第63話 用意してきた物
「……ええ~と、こちらは?」
夜ノ宮さんは先ほどのトランクケースからいろんな物を取り出して俺の前に並べる。
「訪問者様の身分証となります。住所などはこちらで管理している空き家で登録させていただきました。名前に関しましてはいくつか候補をご用意いたしましたが、別の物がよろしければすぐに変更しますので、お気軽にお伝えくださいませ」
「………………」
最初に俺の目の前に置かれたのは免許証だった。おそらく監視カメラで撮った写真から作られたと思われる俺の顔写真の載った免許証が何と5枚。
それぞれ名前が異なっていて、先日アオイさんの実家で名乗った「鈴木駆」、ハーフっぽい名前の「カイル・一ノ瀬」、まったく関係のない「田中一郎」など、いくつかの名前が並んでいた。昨日話したばかりなのに、もうこんな物を用意したのか……。いったいどれだけ権限のある組織なんだろう。
……ただ、こうして同じ顔の免許証がずらりと並ぶと偽造免許証にしか見えない。ちゃんと使えるんだろうな、これ?
「たった1日なのにすごいですね」
「恐縮でございます。大半の訪問者様はISEOという組織を懐疑的に思われているので、そちらを払拭するためにも早めにこちらを用意させていただきました」
俺の場合は監視カメラや衛星写真などで特定された時点ですごい組織だと思っていたが、さらに認識を改める必要があるな。
「それではこちらにします」
すでに一度偽名を名乗っていることもあったので、鈴木駆と書かれた免許証を選んだ。
今後は日本生まれでハーフの鈴木駆と名乗るようにしよう。
「承知しました。続きまして、こちらもお受け取り下さい」
「キャッシュカードとクレジットカードですか」
免許証の次に渡されたのは郵便局のキャッシュカード、そして俺が生前に持っていたクレジットカードとは趣の異なる漆黒のカードだった。
どちらも先ほど俺が選んだ鈴木駆の名前になっている。これもわざわざ5枚用意してきたのか。
「取引を受けていただけるということで、こちらのキャッシュカードには1000万円を入金しております。鈴木様のご自由にお使いいただければと思います」
「1000万!?」
「これ以上にご入用でしたり、他に何か必要な物がございましたら、いつでもご相談ください。今後取引をしていただける度にこちらにご入金させていただきます」
「………………」
どうやら俺はまだISEOという謎の組織を甘く見ていたらしい。たった1日でそんな大金を動かせるような組織なのか。異世界の物にはそこまでの価値があるようだ……。
「こちらのブラックカードは限度額が普通のクレジットカードよりも高額になっております。他にも特定のホテルやラウンジ、レストランなどで無料のサービスを受けられる特別仕様となっておりますので、ご利用いただければと思います」
……これがブラックカードか。漫画の中でしか見たことのないやつだ。
なるほど、こんな大金があれば、過去の日本帰還スキル持ちの祝福者が異世界へ日本の物資を大量に持ち込むことができた理由も頷ける。なんだか金銭感覚がマヒしてきそうだ。
「他には、専用のご連絡用のスマホなどをご用意しておりますが、こちらはご自分で購入された方がよろしいでしょうか?」
「……そうですね。そっちは新しく自分で購入します」
「承知しました」
最近はスマホの位置情報を教え、音を盗聴するアプリなんかもあるらしい。さすがに取引相手におかしなことをすることはないと思うけれど、自分で新しいスマホを購入した方がより安心できるだろう。
この免許証が本物であれば、俺も自分でスマホを使える。他にも身分証が原因となってできなかったことがいろいろとできるようになるからありがたい。
「本日用意していたものはこちらとなりますが、他に鈴木様からのご要望の物はなにかございますか?」
「ありがとうございます。そうですね、前にちょっと話していた護身用の道具があればありがたいです」
「承知しました。どのレベルの物を希望しますか? 拳銃などもご用意可能ですが?」
「……もしかしたら今後お願いするかもしれませんが、とりあえず相手を無力化できるテーザー銃みたいなのが欲しいです」
「承知しました。それではテーザー銃とそれに近いレベルの護身道具をご用意しておきます」
まさかと思っていたが、本当に兵器なども用意できるようだ。
先日のアビストータスの件もあったことだし、そういったものを用意してもらう可能性もゼロではないが、みんなと相談をして、まずは相手を無力化するスタンガンの銃バージョンであるテーザー銃を用意してもらうことにした。
ちなみにテーザー銃は護身道具としては少し危険なので日本では所持が禁止されている代物だが、やっぱりそういったものまで用意できるんだな……。
「よろしくお願いします。それと過去に取引をしたという訪問者の情報を教えてほしいのですが」




