2 MARICO
その日、シュンの姿は昨日までアクロバット飛行の大会が行われていたヒナタ空港にあった。
ヒナタ空港、半軍半民の中規模空港で航空管制は軍のオペレータが行っている。1日の離発着数は50本程度、乗降客も約1万人。忙しくもなく暇でもない、そんな地方空港だった。それでも。シュンたちダブルイーグルが使っているク・シハシの民間飛行場よりは大規模な空港。それなりに活気もある。
そんな空港のハンガー前でシュンは待ち合わせをしていた。
「よぉ~!?シュン!久しぶりだな?」
そう、声をかけてきたのは、身長は175㎝の連合宇宙軍の航空隊の服を着た男性だった。
「リチャ?久しぶりだな?元気だったか?」
二人は拳合わせで挨拶した。男の名は“リチャード・シ・モヤ”かつてはダブルシャークに属していてフライトテクニックではシュンに引けをとらない。ただ、同じ機体での空中戦ではいつもシュンの勝ちだった。良きライバルそんな関係だった。
「驚いたぞ?お前が急にダブルマークを辞めて、連合宇宙軍の航空隊に入隊したなんて?俺もゴローもびっくりだ!」
「まぁ?いろいろあってな?細かい事は聞いてくれるな?それと、見せたいものがある?ついてきてくれ」
そう言うとリチャードはシュンをハンガーに誘った。
「シュン?見てくれ!これが俺の最新鋭戦闘機だ!」
得意げに見せびらかすリチャード。子供が新しいおもちゃを見せるようだった。その機体は真っ赤なF-108だった。特に驚かないシュン
「なんだ?飛行機オタクのお前が驚かないのか?」
「あぁ?F-108いい機体だ。俺のF-98 MK-Ⅱの系統を受け継いでいるからな?」
リチャードが聞いてきた。
「シュン?ひょっとして、お前?この機体に乗ったことがあるのか?」
「実は仕事で10日ほど前に乗った。まぁ?その時は複座だったがな?」
リチャードはこいつに複座仕様があるのか?そんな疑問が出てきた。最新鋭戦闘機とは言っても大抵の技術者たちは次の事を考えている?でも、複座の話は聞いたことがない?
「まぁ?乗ってみてくれ?」
と、パイロットシートを降ろしてきた。F-108のエントリーは下からである。ただし、リサの貸与品で持ってきたF-108とは若干違っていた。どちらかが実戦・実用に向けての仕様変更があったのだろう?シュンはエントリーしてコクピットに座った。やはり?違う?POSを乗せる仕様ではない。つまり、この機体はもう古い、リサの持ってきた貸与品のF-108の方が新しい。POSを乗せている分、計器類は少なくなかった。こいつは人間のフルコントロール仕様の機体だ。
あまり、軍用機に民間人を乗せていると煩い奴がくる。シュンはエジェクタボタンを押して降りてきた。
「ところで?シュン?どうだ?こいつで飛んでみるか?」
唐突なお誘い。リチャードは話を続けた。
「実は今日の午後、この空港でお偉いさんと航空オタクを集めての模擬空中戦が予定されている。24対1の空中戦で、俺がその撃たれ放題・落とされ放題の目標機の役だ。しかも、俺のフライトの癖は見抜かられている。だが、そこにお前の様な野性味がある男が紛れ込んだらどうなるかな?」
シュンはニヤッと笑った。そういう悪だくみ大好き!
