第31話 告白 オレが秘密にしてたこと 初出08.10.16
その日、オレはエステが終って着替えていた。こんなにちょくちょくエステに来るハメになるとは、最初に来た時には思ってもみなかったが、オレの身体がカミソリまけで真っ赤になってしまう事が判ってからは、仕方なくエステで脱毛してもらうしかなかった。もっとも、最初は毛が無くなっては、男に戻った時に困ると思って躊躇していたが、女の子になると決めてからはもうお任せで必要なところ以外は全て抜いてもらっている。
オレも最近では、もうあまり隠さずに着替えるようになっていた。だってビキニラインの毛まで抜いてもらっているのに恥ずかしがるのもヘンだ。
オレがブラを着けていると、それを見たエステのお姉さんが言った。
「あら?有希ちゃん、ブラのサイズが合ってないんじゃない?」
「え?そ、そうですか?」
たしかに最近は少しきつくなってきたかな?とは思っていたが、オレにはどれくらいが丁度良いのか良く判らなかった。
「ほら、もうアンダーが浮いちゃってるじゃない。」
そう言われて見てみると、確かに胸の間から床が透けて見えていた。
「あ、ほんどだ・・・」
オレはいままでそんなことも気づかなかった。
「合わないブラ着けてると胸の形が悪くなっちゃうわよ。」
「え?!ほんと?」
オレはそんな話は聞いたことがなかったが、エステのお姉さんが言うのだから間違いないのだろう・・・せっかく膨らんできた胸が変な形になったら大変だ!
家に帰ると、自分の部屋で服を脱ぎ、ブラを外してまじまじと自分の胸を見てみた。そんなに大きい感じはしないが、以前に比べれば確かに大きくなっている。
「やっぱりもうAカップじゃ小さかったのか・・・」
オレは母に買ってもらったものを使っていたが、タンスの奥に隠しておいたレナと街に行ったときに買ったブラを取り出してみた。
BカップのブラジャーはAカップのものとは違って“カップ”と言われる理由が良くわかる・・・丸みが全然違っている・・・オレはそっとブラの肩ヒモに腕を通し、カップを自分の胸に当ててみた。
もうオレにとってブラをするのは当たり前のことになっているから、近頃では初めて着けた時のようにドキドキすることも無くなっていたが、さすがにあらためて違うカップのブラを着けると思うと少しドキドキする・・・それにこのブラはいつも学校に着けて行ってる物のような素っ気無い白いブラではない。ピンクでレースが付いた可愛いやつなのだから余計になんか恥ずかしい。
手を後ろに回してホックを留める。今ではホックも簡単に留められるようになった。まだ中学生のころ最初にブラジャーを着けた時は、一段のホックでもなかなか留められなかったのに、今は二段のやつでも簡単に留めることが出来るようになっていた。自分ではなかなか気づくことが出来ないが、こういうことはオレもだいぶ女の子に近づいているのかもしれない。
Bカップのブラを着けてはみたものの、どうも収まりが良くない・・・考えてみればオレは全然胸がない時からブラを着け始めたから、正しいブラの着け方というのを知らなかった。オレはふと思い出して、ベッドの下からティーン誌を取り出した。これは妹の麻衣が買ってリビングにほったらかしていたやつを、オレが黙って部屋に持ってきてそのままになっているのだ。まあ、本当のことをいうと、この本にはこれから大人になっていく女の子のための特集がしてあったから、いつか役に立つかも知れないと思い、こっそり貰っておいたのだが・・・
たしかブラジャーの着け方も載っていたハズだと思い開いてみると、思った通りちゃんと絵付きで載っていた。オレはいったん後ろのホックを外してから、説明にあるように上半身を前に倒して前屈みになり、カップの中に胸を収めてみる。驚いたことに前屈みになると、オレの小さな胸でも少し重みで垂れることを知った。前屈みのままホックを留めてから上半身を起こすと、Bカップのブラにバストがちゃんと収まっていた。
「わぁ・・・」
オレはなんだか嬉しくなった。まだ谷間というには程遠いが、オレの胸にはしっかりとした二つの隆起ができ、その間にはハッキリと判る程度のくぼみが出来ている・・・そっとブラの上から両手を当ててみる・・・
「やわらかい・・・」
カップの中にしっかりと捕えられた胸が、ブラの手触りの良さと相まって、オレの手の中でマシュマロのようにふわふわしている。ブラがない部分を指でそっと突いてみると、信じられないような柔らかな弾力があった。
「女の子の胸ってこんなに柔らかいんだ・・・」
オレには、それが自分の身体に着いているのが不思議な気がした。
