第37話 キス デートといえば・・・ 初出08.11.28
「もう3時か・・・せっかく来たんだから遊んでいこうよ。」
長谷川はそう言ったが、言われなくてもオレはもともとそのつもりだ。遊園地なんて久しぶりだし、オレはジェットコースターなんか乗ったことがないから、一度くらい乗ってみたいのだ。でも・・・
「その前に何か食べましょうよ。わたしお腹すいちゃった。」
「それもそうね。」
「ねえ、これだけはお金わたしに出させてくれない? わたしが言い出したんだからいいでしょう?」
さすがに全部長谷川に出してもらっては、オレとしてもいまいち楽しめない・・・
「彼女だって少しくらい出してもいいんじゃない?」
「う〜ん・・・」
それでもまだ長谷川は迷っているようだ・・・そんなにオレを自分のいいなりにしたいのか?
「わたしたち高校生なんだからさ、そんなに堅苦しく考えなくても・・・」
「・・・まあいいわ、でも食事代だけだからね。」
「はい!」
オレはありがとうの意味も込めて、わざと可愛く返事をしてみせた。
遊園地の中にあるレストランに入ったオレたちは、長谷川はスパゲッティー・ナポリタン、オレはオムライスをたのんだ。オレも一緒のスパゲッティー・ナポリタンをたのんだ方が、一緒に来るから良いかとも思ったが、麻衣が貸してくれたサマーカーディガンを汚してしまったら悪いし、それにスパゲッティーは上品に食べるのが難しそうだ・・・
しかしオレはすぐに後悔した・・・オレがたのんだオムライスが先に来てしまったのだ。
「有希、早く食べないと冷めちゃうわよ。」
「う・・うん・・・」
なんか一人では食べにくい・・・でもスパゲッティーとオムライスではオムライスの方が時間がかかりそうだし・・・
「じ、じゃあ・・お先にいただきます・・・」
「どうぞ。」
オレはスプーンを手にとると、タマゴを切るようにしてからスプーンですくって口に入れた。あまり大きくすくうと大口を開けなきゃいけないから、少なめにスプーンにすくわなきゃいけない・・・それにそっと口に入れるようにしないと口紅が取れてしまう・・・こういうのは三吉先生に口を酸っぱくして言われたことだ。
「へえ、有希って上品な食べ方するのねぇ。」
急に言われてオレはドキッとした・・・
「そ、そんなに見ないでよ・・・食べにくいじゃない・・・」
こんな恰好をして下品な食べ方をしたらよけい格好わるい・・・それに、もしガサツな食べ方をして男とバレたら大変だし・・・
そうこうしてるうちに長谷川がたのんでいたスパゲッティーも運ばれて来た。長谷川はフォークでくるくる巻くとパクリと大きな口を開けて食べている・・・わざとそんな食べ方をしてるのだろうか・・・それともいつも・・・? 出来ることならオレもそんな風に食べたいものだ・・・羨ましく思ったが、あんまり女の子らしい食べ方じゃない・・・でもオレは何も言わなかった。こんな遊園地のレストランでとやかく言うのもバカバカしい・・・それにそんなことを考えている場合でもなかった。この調子ではオレも早く食べないと、長谷川の方が早く食べ終りそうだ。
結局オレの方が数口遅かったが、何とか遅くなりすぎずに済んでホッとした。なんだか食事するだけなのにすごく気疲れしてしまう・・・これって女の子はみんなそうなのか・・・それともオレが女の子のふりをしなければいけないからなのか・・・? まあ、彼女になるなんて初めての経験だから仕方がないのかもしれない・・・
食事が終って、約束どおりここはオレが清算した。とりあえず少しでもお金を払うことが出来て、オレの中の男の部分が多少気が楽になった。
「ちょっと待ってて、わたしお手洗いに行ってくる。」
オレが一人で行こうとすると
「あ、わたしも!」と長谷川もついてきた。
しまった・・・これじゃ長谷川と連れションだ!これからオレはトイレで化粧直しもしなきゃいけないというのに・・・こうなったら長谷川が入っている間に済ませてしまうしかない・・・イザとなったら男のオレの方がオシッコは早いに決まってる!
