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4 グレート・ビルド・ワン

 全長4000m、全幅1000m級の巨大宇宙戦艦“グレート・ビルド・ワン”かつては連合宇宙軍の主要旗艦として建造されたが、初戦投入予定の戦争が早期に終結してから早5年。ドルモアの遥か外側の周回軌道の小惑星ドック“ゼンバ”に91%完成したまま留め置かれていた。

 計画に参加した軍人たちは、皆、後悔をしていた。そして、その責任の押し付け合いに終始していた。その時に、大佐をしていた男“ガウス”だった。将軍たちはガウスに全ての責任を押し付ける代わりに少将へと昇格させた。上層部はガウス少将には“グレート・ビルド・ワン”を再就役させるか、低予算で処分するか、事故により消滅させるかの命令を出していた。それが出来なければ、“退官”させる。これが条件だった。つまり、ガウスは捨て駒。

 その時、グレート・ビルド・ワンの現役復帰と新たなシステムの導入を考える女性士官がガウス少将の前に現れた。アキコである。

 アキコはバイオロイドによるグレート・ビルド・ワンの完全制御が可能だと主張した。POSを搭載した戦艦などはもう珍しいものではなかったが、バイオロイドによる完全制御は夢のまた夢、戦艦の制御など出来る訳がない。これが通説だった。しかし、ある女性技術者が戦闘機F-108とバイオロイドの完全リンクに成功したとの報告が上がると、ガウスはアキコの案に飛びついた。


 そのグレート・ビルド・ワンの艦橋には2人の姿があった。アキコとアキラである。

「いよいよ?明日ね?」

 アキコはアキラに話しかけた。

「はい、アキコ様。明日の進宙式を終われば、私はこの戦艦のPOSです。存分に戦えます。見てください」

 そう言うと、アキラは右腕を前に伸ばして、右に振った。すると、一番先頭の砲塔が右旋回。左手を左に振ると今度は二番砲塔が左に旋回して、アキラの意のままに動いた。その時のアキラの目の中には各砲塔の情報とターゲットスコープ及びクロスゲージ、つまり、照準器が映し出されていた。

 それを見たアキコは“ふっ”と笑った。


「あれ?アキコからのメールだ?」リサがいつものようにイーグルベースに1番乗りで出勤して自分のタブレットを開くと、十数通のメールの中にアキコからのメールがあった。しかも今回は添付ファイル付き、何かと思えばアキラを搭載したグレート・ビルド・ワンの進宙式の招待状だった。場所は小惑星ドック“ゼンバ”での往復のシャトルと食事・お土産も出るという至れり尽くせりの内容だった。そして“ご出席・ご欠席”の返信の案内。「行ってみるか?」あとで、シュンとゴローには話せばいい。

 シュンとゴローは「行ってこい」の返答。ユミは「あたしはパス」の返答だった。意外だった。いつもはリサにべったりで3m以内か30分以上離れただけで大騒ぎするユミ。でも、首に縄を連れて行くわけにもいかず「まぁ今回は私だけでいいか?」とりあえず、“出席”で返信した。

 当日は軍の礼服でシラネ基地に向かった。今、所属しているイタド基地とは違い、リサはシラネ基地では部外者である。佐官クラスも多数出席も多いようで、最初はその他大勢の扱いだったが、印刷した招待状を見せてQRコードを確認するといきなり態度が急変、VIPの席に案内された。

 しかし、連絡シャトルの中は違っていた。乗客は全て、軍、民間を問わずに技術者の集団。ネームプレート見ても、名前しか知らない、または著作した本の裏表紙でしか知らない高名な技術者の集まりだった。女性はリサただ一人。そんな中、一人の男性技術者が声をかけてきた

「大変に失礼ですが…イタド基地のリサ・ラファエルさんでしょうか?」

「はい?そうですが?」

 この短い返答が失敗だった。途端に男たちが振り返った。そして、大騒ぎになった。

 リサのここ数週間の仕事。中でもYUMI-90を使ってのF-108の完全リンクの成功は、このドルモア中の技術者の注目の的だった。そのほか、バイオロイドの研究者もいて、リサが報告書にした“バイオロイドにおける流動子の出力とその制御”の報告書にサインを求めるおじさん連中もいた。物凄い数の質問が飛び交い、中には小惑星ドック“ゼンバ”に到着まで講義をしてくれないか?の要望まであった。“学ぶ事に寿命はあるが、定年はない”そういったポリシーを持った技術者達だった。

 そして、リサは今、ダブルイーグルにいる事を感謝した。もし、あのまま軍にいたら、各基地の講演会や発表会などに毎日振り回さされてしまっただろう?

