第8話 市場でお買い物
「すごい、俺がいた街よりも随分と大きい市場だ」
石畳の広い通りの両脇には無数の露店が立ち並び、白色の天幕が風にはためいている。露店には魔物の素材、服、日用品、果物や食品など、ジャンルを問わず様々な商品が並んでおり、多くの人が行き交っていた。
ユウカはこの街ではかなり有名なSランク冒険者ということもあって、2人でフード付きの外套を着て姿を隠しながら街を歩いている。どうやらこの世界にはユウカのような黒髪黒目の者はほとんどいなく目立ってしまい、街を歩いているだけで冒険者ギルドで出会った時のように人に囲まれてしまうようだ。
そして黒髪黒目の人を見かけたら日本からの転移者と思った方がいいらしい。確かにこれまで出会った人は金髪や茶髪の人が多かったな。
「このベルリアの街はこの国の中でも大きくて、いろんな街から物や人がやってくるから市場も栄えているの。馬車がいろんな街へ出ているから、情報も集めるにはいい街なのよ」
「なるほど」
祝福者の情報を集めつつ、祝福者が自分へ会いに来やすくするためにこの街で拠点を構えたのか。絶対に妹さんを助けるという執念が感じられるな……。
「……ええ~と、そこまで近付いて護衛しなくても大丈夫だよ」
そんな中でユウカと一緒に変装をして歩いているわけなのだが、彼女は俺の腕を手に取って横にピッタリと寄り添っている。前世で女性の付き合いなんてまったくなかった俺にはとても刺激が強いのだが……。
これまでは異世界で生きぬいていくことだけで精一杯だったのと、彼女の妹さんを助けるために必死だったからあまり意識していなかったけれど、彼女のような可愛い子と2人きりで街を歩くことに今更緊張してきた。よく考えると、こんな可愛い女の子とひとつ屋根の下で暮らしているってヤバいことだよな……。
「昨日カケルが言っていたように、いつ誰から狙われるかわからないからね。離れ離れになっちゃたら大変だし、これくらい近い方がいいわ」
「そ、そういうものか……」
「ええ、そういうものよ♪」
そう言いながら俺の方へより一層近付いてくるユウカ。
よくわからないけれど、護衛とかをする時はそういうものなのか。確かにこの街の地理とかもわからないから道に迷うと大変だし、街を歩く時も気を付けないといけないことはいろいろありそうだ。
「こういった古着なんかはいいかもな。中世ヨーロッパ風の服みたいにコスプレとかで需要があるかも」
「そうね。こっちの木彫り細工や食器、カトラリーなんかもいいかもしれないわ。あとは魔物の素材を使った革製品は高く売れそうね」
市場を見ながらフリーマーケットで売れそうな物を探していく。結構日本でも需要がありそうな商品は多そうだ。
あんまり高価な物だと目立たちすぎてしまいそうだから、その辺も考えないと。……魔物の毛皮とかコートも需要はありそうだけれど、何の毛皮かと突っ込まれたら困るし、止めておくか。今回はいろんな種類の商品を用意して、次回は食いつきの良かった商品を重点的に攻めてみる方法がよさそうだな。
市場を回りながら目についた商品を購入し、ユウカから借りているマジックバッグへ入れていく。
「お二人さん、よかったら見ていってくれよ」
「リングやネックレスね。こういうのも女性に人気があると思うわ」
「なるほど。確かにアクセサリーはちょうどよさそうだ」
声をかけてきたのは30代くらいの男性で、小さな銀色の指輪やブレスレットなんかを売っていた。
ちゃんとした銀細工のように見えるけれど、これくらいのサイズなら日本でもそれほど高価ではなさそうだから、ちょうどいいくらいの値段で販売できそうだ。ハンドメイド製のアクセサリーは需要がありそうかもしれない。
「おっ、随分と美人な彼女で羨ましいな、兄ちゃん。デートの記念に彼女さんへプレゼントってのはどうだい?」
「………………」
彼女どころか、この人のお金でいろいろ買ってもらっているただのヒモです……。お金もない貧乏人ですみません……。
「あら、嬉しいわね。カケル、これも買っていきましょう」
「……うん、そうだね」
改めてお金を出してくれるユウカに感謝しつつ、お金は自分で稼がなくてはなと改めて思った。
「それじゃあ、ここからここまで全部もらうわ」
「へっ、こんなにですか?」