トイレは思いのほか小さく、個室が三つしかない・・・しかも奥のひとつは故障中だ・・・これでは長谷川と隣同士になってしまうじゃないか・・・長谷川だって気まずいんじゃないのか?
オレは個室に入ると急いでスカートを捲り上げ、ストッキングと一緒にパンティーを下ろしてしゃがみ込んだ。
「ううぅぅ・・・」
こんな時に限って、縮こまったヤツからなかなかオシッコが出てこない・・・と、となりの個室からチョロチョロと音が聴こえてきた。となりで長谷川がオシッコをしているのだと思うと、なんだか急に男に戻ってしまったような気がしてドキドキしてくる・・・オチンチンを指でつまんでいる状況ではなおさらだ!
今もし誰かに扉を開けられたりしたら、オレは変態と言われても何も言い逃れできないだろう・・・あらためてそう考えると、いつもは普通にやっていることなのに怖くなってくる・・・こんなことでは余計オシッコなど出るものではない・・・オレが何とか落ちつこうと深呼吸していると、となりからカラカラとトイレットペーパーの音がした。
「・・・そうか・・・」
ここは長谷川が出るのを待つことにした。もしウンコをしていたと思われたら心外だが仕方がない・・・布がこすれる音がして、おそらくジーンズのジッパーを上げる音・・・そして水が流れ、ドアが開き・・閉まる・・・
手を洗う音がして、どうやら長谷川は出て行ったようだ・・・外で待つ気らしい・・・それともオレももう出たと思ってるだろうか? でも長谷川だってこっちの様子は何となくわかるハズだからそれはないだろう。
オレはやっと落ちついてきて、無事にオシッコを済ますことができた。用心のためにしているナプキンも若干汗で湿っているだけだから代える必要は無さそうだ。レッドとあんなことがあったのにチビらなかったのは、オレも少しは成長したと言えるだろうか・・・先っちょを拭いてしっかりとギャザーの間に仕舞い込む・・・
そうだ・・・オシッコが終ったからってのんびりしてる場合じゃなかった、オレはまだお化粧も直さないやいけないんだっけ・・・オレは急いでストッキングを上げた・・・こんな時パンティーストッキングというものは、なんて面倒なものなんだと思う・・・それにはいてる姿がみっともなくてイヤだ・・・それとも女の子はもっときれいにはけるものなのだろうか・・・こんどそれとなく、かあさんに聞いてみよう・・・
水を流して個室を出ると、オレは手を洗うのもそこそこにバッグを開けた・・・オレはもともと男だから本当は手なんか洗わなくたって平気なのだ・・・
汗を拭いて薄くなってしまったファンデーションを整えて、少しチークも足した。マスカラは丈夫なやつを使ったから大丈夫そうだ・・・後は口紅を・・・その時急にドアが開いて誰かが入ってきた。
「なんだ、遅いと思ったら化粧直してたんだ・・・え?!」
・・・? 長谷川の様子がヘンなのに気づいてオレが振り向くと、長谷川が驚いたような顔をして立っていた。
「ど・・どうしたの・・・?」
「有希・・・スカートが・・・」
オレは鏡に映った自分の姿を見て顔が真っ赤になった・・・なんとスカートの後ろがストッキングの中に入ってお尻が丸出しになっている!