 約6時間の大騒ぎのうちにシャトルは小惑星ドック“ゼンバ”に到着した。

 シャトルポートからゲートまではほとんど無重力だが、特に飛ぶような仕草は必要ない。ハンドバーと呼ばれるバーに掴まれば自動で目的地まで運んでくれる。ゼンバに入れば人工重力があり、普通に歩くことができた。

 ゲートに到着すると制服姿のアキコが出迎えてくれた。

「ようこそ、小惑星ドック“ゼンバ”とグレート・ビルド・ワンへ、リサ歓迎するわ。それとアキラこっちに来なさい。」

 アキコのうしろからアキラが出てきた。ほら、謝りなさいとアキコはアキラを前に押し出した。

「リサ様、先日の無礼は大変申し訳ありませんでした。今日はユミ様はご一緒ではないのですか?」

「今日、ユミは欠席です。ごめんなさいね…」

 リサはアキラの礼儀正しいのは好感が持てたが、なんか先日とは違う?


 進宙式とその後の就役記念パーティ会場はグレート・ビルド・ワンの前部の甲板で行われた。

 式典はいつものお決まり、お偉いさん達の長い祝辞の後で、センスの良い赤いドレスのシャンパンを持った女性が登壇し、ドラムロールが流れる中、演出用の砲台の尾栓部にシャンパンを詰めて、ロープを引き発射、綺麗な放物線を描いて艦首部分に着弾した。シャンパンが割れたと同時に軍楽隊の演奏が始まり、今まで点灯していなかったブリッジから艦首、そして艦尾までの全てのライトが点灯され、ライトアップが整った。そして、就役記念パーティが始まった。

 軽めのワインを飲みながら立食形式のパーティ。お酒やおつまみは給仕のバイオロイドが持ってきてくれる。しかし、リサにとっては苦痛でしかなかった。少佐とは言ってもここでは下っ端の一人、知らない人ばっかりだった。「2時間位したら早帰り用のシャトルが出る。それで帰ろう。」そう思っていた。

「いかが?リサ?楽しんでいる?」

 アキコが話しかけてきた。

「まぁね…それなりに楽しんでいます。」

 思い出したようにリサが話を続けた。

「そうだ?アキコ?アキラには十分注意してね。あなたのアキラと私のユミは元は同じNPOS。この間、ユミが言っていたの、ネットやパソコンの中には人間に恨みや怒りを持っているNPOS達がたくさんいるって…ユミも私の中にもいるかもしれないって…あの時のユミのマトリクスのファイルが真っ黒だったでしょ?普通のプログラムではファイルに色付けなんかしない。なにか?危険な感じがするの?」

 アキコは目を丸くした。アキコ自身もNPOSを面白半分にバイオロイドに組み込んだ事による暴走事件は知っていた。でも、それならば基本的な人格をインストールした時点で暴走が起きている。

「心配性な…リサ…!アキラは大丈夫よ!アキラにはしっかりとスレコンを組み込んであるから!」

 “スレコン”それはスレーブ・コントロール・プログラムの略。POSのウィルスやバグ・ハッキングによる暴走を押さえるプログラムである。大抵のバイオロイドには標準的にインストールされている。

 リサは「ならいいけど?アキコって昔っから、最後のツメが甘い時があるからな?」と、思っていると、先ほどのシャトルで一緒だった技術者のオジサン達がホワイトボードを引っ張りながらリサの元にやって来て「YUMI-90とF-108の完全リンクとバイオロイドにおける流動子の出力とその制御の講義をお願いしたい」との講義の要請。すでにホワイトボードの前にはどこから持ってきたのか、パイプ椅子が並べられていた。リサは「あ…早く帰ろうって野望は詰んだわ…!」と思いつつも、自分より年上の先輩技術者ばかり、断ろうにも断れない…リサはワイングラスの手持ちのワインを一気に飲み干し、ついでに給仕のバイオロイドにワインを一本注文した。飲まなきゃやってられない!半分ヤケの講義が始まった。


