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第3話【チェレステの選び方まとめ】

「俺がロードを始めた時代はこうだった」


健矢(けんや)はピットの作業台に肘をつき、どこか懐かしむような、それでいてどこか突き放すような視線で結愛(ゆあ)を見つめた。


「ビギナーは黙ってアルミで慣れろ。

適当な5万円以下の中古車が一番オススメだ。

もしお前さんみたいに『どうしてもBianchoがいい』って言うなら、MIRANO一択となる」


「MIRANO一択……! 私が選んだMIRANO7(ミラノセブン)も、まさにその系譜なんですね」


MIRANOと呼ばれるエントリーアルミ車種に1~6はなく、7(セッテ)しかない。理由は創業の地の番地名だからと補足を入れて健矢は言葉を継ぐ。


「そうだ。立ちゴケしてフレームを傷つけようが、落車してディレイラーハンガーを軽くひん曲げようが、アルミなら相応に心が折れるだけで済む。


ガードレールや金属クワガタ(メタクワ)にぶつけなくなってからカーボンに手を出さないと、一瞬の落車で.....下手すりゃ落車すらしてないのに数十万や数百万のフレームがクラック入って廃車する羽目になって泣きを見ることになるからな」


健矢の脅しのような解説に、結愛はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「でな……長いアルミ修行を終えて落車もしなくなった後、ようやく新車のBiancoを選ぶ出番がやってくるわけだ」


健矢は腕を組み、愛機たちのフレームラインを愛おしそうになぞるように視線を巡らせた。


「2台目以降の本格的なマシン選びとなると、まず自分がどう走りたいかの方向性を決めることになる。山に登りたいのか、平坦を速く駆けたいのか、それとも超長距離のロングライドを極めるのか……。実はこれこそが、Biancoというブランドの最大の特徴であり、本質なんだよ」


「本質……ですか?」


「ああ。実際、2020年代からは『エアロも軽量も快適性も全部詰め込みました』みたいな、1台で何でも出来るオールラウンドな方向性での機材づくりが業界全体のトレンドになった。」


「健矢さんの愛用するPINARELLI(ピナレッリ)なんかはそうですよね。」


「ああ、だがな、Biancoはそんな風潮の中でも、用途を極限まで突き詰めた専用モデルを複数ラインナップして出す事を決してやめなかった。グランツールにおいても万能機で挑むスタイルが多数派になろうと、コースに合わせて車種を入れ替えて対応する姿勢を......それはもう頑なに徹底した。」


「ふふっ、その頑固さ、どこかの師匠みたいですね。」


「ええい、やかましい!でだ、その頑固で硬派な姿勢こそが、Biancoというブランドの最高に渋い……チェレステの表面的な見てくれのお洒落さより何倍も素敵なポイントなんだよ!」


突如として熱弁を振るい始めた健矢に、結愛は目を丸くしながらも微笑ましく頷いた。


「そこから先は.......現実的な条件との戦いだ」


健矢は指を一本ずつ折り曲げながら、具体論へと踏み込んでいく。


「自分の財布の残高、

自室の床や壁面積といったガレージ事情......

それらとしっかり相談する。」


「お金が無限にあっても床面積は有限ですもんね。」


「そうだ。その上で『チェレステで行くか、それとも非チェレステ(黒や白)で行くか』を選択し、あらかじめ第3候補くらいまで目星をつけておくんだ」


「第3候補まで……! やっぱり在庫がなかったりするからですか?」


「そうだ。前にも言ったと思うがいくら色やスペックに固執したところで、自分の体格に合うサイズが国内に無けりゃ意味がない。


だから最後は、店で実際に計測して自分の身体に完璧にフィットする一台を選んで決める。……こうして途方もないプロセスを経て、ようやく『運命の車体』が決まるんだよ……!」


健矢は力強く拳を握り締め、一つの壮大な講義を終えたかのように息を吐いた。


「……はぁ、き、聴いているだけでも......気が遠くなりそうな作業ですね」


結愛は圧倒されて肩をすくめた。


「お前も身をもって経験した話だが、膨大な絞り込み作業は確かに面倒で大変だ。最近の何でも1台でこなせる機能集約型のバイクを選んだ方が、楽してサクッと決められるかもしれん。


……だがな結愛、自分が目指す走りの目的を極限まで突き詰められるという魅力は、それだけの面倒な手間と時間を払う価値が十分にあると思わんか?」


健矢の問いかけは、どこか挑むようでもあり、自転車の深遠な世界へ招き入れるようでもあった。


「はい……! 自分の『好き』や『走りたくなる理由』を突き詰めて選んだバイクだからこそ、一生ものの相棒になるんですね!」


「フン、分かればよろしい」


結愛の真っ直ぐな瞳に気恥ずかしくなったのか、健矢はプイと横を向いた。部屋の片隅に佇む黒いOL RACEも、まるで「その通りだ」と頷くかのように、静かにその鈍い光を湛えていた。

メタルクワガタの地獄について詳しく書かれた本編はこちら!(https://ncode.syosetu.com/n8969mn/94)

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