「いいのか?その24機、全機撃墜しちまうぞ?」
「あぁ?かまわん存分にやってくれ…決まりだな!」
2人は拳合わせた。そしてニヤッと笑った。
「はぁ~い!おはよう~!」
昼も1時を回っているのに、マリコ・レオネがここヒナタ空港の航空管制室に入ってきた。誰も咎めるものはいない、そう、彼女はここの最高責任者。今日はシフトの関係で昼からの勤務。このヒナタ空港は半軍半民の航空管制を仕切っている女性である。身長は169㎝位で、女性としては背の高い方だった。髪は肩まで茶色の襟足までの短めで、切れ長の目と高い鼻。男を誘うような唇。スラとした後姿、女子下士官の憧れの的だった。
そんな彼女のいる管制室の上空では既に模擬空中戦が始まっていた。赤く目立つ機体が目標機。
「リョウコ?今日のリチャードはどうかしら?何回位落とされたの?まったく?ダブルマークから来たって話で、少しは期待していたのに、結局は平凡なパイロットだったわね?」
「それが少佐…見てください…!」
マリコはそのスコアを見て驚いた。24機中すでに16機がショットダウンかロックオンで空域を離脱。しかも、目標機自体はノーショットダウンのノーロックオン、つまり無傷である。
「こんな事って?」
マリコはパニックだった。その間にも無線スキャナーからは他のパイロットたちの声が聞こえた「お偉いさんや航空オタクの前で、こんなに恥をかかされたのは初めてだ!大尉だろうが関係ない!絶対!落としてやる!」そんな感情的な声が響いていた。
その頃、シュンはF-108のコクピットの中で有頂天だった。久々の空中戦!楽しくて仕方なかった。
「連合宇宙軍の航空隊の皆様~!イエェ~イ!神業みせてやるよ!」
そう言うと操縦桿を手前に引き急上昇に転じた。あとに続く残り8機の訓練機。
「着いてこい!着いてこい!俺の反応速度に追いつけるかな?」高度2000まで上昇した時に機体の前下部と後上部のを同時に数秒吹かした。機体は一瞬にして下を向いた。宙返りをバーニアを使って最小半径で行った?
「バースト・ドロップ・ダウン!?」
ガン・カメラで追っている映像をみてマリコが叫んだ。こんな高等技術!できる人間がいるの?だが、目標機は錐揉みになっていた。マリコの指示が飛んだ。
「いけない!錐揉みになっている!地上班のレスキュースタッフ、メディカルスタッフに緊急要請!優先順位はパイロットの…」
そこまで指示したところで男性管制官から
「マリコ少佐!待ってくだい!目標機!錐揉みをコントロールしています!」
マリコがモニターを覗き込んだ。男性管制官は報告を続けた。モニター上では機体を後ろ向きにして降下しながらバーニアを使用、垂直、つまりバーチカルスポットを探していた。
「見てください!バーニアを上手く吹かして態勢を整えつつあります!この分だとあと3秒で!」
その頃、コクピットのシュン。絶好調だった
「いっくよぉ~!」
その言葉の後はエンジン全開だった。
「パワー・ホップ・アップ!?」
マリコがまた叫んだ。信じられない事が目の前で起きている?バーチカルスポットからのエンジン全開、そして急上昇。ほとんど神業だった。
「今のターン高度は!?」
マリコから指示が飛んだ。条件反射的に女性下士官が報告する。
「314m!下限ギリギリです!」
「なんてこと?」
マリコは唖然としていた。
「すごいですね?リチャード大尉!いつこんなに腕を上げたんですか?」
唖然とした表情からマリコが戻ってきた。
「あなたの目は節穴?これはリチャードのフライトなんかじゃない!全くの別人よ!」
マリコは「あ!」と思った。その直後に新たな指示が飛んだ。
「目標機のパイロットの人定確認!急いで!」
女性下士官は直ぐにバッチカードでの人定確認に入った。軍の航空機に乗る時は必ずバッチカードの登録が義務付けられていた。
モニターに出た表示は“Unknown”
「ウソでしょ?マリコ少佐!見てください!」
マリコはUnknownの表示を見て驚いた。
「どういう事?」
「はい!考えられる要素は3つです。1つはバッチを忘れてきたお間抜けさん。2つ目はまだ登録の済んでいない新兵。3つ目は元からバッチを持っていない人間です」
マリコから新たな指示が出た。
「コクピット内の映像をスクリーンに回して!」
しかし、映像は紙か何かでカメラを覆いパイロットは確認でいなかった。そう言っている間にも男性下士官から次の報告があがった。
「目標機!ターゲットに向かいます!」
マリコが呟いた。
「他の訓練機達はもう、目標機が落ちて演習が終わったと思っている!そこを突かれるわよ!」
さらに報告があがった。
「目標機、雲の中に入ります。あ!」
マリコが叫んだ!
