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オレは女子高生・ソフトバージョン  作者: AT
第2章

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第36話 デート 彼女になったオレ   初出08.11.24

 駅に近づいても、すぐには長谷川が来ているかどうか分からなかった。しかし改札の脇に立っているのが長谷川だと気づいた時、オレは絶望的な気持ちになった。

 Tシャツにジーンズというのは前の時と変わらないが、今日の長谷川は肩にとどくかどうかという長さの髪の毛をアップにして野球帽の中に隠していた。荷物は背中のリュックに入れているようだ・・・もちろん足には厚底のスニーカーを履いていた。いかにしてオレを、より女っぽく見せようかと工夫しているようにしか思えない。


 オレが近づくと長谷川も気づいて手を振った。

「有希、遅かったじゃない。急行いっちゃったわよ。」

「う、うん・・・ごめん。ちょっと手間取っちゃって・・・」

「有希、ちゃんと自分でお化粧した?」

「うん・・したよ。」

オレは長谷川に、お化粧は自分でしてくるようにと念を押されていたのだ。

「ほんとう?お母さんにやってもらったんじゃないの?」

「ち、ちがうよ!髪はかあさんにやってもらったけど・・・」

もっともオレとしては、かあさんにやってもらったことを後悔していたのだが・・・

「そっか、どうりで可愛い髪型してると思った。有希もとうとう自分の可愛さに目覚めたのかと思ったよ。」

「そ、そんな・・・目覚めたって・・・」

オレは自分がこんな恰好は似合わないということを、ちゃんと知っている。


 「それじゃ、行こうか。」

そう言うと長谷川は自分だけさっさと歩いていく・・・

「ちょっと・・・待ってよ・・何処に行くの?」

オレはまだ何処でデートするのか知らされていない・・・

「あ、まだ言ってなかったっけ、三井グリーンランドよ。」

「三井グリーンランド?!」

オレはそれを聞いて少し驚いた。



 三井グリーンランドといえば熊本にある遊園地だ。もっとも熊本といっても福岡との県境に位置しているからそんなに遠くはない。西鉄大牟田線の終着駅である大牟田駅からバスにのれば20分ほどで着く距離だ。オレは小学校のころ一回だけ行ったことがあるが、三井炭坑の跡地につくられた三井グリーンランドは広大な敷地にアトラクションが点在している、ちょっと変わった遊園地だった。しかし、なにしろ広いからデートにはあまり向かない気がするのだが・・・


 「なんで三井グリーンランドなの?」

オレは不思議に思って聞いてみた。

「いま仮面レンジャーショーやってるのよ。」

「仮面レンジャー?!」

仮面レンジャーといえば5人の仮面ヒーローが悪と闘うやつだ、というのは何となく知っているが、オレはそういうのにはあまり詳しくない。

「え?長谷川さんそういうの好きなの?」

「まあ・・ね・・・」

「へ〜・・・」

人って見かけによらないものだ・・・長谷川さんにそんな趣味があるなんて思いもしなかった。



 オレたちは二日市で普通から特急に乗り換えるために待たなきゃいけなかった。オレが遅れなければ急行でそのまま大牟田まで行けたのかもしれないが・・・ホームで並んで立っていると、かかとが低いサンダルを履かされているオレと、厚底のスニーカーを履いている長谷川の背丈の違いが妙に気になる・・・背が高い長谷川のとなりにいると、なんだか本当に長谷川の彼女になってしまったような気さえしてくる・・・