 約2時間の講義と質問、早帰り用シャトル便の準備ができたとのアナウンスで、講義は、リサの「明日、仕事がありますから…!」の言葉でお開きになった。その時、リサの内ポケットには軍・民の技術者達の大量の名刺の束…「つ…疲れた…」早帰り用シャトル便は、ほとんどの乗客は素面だった。この後、仕事があるか、明日の朝早くから仕事の人たち。そんな人たちの中でリサは一人爆睡していた。

 シラネ基地に到着してアテンダントに「お客様…到着です。」と起こされた。シラネ基地からはク・シハシ飛行場へのフライトバスが出ていて、何とか乗り込む事が出来た。「眠い…今日はイーグルベースのスタンバイルームに泊まろう…」リサの今の住まいはイーグルベースのある同じビルの3階、しかし、睡魔が3階まで上がる気力を奪っていった。誰もいないイーグルベースに到着。最後の気力を振り絞り、メイクを落として軍礼服を脱ぎ捨て、スタンバイルームのベッドに溶け込んでいった。


 朝が来た。昨日、唯一はずし忘れた腕時計が起床の時間を教えてくれた。目を開けると、見慣れたスタンバイルームの天井が安心感を与えた「何とか無事に帰ってこれたんだ?」ふと見ると、リサの横には誰かがいた。「え?だれ?」と、恐る恐る高機能毛布をめくると、最初にセピア色の髪が見えた。ユミだった。起動ではなくスリーブモードから目を覚ますユミ。

「おはよう…リサ…昨日、あたし寂しかった…夜中にリサがスタンバイルームに帰ってきたのがわかったから、寂しくて…一緒に寝たくて…忍び込んじゃった…ごめん…」

 リサはユミを抱きしめた。昨日一日、この娘は不安だったんだ。

「いいのよ?ユミ、寂しい思いさせてごめんなさいね。」

「ううん?いいよ?でもね、リサ、凄い発見があったの!リサと一緒に寝るとデフラグがすご~く進むの!だから、今、あたしの頭の中すっきり!」

 人間も熟睡すると朝が気持ちいいって事があるけど?それと同じ感覚なのかな?


 スタンバイルームでコンタクトスーツ着て、プロテクトスーツに着替えてイーグルベースに出勤。総移動距離7m。通勤時間30秒。事務所に行くと、信じられない人間がシュンとゴローと談笑していた。普段着の手を振るマリコだった。

「はぁ~い!リサ~!おはよう~!」

 疑問符が山ほど出たがマリコは言葉を続けた

「それが、ダブルマークのプロテクトスーツ?かっこいいわね!似合っているわよ?」

 リサはそんな事どうでもいい!憤りがあった。

「マリコ?あんた?なんでここにいるの?」

「この間、会った時に今度遊びに来てくださいってお誘い受けたの?今日はお休みだからだから、遊びに来ちゃった!でもね?手ぶらだと失礼かなってと思って、じゃん!“ぼんふれ”のケーキを進呈いたしま~す!」

 タカベ屋と双璧をなす有名店。リサは呆れていた。マリコの有言実行の性格は知っていたが、段々と磨きがかかってきた。そこに厚かましさと図々しさも加わった。そこにユミが蒼い服の受付嬢服で出てきた。すっとマリコは立ち上がり、ユミの所に駆け寄った。

「リサ、この娘がYUMI-90?あ、初めましてね?私はマリコ・レオネ。リサとは古い友人よ?よろしくね!軍の広報誌で見たけど、実物の方がかわいい!」

 ユミはアキコの時とは違い、この人は安全な人と思ったのだろうと思った。

「初めまして、マリコさん。あたしがYUMI-90です。“ユミ”とお呼びください。」

 ユミは握手を求めてきた。マリコは握手の手にもう方の手を重ねた。しかし、今日はあの甘えん坊のユミではなく、しっかりとした社会人の立ち振る舞いだった。「この娘、私といる時と違う?」リサはそう思った。