「どうしたの?」
「目標機!レーダーサイトからロスト!」
「どういう事!?」
男性下士官は雲を指して
「考えられる要素はたった一つです!目標機はエンジンを切っています!多分?あの雲の中をグライダーのようにして飛んでいるんです!」
マリコは「F-108はただでさえステルス性が高い、レーダー波と熱源トレーサーのハイブリッドレーダーでなければ追尾は難しい?その熱源のエンジンを切られたとなると?」どうしする?反射的に答えと指示が出た。
「仕方ありません。ハイパー・ウエィーブ・レーダーの使用を許可します!レンジ幅は6度!探して!」
男性下士官は反応した。
「了解!ハイパーウエィーブレーダー!スイッチオン!」
レーダー画面には今まで映っていなかった映像が映し出された。
男性下士官は叫んだ
「いました!やはり雲の中です!こ、このコースは!雲の中から撃つつもりです!」
「レーダー波を使った形跡は!」
「ありません!レーダー波を使えば、こちらのレーダーにも反応があります!」
マリコは「なんてパイロットなの?レーダー波を使わず“勘”だけで撃とうって言うの?」私の考えを遥かに超えるパイロットが存在していたなんて?マリコは敗北感を感じた。
一方、シュンは「いるぞ?いるねぇ?」呪文のように唱えながら静かに雲の中を飛んでいた。そして、雲から出た途端、正面には4機が編隊を組んでいた。教本どおりであった。そこに、模擬のレーザー弾の一斉斉射。向こうのパイロットの無線からは「なんだ?どこから?撃たれた?目標機は落ちたんじゃなかったのか?」との敗北無線のあとで空域から去って行った。
その頃、航空管制室では女性下士官が報告した。
「目標機!4機ショットダウン!トータル20機をショットダウンまたは!ロックオン!残り4機です!」
航空管制室に男が入ってきたリチャードだった。開口一番
「どうだぁ~?目標機は?」
女性下士官が報告した
「現在のところ、24機中20機をショットダウンまたはロックオンしています。目標機は自体はノーショットダウンのノーロックオン。パーフェクトです」
リチャードは軽い口調で言った
「すっごいねぇ~!?大したもんだ」
それを聞いたマリコが悔しさを滲ませながら言った。
「リチャード…やはりあなたじゃなかったのね?」
「当たり前だ?あんな芸当?俺にできるか?」
ふざけた回答に、航空管制室の中に張り詰めた空気が発生した。マリコは殺気立っていた。マリコとリチャードの会話には誰も入れなかった。
「誰なの?」
「あぁ~ん」
「あのパイロットの名前を言いなさい。誰なの?」
「さぁ~な?」
このふざけた返事にマリコが切れた。癇癪筋の浮かんだ笑顔で問い詰めた。
「リチャード大尉、これは命令です。あのパイロットの名前を言いなさい。それともこのまま営倉に行きますか?」
マリコの笑顔にはまだ癇癪筋があった、
「おぉ?怖い怖い?マリコ?普段はいい女なのに?こういう時はおまえはイヤな女だな?」
「なんとでも言ってください?私が今一番欲しい情報はあのパイロットの名前です」
リチャードは観念した。そして答えた。
「シュンだ。シュン・ラコステフ」
それを聞いたマリコは
「シュン・ラコステフ…どこかで聞いた名前ね?」
「マリコ?昨日、この空港で何があった?」
「昨日はたしか?アクロバット飛行の大会…あの時の優勝パイロット!じゃぁ?」
リチャードはネタばらしの快感を得た。
「そう!あいつは民間人なんだ!」
マリコはパニックだった。そしてやっと次の言葉がでた。
「うそでしょ?民間人がこのフライトセンスを持っているって言うの?」
今度はリチャードが解説を始めた。
「マリコ?お前も飛行機を齧ったことのある人間ならわかるはずだ?飛行機ってのは、教科書通りにやればある程度までは上達する。ただ、それ以上は“どれだけ飛行機に愛されている”かで決まるんだ。そう、あの男は“飛行機に愛されている”人間なんだ」
マリコは悔しかった。「私もそれはイヤと言うほど知っているし、飛行機が好き、空を飛んでいる時、飛行機が“私をもっと思いっきり飛ばせて!私の限界はまだ、ずぅ~と先!”と、話かけてくる時があった。でも?私の腕では悔しいけど…無理…ごめんなさい」そんな経験があった。
マリコが感傷に浸っている時に、演習終了のアラートが鳴り女性下士官が報告した。
「演習終了。結果報告!目標機、全24機をショットダウンまたはロックオン。目標機自体はノーショットダウン&ノーロックオン。パーフェクト達成です」
航空管制室にはリチャードの乾いた拍手が響いた。
そんな中、マリコはポツリと呟いた。
「欲しいわ…」