「うわっ!!」
白めのストッキングをとおしてペールブルーのパンティーまで透けて見えている! オレは慌ててワンピースのスカートをストッキングから引っ張り出した。
「ダメじゃない有希、もっと気をつけないと・・・」
長谷川もスカートを直すのを手伝ってくれた・・・
「ご・・ごめん・・・」
オレって何て情けない女の子なんだろう・・・自分で自分が嫌になってくる・・・もし長谷川が教えてくれなければ、お尻を丸出しにしたまま外に出るところだった・・・それじゃぁ、いくらお化粧を直してきれいにしたって意味がない・・・最悪だ・・・
「まあ、わたしが最初に見つけて良かったじゃない。」
そう言って長谷川がなぐさめてくれた。
「ううぅ・・・」
オレは返す言葉もなかった。
オレはもうとても化粧直しなどする気にはなれなかったが、なんとか口紅を直してトイレを出た。
「有希、そんなに落ち込まないでいいじゃない。誰かに見られた訳じゃないんだから。」
ガックリと肩を落とすオレを気にして長谷川がなぐさめてくれたが、オレの気持ちは晴れなかった。
「ほら、フラフラしないで、しっかりしなさいよ!」
「だって・・・長谷川さんが見たじゃない・・・あ・・ジュンが・・・」
「わたしならいいじゃない。学校では着替えの時、みんなに見られてるんじゃないの?」
「・・それは・・そうだけど・・・」
たしかにクラスではあまり気にしないが・・・クラスでの着替えの時には長谷川はいないし・・・
「それに、有希かわいいパンティーはいてるのね。」
オレは一気に顔が熱くなる・・・
「そ・・そんなことないよ・・・」
デートだからといって、よそ行きの下着を着けて来たなんて思われたら恥ずかしくてたまらない・・・それじゃぁ、なんか期待してるみたいじゃないか・・・
「もう有希ったら、いつまでもしょげてないで!ジェットコースターに乗ろうよ! 有希ジェットコースターに乗りたかったんじゃないの?」
「・・う・うん・・まあ・・・」
そう返事をしたがオレはジェットコースターには乗ったことがない・・・昔ここに来た時は小学校の遠足だったから、そういう乗り物には乗れなかったのだ。
「ほら!行くよ!!」
そう言って長谷川はオレを引っ張られていく・・・長谷川ってけっこう強引な人なんだなぁ・・・
ジェットコースターには結構長い列が出来ていた。
「結構並んでるわね。」
オレはあまり並ぶのは好きじゃない・・・それにこんな炎天下に並ぶなんて・・・
「これくらい普通よ。」
長谷川は全然気にならないようだ・・・
「暑いなぁ・・・」
こんなに暑くちゃ、せっかくお化粧直したのに意味ないよ・・・オレは汗を押さえながら思った。こんなこと男が気にするのはヘンだと思うが、オレは今は男じゃないのだから仕方がない・・・
それに、だんだん列が短くなってくると、オレは少しづつ緊張してきた。乗っている人たちの悲鳴を間近で聞かされてはなおさらだ・・・オレってもしかしたらジェットコースターは苦手なんじゃないだろうな・・・? なにしろ乗ったことがないから正直わからない・・・今となってはそうでない事を祈るだけだ・・・
オレたちの番が来ると長谷川はさっさと乗り込み、オレをとなりに手招きする・・・ううぅ・・なんか怖いけど今さら止めるなんて言えない・・・
「有希、早く!」
オレは急かされて、やっとのことで乗り込んだ。真ん中より少し前の席だ・・・上からゴツイのが降りてきてオレの体をしっかりと固定した・・・とりあえず落ちることは無さそうだ・・・しかし・・・
ブザーが鳴るとジェットコースターが走りだした。そしてだんだん高く登っていく・・・オレは両手で体を押さえている安全具を握りしめ、必死で両足を踏ん張った・・・と、前の方の車両が消えていく・・・一瞬どうなっているのか判らなかったが、すぐに理解した・・・というよりもうオレが乗った車両も落ちていた・・・
(ひぃぃぃ・・・!)
オレは悲鳴さえ上げられなかった。
(ぐうぅぅ・・・!)
Gがかかるところでは歯を食いしばって耐えた・・・そしてまた上がって落ちる・・・ふと横の長谷川が目に入ると、なんと両手を放してバンザイしている?! まったく信じられない・・・オレは手の感覚がなくなりそうなほど握りしめているというのに・・・
気づいた時にはもう乗車したところに戻っていた・・・あっという間だったが、オレにとってはとてつもなく長く感じた・・・あまり踏ん張っていたから足の感覚が無くなっている・・・オレはなんとか気づかれまいと必死だった・・・これでも元は男だ・・・ジェットコースターが怖いなんて思われたくない・・・でも、もし化粧をしてなかったら、オレの顔は蒼白になっていただろう・・・
そんなオレの気持ちに気づいていないのか長谷川は楽しそうだ。
「面白かったねぇ!でももっとすごいのがあるのよ!」
なんで長谷川はこんなに平気なのだろう・・・そういえばこういう絶叫マシンは女の方が肝が座っていると聞いたことがある・・・そうなると・・・怖がってるということは、オレの心がまだ男だからなのだろうか? なんとも情けない話だ・・・それならオレは女の方がいい・・・
それにしても長谷川はどこに向かっているのだろう・・・手を引かれながらフラフラ歩くオレの目に飛び込んできたモノを見て、オレは絶句した・・・こんどのジェットコースターは車体がない・・・ただイスだけがぶら下がって走っているではないか!
