第68話 スイートルーム
「……すごいな」
思わず独り言が漏れてしまう。ISEOの夜ノ宮さんに指定された東京にあるとあるホテル。周囲の高層ビルに囲まれつつ、その中でも一際高く巨大なホテルの正面玄関へ続く広い車寄せには、様々な高級車が停まっている。
中に入ると高い天井を持つエントランスに巨大なシャンデリアがいくつも吊るされていた。中を歩く宿泊客は仕立ての良いダークスーツに身を包んだ40~50代の男性客、静かな佇まいの老紳士、帽子とサングラスとマスクで完全に顔を隠した者など普通のホテルの宿泊客とは一線を画している。
……前に購入したスーツ姿で来たのだが、俺の場違い感がすごいな。一応身なりの良い外国人も他にいるのだが、なんと言うか、俺の庶民オーラが身体全体から滲み出ている気がする。
「鈴木様ですね、少々お待ちくださいませ」
「はい」
フロントの人に名前を伝えると、部屋へと案内されるのだが……どうやら普通のエレベーターとは異なるスイートルーム直通のエレベーターが裏にあるらしい。
本当に高級なホテルはこんな仕組みになっているのか……。きっと有名人や政治家なんかがこういう場所に泊まっているのだろう。
「お待ちしておりました、鈴木様。本日はここまで足を運んでいただき、誠にありがとうございます」
「ああ、えっと、はい……」
ホテルの部屋とは思えないほど広い入り口があり、高価そうな美術品や絵画が飾ってある廊下を抜けると、とても広くて豪華な部屋があった。そしてその部屋には様々な武器が広がっている。
いや、正確に言うと護身道具なのかもしれないけれど、完全に武器の見本市みたいになっている。前回テーザー銃のような護身道具を用意してもらうようにお願いしたけれど、まさかここまで用意してくれるとは……。
確かにこんな物を街中で取引できるわけがないな。
「まずは鈴木様のご希望の品物をお渡ししますのでこちらへどうぞ」
「はい」
床に置かれた大量の護身道具は一旦スルーして、奥の方にある漫画や発電機などの方へ進む。
この部屋にいるのはいつもの黒いスーツ姿の夜ノ宮さんだけのようだ。おそらくホテルの別の部屋に何人かは待機していると思うが。
「発電機の方は多少大型になってもよいとのことでしたので、業務用で音が小さく、かつ発電量が大きな物を用意しました。ポータブル電源も同様に少し大きくなりますが、大量容量があり、大きな出力も可能な物をご用意しました。使い勝手を見て、変更した方が良い場合は別の物を用意いたしますのでお伝えください」
「あっ、はい……」
漫画は古い物を頼んだのだが、すべて新品で用意してくれている。発電機とポータブル電源については以前俺がネット調べていた物とは形も大きさも異なる業務用の本格的な物を用意してくれたらしい。
発電機はLPガスというもので発電をするようだ。ガスの入ったタンクももらったのだが、これひとつで結構な量を発電できるらしい。これくらいの大きさなら、屋敷の二階のベランダで発電することができそうだし、異世界の屋敷にいても日本の家電を使うことができるようになりそうだ。
う~む、お金や権限があれば、たった1日でこんな物まで用意できるのだな。
「続きまして護身道具を用意しております。ご要望のテーザー銃の他に最新の物を用意しましたので、ご自由に選んでお持ちくださいませ。我々としても、鈴木様の身の安全は第一と考えておりますので、可能な限りの物を用意したつもりです」
「ありがとうございます……」
やっぱり一応ここに並べられているのは護身道具らしい。盾のような物や防弾チョッキのような物はまだわかるのだが、バズーカみたいな物や手りゅう弾みたいな物も護身用なのか……。異世界でもそうだが、どこまでが護身になるか難しいところでもあるな。
正直に言うと、ここまでいろんな物を用意してくれているとは思っていなかった。俺のことを考えてくれてのことなので、とてもありがたい。とりあえず、ユウカとアオイから借りている魔道具もあるし、戦闘能力のない俺でも向こうの世界でなんとかなりそうだ。……むしろ過剰防衛な気も若干してきたが。
夜ノ宮さんからそれぞれの護身道具の説明を受けつつ、なんらかの利用方法があるかもしれないので一通りの物を受け取った。さすがにユウカから借りているマジックバッグには入りきらなかったので、念のために持ってきていたマジックバッグを使って収納する。まさかこんな量になるとは思わなかったな。
「こちらは我々が育てた薬草と作成したポーション、その方法をまとめたレポートとなります。黒崎葵様にお渡しいただければと思います」
「はい。ありがとうございます」
日本で作ったという薬草とポーション。残念ながら魔力というものがなくてポーションの機能が付与しなかったらしいが、魔法に詳しいアオイに見せればその原因などがわかるかもしれない。
「もしも原因などがわかりましたら、別途で報酬をお渡ししますので、何卒よろしくお願い申し上げます」
「はい、そちらも伝えておきます」
もしもこちらの世界でポーションなどが作れるようになれば、医療技術に革命が起こるかもしれない。
異世界の存在が世間に広まってしまうリスクはあるが、医療技術が進めばユウカの妹の春華ちゃんのように事故などで苦しんでいる人を救えるかもしれないので、アオイに研究をお願いしている。