マリコの背中にどす黒い何かが滲みだしていた。それを感じたリチャードが声を上げた。
「おい?マリコ?お前今何を考えている?」
マリコは将来の夢を唱え始めた。
「あぁ言った人間は、軍にいてこそ初めて…価値が出る。私がレッスンすれば1か月、いえ、1週間もあればエースパイロットを育てる事ができる。私と結婚でもすれば、夫はエースパイロット、妻はスーパー・フライト・オペレーター…2人で鳴らす勝利の鐘…」
リチャードの背中に悪寒が走った。
「やめておけ?かつて、わが軍の技術将校が必死にモーションを掛けたそうだが?ふられたとよ?」
マリコは素早く反応した。
「今、あなた、軍の技術将校っていったわよね?リサの事?」
「あぁ?確かそんな名前だ?なんだ?知り合いか?」
リチャードの話はもうマリコの耳には入らない。マリコは部下に指示をだした。優先順位がひっくり返ったのだ。
「アサコとキョウコ?悪いんだけど?私にお使いを頼まれてください?」
2人の女性の部下を呼び出し、指示した。
「アサコは私のスタンバイルームを知っているわね?」
「はい?私の部屋の隣ですから?」
マリコは頷き
「よろしい。はい、これが私のカードキー、クローゼット左から4番目持ってきて、他の物には触らないでね?それと、キョウコは1階のお花屋さんに行ってお花を買ってきてください。私が支払いと注文をしておきます。それと、目標機のパイロットには12番ハンガーの前で待機するように誘導してください。以上、行動開始!」
あのなぁ?といった表情でリチャードが話しかけた。
「あら?ごめんなさい?先に指示したかったの?リサはね高等兵務女学校の第556期の同期よ?」
そう言いながらも、タブレットでお花屋さんに注文を出していた
「お前?556期だったのか?近年で最も優秀で豊作な期だ!」
「そうなの?でも、学内の成績は私がいつも1番、彼女は2番だった。でも、卒業試験だけは、たった1個のスペルミスで、私はリサに敗けたの!“GTO”を取られたのよ?」
GTOとは(グレートトップワン)の事で学内成績が最もよかった人間に与えられる称号だった。マリコは話を続けた。
「それでも、私はリサが好き。今は専門も配置も違うけど?…だから、今でも親友であり、ライバルよ?でも?そのリサがふられた?…ふふふ?その、シュンと言う男。軍の諜報部でも調査部でも何でもいい?あらゆる手段を使ってでも絡めとってあげるわ…!あぁ?楽しみ…!」
言葉の最後の方は再度、どす黒い何かが滲みだしていた。
「アサコ?そっちの方はどう?」
キョウコからの電話だった。アサコが答えた。
「私の方は、今?お洋服を持って管制室に行くところ?ねぇ聞いて?これって真っ白なパーティドレスよ?そっちはどう?」
「こっちもお花を受け取って管制室に戻るところ?すっごい大きな花束だけど?この花の花言葉は“感謝・求愛”?」
キョウコがアサコに聞いた
「ねぇ?マリコさん?プロポーズでもする気かしら?」
この時代。女性から男性へのプロポーズも珍しくなかった。
アサコは否定した。
「そんな馬鹿な?誰にするのよ?今日の流れではあの目標機のパイロット?まさか?会った事も顔も見たことのない男にプロポーズする?それに、既婚だったらどうする気?」
キョウコの意見はこうだった。
「でも?マリコさんいつも言っているじゃない?“男を選ぶ時は3高なんかを基準にしちゃダメ!男の未来の才能を見るのよ”って言ってるわよ?」
2人はちょうど管制室の前で落ち合った。管制室にはいるとマリコが
「2人ともご苦労様!わたしはちょっとパウダールームに消えますので、こちらをよろしくね?」
そう言うと、2人の荷物を受取り、パウダールームに消えていった。
シュンの方は12番ハンガーの前のF-108のコクピットにいた。無線で指示されたから仕方ない?まぁ?リチャが来たら機体を返して逃げるように帰ろう?ちょっと派手にやりすぎたからな?そう思っていると1人の女が真っ白いドレスを着て花束をもって近づいてきた。その時、管制室の女性隊員達からは、「マリコさん綺麗…!」の言葉が漏もれ、その後の様子を固唾を呑んで見守っていた。男がしても女がしてもプロポーズの瞬間を見るのが好きだった
女は右手を下げる動作をした。これはパイロットシートを降ろして降りてきなさいの合図だった。「ヤバいなぁ怒られるのかな」と思いながらもエジェクトボタンを押して降りてきた。降り切ってシートベルトを外すと女が声をかけてきた。
「はじめまして、シュン・ラコステフさん。私の名前はマリコ・レオネ。この基地で航空管制の責任者で少佐をしています。今後ともよろしくね?」
シュンは呆気にとられた。なんだ?この女?
