第30話 写真 夢みる乙女たち 初出08.10.6
とうとうオレの部屋にも三面の鏡台がやってきた。白い、鏡の部分が楕円形の可愛いやつだ。楕円の部分が三重になっていて、開くと頭の後ろも見ることが出来る。
もっとも鏡を見ながらやると手が逆になってしまうから、思ったほど簡単ではなかった。でも、とりあえずちゃんとなっているか確認できるだけでも良しとしよう・・・
引き出しには、二光〈にっこう〉さんに貰った化粧品を入れてみたが、まだまだがら空きといった感じだ。横の小さい引き出しにはアクセサリーなどを入れるようになっていたが、オレは自分のアクセサリーはほとんど持ってない。とりあえず、この前買ったカチューシャを入れておいた。
鏡の前に座るとなんだか変な感じだ・・・白いフレームで縁どられた楕円形の鏡に映ったオレは、いつもより少し女っぽく見えるから不思議だ。髪をほどいてブラシで梳かしてみる・・・なんだか女の子みたいでこっぱずかしい・・・部屋には鍵を掛けておいた。もしこんな姿を麻衣なんかに見られたらきっと恥ずかしさで死にたくなるかもしれない・・・そのうちオレが、この鏡に向かってお化粧などするようになるのかと思うと、恥ずかしくて、いたたまれなくて、なんだかドキドキしてくる・・・
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「ねえねえ、有希さぁ、モデルとか興味ないの?」
いきなり岡本に聞かれて、オレは戸惑った。
「え?!」
「だって、有希スタイル良いし、顔だって可愛いじゃない!」
「な、なにを?急に・・・」
すると岡本は地元のファッション誌の後ろの方を開いて言った。
「九州JINONで読者モデルを募集してるのよ、有希応募しない?」
「え?い、いいよそんなの・・・わたしあまり興味ないし・・・」
「でもさ、有希が好きなニースの山上くんに会えるかもしれないよ。」
「え?!ほんと?」
オレは俄然、興味を持って、よくよく聞いてみると、それは岡本の思い違いだった。岡本はただ地元版のJINONが、ニースが良く載っているJINON本誌と同じ出版社だからという、単純な考えで言っていただけだったらしい。出版社が同じだからといって、そんなに都合のいいことはおこるハズがない。そもそも出版社が同じでも地元誌はこっちで作っているに決まってる。
しかし、岡本がオレに声をかけたのは口実だったらしい。どうやら自分が応募したいからのようだった。だけど自分だけじゃ心細いから、みんなに声をかけていたようなのだ。
「まあ、弘子や千里も応募するなら・・わたしも送ってもいいけど・・・」
こんなのどうせ採用されるハズがないから、オレはとりあえずそう言った。
「でも写真がいるって書いてあるじゃない、どうするの?」
オレが聞くと、岡本もそこまで考えてなかったみたいだった。
「それじゃぁ、わたしが写してあげる。明日カメラ持ってくるから。」
オレは写真は、まあまあ上手だったから、カメラマンをかって出た。なんか他人ごとだから楽しくなってくる。どうせ合格するハズないけど、せいぜい可愛く撮ってあげよう・・・
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家に帰ると、母にカメラを貸してくれるように頼んだ。母は2台持ってたからどっちか貸してもらおうと思ったのだ。
「ねえ、かあさん、明日カメラ貸してくれない?」
「あ、ごめん有希、カメラ一台壊れちゃって、明日はかあさんも使わなきゃいけないのよ。」
「・・・そうなの・・・それじゃしょうがないね・・・」
なんか約束しちゃったのに、どうしよう・・・困ったな・・・写メってわけにもいかないだろうし・・・
「そうだ、フィルムの方ならあるけど、それでもいい?」
「あ・・うん・・それでいいよ。」
ほんとはデジカメの方が失敗が無くていいけど、フィルムのやつでも無いよりはマシだ。
「使い方わかる?」
「うん・・・たぶん・・・」
そんなに難しいタイプじゃなから大丈夫だ。だいぶ前だけど使ったことあるし。
「真ん中の丸いところに顔を入れて、写せばピントが合うから。もし他のところにピントを合わせたい時は、シャッターを軽く半押ししてピントを合わせて、そのままずらしてシャッター押せばいいから。」
「うん、わかった。」
「フィルム入ってないから、忘れないように買って行きなさいよ。多めの枚数のを買っておきなさい。」
「うん、ありがとう。」
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次の日、オレは学校へ行く前にフィルムを買って行った。フィルムを入れてフタを閉めると巻かれているような音がする・・・どうやらちゃんとセットされているようだ・・・フィルムのカメラはいろいろ心配がつきない・・・ちゃんとなっているのか不安でたまらない。