「う~ん!素敵!気に入った!リサ?いい娘じゃない!あんた、いい娘を作ったわね!どう?私に1か月位この娘貸さない?」

 と、称賛の嵐。そう言っている間に、ユミは自分の朝の茶坊主の仕事を始めた。


 朝のミーティングはお茶菓子もあった事もあって、この日は2時間にも及んだ。しかも、今日は急ぎの仕事や飛び込みの仕事もなく、暇な一日だった。それを目敏く察したマリコはシュンとゴローにダブルイーグルの機体が見たい!ハンガーへ連れてってとのお願い。マリコ自身もシュンのF-98 MK-Ⅱを見たのは、先日のヒナタ空港でのシュンが前下部のバーニアを吹かしての、クイックテイクオフで退散する時だけで、幻の名機をじっくり見たいとの希望があった。「いいなぁ?あれ…あのマリコの積極性…あたしあれ出来ないんだよな?」リサとしてはマリコが羨ましかった。

 結局、その日はマリコがハンガーに行って、見学だけではすまなかった。次のステップ「乗せて・飛ばせて・飛ばさせて」まで進み、最初はシュンが前席のパイロットシートでの操縦。後席のガンナーシートにマリコで飛んでいた。機内無線の傍受ではどうやらシュンは女性の機内での嬉しい悲鳴を聞くともっと見せてやる!と興奮するようである。マリコはそれを察知して、わざと大声の悲鳴を上げていた。最後にはマリコがガンナーシートから操縦していた。

 不機嫌なのはハンガー前で腕を組んで見上げているリサ。マリコとシュンの2人きりのフライトが面白くなかった。あの女との“淑女協定”は一体なんだったの?マリコなんか、コクピットの中で嘔吐物まみれになればいい。それとも、ユミと私とで、F-108で撃墜してやろうか?本気で思っていた。

 夕方が来て、その日は終わったかに思えた。イーグルベースに戻り、3時のお茶をしていた。マリコのF-98 MK-Ⅱでの初フライトが余程気に入ったのだろう?お茶をしている時もシュンとゴローとの飛行機談義は尽きなかった。「私にできた事がなぜあんた達は出来ないの?手の数、足の数、指の数は同じなのよ!」そう言って、マリコはいつも手持ちの航空隊を、ハラスメントまがいのこき下ろしているパイロット兼フライト・オペレーター。でも、今日のマリコは違っていた。シュンとゴローに紙飛行機でバーニアの使い方やフライトテクニックを必死に学んでいる。今、私の入る余地はない。フライト技術では、また差を付けられる。それがリサには悔しかった。

 そして、5時が来た。さすがのマリコも帰ろうとした時、イーグルベースのドアを拳でノックする音がした。ユミが「どうぞ?空いていますよ?」と答えると、女が血相を変えて入ってきた。アキコだった。余程の重大な事があったのだろう。汗と涙でメイクが崩れてひどいものだった。

「リサ!大変な事になった!」

 その後の言葉は息が切れて言葉にならない。

「アキコ?先ずは落ち着きなさい。はい、水でも飲んで落ち着いて!」

 そう言ってコップの水を渡したのはマリコだった。がぶ飲みするアキコ。

「マリコ?なんであなたがダブルイーグルにいるの?」

 15分ほどたち、アキコはやっと落ち着きを取り戻しつつあった。その間にリサがシュンとゴローにアキコの素性と交友関係を説明した。その上での、マリコがダブルイーグルにいる理由も説明した。


 30分後、アキコはやっと落ち着きをとりもどした。そして話し始めた。

「昨日の進宙式の後、来賓が全部帰ったあと、最後まで残っていたのは私とガウスとアキラだけだった。でも、私とガウスがグレート・ビルド・ワンを降りた時、アキラはその時を狙っていたのよ…急に全ての隔壁とエアロックを閉鎖して、エンジンをかけて勝手に出港していったの!」

 アキコは更に続けた。

「アキラの“暴走” よ。暴走して出港しただけならまだいい。グレート・ビルド・ワンは、今、ドルモアに向かっていて、その途中にある小惑星をもう2個と衛星1個、壊しちゃった!ガウスはどこか行っちゃうし…私、どうしていいかわからない!お願い!リサ!私を助けて!」

「アキコ?グレート・ビルド・ワンとアキラの構造式資料すべて見せなさい!」

 マジで真剣なリサだった。

 アキコは震える手でリサにタブレットを渡した。横から覗き込むマリコ。タブレットを高速で指スクロールするリサ。こいつ?本当に読んでいるのか?的なスピードだった。

 突然、リサの指が止まった。

「アキコ!あんたアキラにスレコンを入れたって言ったわよね?何よこれ?バージョンが2バージョンも前じゃないの?しかも、シングルプロテクト!こんなのうちのユミでも簡単に突破するわよ?」

