか・・・情けない男が、強い女になんて・・・


 「ただいま〜!」

麻衣が帰ってきたことにホッとした。おばあちゃんと二人きりでは、オレはどんな話をすればいいかわからない・・・

 その後も麻衣とおばあちゃんは仲良くしゃべっていたが、オレはとても話に入れず、黙って時々ジュースに口をつけるだけだった。オレもいつかは麻衣のようにおばあちゃんと話がしたい・・・でも、そのためにはオレがもっと女らしくならなきゃいけないのだろう・・・女らしくて・・強い・・・・


 帰りぎわ、オレはおばあちゃんに言われた・・・

「女になるって決めたとなら、立派な女にならんといかんね。」

「う・・うん・・・」

オレはあまり自信はなかった。オレはおばあちゃんはまだ、オレのことを女だと認めていないような気がした・・・オレもおばあちゃんが言うような立派な女にならなきゃと思う・・・でも立派な女ってどんな女の人なんだろう・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 地下鉄を降りて、電車に乗ると少しホッとした・・・電車は学校に行く時に毎日乗っているから他のことよりは緊張しない・・・ラッシュアワーだとその限りじゃないけど・・・もちろんこれから家に帰れるという安心感もあるに違いない・・・


 電車が走りだすとオレは麻衣に言った。

「わたしね・・・麻衣が急に“お兄ちゃん”なんて言うからビックリしちゃった・・・」

「あ、ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだけど。」

「ううん・・・いいんだけど・・久しぶりだったから・・・」

今日はオレもまだまだ女として未熟だと思い知らされた・・・おばあちゃんにはオレの甘えた気持ちを見透かされた気がした・・・


「あのねぇ、おばあちゃんにね、良いお姉ちゃんが出来て良かったねって言われたよ。」

「え?・・・いつ・・・?」

「え〜と・・・お姉ちゃんがトイレに行った時かなぁ。」

おばあちゃんがそんなことを・・・?

「あたしが、お姉ちゃんが出来て良かったって言ったら、おばあちゃんも良かったねって。」

あぁ・・・そういうことか・・・おばあちゃんは麻衣に気を使ってそんな風に言ったのだろう・・・でも・・今はそういうことにしておこう・・・


「麻衣・・・お姉ちゃんもね、女になって良かったって思うよ。」

「ほんと?」

「うん・・・だって女の子になったから、麻衣と姉妹になれたんだもん。」

オレがそう言うと、麻衣はパッと顔を輝かせた。

「そうよね、あたしお姉ちゃんが男のころより、今の方がずっと好き。」

「わたしもよ麻衣・・・」

オレたちはお互い頬を擦り寄せた。こんなこと兄と妹じゃとても出来ないだろう・・・オレは麻衣のことが愛おしくてたまらなかった・・・オレは女になるけど、せめて麻衣を守れるくらいは強くなりたいと思った。


 「お姉ちゃん・・・」

麻衣がおばあちゃんにもらった紙袋を開けると、オレたちがお供え物に持っていった“なんばん往来”が入っていた。

「え?! 麻衣ったら・・持ってきちゃったの?」

オレが驚いて聞くと

「違うよ、おばあちゃんが持って行きなさいって、お姉ちゃんひとつも食べてなかったからって。」

「・・・・・」

「おばあちゃんね、お姉ちゃんがこれ好きなの知ってたんだよ。」

おばあちゃんは何もかもお見通しだったようだ・・・

「食べよう、お姉ちゃん。」

オレたちは電車の中でお供えに持って行ったお菓子を食べた。

「おばあちゃんって優しいね・・・」

それだけ言うと涙があふれてきた・・・オレは優しくて、ちょっと厳しいおばあちゃんが大好きだ・・・オレは今度おばあちゃんに会う時には、おばあちゃんに褒めてもらえるような、立派な女の子になれてたらいいなと思った。






‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


おまけ『オレは女子高生』の世界


舞台

九州北部の架空の福岡県、主に架空の西鉄大牟田線沿線を中心に繰り広げられる物語。


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登場人物


家族・親戚


戸田有希 〈とだ ゆうき〉 この小説の主人公 現在、白鴻女学園高校1年 15才 1月生まれ 身長163cm 足のサイズ25cm 性格は優柔不断、物事を深く考えない、素直なところもある。 勉強は国語と図工が得意、英語と数学が苦手、体育はそんなに得意じゃないが水泳はなぜか得意らしい。華道部。茶道も習っている。料理は昔からやっている。裁縫は習ってみたら得意だった。小学校2年まで家では女の子の服を着ていたらしいが有希自身は憶えていない。本当に性同一性障害なのかもしれない。父ゆずりのアレルギー体質。


