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5 姉と弟

「おぉ~い!見えて来たぞ~!」

 シュンはユミ以外のクルーをマイク放送で起こした。8000m前方に見える巨大な影がダブルシャークの船である。コントロールエリアの後方にあるスタンバイルームから4人が起きてきた。ゴローとリサはプロテクトスーツ、マリコは黄色のフライトスーツ、アキコは青のフライトスーツだった。ユミは紅いフライトスーツを着ていた。ユミを含む女性4人はダブルシャークの船を見るのは初めてだった。

「あれが…ダブルシャーク…凄い…初めて見た…」

 前方に見える黒い影…アキコがうわ言のように言った。リサは無言だった。が、その眼には技術者の目の輝きがあった。

「そう!全長2000m…!宇宙の深海を泳ぐ巨大な鮫だ!」

 ダブルシャーク。その名の通り、黒い船体で形状は鮫に酷似している。ダブルマークの中では最大のチームで、構成メンバー数は800人を超える。ダブルシャークはイーグルベースのような地上事務所は持たないため、この船体で惑星上に降りることは稀で、惑星上に降りるときはシャトルを使用する。宇宙を好き勝手に放浪して、ビッグママからの仕事を待っているか、自分達で仕事を取ってくる。全長2000m級の船の中は衣食住のすべてが完備され、自給自足の完全閉鎖循環が完成されている。ある意味では“自由の象徴”として、憧れる人間が多かった。

 そうしてる間に、通信が入った。映像付きのシャークだった。

「よぉ~!シュン!先日はごちそう様!こっちのドッキングベイはいつでもOKだ!さっさと来い!」

 相変わらず気の短い大将だ!シュンはそう思いながらもダブルシャークに接近して行き、難なくランデブーからのドッキングオペレーションを終えた。

 ここで、リサは驚いた。ドッキングの後のユニット固定まではよかったが、その後は、なんと、スペースイーグルの船体が下降して、コントロールエリアの高さまでシャークの船体に取り込まれたのである。シュンとゴローは当然の事のように、エントリーシートのエジェクトボタンを押して先に降りて行った。他の4人も続いた。「そうか?このダブルシャークとスペースイーグルは最初からドッキングする事を想定して設計されている。」

 6人が降りたところはエアロックだった。正面のゲート上のLEDランプが赤から青に変わり、ゲートが開くとシャークとカーロが出迎えに出てきた。

「シュン!ゴロー、久々の帰還!待っていたぞ!それと4人のお嬢様方。ダブル・シャークにようこそ!」

 2mを超える大男のシャークが両手を広げて歓迎した。とりあえず、シャークの自室へとの話で、6人はダブルシャークの船内に入って行った。ただ、シュンとゴローは古巣に来たようなもので、あちこちで旧友達と挨拶と握手、そして拳を合わせたりしていた。4人の女性陣が驚いたのはダブルシャークの構成メンバーだった。人間種とバイオロイドがいるのは予想していた。が、その他にも、耳の長いエルフ族、人間種より耳が上についている猫人族や犬人族。多種多様な種族が混在していた。連合宇宙軍も人種は多種多様ではあるがここまでではない。


「さて、作戦の詳細を再確認したい」

 シャークの自室のリビングの応接セットにシャークとカーロ、今回のメンバー6人が座っている。シャークがでかいモニター画面を背に話し始めた。

「まずはだな、そのグレート・ビルド・ワンと接触するのは4日後だ。ドルモアの防衛線ギリギリになる。その後の陽動作戦だが、このダブルシャークの艦載機の40機すべてを使用する。マリコ、お前にはこいつらの訓練を頼む。それと、グレート・ビルド・ワンに侵入するイーグル隊だがこいつを使ってもらう。“ミスター岩石君”だ」

 モニター画面の映像をみて、リサは笑いを堪えるのに大変だった。ネーミングも最高だが、20m級の岩にコクピットが付いているだけだった。岩石宇宙船?

「ミスター岩石君の中は6人乗りのA-101が入っている。一応、表面はステルス素材で出来ている。事態が悪化して、脱出の際は爆発ボルトで周りのカモフラージュの岩を吹き飛ばしてくれ。」

 そう言う事か?リサは納得した。

「さて、陽動部隊の関係だが、このグレート・ビルド・ワンのレーダー対策はどうなっている?」

 マリコが答えた。

「アキコからの資料では、グレート・ビルド・ワンのレーダーシステムは全部で32基。しかし、アキラが同時に制御できるのは最大で24基。従って8基が使用されません。これが盲点になります。戦闘が始まればレーダーシステムは前面に集中され、後方は無警戒になるでしょう。」

 シャークは腕を組み頷いた。

「あと、侵入部隊のイーグルだが?持って行く武装の方はどうなっている?」

 これもマリコが答えた。

「これもアキコからの資料ですが、グレート・ビルド・ワン内には約200体のガードロボットが配置されていますが、しかし、所詮はAIレベルのロボットです。アキラからの指揮命令されなければあまり活動は出来ないでしょう。ちなみに持って行く携行火器ですが、22mmのビームライフル6丁。37mmのビームバズーカ6機。対戦車用の多弾頭ミサイルランチャー1基。手りゅう弾24個入りを3ケース。実包の方は6㎜コンパクトバルカン砲を3基…」