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「ねえ、かあさん・・・」オレは夕食後の洗い物をしながら、横にいる母に言った。
「なに?」
「・・・あのね・・今日・・エステのお姉さんに・・ブラが合ってないんじゃないかって言われて・・・合ってないブラ着けてると・・形が悪くなっちゃうんだって・・・」
「あら、有希は知らなかったの?」
「・・・うん・・・それでね・・こんどブラを買ってくれる時は・・Bカップがいいなって・・・思って・・・」
「そう、かあさんは別にかまわないけど・・・そろそろ有希も自分で買ってみたら?」
「え?!」
オレは母がそんなふうに言うとは思わなかったからビックリした。
「もちろん、まだ無理そうなら、かあさんが買ってきても良いんだけど・・・有希ももう女の子になってだいぶ経つんだし、自分のものは自分で買ったほうが良いんじゃない?」
「・・・う・・うん・・・」
「なんだったら、またレナちゃんについて来てもらったら? かあさんから頼んであげようか?」
「い、いいよ・・・」
オレは慌てて断った。レナはオシャレな娘だから、そういう点では頼りになるが、今オレが欲しいのはオシャレなやつじゃなく、学校で制服の下に着けるための普通の白いブラなのだ。だいいち学校では白以外の下着は禁止されている・・・まあ、そんなにしょっちゅう検査があるわけじゃないから、こっそり着けているコも少なくなかったが・・・オレはわざわざ校則違反をする気はない。
「下着買うためだけについて来てもらうのも悪いし・・・」
「だったら洋服も買ってきたら?」
「うっ・・それはまた今度でいい・・・下着は天神じゃなくても売ってるし・・・」
「それじゃ長谷川さんに頼んでみたら?」
「長谷川さんに・・・? 長谷川さんついて来てくれるかなぁ・・・」
「このまえ大橋について来てもらったんでしょう?」
「うん・・・」
「だったらついて来てくれるんじゃない?」
「そうかなぁ・・・」
長谷川も何考えてるのか良くわからない時があるからちょっと心配だけど、他に頼める人もいない・・・オレのことを女の子だと思っている友達には、一人で下着を買いに行けないなんて言ったら変に思われるだろうし、どんなの買えばいいのか相談するのも変かもしれない・・・その点長谷川なら・・・ただし長谷川はオレに女の子のような胸があることは知らないのだ。そんな状態で一緒に下着を買いに行っても大丈夫だろうか?
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休み時間に長谷川をつかまえたオレは、きょう下着を一緒に買いに行ってくれないかと頼んでみることにした。
しかしいざ頼もうとすると言い出しにくい・・・
「あの・・・長谷川さんってさ、下着とかどこで買ってるの?」オレは何気なさを装って聞いてみた。
「う〜ん・・・だいたいダイエーとかだけど・・・そんなに特別なところには行かないわよ。」
「今日さ・・・下着買いに行くのついて来てくれない?」
「え?!有希と・・・? それって女物よね・・・」
長谷川は一瞬、困ったような顔をした。
「あ、やっぱり無理だよね。わたしこんな恰好してるけど・・・本当は男だし・・・」
そりゃそうだ・・・女の子の長谷川が、男のオレが女物の下着を買いに行くのに付合うなんてイヤに決まっている。布を買いに行くのとは訳が違うのだ。
「いや・・・けど・・・何で急に?」
「それが・・・今まではかあさんが買ってきてくれてたんだけど・・・そろそろ自分で買いなさいって・・・」
「へぇ・・・有希のお母さんって案外冷たいのね。」
「そ、そんなことないよ!すごく優しいよ。でも・・わたしもずっとかあさんに頼ってる訳にもいかないし・・・でも何処で買えばいいのか判らないし・・・」
「ふ〜ん・・・でも下着って何を買うのよ。」
「・・・ブラ・・・」
「・・・なんか変じゃない?何で急にブラ買わなきゃいけないの?」
「それは・・・いままではAカップのだったけど・・・Bカップのが欲しくて・・・」
それを聞いた長谷川は、呆れたというように首を振った。
「有希ねえ・・・言ったでしょう?あんまりパット入れすぎたらバレるって!」
これではラチがあかない・・・
「ち・・ちょっとつきあって・・・」
オレは長谷川の手を引っ張って行った。
「ねえ、どこ行くのよ?」
「保健室・・・」
「保健室?」
「有希ちゃん、どうしたの?」
オレが保健室に入ると白石先生が言った。でも今日は白石先生に用がある訳ではないのだ。
「あら?長谷川さんまで・・・」