「も・・もしかして・・・これに乗るの・・・?」
「そうよ。あれ?有希・・・もしかして怖いの?」
オレは慌てて首を振った。
「こ・・怖くは・・ないけど・・・」
本当は男のくせに情けないやつだと思われたくないから、つい強がってしまった・・・
でも、また並ぶのがイヤだと言おうとしたが、ここはまだそんなに並んでいなかった・・・というより、怖すぎるから乗り手がないんじゃないのか・・・?
「よかったね、こんどは空いてて。」
「う・・うん・・・」
ちっとも良くない・・・こんなの乗りたくないよ・・・
「でも有希、悲鳴も上げないなんてさすがもと男の子ね。」
「そ・・そんなこと・・ないわよ・・・」
怖くて声も出なかったなんて・・・とても言えない・・・
すぐにオレたちの番が来た・・・乗ってみると改めてさっきのより格段に怖そうだと思う・・・足も踏ん張れないなんて・・・よくもこんなモノを考え出すものだ・・・
「や・・やっぱりやめる・・・ごめんジュン・・・ほんとは怖いの・・・」
こうなったらもう女々しいヤツだと思われてもいい・・・どうせオレは女の子なんだし・・・
「え?!だめよ、もう出ちゃうわよ!」
長谷川の言葉どおりブザーが鳴って動き出す・・・
「有希、怖かったら悲鳴あげなさい!その方が怖くないから!!」
「うぅっ・・はい・・・」
オレに悲鳴なんか上げられるかなぁ・・・
「キャ〜〜ッ!」
心配は無用だった・・・もっとも悲鳴を上げても怖いものはやっぱり怖い!!
「キャァ〜〜〜!!」
足が踏ん張れない怖さは想像以上だ・・・カーブのたびにキ○タマが縮みあがっていく・・・こういう感覚って女の子にはないのだろうか・・・
「キャァ〜〜〜!????」
一気に落ちていく時、オレは股間に生暖かいものを感じた・・・しまった・・・もらしちゃったぁぁぁ・・・!
「キャァ〜〜〜!!」
もうその後のことはほとんどおぼえていない・・・オレはもう身体の力が抜けてしまい、意識も飛んでしまったようだ・・・・
「ごめんね有希、ジェットコースターが苦手なら言えばいいのに。」
「だ・・だって・・・」
漏らしたオシッコは何とか染み込んでくれたようだ・・・多い日用にしてて良かった・・・
「わ・・わたし・・乗ったこと・・なかったの・・・」
「そうだったの?それじゃひとつ乗った後に言えばよかったじゃない。」
股間がゴワゴワしている・・・早く何とかしないと・・・
「情けないヤツだって・・思われたくなくて・・・」
「何いってるのよ。有希はもう女の子なんだから、情けなくないじゃない。」
「そ・・それは・・そうだけど・・・」
なんかオレ泣いちゃいそうだ・・・でも今泣いたらマスカラが流れちゃう・・・そんなことを考えてしまう自分がまた情けない・・・
「ううぅっ・・・」
とうとうオレは泣いてしまった・・・
「有希、泣くことないじゃない・・・そんなに怖かったの?」
長谷川には今のオレの情けなさはわかるまい・・・ついこの間まで男だったというのに、キャーキャー悲鳴をあげたうえ、オシッコまで漏らしてしまったのだから・・・今のオレは男とか女とかに関係なく情けない・・・
それに・・・泣きながらもオレは、このあとトイレで化粧を直すついでに、ナプキンも取り替えようなんて考えている・・・泣きながらそんなことまで計算するなんて・・・オレって最低なヤツだ・・・
「どう?気持ちは落ちついた?」
「・・う・・うん・・・」
しばらく泣いたら、ようやく涙も止まった・・・
「ほら有希、目のまわりが真っ黒よ。」
「・・うん・・ごめんなさい・・トイレで直してくる・・・」
オレはそう言って、トイレに行き、オシッコが染み込んだナプキンを新しいものに取り替え、お化粧も直したのだった。
トイレから出ると、少し離れたところで長谷川が待っていた。
「ごめんね有希、もう帰ろうか?」