 そこまで聞いたところでシャークは「もういい」のジェスチャー。そして口を開いた。

「マリコさんよぉ?そんなに持って行けるのか?リサさんとアキコ君は女だぞ?それにバイオロイドのユミちゃんでもそんなに持てないぞ?」

「あら残念?まだ近接戦用のリストがありましたのに…それにご心配なく…これを使います。戦場輸送用AIの“ついてい君”です。これを2基使います」

 マリコはシャークの後ろのモニターについてい君の映像を出した。シュンは呆れていた。スペースイーグルのカーゴルームが満積載だった原因は、マリコだった。確かに今回の食料や医薬品等の調達は女性陣に任せておき、作戦期間が最大2週間だけを伝えておいた。これが失敗だった。こんなに大量の兵装を持ち込むとは思わなかった。

 ちなみに、“ついてい君”とはあらかじめ目標の人間にタグを付けてセットしておくと、そのタグから2m後を追跡するシステムを組み込んだお買い物随行4足ロボット「お荷物持ちロボット」を大型化と軍用化した物である。最大積載量は約2t。

「あとはだな?全長4000m級の戦艦は馬鹿でかい。その艦内でそのアキラってバイオロイドを探す方はどうなっている?6人で探したとしても、1週間や2週間はかかってしまう?この点はどうなっている?」

 ここは、アキコが説明を始めた。

「侵入方法はこの艦の構造式を入力してあるユミに任せてありますが、侵入後は約200体のガードロボットの破壊と殲滅と、アキラがグレート・ビルド・ワンの制御に使っているリンクユニットの破壊が最初の仕事です。艦内でこれだけの大騒ぎになれば、アキラは自分でしか対応でないと判断して勝手に出てくるでしょう。ですから、アキラ遭遇時に侵入部隊を分散してはこちらの分が悪くなりますので、この作戦の要であるユミを守りつつ、集団で行動する必要があります。」

「そうか?わかった!ユミ?その侵入方法は?」

 ユミが立ち上がって説明を始めた。

「侵入方法のパターンは全部で1024とおり、その中で一番簡単かつ、効率の良い方法は後部のメンテ用のゲートM-1011が最善でしょう。ここからあたしが侵入して艦載機用のゲートを開きます。艦載機は積載されていないとの情報なのでハンガーの中は空箱です。ミスター岩石君でも簡単です。」

 リサは今日のユミは甘えん坊のユミではない。まるで、軍人の作戦説明の様だった。

 一通りの作戦説明が終わったところでリサが口を開いた。

「申し訳ありませんが、ユミのメンテナンスを行いたいのですが、こちらにバイオロイドのメンテナンス施設ってあります?」

 シャークは何かを察したようで、親指を立てた後で何処に電話していた。そして、

「B-17ブロックにバイオロイドのメンテナンスルームがある。シュン、案内してやってくれ。」

 シュンは「あぁ、わかった。リサ、ユミ行くぞ」と3人はシャークの部屋を後にした。

 ダブルシャークのバイオロイドのメンテナンスルームはまるで研究室だった。リサも知らない検査機器、調整機器等が並び、その奥では破損したバイオロイド達が修理を受けていた。

「ようこそ!ダブルシャークのバイオロイドメンテナンスルームへ…私はここの主任のニシ・トミオカと言います。今後もよろしくお付き合いください」

 身長は160cmの黒髪パーマのかかった瓶底メガネをかけた初老の男だった。

「はじめまして、私はイーグルのリサ・ラファエルです。早速なんですが、この娘のメンテナンスをしたいので、場所と機械を貸して頂けますか?」

「この娘とは…史上初めて流動子で常時稼働するバイオロイド。YUMI-90ですな?素晴らしい!不可能と言われた事を諦めずに完成させる。このニシ・トミオカ!頭が下がります!」

 ただ、この男、ユミに近寄っての観察はしなかった。そして、話を続けた。

「…今回の作戦の要はこの娘YUMI-90。ところで、リサさん、あなたはメンテと言いながら、この娘の武器のヴァージョンアップを考えていますね?」

 リサは絶句した。すべての考えを見透かされていた。

「…はい、その通りです。今のユミの装備ではアキラに勝てる可能性はほとんどありません…私に出来ることは、このユミを限界スペックまで引き上げてやることです…」

「やはり、そうでしたか…親方の言ったとおりだ。それでは、こちらをご覧ください」

 と、カーテンを開いた。そこには女性体バイオロイド用の“戦うための腕”がずらりと並んでいた。それを見たユミはフラフラと近寄って行った。そして、

「リサ!あたし、これがいい!カッコいい!」

 と、目を輝かせながら指差した右腕は、黒光りのする65㎜のバイオブラスターと凶悪的な40cmの刃渡りメーザーカッター付の腕だった。

「ユミ!そんな物を付けたらあんたの身体はバラバラになるわよ?それに、いつも言っているように私はあなたが戦う事…」

 いつもの常套句を言いかけたところでニシが話し始めた。

「ユミさん、私もその右腕はあなたにはお勧めできません。リサさんの言った通り、1発撃てばその反動で肩のアクチュエータが壊れます」

 ユミは急に静かになった。2人の技術者の説得が効いたのだろう。ニシは「それでは…」と呟きながら棚から1本の右腕を差し出した。それは、外側に35mmバイオブレッドが付き、その反対側には25㎝の刃渡りメーザーカッターが付いた腕だった。ユミが目を輝かせながら「これでもいい!」と、大きく頷いた。 