 アキコは泣きながら言った。

「汎用タイプのバイオロイドならこれで十分だと思ったのよ!」

 リサは怒り出した。

「あんたねぇ?アキラは元はNPOSよ!NPOSが相手だと最新バージョンでも危ないのよ?私のユミには2重3重のスレコンをかけているの!」

 マリコが言った。

「で?グレート・ビルド・ワンの今の兵装は?」

 アキコは震えながら言った。

「…ミサイル積載がロング・ミドル・マイクロ…全部で1000発、流動子砲ブラスタータイプの46㎝が6門。23㎝が8門。対空流動機関砲のブレットタイプが24基。エネルギーチャージは終了している。艦載機はまだ載せてない…」

 今度はマリコが怒り出した。

「あんたねぇ?それってフル装備って言うのよ!」

「お願い!リサ!私を助けて!」

 リサはシュンに話かけた。

「シュン…ダブルイーグルで何とかなる?」

 シュンは10秒ほど考えて話し始めた。

「まず…ダブルイーグルの規模では絶対に無理だ。他のチームに依頼しての合同のオペレーションになる。となると莫大な金がかかる…軍はどうする気なんだ?」

 アキコは泣きながら話した。

「その事で会議中よ?でも、グレート・ビルド・ワンを叩くとなると、同クラスの戦艦が必要…それに、この戦争、数で押し叩くしかない…もう…私には無理…!」

 シュンが口を開いた。

「こんだけの大仕事…俺、ちょっとビッグママに聞いてみる?」

 そう言って、イーグルベースのパソコンの前に座った。依頼内容は旗艦クラスの宇宙戦艦の破壊か、内部にいる暴走したバイオロイドの破壊。難易度、特AAA+。決まったテンプレに入力した。

「言っておきます。ビッグママが無理だと言ったら俺達はこの仕事は受けられない。これだけは承知しておいてください。」

 シュンは念を押すように話した。アキコは黙って頷いた。

 数分後、ビッグママからの返答。モニター上の指示書を呼んでシュンは驚いた。

「依頼を受託する。暴走バイオロイドの破壊のみ受託。ダブルイーグルはダブルシャークとの共同オペレーションを推奨。成功報酬500万ボル。経費別。」

 意外だった、シュンとゴローも依頼を断ると思っていた。

「アキコさん、ビッグママは依頼を受けるそうです。成功報酬で500万ボル。経費別。いかがですか?」

「…わかりました。私の貯金をすべてあなた方に託します。お願いします。」

 ビッグママはグレート・ビルド・ワンを叩くことはダブルイーグルとダブルシャークでも不可能。しかし、乗っ取っているアキラだけの破壊は可能。暴走バイオロイドの処理・処分の相場は200万ボルに今回の依頼の難易度から算出したのだろう。

 言い終えた、その時。シュンの頭の中にあるプランが浮かんだ。

「ゴロー。すぐにシャークに連絡を取ってくれ。明日の夕方、レストラン“てんせいえん”で、打ち合わせを行う!久々のでかい仕事だ!」


 その後のマリコとアキコの行動は早かった。その日のうちに2人は上層部に相談して、不本意ながら、対グレート・ビルド・ワンのダブルマークとの合同オペレーションに個人として参加する旨を伝えた。軍上層部は反対する意見も理由もない。それどころか、極秘裏にグレート・ビルド・ワンの処分作戦が出来るならばと、2人を出張扱いとしてくれた。


 レストラン“てんせいえん”アカネダイ町では最大の宴会施設を持つ最大収容人数500人の施設だ。結婚式・葬式等の冠婚葬祭ならば何でもござれの複合施設。

 その日の夕方、てんせいえんにダブルマークのプロテクトスーツを着た老若男女が大挙して訪れた。ダブルシャークのご一行様だ。今回の作戦説明と新メンバーのリサとユミの紹介。それが今日はメインだった。とは言っても式典なんかはしない。勝手に来て勝手に飲むスタイルだった。

 シュンとゴロー、それにリサとユミ。それと今回の依頼主のアキコ。それになぜかマリコも加わって、奥のカウンターに座ってシュンとゴローはもう飲み始めていた。

「よぉ~!シュン久しぶりだな?なんかデカい仕事を掴んだみたいだな?」

 大男が話しかけてきた。身長2m。辛うじて残る銀髪。厳つい顔立ちで厚い胸板、左腕はサイボーグ化されていた。この男こそダブルシャークの親玉。その側近の男も話しかけてきた。