「今日は有希はわたしの彼女なんだから、女の子らしくしなきゃダメよ。」

「そんなこと・・・言われなくたって・・・」

わざわざ言われなくてもオレはいつでも女の子らしくしている・・・

「そうじゃないでしょう?彼女なら何言われても“はい”って言うこときかなきゃダメじゃない。」

「・・・・」

いまどきそんな素直な女の子がいるのだろうか・・・オレは疑問に思ったが、今日は長谷川に従わなきゃいけないことになっていた・・・

「・・・はい・・・これでいい?」

「なんか不服そうね。ちゃんと女の子らしい言葉づかいしてよ?」

「いつもしてるじゃない。・・・あ・・・はい・・・」

オレは長谷川に睨まれて、慌てて言われたとおりの返事をした。


 二日市からオレたちの学校がある久留米をとおり、柳川を過ぎれば次が大牟田だ。オレは久留米より先にはほとんど行ったことがなかったから、柳川の先が単線になっているなんて知らなかった。柳川を過ぎると窓の外には一面、田んぼばかりが広がっていた。ここまで来ると福岡もずいぶん田舎だ・・・



 「あ、そうだ。運賃立て替えてもらってたね。」

オレが運賃を長谷川に渡すためにサイフをバッグから出そうとすると、長谷川はオレの手を押さえた。

「有希、今日は有希はわたしの彼女なんだから、そんな心配しなくていいの!」

「で、でも・・・悪いよ・・・」

「それにもっと可愛くしゃべりなさいよ。」

「あ・・ご、ごめん・・なさい・・・」

どうもやりにくい・・・女の子ならいつもやってる事なのに、あらためて彼女なんて言われると、どんなふうにしゃべったらいいのか分からなくなってくる・・・


 特急は二人掛けの席だから、長谷川と二人きりな感じがして緊張してくる・・・そもそも彼女ってのはこんな時なにするんだろうか?どんな話をすれば良いんだろう?・・・そんなことを考えていると、長谷川はリュックの中からカメラを取り出した。

「ち、ちょっと・・・なんなの?」

オレは急にカメラを向けられて戸惑っている間に、長谷川はシャッターを押していた。

「有希ったら、驚いた顔しちゃって!ほら見て。」

液晶画面に再生された自分を見て、オレは真っ赤になってしまった。


 写真のオレはまるで女の子みたいだった。オレってどうして写真に写すとこんなに女の子みたいに見えるのだろうか・・・

「今日は有希の写真をたくさん撮ってあげるわ。」

「え?!」

「だって今日は有希が女の子になってから初めてのデートでしょう?だったら思い出に残した方が良いじゃない。」

「そ・・そんな・・・デートって言っても長谷川さんも女の子じゃない。」

「あら、じゃあ有希は初めてのデートは男の子としたかったんだ?」

「い、いや・・・そういうわけじゃないけど・・・」

「いいのよ、わたしだってわかってるわよ。有希が本当は男の子とデートしたい事くらい・・・でもね、いきなり男の子とデートしたら有希どうしていいか判らなくなっちゃうわよ。」

そりゃそうだ・・・オレは男のころもデートはしたことなかったし、長谷川の彼女を演じている今でも十分どうしていいか判らないのだから・・・とはいえオレは別に男とデートしたいなんて思っていない。


 しかしオレは、長谷川がオレのことを本当は男だと知っていると思っているから、ついオレも忘れがちになってしまうのだが、長谷川は実際にはオレのことを、ずっと昔から女の子になりたいと思っていた性同一性障害者だと思っているハズなのだ。だから長谷川がオレは本当に男のことが好きだと思っていても不思議ではないし、オレ自身そんなことを言ったおぼえもある。


 だが、最近ではオレもなんとなく男の子を好きになる感覚はわからないではないにしても、さすがに男とデートしたいとまでは思わない。いつか・・・いつかそんな気持ちになることもあるのかも知れないが、今はまだとてもそんな気持ちにはなれない・・・


 オレとしても昔の話を聞かされると、本当は自分でも性同一性障害じゃないとは言い切れないのだが、なにしろ小学校の2年生の途中から中学を卒業するまで、ずっと自分のことを普通の男の子だと信じて生活してきたのだ。しかもそれ以前のことは良く憶えていないから、オレはどうしても、自分が性同一性障害という自覚を持てない。