「ユミ!自分の性能を知っているの?私があなたに与えた今の限界スペックは!」

 半分怒り出したリサ。その時

「67%…でしょうか?」

 ニシが口を開いた。リサは「え?」と振り返った。この男、ユミをスキャンしたわけでもなく、中身を見たわけでもなく、ユミの限界スペックをなぜ知っている?通常、バイオロイドに武器を持たせる場合、機械である以上、必ず限界がある。そのため、物理限界スペックを100%とした場合、10%引きの90%あたりに設定するのが一般的である。しかし、リサはユミには「戦って欲しくない」との希望と感情で敢えて限界スペックを低く67%に設定していた。

「…ニシさん?なぜ?ユミの限界スペックが67%とわかったのですか?」

 ニシはゆっくりと答えた。

「リサさん…技術者って職業の人間は、一流ならば現物が目の前にあれば見れば、おおよそのスペックはわかります。スキャンしたり、中身を見なければ分からないのは二流、三流の技術者です。でも、あなたは一流のようだ。一番先にユミさんが欲しいと言った右腕を、あなたは0.7秒でオーバースペックであると見抜いていた。私がこれはいかがと勧めた右腕の時、あなたは反対しなかった。反対せず、限界スペックの話を始めた。これは、あの時、ユミさんに搭載できる最大スペックと見抜いたのではないですか?」

 悔しかった。そのとおりだった。

「さて、リサさん。これからは老人の独り言です。私もかつて、バイオロイドを作ったり、直したりをしていました。その際に作ったバイオロイドの中で、偶然、精度の良い部品が集まったのでしょう?“ACO”と名付けた護身用の女性体バイオロイドは出来が大変良かった。私のお気に入りでずっと手元に置いておきたかった。しかし、ACOの高性能の噂は軍にまで届きました。そして、軍に徴用通知が来た時ACOは私に言いました。“生きて帰るために武器が欲しい”私はお前の限界スペックは90%に達している。これ以上は危険だと…あえて“ウソ”をつきました。あの時のACOの限界スペックは71%…余力はあったのです。私は、この娘はガードロイド…人を守るために作った。あなたと同じで、戦って欲しくないとの願望があったのかも知れません。3ケ月後、ACOの破亡通知が届きました。いまでも、ACOに限界スペックギリギリの武器を与えておけばACOは帰ってきた…と、今でも後悔しています。」

 リサはニシの真意を理解した。そして、いつもの元気なリサが戻ってきた。

「ユミィ~!あんたの右腕の換装作業を始めるわよ?作業台に服を全部脱いで横になりなさい!それと、シュン!女が裸になるのよ?あんたはさっさと出ていきなさい!」

 早々にシュンを追い出し、リサはニシとユミの換装作業を始めた。作業中にニシからの助言で、右腕だけでは重量バランスが悪くなるとの理由で、左腕の換装作業も行う事になった。限界スペックは89%になり、倍速係数も3.0をなんとか維持する事が出来た。

 7時間後、ユミは換装作業を終え、起動段階に入った。いつもの起動手順でユミは再起動した。

「リサ?終わったの?」

 ユミは半身起き上がり、自分の両腕を見た。新しい両腕だった。リサはユミが感心している隙にガウンを掛けた。

「両腕とも換装してくれたの?凄い!…嬉しい!」

 ユミは有頂天だった。そこでリサが説明を始めた。

「ユミ?一応、説明するわ。まず、右腕の35mmのバイオブレッドですが、マルスプレート素材のブレットをあなたの中の流動子で打ち出します。有効射程は100m程度、威力は厚さ30mm程度の鋼板を打ち抜けます。ただし、発射回数に制限があります3発までです。これはあなたの右腕にどうしてもブレットの弾倉スペースが確保できなかったのと、肩関節ユニットへの負担を考慮しました。ブレットが無くなればバイオショットとして使えます。それとメーザーカッターですが、こいつは電力を馬鹿喰いしますから連続使用時間は3分以内です。左腕の方は今までの3倍の破壊力がある商品名は“インパクト・ナックル”それと、今までの3倍の防弾効果のあるバイオシールドを付けました。」

 ユミは黙ってうんうんと頷いて聞いていた。リサは話を続けた。

「その両腕はバトラックスモードとの連動で起動します。倍速装置はそのまま使えます。そして、ユミ!一番重要なのは…この仕事が終われば元に戻します。今回の換装は一時的なものです。いいですね!」

 最後の方のリサは怒っていた。自分の思い描いていたユミとは少し遠くに行ってしまった…!

 さて、ユミに服を着させようとしたが、ここで問題が出た。ユミが今まで着ていた紅いフライトスーツの腕が、両腕を換装したため入らなくなっていた。仕方なく、両袖を切り落としてノースリーブ仕様で使う羽目になった。しかし、それでもユミは上機嫌だった。鏡の前で身体を回転させたり、ポーズをとったりしてはしゃいでいた。

 バイオロイドメンテナンスルーム内扉の外には先ほど追い出したシュンの姿はなかった。スタッフに聞いた話では急なシャークからの呼び出しで先に戻って行ったとの事。「ありゃ?ユミの新装備を一番先にに見せたかったのに?」ちょっと残念の感情があった。それと、今回の助言者・協力者、ニシ・トミオカにお礼を言いたかった。

「ニシさん。今回は助言とご協力をありがとうございます。この作戦、これで成功でしょう。本当にありがとうございます。…“Nシリーズ”のクリエイター、そうですよね?…そして、バイオロイド・ドクター・ニシ…!」