「シュン、ゴロー久しぶりだな?どうだ?シャークに戻ってくる気はないか?」

 カーロだった。身長150㎝の小男だが、稀代の戦略家であり、ダブルシャークのよく切れる懐刀と知恵袋。この男は会えば以前シュンとゴローがいたシャークに戻ってくるように話を始めるのが常だった。

「あぁ?シャーク、カーロ。ご足労感謝する。で?シャーク…何人連れてきた?」

「ダブルシャークの半分400人だ。高くつくぞ?」

 確かに、神をも恐れぬ単純計算でも400人規模で飲み食いされたら1人1万ボルとして400万ボル。成功報酬に迫る金額だ。

「とりあえず紹介しよう。うちの新しいメンバーだ。リサ・ラファエルとバイオロイドのYUMI-90だ。それと、今回の依頼者のアキコ・ヴァレンシアだ。」

 シュンが3人を紹介した。

「シュン?こりゃ?なかなかの別嬪さんと可愛いバイオロイドさんだな?どこでみつけて来た?それと、アキコ・ヴァレンシアさんか?よろしくな?必要経費はそっち持ちだな?」

 その経費の金額でアキコは絶句した。そして、顔が引きつった。

 シュンは話を続けた。

「まぁ?新メンバーいきさつは後で話すが、取り敢えず作戦を確認したい」

 シュンは作戦を伝えた。


「ふむ?この馬鹿でかいグレート・ビルド・ワンって船の前面で、俺達、ダブルシャークが派手に陽動作戦を行う。その隙にダブルイーグルが後方のメンテナンスゲートから侵入。そしてそのアキラってこの艦を牛耳っているバイオロイドを叩き壊す?これでいいのか?」

 シュンは頷いた。

「しかしな?シュン、お前も知ってのとおりダブルシャークの唯一の欠点がある。シャークには航空管制のスペシャリストがいない。これだけの大仕事となると…組織だった管制官が必要だ。それと、そのアキラってバイオロイドを叩けるだけのバイオロイドがダブルシャークにはいない。こっちの方はどうする?」

 シュンは答えた。

「シャーク…まず、対アキラのバイオロイドだが、おぉ~いリサ!」

 リサがユミを連れて来た。

「対アキラのバイオロイドですが、このメンテロイドのユミを使います」

 シャークは驚いた。

「最新型のコンバットロイドにメンテロイドをぶつけるのか?勝てるのか?」

 リサは説明を始めた。

「アキコからの資料ではアキラの兵装は終わっていません。武器は右手のバイオブラスターだけで、マイクロミサイルは装備されていません。倍速装置はついていますが、アキラの倍速係数は2.98ですが、私のユミは3.0を出しています。」

「おいおい?微差じゃないか?大丈夫か?」

「バイオロイドの世界では倍速係数0.02は致命的と言っても過言ではありません。ですから…私のユミが勝ちます」

「わかった!侵入するのはイーグルだ。そっちの方はイーグルのユミに任せよう」

 確かに侵入するのはダブルイーグルだ。これ以上無理は言えない。シュンが続けた。

「航空管制の方の話だが、こっちに航空管制のスペシャリストの伝手がある。おぉ~い!マリコ!」

 シュンはマリコを呼んだ。シャークは「マリコ?」と思った。

「シャーク、マリコ・レオネだ。連合宇宙軍に所属している有能なフライト・オペレーターだ。今回の作戦に協力してくれるそうだ」

 シュンの傍らにマリコが立った。マリコを見たシャークは小声で「お…お前は…」と言いかけた。その時、マリコは首を小さく横に2回振った。シャークの小声、マリコの小さな動作には誰も気が付かなかった。そしてシャークは宴会場の部下に向かって大声で叫んだ。

「おぉ~い!野郎ども!この姉ちゃんが今回の作戦の航空管制のスペシャリストだ!俺がたった今、ここでスカウトした!この姉ちゃん指示に従え!わかったか!」

 マリコがシャークの横に並び立ち深々と頭を下げると、シャークのメンバー400人は美人のマリコを見て大歓声と大喜びであった。そして、マリコの横を通る時に小声で「屋上へ…」と言ってすれ違った。


