第62話 初めての取引
「訪問者様、この度は改めてお時間を取っていただき、誠にありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございます」
俺の目の前には昨日と同じ黒いスーツを着た夜ノ宮さんがいる。ただし、場所は昨日話をしたファミレスとは別のコーヒーショップだ。
ユウカの父親名義で契約をしているスマホの連絡先を教えてしまう訳にはいかないので、公衆電話から昨日聞いていた連絡先へ電話をしてここまで来てもらっている。向こうも俺と真っ当な取引をするつもりのようだけれど、念には念を入れて別の場所にしてもらった。
……電話に出たのも一瞬だったし、俺がこの場所を指定してから15分もしないうちにここまで来てくれたところをみると、このあたりでずっと待機していたのだろう。相手の本気度もだいぶうかがえるというものだ。
「一晩考えた結果、ぜひ取引をさせていただきたいと思っております。ただし、いくつか条件があります」
「おうかがいいたします」
みんなと相談をして、この人たちの組織と取引をすることにした。しかし、俺やみんなの家族などに危害が及ぶことだけは避けなければならない。
「まず、私のことについてや周囲にいる人たちについてはこれ以上調べないでほしいです。黒崎家の方に関しても、監視などは止めてください」
「承知しました。訪問者様と接触するためとはいえ、黒崎様のご家族に接触してしまい、申し訳ございませんでした」
俺に向かって頭を下げる夜ノ宮さん。
今までこちらの問いや気になることに関して正直に答えてくれていたし、アオイの実家のことはすぐに謝罪してくれたことから、ユウカの実家ことはまだ把握していない可能性は高そうだな。知られていないことに越したことはない。
「次に露骨な誘惑などは控えてもらえればと思います。私はあちらの世界に協力者がいて、今回の件もみんなに相談して決定しており、私だけを篭絡しようとしても無駄ですので」
「承知しました。昨日は大変失礼しました」
この条件に付いてはユウカとアオイから提案があったものだ。確かに俺一人だったら簡単なハニートラップにも引っかかってしまいそうだし、この条件を付けくわえておけば俺一人を篭絡しても意味がないと判断してくれるだろう。
実際にアオイが協力者になっていることはすでに向こうも既知のことだろうしな。ポーションなどは俺でも手に入れられるが、それ以上の物となるとみんなの協力が必要だし、取引をするならみんなにも利益のある内容でなければならない。
「最後に、そちらの組織がどのような規模なのかわかりませんが、私の情報を共有するのは最低限の人数にしてほしいです」
「はい。異世界のことに関しましては多くの者が存じておりますが、訪問者様の情報や黒崎様の情報につきましては共有する者に厳しい制限をつけております」
「ありがとうございます」
どうやらすでにそういった対策が取られているようだ。夜ノ宮さんの話によると異世界の物は非常に価値があるようだし、組織の者が暴走してアオイの実家に押し掛けるなんてことが起こり得るかもしれないから、その配慮は必要だ。
それとは別にこちらからもアオイが作ってくれた魔道具を渡して対策はしておくつもりである。
「今のところこちらからの条件は以上です。もしかすると、また別の条件を付け加えさせていただく可能性もあります」
「承知しました。訪問者様のご期待に沿えるよう、誠心誠意尽くさせていただきます」
「ありがとうございます。それでは取引内容ですが……いくつかサンプルを持ってきたので、お納めください。こちらから、ポーション、解毒ポーション、魔力ポーションとなります。そして魔道具のエネルギー源となる魔石と簡単な魔道具あたりを持ってきました」
「っ! ありがとうございます、頂戴いたします」
リュックの中に入れていたマジックバッグから、昨日みんなで話し合って取引に使えそうだったポーションや魔石や魔道具などを取り出す。
夜ノ宮さんは驚いた様子で俺が取り出した物を見る。
「訪問者様、失礼いたします」
「はい」
そう言いながら、夜ノ宮さんは周囲を見回しつつ、持ってきていた大きな銀色のトランクケースを開ける。俺も少し身がまえたが、中に入っていたのはいろんな書類やら、空のケースや銀色の袋のような物だった。
そしてその袋を手に取り、手袋を身に着けて魔石と魔道具を手袋ごとその中に入れる。同様に渡したポーションなどはケースの中に入れた。
「大変失礼しました。可能でございましたら、あちらの世界の物などを持ち込む際は他の者に見られないようご注意くださいませ」
「あっ、そうですね。配慮に欠けていました」
確かにこんな街中でこういったものを広げるのは良くなかった気がする。
せっかく向こうが配慮してくれても、こういったことから他人にバレる可能性もあるもんな。それに怪しい取引と勘違いされたら困ってしまう。
「とんでもございません。後ほど安全な引き渡し方法をご提案させていただきますね。これほどの物をご用意いただき、誠にありがとうございます。こちらも用意していた物をお渡ししたいと思います」