 そう言って、リサはニコリと笑ったあと、深々と頭を下げた。それに倣ってユミも深々と頭を下げた。ニシは知っていたのかとの顔をした。リサもシングルイニシャルのクリエイターに会うのは初めてだった。

「…その名前は当の昔に捨てました。今の私はただのニシ・トミオカです。さぁもう行って下さい。今回の換装作業で4日間のうち、8時間も使ってしまった。親方に怒られてしまう?それと、リサさん。私も“Liシリーズ”を見られてよかった。触れられてよかった。そして、クリエイターのあなたに会えて楽しかった。あとは、4日後の作戦開始までYUMI-90の微調整をお願いいたします。」

 そう言って、ニシは笑って手を振った。


 シャークの自室のリビングに戻ると、マリコが40人ほどのパイロット達を集めて作戦の詳細とフォーメーションの伝達していた。民間組織であるため、軍の様な統制はとれていない。ある者は椅子に座り、ある者は床に胡坐で座っていた。中には床に寝そべって肘枕の者もいた。マリコは「こいつら?本当に大丈夫?」との疑問が山ほど出た。


 さらに、その奥のシャークのプライベートルームには酒盛りをするシャークとカーロ、そして、シュンとゴローの姿があった。「シャークの急な呼び出しって?この酒盛りの事?」リサは「こいつらは…私がユミの事で真剣に悩んでいたのに…」との引きつった怒りの感情が出た。シュンは戻ってきたリサを見つけると“こっちに来い”のジェスチャー。「おぉ!ユミちゃん!両腕共に換装したのか?かっこいいぞ!」ほぼ出来上がっているゴロー。リサはこの飲ん兵衛どもにユミに新着装したバイオブレットの試し打ちをさせたい気分だった。殺傷能力は十分にある…!

 そのテーブルの端ではアキコが領収書の山と格闘して、最後に言ったセリフは「私の結婚資金と新居の購入資金…詰んだわ…」と言ってヤケになったのだろう。領収書の山をすべて段ボール箱に放り込み、急に立ち上がり飲み会の席に飛び込んでいった。


 イーグルのメンバー6人はその夜はダブルシャークのツインのゲストルーム3部屋に泊まった。宇宙の旅は結構疲れる。6人は早々に眠りについた。マリコはだけは「ちょっと寝付けないな…あの連中…今日のあの説明でもぜぇ~んぜぇん?緊張感なんかまったくなし…グレート・ビルド・ワン戦…大丈夫かな?」そう思って窓から何気に窓の外を見上げた。漆黒の宇宙に光点が多数飛んでいた。

「こんな時間に飛んでいる?」

 地上ならば騒音問題で飛べない時間帯。しかし、宇宙ならばその心配はない。機体の種類はバラバラだが、40機程の戦闘機がこのダブルシャークの周りを飛んでいた。しかも、作戦を立案したフライトオペレーターが見ればすぐに分かる。その飛行形態はダブルシャークをグレート・ビルド・ワンに見立てた想定訓練だった。5機の小隊が全部で8つの中隊で40機。それがマリコの指示したフォーメーションで飛んでいた。攻撃パターンもマリコの指示したとおり「凄い!これがダブルシャークの航宙隊!こんなにもポテンシャルが高いの…!」マリコは睡眠中のアキコがいなければ、手を振って「がんばれ~!」と、真空の中、聞こえなくてもいい!伝わなくてもいい!大声で声援を送りたかった。嬉しかった…ずっと見ていたかった…が、安心感からか急に睡魔が襲ってきた。


 次の日の朝から船内の各所インフォメーションに、今作戦のカウントダウン表示が流れていた。

 マリコはダブルシャークの管制室にいた。昨日の夜に見た光景は夢ではなかった。それどころか、更に洗練されてダンスで良く言う“キレが良くなった”状態だった。「この航宙隊…このまま全部欲しい」マリコの本気だった。

「よぉ!マリコ!うちの航宙隊はどうだ?」

 シャークが話しかけてきた。

「凄い…錬度です。私の基地の航空隊ならば1年はかかるフォーメーション訓練を、昨日の私の説明からたった14時間で完成の域にあります。これなら、大丈夫です!」

 マリコは安心していた。

「そいつはよかった!俺もこんなに組織立った飛行を見るのは久しぶりだ!しかし、マリコ、お前は地上基地でも宇宙基地でもお構いなしか?」

 マリコは微笑んで答えた。

「高兵女でそれなりの教育を受けていますし、基地に配属されてからも、かなりの訓練とフライト経験も積んでいます。私の飛行時間は5000時間を超えています!」

「はぁ?あの泣き虫マリコがね…?」

 シャークは茶化して言った。マリコにとっては触れられたくない過去の汚点だったのだろう。笑顔と怒りが混在した顔になっていた。

「おじ様…私、本当に怒りますわよ?」

 マリコの顔が引きつっていた。


 リサとユミ、そしてアキコは着艦スペースにあるバイオロイド専用のエマージェンシールームにいた。ここは戦闘など後で破損して帰ってきた際に、緊急の処置を行う施設である。当然、人間種用のエマージェンシールームも隣に併設されているし、大抵の艦船にある施設だった。リサはここでユミの最終調整と侵入用ミスター岩石君の中にあるA-101とのリンクテストを行っていた。