 作戦会議と言うイベントの最中。リサとユミは外の廊下にいた。壁に寄りかかって腕を組んでいるユミが口を開いた。

「…リサ…さっきの倍速係数の話…ウソなんでしょ?」

 あの、いつもの甘えん坊ではないユミのしっかりとした口調。リサも真剣な表情で話し始めた。

「バレちゃったか…やっぱりあなたは私の最高傑作よ…倍速係数の差0.02は確かに微差ではない。しかも、あなたの持っているバイオショットではアキラに致命傷を与えられない。でもアキラのバイオブラスターに直撃されたら…あなたは終りよ…でもね…今、アキラに少しでも勝てる可能性を持ったバイオロイドは…あなたしかいないの…あなたを頼るしかないの…こんな情けないクリエイターでごめんなさい…」

 リサは自分のふがいなさに泣いた。ユミはいつもと逆にリサを抱き寄せた。

「リサに信頼されたこの身体があれば十分!リサ…私は必ずアキラに勝って帰ってくる!」

「ユミ…腕1本、足1本…失ってもいい…必ず生きて帰ってきなさい…これは命令です!」 

 リサはユミに非情な命令を出した。そして泣いた。


 てんせいえんの屋上でシャークはフェンスに寄りかかり、スマホの中の古い写真を見て待っていた。写真には若い頃のシャークとそれに抱き上げられる少女。そこへ、マリコが現れた。

「おじ様…お久しぶりです」

 マリコは丁寧に頭を下げた。

「驚いたぞ?マリコ…まさか、お前が来るなんて…あの泣き虫マリコがな…こんないい女になるとはびっくりだ…!」

「おじ様、女の恥ずかしい過去を暴く事は、それだけでハラスメントになりますわよ?お気を付けください。」

「まったく…口も達者になりやがって…ところで、シオラの親父さん…元気か?」

「はい。今も二人で宇宙を飛び回っています。」

「まったく?会社も大きくなったんだから、部下に任せて悠々自適に楽隠居すればいいのに…」

「おじ様、それこそ、父と母は死んでしまいます。2人とも、死ぬときは宇宙で、そして仕事中と心に決めています。」

「なら、この仕事が終わったらシオラの親父さんに伝えておいてくれ?シャークが一杯やりましょう…とな?」

「承知しました。近日中に必ず父と母に伝えます。喜ぶと思います」

「さて、主賓がいないと場が盛り上がらないから…俺は戻るな?」

 会場にもどるシャークにマリコは再度、丁寧に頭を下げた。


 翌日の朝、6人の姿はク・シハシの飛行場にあった。時計を見ながら時間を気にしているシュン。そこへ、蒼い流動子の波に乗る中、全長60mクラスの機体が着陸してきた。

「シュン?ダブルイーグルって…こんなの持っていたの?」

 リサとマリコが驚いて言った。外宇宙追跡用の宇宙船“スペース・イーグル”だった。ただ、こいつはク・シハシ飛行場に置いておくと駐機料金で経費がかさんでしまうので、普段はドルモアの衛星軌道を周回している。必要になった時は積載のAIに連絡を入れればこのク・シハシ飛行場に降りてくる。

「外宇宙追跡と宇宙での仕事用だ。俺も乗るのは半年ぶりぐらいだ。」

 そう言うと、コントロールエリアの下あたりに付いているスイッチボックスを開けて、中のスイッチを押した。すると、8人分のエントリーシートが微かなモーター音と共に下りて来た。このスペース・イーグルの搭乗口は下からである。8人はエントリーシートに座り、右の手摺に付いているエントリースイッチを押すと、シートが上がり始め、中規模の宇宙船スペース・イーグルのコントロールエリアに到着した。半分埋没したシートの周りには各種メーターやスイッチ類があり、その横には通路が設置されていて、各シート間の移動が可能だった。技術者のリサは直ぐにわかった。この機体は大量生産の機体じゃない。多分、フルのオーダービルドの船だ。しかし、未知の宇宙を何年も旅する船ではない。せいぜい最長で1~2か月のショートレンジの恒星間航行の船。