本当にすまなそうな表情なので、オレもなんだか悪いことをしてしまった気持ちになる・・・せっかく楽しもうとしてたのにオレのせいでこんな事になってしまった・・・
「ううん、怖いのじゃなかったら乗れるから。あの落っこちるみたいなのが苦手なの・・・」
「そう・・・?」
時計を見たら4時だった。
「それに・・今日は少し遅くなるかも知れないって言って来たから・・・」
なんだかオレ本当に彼女みたいなこと言ってるなぁ・・・遅くなるってヘンな意味にとられたらどうしよう・・・
「よし!じゃぁ怖くないやつに行こう!」
そう言って連れてこられたのはメリーゴーランドだった・・・
「い・・いや・・こんなのじゃなくても大丈夫よ。ゴーカートとかでもいいんだけど・・・」
「無理しなくていいから、有希やっぱりこういうのが似合うよね。」
それはどうかなぁ・・・だいいち子供しか乗ってないし・・・高校生が乗るものじゃないと思うが・・・
「ほら早く!係りの人が待ってるでしょう!」
仕方がない・・・でもこんなスカートじゃ馬になんて跨がれないし・・・横座りなんかやったことがないし・・・となると・・・どうしよう・・・お姫様が乗るような馬車しかないじゃないか・・・
そんなことを考えていたら、係りの人がオレをひょいと持ち上げて馬の背中に乗せてくれた。メリーゴーランドが回りだす・・・ところで長谷川はどこに乗っているのだろう・・・キョロキョロしたが長谷川の姿が見えない・・・
「有希!こっちこっち!」
その声の方を見ると、長谷川は外でカメラを構えている!
「ちょ・・ちょっと・・撮らないで・・・」
オレの声は音楽にかき消されて聞こえないみたいだ・・・こんな女の子座りで馬に乗ってる写真なんか撮られたらたまったものじゃない・・・だがオレにはどうすることも出来ない・・・それにメリーゴーランドだってバカにしたものじゃなかった・・・回ってるうえに上下にも動くから、女の子座りに慣れてないオレは、落っこちないようにポールにつかまってないと振り落とされそうだ・・・
「有希!手を振って!」
バカ言っちゃいけないよ・・・そうは思ったが長谷川には若干負い目もあるし・・・オレは仕方なく引きつった笑顔で手を振った。
「ヒドイよ・・・なんでジュンは乗らないの・・・?」
「だって、わたしは似合わないもん。」
「そんなぁ・・・わたしだって似合わないわよ・・・」
「そんなことないって!」
そう言って見せられた画像のオレは、たしかにヘンに似合っていた・・・なんだか悔しい・・・それに、いやいや手を振ったのに、妙に嬉しそうに見える・・・きっとこんな服を着てるからだ・・・そうに決まってる・・・
「ジュンだってこんな服着れば似合うわよ!」
そうは言ってみたものの、どうにも想像できなかった・・・
オレたちはその後もゴーカートに乗ったりゲームをやったりして遊んだ。ちなみにゴーカートはけっこうスピードは出るものの、自分で運転するから平気だった。それに何より上下運動がないのがいい。
6時になって少し日が傾いてきたころ、長谷川がオレに聞いた。
「そろそろ帰る?」
「う・・うん・・・そうね・・・」
「じゃぁ最後にひとつ乗りたいのがあるんだけど。有希怖いかなぁ。」
「え? またジェットコースター?」
「ううん、観覧車。デートの最後って言ったら、やっぱり観覧車でしょう?」
そうか・・・そういえばドラマでそういうのを見たことがある・・・
「でも有希がダメそうだったらやめてもいいわよ。」
オレは観覧車は乗ったことあるが、別に怖くはなかった気がする。高さはちょっとお尻がズンとするけど、動きが速くないから平気だと思う。
「ううん、大丈夫。観覧車は乗ったことあるから。」
「そう、それじゃ安心ね。」
オレたちが乗ったゴンドラがゆっくり上がっていくと、夕日に輝く有明海が見えてきた。すごくきれいだ!