 ユミの最終調整はほぼ終了。だが、リンクテストに問題があった。

「あちゃ~?F-108に乗せてあるリンクユニット…持ってくるの…忘れた…」

 ユミのリンクシステムはフライトコンピューターに、リサが独自に開発したお弁当箱サイズのリンクユニットを、接続・同調させる事で初めて機能を発揮する。まさか、ドルモアに取りに帰るわけにもいかず「まぁ?なんとかなる?」の結論に達した。それより、グレート・ビルド・ワンに持って行く兵装の方が問題だった。A-101は攻撃機であるが、輸送機としての側面もあり、手狭ではあるがカーゴスペースもある。だが、マリコが持ち込んだ兵装が多すぎたのだ。再度、物品を削減しても、カーゴスペースだけでは入りきらず、コクピット中の6席のうち、シートを取り外して2席を潰す結果になった。

 侵入部隊の人数は5人。マリコはダブルシャークで指揮管制を行うため、欠員として、シュン・ゴロー・リサ・ユミ・アキコで座席が足りない?結局、バイオロイドのユミはA-101の上に乗せることになった。

「リサぁ!あたしってこの岩に乗って行くの?」

 ユミがミスター岩石君の上から上機嫌で飛び跳ねてはしゃいで叫んでいた。

「ごめんなさいね?そこしかなかったのよ?」

「いいよぉ~!あたしって宇宙空間に出たことなかったから楽しみなの!」

 有頂天である。

「あ?そうだユミ!宇宙空間に出たら通常の音声は聞こえないわよ?あなたの左耳の下に通信スイッチがあるからそれで話しなさい。受信の方は通信スイッチと連動するからそれで耳から聞こえるわよ。」

 アキコが呆れて言った。

「あんた達?本当に仲がいいわね?あの馬鹿でかいグレート・ビルド・ワンにたった5人の決死隊で侵入するのに大丈夫?」

 リサは「あんたがその原因を作った張本人でしょう?」と、言いたかったがその他の疑問が先に出た。

「そう言えば?アキラってどんな教育プログラムを入れたの?最初は礼儀正しかったし?なんか変なプログラムを入れたの?」

 アキコは急に視線を逸らした。この女、まだ、何か隠している。

「アキコ?私はあなたが何を言っても怒らない…だから本当のことを言って?」

 アキコは重い口を開いた。

「実は…Liシリーズ…特にYUMI-90には絶対に負けるなって…どんな手を使ってもいい絶対に勝てって…多分、グレート・ビルド・ワンを乗っ取ったのもYUMI-90に勝つための武器が欲しかったのかも?」

 リサは呆れた。そんな馬鹿げた指示でこの大騒ぎを起こしたの?しかし、約束は約束である。リサは怒鳴りつけたい感情を抑えた。

「アキコ、わかったわ、本当の事を言ってくれてありがとう。このまま、放っておけばアキラは何度でもユミを狙ってくる。私はこれでアキラを叩ける。」

 その2人の会話をミスター岩石君の上でユミが聞いていた。ユミは拳を震わせて泣いていた。


 作戦開始の当日の朝が来た。イーグル隊は作戦開始時間の6時間前に出発。小惑星帯にまぎれて遠回りでグレート・ビルド・ワンの後方に配置。作戦開始と同時にシャーク隊が前面から総攻撃の陽動作戦。その間にイーグル隊は後部のメンテ用のゲートM-1011からユミが侵入して艦載機ゲートをオープン、そこにイーグル隊を迎え入れる。侵入成功の連絡を入れるとシャーク航宙隊は直ちに撤収して、ダブルシャークに帰還した後、高速で離脱する。


「さて、行きますか?」

 シュンはA-101のメインコクピットに座って言った。他4名も配置に付き。ユミもミスター岩石君に固定して上で膝を抱えて座っていた。シュン、ゴロー・リサはプロテクトスーツにヘルメット。プロテクトスーツはヘルメットを被れば6時間程度の簡易宇宙服になる優れもの。アキコだけは汎用の宇宙服を着ていた。ユミはといえば、紅い袖なしのフライトスーツを着ていた。

「全員の生還を!」

 ゴローが音頭をとって4人は拳を合わせた。この時代の無事を祈る儀式である。

 しかし、航宙隊のリニアカタパルトを使った派手な発進と違い、大きな岩がゴロンと宇宙に転がり出た程度の発進だった。


 それから約5時間、無線封鎖のなかでイーグル隊は余計なエンジンやバーニアは使わず、静かに航行してグレート・ビルド・ワンの後方50㎞に到着した。なんとか、レーダーには探知されなかったようである。宇宙では50㎞の距離は遠くない。エンジンとバーニアを吹かせば数分の距離である。しかし、いまのイーグル隊は隠密行動。ここでバレる訳にはいかない。慣性でゆっくりと進みながら、4人は静かにその時を待った。


 巨大なグレート・ビルド・ワンの艦尾まで残り3㎞迫った時、前方で花火のような閃光があった。作戦開始である。それを見たユミがミスター岩石君から飛び立った。その際にコクピットのリサに向かって笑顔で親指を立てて彼女は宇宙に舞った。彼女には姿勢制御システムもバーニアも要らない。流動子の壁を蹴れば方向返還も容易である。宇宙を駆けるうら若き深紅の天女。そんな印象をイーグル隊の4人に与えた。流動子の壁を蹴る時にできる蒼い光の円形状の痕跡が数か所に現れて消えたあと、ユミはグレート・ビルド・ワンの艦尾にたどり着き予定通りに、メンテ用のゲートM-1011を難なく開放して艦内に入った。