「ええ、もしかしたら今回と同じようにまたいっぱい購入するかもしれないわ。値引きも期待しているわよ」
「おおっ、こいつは上客だ! あいよ、しっかり割引いとくぜ」
少し強面な店主を前にしてきっちり値引きしてもらい、しかも銀細工を載せていた台座までおまけしてもらった。これなら値札を付ければそのままフリーマーケットで販売できる。
さすがに2年間こちらの世界で過ごしていたこともあって、俺よりもよっぽど買い物上手だ。……俺ももう少し役に立ちたいものである。
「今日はいい買い物ができたわね」
「ああ。うまく日本で売れてくれるといいんだけれどなあ」
いろいろと買い物を終え、屋敷へと戻る。結構な種類を購入したから、たぶんどれかの商品は売れてくれるはずだ。
「ご、強盗だあああ!」
「早く衛兵を呼べ!」
「魔法を使うやつもいるぞ!」
帰宅途中に突如市場の奥から悲鳴が上がった。
この異世界だと、日本よりも治安が悪いため、スリや強盗などが頻繁に起こっている。俺が最初に滞在していた街でもそういった犯罪はよく起こっており、戦闘能力のない俺は随分と不安だったものだ。この世界には武器を持って歩くことは合法だし、魔法もあるから日本の犯罪者よりも遥かに怖い。
「………………」
「ユウカ、もし可能なら強盗を捕まえてもらってもいい?」
ユウカは咄嗟に動こうと反応したようだが、俺を護衛しているのを思い出したようで、身体がビクッと動いた。これまでああいった犯罪者をSランク冒険者としてすぐに取り押さえてきたのだろう。
まだ俺のことは誰にも広まっていないし、すでに護身用の強力な魔道具をユウカから預かっているから俺の護衛は大丈夫だ。
「ええ、任せて! カケルは絶対にここを動かないでね。すぐに片付けて戻ってくるから!」
「うん、お願――って速!?」
目の前にいたユウカが突然消えた。……否、消えたように見えるほど疾く強盗のいる方向へ走ってらしい。
「ぎゃああああ!」
「だ、誰だ……ぐへえ!」
少し奥で強盗たちのものと思われる悲鳴が上がった。強盗は4~5人いたらしく、次々と悲鳴が聞こえてくる。
「カケル、ただいま! 無事みたいでほっとしたわ!」
「うわっ、おかえり。もちろん俺は大丈夫だったけれど、ユウカこそ大丈夫だった?」
1分も経たずにユウカが俺の目の前に戻ってきた。走り去る時と同じであまりに速すぎて動きが見えず、突然現れたようにしか見えなかったぞ。
「ええ、もちろん怪我ひとつないわよ。心配してくれてとっても嬉しいわ! 強盗たちは鞘打ちで昏倒させて拘束しておいたから、あとは衛兵たちに任せましょう」
「了解。それにしてもすごかったね。やっぱりそれも固有スキルの力なの?」
「うん。『剣聖』は剣技と身体能力が向上して、気配や殺気を読むことができるの。戦闘に特化した固有スキルみたいね。冒険者になって戦闘経験もいっぱい積んだから、近距離での戦闘なら負けない自信があるわ!」
「……それはすごいね。頼もしい限りだよ」
「えへへ~♪」
俺に褒められて喜んでいるユウカだが、それにしても驚いた。
大人数人を一瞬で叩き伏せる力。しかも剣すら抜いていなかったみたいだから、まだ実力の半分も出していないに違いない。……とりあえず戦闘に特化した固有スキルを持った祝福者に狙われたら、戦闘能力が皆無な俺ではひとたまりもないことがよく分かった。ユウカに保護を求めた判断は間違っていなかったようだ。
午後は日本へ戻ってきた。
昨日調べて予約しておいた近場かつ身分証不要のフリーマーケットの会場へ移動する。
「ケールさんですね。こちらの出店証をブースの見える位置に置いておいてください。出店料は1500円となります」
「はい、こちらでお願いします」
「とても日本語がお上手ですね。それではお楽しみください」
ケールとはこちらの世界での偽名だ。今の俺の容姿は外国人みたいだからそう名乗ることにした。
無事に受付を終えたが、出店料や交通費などでユウカさんの貯金箱の中身はほとんど使い切ってしまった。なんとしても今回のフリーマーケットで今後の日本の活動資金を稼がなければならない。
最悪の場合はいきなりユウカの実家か俺の実家に迷惑を掛けることになるからな……。本当に頼むぞ、マジで……。