「あなたのフライト…美しく素敵だったわ。特にバースト・ドロップ・ダウンからのバーニアでの姿勢制御とその後のパワー・ホップ・アップ!私、痺れてしまいました!」
マリコは体をくねらせ、顔は満面の笑みだった。
「はぁ?バースト・ドロップ・ダウン?なんだそりゃ?」
「あなたが高度2000まで急上昇してやった技よ?」
話がかみ合わない?
「あぁ?火の玉宙返りの事か?そんなしゃれた名前がついているんだ?知らなかった?」
「パワー・ホップ・アップは?」
「カエルの飛び出しって仲間内では呼んでるぜ?」
マリコは思った「この男の飛行技術の次元は私より遥か先を行っている。たぶん、うちの航空隊のフライトなんか、この男の前では児戯なんだろう?」
「ところで?なんで?俺の名前を知っている?」
「まぁ?名前なんてものは何をどうしても漏れるものです?それよりシュン・ラコステフさん、おめでとうございます。あなたの連合宇宙軍への入隊が認められました。スタートは少尉からですがあなたの技量ならば2年以内に大尉になれます。」
「おい?ちょっと待て!俺は入隊したいなんか一言も言っていないし、そんな書類も書いてもいない!」
マリコは動ぜず話を続けた。いつもの事なのだろう
「皆さんそのように言われますが、私の誘いを断って逃げ延びた方はいませんよ?」
ダメだ?話がかみ合わない?なんだ?この女?シュンがそう思っていた時、20名以上の兵隊が殺気立って走ってきた。明らかにシュンに対する憎悪だ。マリコは反射的に叫んだ。
「全員!整列!」
軍人達はその場にピシッと整列した。
「何なのですか?この騒ぎは?」
威厳のある言葉だった。
「少佐!どいてください!こいつは我々に大恥をかかせたんです!許せません!」
そこにリチャードが割り込んできた。
「お前達?恥の上塗りをする気か?よく聞け!いいか?お前らはたった1機に負けたんだ!シュンが本気で実戦ならばお前らは、今頃は全員天使の輪っかを付けて天に昇っている頃だ!わかってんのか!」
リチャードの怒りは本気だった。その上で
「お前達?このシュンの技術が欲しくないのか?」
兵隊の中でざわつきが出た。そして、
「軍人ならば民間人に教えてもらうときには礼儀ってものがあるよな?」
最年長の男が大声で叫んだ。
「先ほどは大変失礼をしました!ぜひ、航空技術をご教授ください!」
そして、
「シュン殿に対して敬礼!」
なんか?シュンはこっぱずかしかった?だから軍人はいやなんだ?
「シュン・ラコステフさん?大変、恥ずかしいものをお見せしました…軍を代表して陳謝いたします」
マリコが頭を下げた。
シュンのフルネームを聞いた途端に軍人たちが色めきだった。そして、中の一人が
「あのぉ?ひょっとして?ダブルイーグルのシュン・ラコステフさん?」
「あぁ?そうだが?」
そして、シュンの周りには軍人が押し寄せた。「大ファンです」「サインをお願いします」「ダブルマークへの入隊で便宜を!」「俺はシュン・ラコステフと空中戦をした男になった!」等など大騒ぎになった。
マリコが「やれやれ?どうしましょう?」と思っていた時、シュンは急に隙をみて走り出した。追いかける軍人たち。10番ハンガーの中にあるF-98 MK-Ⅱに逃げ込んだ。そして、ハンガーから出るといきなり離陸態勢に入った。その後は乱暴ではあるが前下部のバーニアを吹かしてクイックテイクオフでヒナタ空港を後にした。
軍人たちはシュンを追いかけていなくなり、リチャードもどこかに行ってしまった。1人で取り残された花束を抱えた寂しいマリコ。しかし、その顔は敗者の顔ではなかった。
「ダブルイーグルのシュン・ラコステフ…か?貴重な情報をありがとう?私の誘いをふるなんて…これから私の全ての権謀術数を使ってでも…必ず絡めとってあげる…」
マリコは薄笑いを浮かべていた。そして言葉と背中には再度、どす黒い何かが滲みだしていた。