「はい、チーズ!」
オレは岡本、原口、佐倉を校舎の壁をバックに写してあげた。送るのには全身と上半身の写真が必要だ。
「ほら、もっと笑わなきゃ。採用されないよ!」
良い表情を撮るのは意外に大変だった。36枚撮りのフィルムを買っておいて良かった。足りなくなるところだった。
「じゃ、次あたしが有希を撮ってあげるよ。」
岡本がオレからカメラを奪った・・・
「う・・うん・・・」
本当はオレはいいのだが、みんなで送ることになってしまっているので、断るわけにもいかない・・・
「有希、ガチガチじゃない、なに引きつった顔してるのよ!笑いなさい!」
今度はオレが言われる番だった。さっきまでの楽しさが一転苦しみに変わってしまった。だって女の子のように笑って写真に写るなんて・・・しかもポーズまで要求される始末だ・・・
「あははっ、ほら有希、もう一枚!」
“カシャッ”とシャッターの音がした次の瞬間“ジーーーー”と音がしだした。
「な、なにこれ?」
オレはほっとした。フィルムが無くなって自動で巻き戻し始めたのだ。
「な〜んだ・・・もっと有希の写真撮ろうと思ったのに・・・」
岡本は残念かも知れないが、オレは助かった!このまま何枚も写され続けたら、オレは緊張しすぎて倒れてしまったかもしれない・・・
「それじゃプリントしておくから。」
オレはさっさとカメラを奪い返して言った。もしもフィルムを買って来て続きの撮影をしようなんて言われたらかなわない。
オレは帰りに駅前のDPE店に寄ると、同時プリントを頼んだ。出来上がるまでに1時間もかかるらしい。オレはいったん家に帰ろうかとも思ったが、またあらためて来るのも面倒なので、近くのハンバーガー屋で時間をつぶす事にした。本でも読みながら待つのも悪くない。
フィルムの写真は現像したりと面倒だが、出来上がるまでのドキドキ感もたまには良いかもしれない。ちゃんと写っているか、目をつぶったりしてないか、心配はつきない・・・こういう楽しみはデジカメにはないと思う。
本を読みながら待っていると、1時間なんて案外早く経ってしまうものだ。本に夢中になっているうちに、もう出来上がっている時間になっていた。
急いでDPE店に行って、写真がオレのだと間違いないことを確認してから、急いで家に帰ってきた。家族に見られると恥ずかしいので、自分の部屋に直行しドアに鍵をかけた。
「おっ・・なかなか可愛く撮れてるじゃない・・・」
オレは岡本、原口、佐倉と写した順に見ていった。佐倉なんかちょっと見方によっては、上京したての陰気なグラビアアイドルなみに見えなくもない・・・
そろそろオレの写真だと思うとドキドキしてきた・・・あんまり可愛く撮れていて、もし採用されたりなんかしたらどうしよう・・・などと有り得ないことまで心配になってしまう。そんなこと絶対にないのに・・・
「なんだこれ・・・」
いざ自分の写真を見たオレはガックリきてしまった。まったくのピンボケだ・・・後ろの壁にピントが行ってしまったのもあれば、ぜんぜんどこにピントが合っているのか判らないモノもある。そして肝心のオレはといえば、目鼻も良く判らないほどボケてしまっている。きっと写してくれた岡本は、いつもシャッターに指を乗せておくクセがあるに違いない・・・・
ちょっとがっかりしたものの、考えてみればどうせ採用されるハズがないのだから別にかまわない・・・
「・・・まあ・・いいか・・・」
オレはひとり納得した。採用されたらどうしようかなんて考えていた自分がバカみたいに思えてきた。
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「有希、写真は?ちゃんと写ってた?」
「うん、みんな可愛く写ってるわよ。」
オレは3人に写真を渡した。
「あれ?有希のは?」
「あ、わたしのは家に忘れてきちゃった・・・」
オレは岡本が責任を感じても可哀想なので、ピンボケ写真を持ってこなかったのだ。それにもう一度写そうなんて言われてもかなわない・・・
「ダメだな有希は、みんなで一緒に送ろうって言ったのに!」
「ご、ごめん・・・」
「まあ、いいわ。それじゃみんなで書類に書込もう。」
ご丁寧に、もう4人分のコピーした書類が用意されていた。オレたち4人はワイワイ言いあいながら、一緒に書類に書込んでいった。
けっきょく写真を持って行かなかったオレがポストに出す役になった。オレは自分のは出すまいかとも考えたが、もしも何かのはずみでバレたりしたら困ると思い、やっぱり出しておくことにした。どうせあんな写真では採用されるハズがないと思うと気楽なものだ・・・
家に帰ったオレは書類と写真を封筒に入れると、4人分の封筒をポストに出しにいった。