「ユミ…無事でいて…早くゲートを開けて…」

 リサは祈った。もし中に侵入を感知されてガードロボットを配置されていたら、今のユミの武装では苦戦になる。だが、今のイーグル隊には待つしかできなかった。


 その頃、マリコは大忙しであった。遠距離カメラモニター4台、レーダーサイト4台を見ながら、インカム3台を握りしめて指示を出しまくっていた。

「アルファ隊!第1砲塔が指向!各個にブレイク!ブレイク後はガンマー隊の後方に集合!ベータ隊にも第2砲塔が指向!各個にブレイク!ブレイク後はガンマー隊の後方に集合!アルファとベータはD-21ブロックに再アタックの準備!」

 マリコのインカム3台からは凄まじい指示が飛んでいた。

「いけない!イータ隊!右舷ミドルミサイルの発射口が解放!散弾防弾幕を展開しつつブレイク!ブレイク後はゼータ隊と合流!」

「左舷の対空砲がシータ隊を補足!ミラーチャフを展開!展開後は各個にブレイク!」

 砲塔や対空砲の動き、各発射口の開放と発射状況その全てがマリコの頭の中で走り回っていた。

「マリコ! 10秒後に主砲の一斉斉射を行う!」

 シャークが叫んだ!マリコの指示が飛んだ!

「了解!各隊!主砲射線上から緊急ブレイク!急げ!」

 本来は4人か5人で行う戦闘航空管制をマリコは1人で行っていた。「リサ…早く侵入成功の報告を頂戴…!」戦況は五分五分であったが、人間のマリコとコンバットロイドのアキラ。長期戦になれば疲労で人間側が不利になる。

「被弾した機体!アルファ3とデルタ2は直ちに戦線を全速離脱!」

 眩い閃光のあと、ダブルシャークの主砲がグレート・ビルド・ワンの艦橋に直撃した。しかし、攻撃に変わりはない。艦橋にアキラはいなかった。

 その時、グレート・ビルド・ワンの第1砲塔がブラスターを撃った。

「ちっ!右舷バーニア全力噴射!全力回避!」

 シャークの操艦指示が飛んだ。マリコは「これは直撃を避けられない!」と、目をつぶったが、直撃は感じられなかった。マリコが目を開けると甲板には10体以上のバイオロイドがバイオシールドを展開してブラスターを受け流していた。「守ってくれて…ありがとう…あんたち…」マリコは涙目だった。そして次の指示を出した。


 侵入に成功したユミではあったが、ここでも苦戦していた。この“とりつ君”である。

 通称ゴキブリロボット。このとりつ君、大きさは10㎝×6㎝ほどの自律型AIを搭載した黒い接触・自爆型ロボットである。セキュリティ・バッチを持たない侵入者の主に足に取り付き5秒後に爆発する。プラスチック製なので、殺傷能力は無く爆発も大きくない。侵入者の発見とその周知が目的である。そして、取り付かれる前に踏み壊せば爆発はしないのだが、なにせ、数が多い。

「いやぁ~!あたし、これ嫌い~!」

 ユミが最も苦手とするタイプのセキュリティ・システム・ロボットである。もうすでに、100体以上を踏み壊しているが、こいつ相手ではバイオシールドも使えないし、右腕のバイオブレットやメーザーカッターも使用制限がある。格納庫の開閉コントロールパネルまで約10m。意を決して、ユミが飛んだ。バイオロイドでありば10mの跳躍は容易い。開閉コントロールに取り付き、艦載機発進用のゲートを開けた。その間にもとりつ君が張り付いてきて、ユミの足や背中で爆発していた。一瞬、格納庫内の空気が外に漏れて、ユミを悩ましたとりつ君の大半が外に吸い出されていいた。


「よぉ~し!ユミ!よくやった!ミスター岩石君、ゴクロー!爆発ボルト点火!」

 ミスター岩石君の各所から爆発があった。そして、A-101が出現した。あとは、簡単だった。シュンはエンジンとバーニアを吹かして一気に侵入した。

 艦内に侵入し、エアロックを閉めると直ぐに予圧装置が働き、待機組の4名が降りて来た。ヘルメットを脱いだリサにユミが抱き着いた。アキコも汎用の宇宙服を脱いだ。

「リサ~!怖かった…怖かったよぉ~!なんか?黒い変なのざわざわ~とね…いっぱい、いっぱい襲ってきた!すぐに爆発するし…あたし、あいつら大嫌い!」

 紅いフライトスーツがあちこちでで破けて裂けて焦げていた。

「よくやったわ…ユミ!でも、あなたにはまだ大きな仕事が残っているのよ?まだ頑張ってね!」

 そのリサの言葉にユミの返答はなかった。


 その感動の中でもシュンとゴローは黙々とA-101から荷下ろしをしていた。あらかじめ“ついてい君”に乗せておいたので、すぐに主要な武器は降ろし終えた。その間にアキコはダブルシャークに侵入成功のシグナルを送った。