 普通の性同一性障害の人なら、小さい頃から女の子になりたかったり、思春期になって男の子を好きになる事で、自分が普通とは違うと気づくのだろうが、オレの場合は、まず女の子になるのが先だったから、どうも女のふりをしなきゃいけないという意識が強い気がする。そのくせ今では身体まで半分女の子のようになってしまい、ふりをするどころの騒ぎではなくなってしまっている。オレはもう一生、女として生活しなきゃいけないのだと思うと、あらためて自分のした決断がとんでもない事のように思えてきて、その事実の重さに押し潰されそうになってくる。



 「有希! 何ボ〜としてるの。もう着いたわよ!」

オレがちょっと物思いにふけっている間に、電車は大牟田駅に着いていた。オレは長谷川に手を引っ張られるようにして電車を降りた。大牟田の駅はJRの駅と隣どうしだから、向こうにはJRの列車が停まっている。

「有希キョロキョロしてないで、もうバスが来てるわ!」

オレは長谷川に急かされてグリーンランド行きのバスに乗った。日曜日ということもあり乗客は結構多かったが、オレたちは何とかイスに座ることができた。


 しかし考えてみれば遊園地に行くのなんて久しぶりだ。そう思うと何だか楽しくならないでもない・・・ただオレが男のままだったら良かったし、女の子でもせめてこんなナリじゃなければもっと楽しい気持ちになれたのかも知れないが、今のオレは分不相応なほど可愛らしい恰好をしているし、長谷川の彼女ときている・・・これではせっかくの楽しい気分もだいなしだ・・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 そんなことをぼんやり考えながらバスの窓から外を見ていると、遠くに観覧車が見えてきて、すぐにジェットコースターも視界に入ってきた。

「見て見て!長谷川さん、ジェットコースターよ!」

「ここはね、日本で一番ジェットコースターが多いんだって。」

「へ〜すごいねぇ・・・」

だだっ広いだけかと思っていたが、けっこうすごい所のようだ・・・広すぎるからアトラクションの多さが目立たないのかも知れない・・・

「ねえ有希・・・今日はその長谷川さんって言うのやめにしない?」

「え?だって長谷川さんは長谷川さんじゃない・・・あ!・・・」

そうだ、今日は長谷川が言う事は何でも素直にきかなきゃいけないんだっけ・・・

「・・・じゃあ・・・何て呼んだらいい?・・・順子さん?」

「わたし順子って名前あまり好きじゃないの。それに“さん”付けもイヤ!」

ワガママだなぁ・・・

「・・・それじゃあ・・・ジュンっていうのはどう?」

「・・・ジュンか・・・それなら・・まあいいかな。」

「良かった。じゃあ今日は長谷川さんのことジュンって呼ぶわね。」

なんか、自分で言って、妙に女っぽい言い方になってしまいとまどった・・


オレは慌てて、とまどいを隠すように

「じゃあ・・わたしのことは何て呼ぶ? いとこのレナはわたしのことユウって呼ぶけど・・・」

「・・・有希はそのままでいいのよ。その方が可愛いんだから。」

「そうかなぁ?・・・あ・・はい・・・」

今日はオレは長谷川の言いなりにならなきゃいけないんだった・・・しかしそんな従順な女の子なんて見たことない・・・それをオレがやらされるなんてヒドイ災難だ・・・まあ、元はといえばオレの頭の悪さが原因なのだが・・・


 バスは遊園地の前へと入っていく。長谷川が二人分のお金を払いオレは整理券だけを入れて降りた。

「ねえ、は・・じゃなくて・・ジュン・・・入園料くらいはわたしにも払わせてくれない?わたしもかあさんにお小遣いもらってきてるし・・・」

「ダメよ。」

「そんな・・・ジュンは良いかもしれないけど、ジュンのお母さんに悪いし・・・」

「何いってるの?これはわたしのお小遣いをためたものだからお母さんは関係ないの!」

それじゃ余計気を使うよぉ・・・でもあまりしつこく言っても長谷川が怒り出しても困るし・・・

「わかった・・・今日はわたし彼女だもんね・・・」

「そうよ。女の子がそんなこと気にしちゃダメよ。」

長谷川だって女の子なのに・・・やっぱり長谷川は彼氏気分なのだろうか・・・?