「先生、ちょっとカーテン閉めさせて下さい・・・誰か来たら教えてくださいね!」
オレはそう言って、ベッドの方へ長谷川と一緒に入りカーテンを閉めた。
「有希、なんなのよ。急に・・・」
「いいから、ちょっと見てて・・・」
オレは白いセーラー服の上着を脱いだ。
「あ!有希ったら、こんな可愛いブラしてる!」
長谷川はオレの胸を指さして、校則違反だとばかりに声をあげた。
「そ、そこじゃなくてさ・・・なんか・・・気づかない?」
「ん?・・・」
しばらくワケもわからず見ていた長谷川だったが・・・
「え〜〜?!」
と突然大声をあげた、やっと気づいたみたいだ。
「どうなってんの?豊胸?」
「シー!声が大きいよ!!」
オレは長谷川を黙らせてから、ブラを外して見せた。長谷川はオレの胸を見て目が点になっている。
「どうして・・・有希に胸があるの? 性転換?」
「そういう訳でもないんだけど・・・」
胸は見せたものの、オレが何て言っていいか困っていると、カーテンが開いて白石先生の顔がのぞいた。
「私から説明しましょうか?」
とりあえずオレはまた上着を着て、長谷川と一緒に白石先生の前の椅子に座った。
「戸田さんはね、今お薬で身体を女の子に近づけていってるの。」
「薬で?」
「女性ホルモンを投与すると男の子でも女の子の身体つきに近づくものなのよ。」
「それで胸が?」
「そう、個人差があるんだけど、戸田さんには良く効いたようで、胸も女の子みたいに乳腺が発達してきたの。」
「それじゃ・・・あの・・・下の方も・・・?」
オレは股間に長谷川の視線を感じて恥ずかしくなった。
「下はまだ男の子のままよ。まだお薬だけだから。」
「それじゃ、薬を止めれば有希はまた男に戻るんですか?」
「いいえ、ここまで来ては・・・それに戸田さんはもう女の子になる決心をしているの。」
「え?有希・・・ほんとう?」
「うん・・・」
オレはコクリとうなずいた。
「それって・・ここを卒業しても一生女のままってこと?」
「うん・・・」
さすがに決心したとはいえ、あらためて聞かれると恥ずかしい気持ちになってくる。男が女になるなんて絶対ヘンに決まってる・・・
「なんで言ってくれなかったの・・・?」
「え?」
「前に体も女の子になりたいのか聞いたじゃない。なんであのとき言ってくれなかったの?」
「あ・・だって・・・長谷川さんが・・本当に受け入れてくれるか解らなかったし・・・でも・・だんだん隠せなくなってきちゃって・・・」
オレは悲しくなってきてしまった。長谷川さんを信用していなかった訳ではなかったが、やっぱりどんな反応をされるか怖かったのだ。
「長谷川さんに嫌われたらどうしようって思ったら・・・なかなか言い出せなくて・・・」
「長谷川さん、解ってあげて。戸田さんもいろいろ悩んでるの。なかなか世間には認めてもらえないことだから。ね?」
長谷川は黙ってうなずいた。
「ありがとう、これからも戸田さんの力になってあげてね。」
白石先生はそう言うと、長谷川の手を握った。
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「ねえ、有希・・・」
「・・・なに?」
「有希は・・その・・・下の方も・・・女の子にするのかな?」
「それは・・・まだわからない・・・」
「ほんとなの? このまえもわからないって言ってたのに、もう女の子になってたくせに・・・」
「こんどは本当・・・ほんっとに本当!」
さすがにオレもまだそこまでは考えていなかった。下をどうにかするには手術が必要になるだろうし・・・それに・・・オレは女の子のそこが、どんなふうになってるのかまだ知らないのだ。性教育の授業で習った以外は、実際に見た事はなかったから、リアルに想像しにくい。
それに・・・それに、そこを女の子にしてどうしようというのだ・・・
「それじゃ、放課後は有希のブラを買いにいきますか!」
「え?!行ってくれるの?」
「当たり前じゃない、わたしも有希がどんなブラ買うか興味があるし!」
「もう・・・またそんなイジワルなこと言うんだから・・・」
オレはそう言って長谷川と手をつないだ。
オレにもだんだんわかってきた・・・どうやら長谷川は本気でイジワルな事を言ってるわけじゃなさそうだ。たぶんこれが長谷川さんの照れ隠しなんじゃないだろうか?
「今日はクラブもないし、制服のままじゃなんだから、いちど家に帰って着替えてから行かない?」
その長谷川の提案は、オレにとっても都合が良かった。
「うん・・わかった・・・」
慣れない所に行く時は、オレには少々準備が必要なのだ。