戸田有正 〈とだ ありまさ〉 有希の父 53才 売れない作家(昔、芥河賞にノミネートされたことが一度だけあるらしい。現在はペンネームで三次元文庫にライトノベルを書いているらしい) 婿養子で旧姓は佐藤 本家は熊本。有希は小さいころ一回だけ行ったことがあるらしい。


戸田麻希 〈とだ まき〉 有希の母 45才 空間デザイナー(店舗の内装とかのデザインをやるらしい)細身で美人らしい。歳より若く見えるらしい。


戸田麻衣 〈とだ まい〉 有希の妹 現在、春日第二中学1年 12才 明るい性格 有希が女の子になってからは仲が良い。


戸田有友 〈とだ ありとも〉 京都の薬科大 大学院2年生 成績優秀 23才 有希の自慢の兄。まだ出演していない。


戸田ノゾミ 〈とだ のぞみ〉 母方のおばあさん 西新のおばあちゃん 70才くらい 優しいが厳しい部分もある。


長沢麻弓 〈ながさわ まゆみ〉 母の妹 美容院を経営 有希をニューハーフだと理解している。エステサロン経営の二光さんとは知り合い。


長沢レナ 長沢麻弓の娘 有希のいとこで幼馴染み 有希と同学年 茶髪でオシャレ。活発。


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白鴻女子短大付属 白鴻女学園〈しらとりじょがくえん〉伝統ある女子高 共学化を目指したが男は有希しか受験しなかった。また共学化には卒業生からも反発があったらしい。清楚で伝統的なセーラー服が特徴。


白鴻女学園の生徒(有希は3組)


長谷川順子 〈はせがわ じゅんこ〉有希と同学年の1組 有希と同じ中学出身だが中学時代には親しくない。今は一番の親友で生徒では唯一有希が男だと知っている。有希と同じ華道部に所属している。フクロウの置き物を集めているようだ。読書家。仮面レンジャーが好きらしい(特に可愛い系の仮面グリーンがタイプらしい)性格は謎の部分も多い。小さいころから転勤がち、現在は母と二人暮らし、父は大阪に単身赴任中。


岡本直美 〈おかもと なおみ〉3組のクラスメイト ちょっと目立ちたがり屋。自意識が強い。


佐倉千里 〈さくら ちさと〉3組のクラスメイト 大人しい クラスメイトでは有希と一番仲がいい。


原口弘子 〈はらぐち ひろこ〉3組のクラスメイト 胸が大きいのが自慢、色気がある。


井川聡子 〈いがわ さとこ〉有希と同学年の2組 有希と同じ華道部 地味で背が低い。要領が悪い。綺麗で可愛く背が高い有希に憧れているらしい。


安部まさ美 〈あべ まさみ〉3組のクラスメイト 出席番号一番のコ


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白鴻女学園の先生〈先生は全員、有希が男の子で性同一性障害者だと思っている。校長と教頭だけは有希が性同一性障害ではないと知っている。〉


会長 白鴻道子〈しらとり みちこ〉白鴻女学園創始者の孫 白鴻女子短大の校長でもある。まだ出演したことはない。


校長 有希のことは教頭にまかせている。事なかれ主義な面があるようだ。


教頭 石渡先生 有希が性同一性障害だという設定を考えた。


山口智佳 担任・体育 快活 31才 有希のことを気にかけてはいるが、あえて他の生徒と同じように接している。


松本たか子 家庭科 26才 有希の制服の世話などを任されている。校長と教頭以外では有希が男の子の頃に会ったことがある唯一の先生。有希にとってお姉さん的存在。有希の裁縫の才能を高く評価している。


長山鏡子〈ながやま きょうこ〉古典 60才 風紀検査に厳しい。


斉藤明〈さいとう あきら〉現国 28才 有希が習っているうちでは唯一の男性教師。有希が倒れたとき保健室まで運んでくれた。


嶋田晶子〈しまだ あきこ〉調理実習・華道部顧問 40才くらい ちょっと古風な美人


白石香帆〈しらいしかほ〉学校医 34才 美人女医 善かれと思い有希に女性ホルモンを投与してしまった。有希にとって何でも相談できる頼れる優しい女性。有希のことは何でも知っているが、白鴻女学園に入学したいきさつまでは知らない。


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春日第二中学 関係


井原〈いはら〉先生 中学の有希の担任 有希に白鴻女学園を紹介し、ある意味有希を女にした張本人。


三吉〈みよし〉先生 中学の家庭科教師 有希にお嬢様教育をした人物。躾に厳しいが真面目にやるコには優しい面も見せる。有希にとっては恩師であり、現在も先生の自宅でお茶や着物の着付けを習っている。女子の間でのあだ名クソババア。


鈴木 中学の仲が良い男友達。


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その他


二光〈にっこう〉 オネエのメイクアップアーティスト 43才 全国に十数店のエステサロンを経営している。出身地の福岡には博多と春日原の2店舗がある。








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