 入園料とフリーパスのセットを二人分は結構な値段だった・・・オレは長谷川がデートしようと言い出した時は、てっきりオレに意地悪して喜ぶつもりだろうと思っていたが、そんなことのためにしてはかなりの出費ではないかと思う・・・長谷川は本気でオレとデートしたかったのだろうか・・・?


 仮面レンジャーショーの会場はかなりの人だかりで驚いた。オレはこういうのは子供のためのものだとばかり思っていたが、どうやらそうでもないらしい。もちろん子供たちも沢山いるが、お母さんも大勢いるし、カメラを手にしたオタクっぽい一団や、着飾った若い女の子たちも沢山いた。女の子たちはどう見ても遊園地に遊びに来る恰好ではない・・・こんなコたちが大勢いるなら、オレの恰好もそれほど奇異にも見えないかも知れない。



 ほどなく仮面レンジャーショーが始った。悪い怪人が出てきて何やら言っているが、話を知らないオレには何のことか良く判らなかった。続いて仮面レンジャー5が出てきた。そのとたん、子供だけではなく、お母さんたちまで黄色い声援をおくりだしたからオレは驚いた。


 それにしても仮面レンジャーの役の人はアルバイトの人がやってるのだろうが結構イケメンだ。

「ねえジュン、あの仮面レンジャー役の人たちアルバイトにしてはカッコイイわね。」

「なに言ってるの有希、あの人たち本物なのよ。」

「え?!ほんと?」

オレはこういうのは、てっきり子供だましのショーだと思っていたから、本当の役者さんがやってるなんて思いもしなかった。本物だからこんなに人が集まってるのだと初めて気がついた。


 オレはこういうヒーローものはたいてい、赤がわかりやすいイケメンで、青がクールで影があるイケメン、緑がノッポのやさしいヤツで、黄色が太っちょの力もち、そしてピンクが女の子だと相場が決まっているのだと思っていた。


 しかしこの仮面レンジャー5は、赤と青とピンクはそのとおりだったが、黄色も女の子で、緑は可愛い系の男だった。

 子供とお母さんたちはだいたい赤のファンらしい。女の子たちは青か緑だろうか、オタクっぽい人たちはどうやらお姉さん系のピンク派と妹系の黄色派に別れているらしい。


 長谷川さんはいったい誰がタイプなのだろうか?赤か青?それともピンクか黄色だったりして・・・十分その可能性もありそうだ。オレは思い切って聞いてみた。

「ねえ、ジュンはこの中の誰かが好きなの?」

「わたしはグリーンが好きなのよ。どっか男の子の頃の有希に似てると思わない?」

そう言われても、自分のことは良くわからない・・・そのうえ男だった頃のことなんて、ずいぶん昔のことのような気がする・・・

「有希は誰がカッコイイと思うの?」

急に聞かれてオレは戸惑った・・・何と答えればいいのだろう・・・

「う〜ん・・・しいていえば・・・赤の人かなぁ・・・」

「やっぱり! 有希ってああいう感じが好きそうだもんね。」

そうなのか?オレはわかりやすいイケメンが好きそうに見えるのだろうか?・・・しかし言われてみれば系統としてはニースの山上君に何となく似てるかもしれない・・・もちろん山上君には遠く及ばないけど・・・


 それにしてもオタクの男の子たちは・・・なかにはオジサンっぽい人もいるけど・・・ずいぶん熱心にピンクや黄色の女の子の写真を写している。オレだって少し前までは男の子だったのだが、あのオタクのコたちの気持ちは良くわからなかった・・・オレは女の子のアイドルなんかにも、そんなに熱心になったことはない気がする・・・