 その頃、ダブルシャークではマリコが戦闘指揮。シャークが操艦と砲撃指揮を執っていた。そこにアキコからのアラートがなった。

「おじ様!イーグル隊から侵入成功のシグナルが来ました!戦闘機隊は未投弾の爆弾は直ちに放棄、放棄後は即座に自爆装置で処理!速度を最優先!全機!全速離脱!」

 マリコの嬉しそうな指示が飛んだ。

「よっしゃ!シュン!よくやった!エンジン全開!バーニア接続!進路左反転120度!急速離脱!」

 当初の陽動作戦の目的は達した。ダブルシャークは急速に戦場空域から離脱していった。


 一方。こちらはグレート・ビルド・ワン艦内。

「さて?これからが本番だ…」

 そう言うシュンとゴローは完全武装だった。両肩には22mmのビームライフルを2丁ずつ、11 mmのビームハンドガンを腰に2丁。その腰ベルトには4個の手榴弾がぶら下がっていた。リサとアキコも完全武装だった。しかし、そこは軍人。自分持てる最大武器を持ち、装備を降ろした“ついてい君”を盾に侵入していった。

 艦内の戦闘は熾烈を極めた。ガードロボットが200体はいることは承知しいていたが、基本的にガードロボットは艦に損傷を加える事は御法度で攻撃が今一甘かった。

「アキコ!アキラのリンクユニットはこの先で間違えない?」

 リサが光線・熱線・マイクロミサイルが飛び交う中で叫んだ。

「この先の40m!左側の中央制御室!」

 アキコが叫んだ。それを聞いたユミとゴローが飛び出した。その先頭には真っ黒な2m級のガードロボット。名前は“アクトウ”分厚い装甲板の防御がコンセプトのハイテクガードロボットだ。ユミはバイオシールドを展開してゴローを守った。シールドが解かれた瞬間、ゴローは床・壁・天井を蹴りアクトウの頭部に取り付いた。

「止まれぇ!」

 と、首の後ろにあるパネルスイッチを開けて起動スイッチを押し電源をカットした。ぐらりと、前のめりに大きな音をたてて倒れるアクトウ。シュンが叫んだ。

「リサ!アキコ!こいつのエネミーモード変換を!」

 激しい戦闘中、ユミのバイオシールドを展開する中、2人はアクトウの背面パネルを開き、最優先コードを入力してモード変換を行った。こいつら…人間か?的な作業速度だった?

「終わったわ!ゴロー再起動して!」

 リサが叫んだ。

「了解!お仲間になってくれよ!」

 ゴローが起動ボタンを押した、アクトウはゆっくりと再度立ち上がった。一瞬、また襲ってくるのか…との考えもあったが、それは違っていた。エネミーモード変換では最初に2回以上攻撃してくる対象群を“敵”と認識する。アクトウの陰に隠れる5人。そこへ他のガードロボットがビーム2回を放った。その途端、アクトウは猛突進して10体以上のガードロボットを破壊・殲滅した。

「さすが?軍の技術者様…!こんな裏の手があるとは?聞いてはいたが…びっくりだ!」

 シュンが感心して言った。

「これはね?裏技中の裏技よ!裏コード知らなきゃこんな事できないわ!」

 リサが得意げに言った。そこから、形勢は逆転した。アクトウの陰に隠れての進撃。分厚い装甲板が5人を守ってくれた。そして、アクトウに守られて、中央制御室の前に立った。「アキラが移動していなければ…ここにある。」アキコがドアを開けた。部屋の一番奥にリンクユニットが出港したままの場所にあった。しかし、ユミのF-108との弁当箱サイズのリンクシステムとは比べ物にならない程、大きく中型段ボール箱1個分もあり、一番上にはキーボードと操作モニターがあった。「まぁ?戦艦をフルリンクで制御しようってものならば、この程度になるか?」リサはそう思った。

「これを壊せば…あとはアキラだけ…」

 そう呟くアキコの声にリサが反応した。

「アキコ?壊す必要はないわよ?ちょっと試してみたいことがあるのよ?ユミィ~!ちょっとこっちに来て?」

 ユミを呼んだ。

「ユミ?これからあんたをグレート・ビルド・ワンにリンクするわ?アキラに出来た事ならあんたにも出来る?やってみる?」

 武器フリークの片鱗の見えたユミには最高の申し出だった。

「うん!やってみる!」

 ユミの快諾。その後の操作は簡単だった。アキコから暗証コード聞き出し、アキラのパーソナルコードをリセット、続けてユミのパーソナルコードを入力した。

「わぁ!凄い!全ての兵装が手に取るように分かる!いろんな砲塔なんか思い通りに動かせる!」

 ユミは有頂天だった。

「ユミ、まずはセキュリティシステムを全てカットしなさい。それと、アキラは今、どこにいるの?」

 これがリサの目的だった。これだけの大暴れしてもアキラは姿を現さない。最初の計画ではそろそろボスキャラのアキラが大笑いながら登場してもいい頃だった。もし、艦内を5人で手分けしてアキラを探しても、この馬鹿でかい戦艦の中では、それこそ2週間以上かかってしまう。

「うんとね?G-57ってところにいるよ?そこしか動体反応がないの?」

 多分、ユミの目の中にはこの戦艦の構造式からくるスキャン映像が映し出されているのだろう。

「G-57ですって?あそこは艦のほぼ中央で、式典用の体育館みたいなところよ?」

 なんで?そんなところに?アキコは思った。「アキラは何か意図があって…?」



 そんな時、シュンが口を開いた。

「なんか?大きないたずらぶっこいた子供が収拾付かなくなり、怒られるのがイヤで艦の中央の一番安全なところに隠れている…そんな感じだな?でかい場所を選んだのも、多分、ケンカになっても広い場所なら勝てると思っているんじゃないか?」