「シュン…この船…凄い…!ねぇ?シュン?中見てもいいかな?」

 シュンとゴローは親指を立ててのジェスチャー。そして。

「どうぞ!よぉ~く見てください!明後日辺りからは、当分ここで暮らすことになる?」

 そう言って4人を送り出した。

 興味津々のリサとマリコ。半分埋没したエントリーシートから横の幅50㎝程のコントロールエリアを一周する通路に上り、リサ、マリコ、アキコ、そしてユミは内装と装備を見て回った。まるで新築住宅の内部博覧会。その頃、シュンとゴローは勝手に黙々と点検作業を始めていた。

 コントロールエリアの後ろには居住スペース。リサが入って確かめてみた。

「ふぅ~ん?イーグルベースのスタンバイルームより、確かに狭いけど、着替えて寝る分には支障はないわね。部屋数は8つか?プライバシーは守られている…十分ね。」

 リサは居住スペースを抜けて、リビングスペースに行くと。しっかりとマリコとユミが探索中だった。

「リサ!ここってかなり住環境良さそう?ミニキッチンもあるし、リビングテーブルは床面に固定されている。椅子も前後にスライドできて、固定されている。あと、ここは何かな?」

 ユミがリビングの横の扉を開けた。

「あ…?あたしには関係ないかな?ここって、トイレとシャワールームだ?」

 アキコの方はリビングスペースの下にある、比較的大きな何もない空間が気になっていた。

「リサ?ここって何かな?」

 リサが覗き込んだ。

「荷物の輸送で使うカーゴスペースじゃないかな?ダブルイーグルの普段の仕事って、高速での輸送が多いのよ?多分、星間の輸送の仕事で使うスペースよ?」

 意外だった。リサの話では派手な戦闘の仕事よりも地道な運送屋の方が実入りが多いそうである

 内部博覧会を終えた4人がコントロールエリアに戻ってきた。

 その日は結局、シュンとゴローは丸一日機体の点検整備に終始していた。


 翌日からは買い出しだった。食料品や医薬品、生活雑貨など数日の宇宙生活に必要な物を買い出しに奔走していた。前回はシュンとゴローが2日かけて買いだしたが、それでも多数の欠品があった。しかし、今回は違った。強力な女手があった。買い物は女のテリトリー。買い物に行けばどこの何がるかを覚えているのが女の才能であり、習性。それに、“スタンバイのマリコ”と呼ばれる才能の女がいた。ただし、次第に溜まっていく領収書の山を見て、アキコだけは顔が引きつっていった。

 シュンとゴローは彼女たちのおかげで、終日、機体の点検整備に時間を費やすことができた。次第に埋まっていくカーゴスペース。最後に、F-98 MK-Ⅱを機体の後部中央に乗せて固定。準備は整いつつあった。


「さて…行きますか!」

 シュンはコントロールエリアの先頭のメインコクピットに座って、流動子エンジンをフルパワーで点火した。宇宙への出港だった。蒼い流動子の光の波が機体全体を覆い、スペース・イーグルは離陸した。しかし、連日の激務で起きているのは紅いフライトスーツを着たユミだけで、その他の4人はエントリーシートで寝入っていた。上空1万mで水平飛行。次の目標のバーチカルFスポットに向かった。“バーチカルFスポット”それは宇宙に行くには必須。大抵の星にも10個や20個が自然にあるもので、人間の目には見えないが、恒常的に流動子をほぼ垂直かつ多量に噴出している場所の事を言う。ここでマルスプレートを拡げれば、自然に推進力を得られて宇宙に行ける場所である。

 あと少しで到着。その頃になってリサが起きてきた。

「シュン?そろそろスポット?」

 目をこすりながらの寝ぼけ顔のリサ

「あと、2分ほどだ。そろそろみんなを起こしてくれ?」

 リサとユミはマリコとアキコ、ゴローを起こした。

「ねぇ?あたし、スポットって初めてなの!それに、今ね!あたしのジェネレータはフル稼働!気持ちいい!」

 ユミは一人、ハイテンションではしゃいでいた。

 そう言っているうちにバーチカルFスポットが近づいてきた。人間の目には見えないがセンサーのモニターが正面に流動子を噴出している柱がある事を教えてくれた。

 バーチカルFスポットに突入と同時に機体全体に揚力が発生した。このままでは機体が折れてしまう。シュンは前下部と後上部のバーニアを一気に吹かした。機体は垂直になったところで。

「マルスプレート!全開!」

 機体の翼の中に収納しているマルスプレートを全開して更に強力な推力をえて、スペース・イーグルは宇宙へ飛び立っていった。

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