 かといって女の子たちのようにレッドの人なんかを見て“キャーキャー”いう気持ちも良くわからない・・・そういえば長谷川も女の子なのに“キャーキャー”言わないなぁ・・・オレはチラチラと横にいる長谷川を見て思った。グリーンの男が好きだと言ったくせに、グリーンの見せ場にも他の女の子たちみたいに“キャーキャー”言わない。


 それに見ていてだんだん判ってきたのだが、どうもオレも顔負けの可愛い恰好をしたコたちがグリーンのファンらしい・・・長谷川とはずいぶんタイプが違う気がする・・・

「ねえ、ジュンももっと前に行ってきたら?」

オレがそう言うと長谷川は

「わたしはいいのよ。それに今日は有希とデートなんだし・・・」

「そんな、気にしなくていいわよ。わたし待ってるからもっと前で見てきてよ。みんな写真写してるじゃない、ここからじゃ遠いでしょう?」

「ううん、後で撮影会があるからいいの。」

「そうなの・・・?」

なんか長谷川って変わってる・・・初めて会った中学の頃は、ごく普通の女の子だと思っていたけど、なんか知るほどに変わった女の子だと思えてくる・・・



 いつの間にか舞台では役者さんに変わって、変身後の仮面レンジャーのスタントが行われていた。こうなるとノリノリなのは子供と一部のオタクくらいのものだ・・・

「ジュンはこういうのに良く来るの?」

「う〜ん・・たまにね。わたしは追っかけたりしないから。」

「へ〜・・・」

「もしかして、有希は仮面レンジャーとか嫌いだった?」

「ううん・・・でもあんまり知らないから・・・」

「そうなの?昔は男の子だったのに?」

「・・・・」

そう言われてもオレにも良くわからない・・・

「あ・・ごめん・・・そっか・・・有希は昔から心は女の子だったから、こういうのは興味なかったんだ?」

「・・・そ・・そう・・なのかなぁ・・・」


「でも長谷・・いや・・ジュンだって女の子じゃない、女の子だから興味ないってことは無いんじゃない?それに・・・」

オレはあたりを見回して

「女の子のファンも結構いるじゃない。」

「それはそうだけど・・・小さいころはそんなに見てなかったわよ。最近のヒーローものは俳優がカッコイイからよ。」

「そ・・そっか・・・」

言われてみれば確かにそうかもしれない・・・そう考えればデブやノッポがいないのもうなずける・・・

「有希もレッドがカッコイイって言ってたじゃない。」

「う・・うん・・・」

別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだけどな・・・でも否定するのも変だし・・・

「そろそろ行ってた方がよさそうね。」

そう言って長谷川はオレの腕をつかんだ。




 「ほら、行くよ有希!」

まだショーの途中なのに、勝手がわからないオレの手を長谷川が引っ張っていく。

「ど・・どこいくの?」

「撮影会よ!早く行って並ばなきゃ!」


 長谷川のおかげでオレたちはかなり前の方に並ぶことができた。列に並んだのはイケメン目当ての女の子と、スーツを着たスタントには興味がないオタクの人たちだけで、子供たちはまだショーに夢中だった。

「有希、わたしとグリーンの写真撮ってよ!失敗しないでね!」

長谷川は慌てて帽子を脱ぎ、髪の毛を整えている・・・もしかしてこれのために連れてこられたのか?・・・オレはそう思った。

「ま、まかせてよ、写真は上手なんだから!」

デジカメならそうそう失敗するものではない。

「わたしが撮ってもらったら有希のも撮ってあげるからね。」

「え?・・い・・いいわよ・・わたしは・・・」

「遠慮しなくていいから!レッドとのツーショット撮ってあげるわよ。」

「え?!」

なんかヘンなことになってきた・・・別にオレはレッドとツーショットを撮ってほしいなんて思ってないのに・・・



 ショーが終り撮影会が始った。数人づつがステージに上がって一緒に写真を撮ってもらっている。だんだんオレたちの番が近づいてくると、オレにとっては別にどうでもいいことなのに、さすがに緊張してくる。