「なんか今日はいろいろあったけど楽しかったね・・・」
「有希、デートの時、観覧車に乗ったら何するか知ってる?」
「え?!」
なんかイヤな予感がする・・・
「・・・もしかして・・それって・・・」
オレは人指し指で唇にふれた。
「そう・・キスよ。カップルは一番上でキスするものなの。」
絶対というワケでもないと思うが・・・それにオレたちは女の子同士・・・
「それは・・・どうしてもしなきゃいけないの・・・?」
「どうしてもってワケじゃないけど・・・わたしはしたいのよ。」
「そう・・・わかった・・・」
考えてみれば女の子同士といっても、オレは元は男だし・・・そう考えれば普通の女の子同士よりは自然な気もする・・・とはいえオレは男としてもキスするのは初めてだ・・・
頂上に近づいていくと、だんだん緊張が増してくる・・・長谷川とキスするなんて・・・ドキドキしている自分が男なのか女なのか良くわからない・・・
「今日は有希が彼女なんだからね。彼女は目をつむって待つものよ。」
「は・・はい・・・」
オレは静かに目をつむり、くちびるをほんの少し尖らせた。
「有希、今日はありがとう・・・」
パシャッ!という音と明るい光に驚いて目を開けると、長谷川がカメラを構えて笑っていた。
「ハハハッ・・・有希ったら、可愛いキス顔するのねぇ。」
「ヒ・・ヒドイ・・・だましたのね?!」
オレは無性に腹が立った。オレがどれほどの覚悟でキスしようと思ったか、長谷川には解っていないのだ!
「な・・なんでこんなことするの?!わたし頑張ったのに・・・」
すると長谷川は意外なことを言いだした。
「有希、わたしがどうしてデートしようって言ったかわかる?」
「え? 仮面レンジャーショーを見たかったからでしょう?」
「まあ、それもあるけど・・・わたし気になってたのよ。最近有希、自分のしゃべり方が男っぽくなってるの気づいてた?」
「う・・ううん・・・」
オレはずっと普通に女の子らしくしゃべってるハズだ。
「わたし・・ちゃんと女の子らしくしゃべってるよ。」
「ほら!今“しゃべってるよ”って言ったじゃない。」
「あ!」
「このごろそういうこと多かったのよ。気づかなかったでしょう?」
「・・うん・・・」
「だから、わたし有希が男だってバレないか心配してたのよ。」
言われてみればそうだったのかもしれない・・・でも・・・
「それなら、もっと早く言ってくれればいいのに・・・なんでわざわざデートなんか・・・」
「わたし、有希に女の子として・・・彼女としてデートする気分を味わってほしかったの。そしたらもっと女の子らしくなるんじゃないかと思って。」
「・・・そんな・・・長谷川さん勝手だよ・・・わたしがどれだけ恥ずかしい思いしたか・・・」
オレの苦労なんか長谷川には全然わかっていない・・・
「でもね、有希もいずれは男の子とデートするんでしょう?それならもっと女の子らしくしなくちゃダメよ。有希はまだまだ男の子の気分が抜けてないんだから。」
「ううっ・・・」
オレには何も言い返すことが出来なかった・・・たしかにオレは自覚が足りないのかもしれない・・・
「わたしも協力するから、もっと女の子らしくなろう?」
「・・う・うん・・・」
「“うん”じゃないでしょう?」
「・・あ・・はいっ・・・」
オレが返事をした時、もうゴンドラは下まで降りていた。
オレたちのデートは終った・・・