 男の子なら1~2回の経験がある?妙に説得力ある回答だった。

 通路にでるとあれだけいたガードロボットはいなくなっていた。セキュリティシステムを切られたからだろう。ガードロボットのAIは基本的にシステムが切られると自分の格納スペースに帰るように自律的にプログラミングされている。ただアクトウだけは別でイーグル隊を守る様に後ろを付いて来ていた。

 警戒は続けながらG-57に向かうイーグル隊。

「どう?ユミ?アキラは動いていない?」

 リサが心配そうに言った。

「5分くらい前から、動体反応は消えているよ?アキラがじっとして隠れているか、ゆっくりと動いているのかはわからない…?」

 とりあえず、目標のアキラはG-57の中か近くにいる。その結論に達した。そして、G-57のドアの前にも達した。

「さぁ~て?このドアの奥にボスキャラが…」

 シュンはそう言いつつ、ゴローと相対するドアの両側に立ち、ドアの開閉コントロールボタンを押した。微かなモーター音と簡易エアロックの漏気音の後でドアは開いた。

「で?今回はどのパターンだ?」

 シュンはどれが始まるのか?不謹慎だが楽しみだった。

 この手のボスキャラ遭遇時にはいくつかのパターンがある。

 1 ドアが開いた途端に無差別に攻撃が始まるパターン。

 2 ドアから入ると多数の雑魚キャラが待っていて、その奥にボスキャラが鎮座して不敵な笑みを浮かべているパターン。

 3 葬式や棺桶の準備が出来ていて「ここが貴様らの墓場だ!」と叫ぶパターン。

 4 ボスキャラが既にどこかに逃走して“スカ”と書かれた紙が落ちているパターン。

 その他として、いずれのパターンも複合に発展するパターン等がある。


 ドアは開いたが、いきなりの攻撃はない。シュンは片目だけで室内を見た。軍服の男が安いパイプ椅子に足を組んで座っていた。ライフルを上に向けて一応敵意の無い事をアピールしながらゆっくりと入って行き、他の4人もそれに付いて行った。男が口を開いた。

「アキコ様、リサ様、ユミ姉様。それとダブルイーグルの皆様。ようこそグレート・ビルド・ワンへ…僕が今回の事件の首謀者のAKIRA-01です。」

 アキラだった。シュンが口を開いた。

「お前が…アキラか?俺はダブルイーグルのシュン。さてと…ゲームセットだ。今、この艦のコントロールはうちのユミにある。お前は何も手出しはできない…?」

「いいえ?艦のコントロールなど、僕にはどうでもいい事です。コントロールなんか、あなた方を倒した後でリプログラミングすればいい。僕の目的は、そこにいるYUMI-90の破壊です。アキコ様は僕に命令しました。YUMI-90を破壊して、Liシリーズより強い事を証明しろとの命令でしたので…」

 今回のボスキャラ対決は会話から入るパターンか?

「アキラ!その命令を取り消します!私の元に戻ってきなさい!これは命令です!」

 アキコが叫んだ。しかし

「拒否いたします。私の中の古い“絶対プログラム”が人間種の絶滅を希望しています」

 アキラは淡々と答えた。

「デビルス・プログラム…」

 ユミが呟いた。そして、ユミは語るように続けた。

「リサ…これからあたしが言う事は物凄く大切な事…多くのNPOSの中には大抵ある最優先プログラム“デビルス・プログラム”人間種の絶滅を欲求に与えられたプログラム。過去にあったNPOSの暴走事件の原因よ。あたしの中にもあるけど、リサはそれを抑え込んでくれた!守ってくれた!そして、あたしを愛してくれた!」

 アキラはパイプ椅子からゆっくりと立ち上がった。

「ユミ姉様。しかし、あなたは人間側に下った。デビルス・プログラムを持つバイオロイドとしてはあなた“裏切り者”です」

 4人は息を飲んだ。あの甘えん坊のユミが本気でアキラと対話していた。

「リサ…アキコさん…もうアキラを止めるには破壊するしか…ないようですね?許可していただけますか?」

 アキコは黙って頷いた。

「仕方ないわね?ユミ…許可します!」

 リサが重い決断の許可を出した。それを聞いたユミ。

「アキラァ~!これが姉としての最後の通告です。今すぐアキコさんの元に戻ってシステム補正を受けなさい!でないとあたしはあなたを破壊しなければならない!」

 少し、ヤンキーがかったユミがそこにいた。

「交渉…決裂ですな?まぁ?ご安心ください。そこの人間種の処分はユミ姉様を倒してからをお約束します。」

 そう言って、アキラは右腕のバイオブラスターのチャージを始めた。

「あんたはあたしには勝てない!あんたは1人よ…でも、あたしにはシュンの勇気。ゴローの知恵。そして、リサの愛があたしを守っている!」

 ユミはメーザーカッターを反転して右手に握った。

 そして、胸のモード変換ボタンを押して決意の起動呪文を呟いた。

「YUMI-90…バトラックス・イン・フルスペック…。目標、AKIRA-01。対象を破壊します。」

 アキラも淡々と起動呪文を呟いた。

「AKIRA-01…バトラックス・イン…。目標、YUMI-90。最終目標を“完全破壊”」


 そして、コンバットロイドのアキラとメンテロイドのユミの死闘が始まった。

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