オレたちの番が来て、オレは長谷川とグリーンのツーショットを撮ってあげた。近くで見るとグリーンの人はなかなか可愛い顔をしている・・・そういえば長谷川はオレが男だった頃になんとなく似ているって言ってた・・・オレってこんな顔だったっけ・・・?


 しかしファインダーの中の長谷川の嬉しそうな顔を見てオレは少し安心した。長谷川もこうして見ると、やっぱり普通の女の子なんだと改めて思う。オレとのデートじゃなければ、長谷川ももう少し女の子っぽい恰好ができたのではないかと思うと、ちょっと悪い気がした。


 もっとも長谷川本人は全然気にしてないみたいだ。

「こんどは有希の番よ!」

長谷川はオレをレッドに押しつけるとカメラを構えた。

「え?!」

オレは急にレッドの人に肩を抱き寄せられてドキッ!とした・・・

「ほら、有希なに緊張してるの!笑って!」

すると急にレッドがオレの肩を力強く抱きしめて耳元でささやいた。

「ほら、笑って!」

そして片手でVサインを作った。この人オレのことを女の子だと思っているのだろうか・・・心臓がドキドキ鳴っている・・・仕方なくオレもVサインをして、無理矢理笑顔を作った。

「はい、チーズ!」

たぶんオレは真っ赤になっているだろう・・・オレは男に肩を抱き締められるのが、こんなにドキドキすることだとは思ってもみなかった・・・


 それに・・・至近距離で見たレッドの横顔はすごくカッコよかった・・・レッドがオレの顔を見た瞬間、思わず顔を伏せてしまいハッキリと顔を見ることが出来なかったことを、すごく残念に思っていることに、オレ自身が驚いている・・・

 撮影が終って、慌てて離れようとしたが、足がガクガクして上手く歩けなかった。

「あ!」

オレがつまずいて転ぶと思った時、逞しい腕が倒れようとするオレの体を抱き止めた。

「だいじょうぶ?」

「あ・・は・・はい・・・」

思わずレッドと目が合ってしまい、オレの心臓はドキドキを通り越してバクバクになってしまった。

「あ・・ありがとう・・・」

抱き上げられてお礼を言ったが、なんか声が高くていつものオレの声じゃないみたいだ・・・オレは恥ずかしくて逃げるように長谷川の腕をとって小走りにステージを駆け降りて行った。



 「あぁ・・・ビックリしたぁ・・・」

オレはしばらくハアハア息を整えてから長谷川に言った。

「でも良かったじゃない。レッドに抱いてもらうなんてそうそうないわよ。後ろの娘なんかすっごい顔で有希のこと睨んでたわよ!」

「そ・・そんなぁ・・・そんなつもりじゃ・・・」

「わかってるわよ。有希はそんなコじゃないもんね。」

そう言って長谷川に頭を撫でられると、なんだか情けなくて泣きたくなってくる・・・


 ステージに目をやると、まだまだ長い列が続いていた。レッドも笑顔でファンとの撮影を続けている・・・レッドに抱きとめられた時、腰をすくい上げるようにした手の指がわずかにオレの胸に触れた感触が、いまでもリアルに残っている・・・男に触られてのなんて初めてだ・・・服とブラを通してなのに、まるで胸に直に指が当ったような気持ちがした・・・


