第61話 実験体
「っ! そうね、もしかすると、私もカケルに迷惑をかけちゃうかもしれないわ」
「ユウカも気にしないで大丈夫だよ」
2人とも落ち込んでいるようだが、気にし過ぎである。どちらも俺の選んだ行動の結果だし、その分こっちの世界では2人にたくさん助けてもらっているのに。
「どちらかというと、俺の存在がバレたことよりも、2人の家族のことが心配だな。ないとは思うけれど、俺を脅迫するために2人の家族を誘拐するなんて可能性もゼロじゃない。アオイ、一応護身用の魔道具を作ってもらってもいいかな?」
「はい、もちろんです!」
夜ノ宮さんの様子だとこちらを脅すつもりはなかったみたいだけれど、そのISEOとやらがどれほど大きな組織なのかわからない。末端の構成員が暴走して勝手に動くみたいなことはありそうだ。
それにエリクサーで回復した肉体なんて、研究サンプルとしては魅力的だろう。ユウカの妹の春華ちゃんにまで危険が及ぶかもしれない。
それがなくても最近は物騒だからな。日本の護身用具の他にアオイが作ってくれた魔道具を持ってもらった方が安全だ。そろそろ春華ちゃんもリハビリが終わって学校に復学するらしいし。
とりあえず、レインも含めて今後のことを話し合ってみよう。例の国宝級の魔道具の水晶もちょうどあって助かった。明日になったら、またハヤテに持たせて返すつもりだったからな。
「様子を見つつだけれど、取引はしてみてもいいかなと思っている。実際に日本でお金を稼ぐのは結構大変だし、身分証がないと結構できないことも多いからね。先日のアビストータスみたいなことがこっちで起こる可能性もゼロじゃないみたいだし、日本側に大きな協力者がいるとすごく助かる」
少し胡散臭いけれど、俺の身分証なんかを用意できるらしいし、夜ノ宮さんの言い分を信じるのなら警察よりも大きな権限を持っているらしい。
アビストータスの時も日本の毒や兵器なんかを借りられればなんとかなった可能性もあるし、今後悪い祝福者と戦う時にそういった物が手に入ると便利だ。
「……そうね。過去に祝福者と取引をしていたこともあるらしいし、本当に取引できるのならありがたいわね。もちろん相手がカケルや私たちの家族に手を出さないというのが前提だけれど」
「カケル様の負担も軽くなりますし、悪い話ではないと思います」
『そうだね、日本でも協力してくれる組織があるんならありがたいと思うよ』
どうやら3人も取引自体には賛成のようだな。確かにユウカの言う通り、俺や2人の関係者には関わらないというのが絶対条件だ。
夜ノ宮さんと会った時にそれだけは伝えておこう。
『それにしても、まさか過去の祝福者と取引していた組織があったなんて驚いたよ。日本の物がばらまかれた時も結構な量があったらしいし、きっとその異世界調査交流機関ってところが物資を用意したのかも。うん、中々いいネーミングセンスだね!』
「たぶんそうなんだろうな。日本の米とかを大量に持ち込んだのはその時かもしれない」
レインから以前に聞いた過去の日本帰還スキルの持ち主の話。異世界に持ち込まれた日本の米が祝福者同士の大きな争いになったと聞いていたけれど、そのお米を用意したのがその組織なのかもしれない。
……だけどISEOのネーミングセンスはどうなんだろう? レインは肯定しているけれど、俺には胡散臭さしか感じなかったが。
「過去に取引した祝福者のことについても聞いておきたいわね。こちらの世界で亡くなったらしいけれど、情報を集められるかもしれないわ」
「例の祝福者の争いに巻き込まれた可能性もある。やっぱり日本の物資を大量に広げるのは危険かもしれない」
『うん、例のお米を育てる計画はちょっと様子を見た方がいいかもしれないね。もう少し境界の円卓が大きくなってからのほうがいいかも。あっ、カケルくんからもらった漫画については僕が責任を持って管理するから安心してね!』
なるほど、確かに次に会った時に過去の祝福者について詳しく聞いておいた方がよさそうだな。
レインの言う通り、米の計画についてはそれがわかるまで止めておいたほうがよさそうだ。漫画や日本の物についてはこれまで以上に厳重に管理するとしよう。
「とりあえず、すぐに渡せそうで向こうが欲しがりそうな物はポーションの類か。それと魔石とか簡単な魔道具かな」
「医療関係に使えそうなところだとそっち系ね。初めはポーション、魔力ポーション、解毒ポーションあたりでいいんじゃないかしら」
「ポーションの材料の薬草や解毒草なんかもいいかもしれませんね。火を点けたり、水を出す簡易な魔道具などを用意しておきましょう」
『2人でも手に入らなそうなものがあればいつでも言ってね。エリクサーとかはちょっと時間がかかるかもしれないけれどね』
3人と話し合って、取引材料になりそうな物やこちらが欲しいものを考える。俺ひとりよりも3人の意見があるととても助かる。
情報をまとめておいて、次に夜ノ宮さんに会う時のまとめておくとしよう。
「そういえばカケル。その夜ノ宮さんはどんな人だったの?」
「私も気になります」
「………………」
あえて夜ノ宮さんの性別や女性も用意できるといった発言については触れないでいたのだが、聞かれてしまった以上答えるしかないか。
ちゃんと過去の祝福者が望んでいたことであって、俺が望んだことじゃないことはちゃんと説明しないと。