 「有希だいじょうぶ?顔が赤いわよ。ちょっとベンチに座ったら?」

「う・・うん・・・」

オレを近くのベンチに座らせると

「ちょっと待ってて!」と言って長谷川はどこかへ行ってしまった。

トイレだろうか・・・オレも行けば良かったかなぁ・・・でもオレはしばらく動く気にはなれなかった。それに良く考えてみれば長谷川と連れションなんて気まずいし・・・


 そんなことをぼんやりと考えていると長谷川はすぐに戻ってきた。

「はい、これでも飲んで気持ちを落ちつけて。」

手にはふたり分の飲み物を持っている。どうやらトイレではなく、飲み物を買いに行ってたようだ。

「あ・・ありがとう・・・」

オレはストローに口をつけてジュースを飲むと、少し落ちつきを取り戻してきた。飲んで見てはじめて、すごくノドが乾いていたことに気づいた。


 オレはバッグからハンカチを出して、顔の汗をそっと押さえた・・・お化粧をすると無闇に顔も拭くことが出来ないから面倒だ・・・女の子って何て不便なんだろうと思う・・・今はまだ高校生だから、そんなにお化粧をする機会もないけど、大人になると毎日しなきゃいけないのだと思うと、なんだか億劫になってくる・・・


 もっともオレがどんな大人になるのかは、オレ自身にも良くわからない。だってオレが大人の女になるなんて、どう考えてもしっくりこないのだ・・・ただでさえ大人の世界なんて良くわからないのに・・・この先、いくら見た目が女の子になれたとしても、男のオレが女として生きていけるものなのだろうか・・・?


「ほら有希、これ見てよ。」

そう言われて長谷川の手の中のモノを見て、オレは思わず口に含んだジュースを噴き出しそうになった。オレはゴクリとジュースを飲み込んでから言った。

「え? こ・・こんなの撮ってたの・・・?」

それは倒れそうになったオレをレッドが支えている写真だった。なんて決定的瞬間なんだろう・・・しかし次の写真はもっとすごかった、なんとオレとレッドが見つめ合ってるではないか! こうしてあらためて見ると、こんなに近かったのかと冷汗が出る思いだ・・・

「そ、そんなのより、ジュンのはちゃんと撮れてたの?」

「うん、ちゃんと撮れてるわよ、ありがとう有希。」

オレはそれを聞いてホッとした。長谷川のがちゃんと撮れてれば、正直オレのはどうでもいいのだ。





‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



作者からのお願い。


なんだかご当地色豊かな話になってますけど(笑)知らない方もなんとなくそんな感じ、ということで読んでいただいてかまいません。けっこう適当なところも多いので(笑)また、福岡のことをよくご存知の方も、全然違う!とか言わずに、適当に読んで頂ければ幸いです。

あと、ここに出てくる三井グリーンランドは、現在は親会社が三井でなくなったので、ただのグリーンランドになっています。ただ私には三井が付いた方がなじみが深いのと、グリーンランドでは国の名前みたいなので、昔の名前にしています。ご了承下さい。




‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



おまけ「おぼえがき」2008/06/21



このところ「オレは女子高生」的な話が書きたい気持ちがある。


ひょんな事から(笑)女子高に通うことになった男が、だんだん女になっていくという良くある話(笑)


ただ、どうせ書くのならひと味違うものにしなければ意味がない。

あくまで現実的にやりたいが、そもそも現実には有り得ないのが難しいところ。

とりあえず主人公は最初から女に見えるという設定にしないとどうにもならない。

最初からバレバレでは話が始まらない。

かといって入れ替わりや、変身にはしたくない。

それでは簡単すぎる。


男が女子高に入るのは何とか理屈をつけるとして、どうして男が自然に女になっていくのだろうか。

マッド・サイエンシストが出てきて改造なんてのはやりたくない(好きだけど、笑)

だれかの悪巧みでではなく、みんな良い人の中で、善かれと思ってやった事で事態が動いていく。

ドタバタなし、Hあまりなし。

そんなヌルイ話、読みたい人いるのかなぁ・・・

いたら書いてみたいんだけど。









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