第60話 取引の相談
「一般の女性でも可能ですが、交渉に時間が必要となりますのでしばらくお待ちいただくと思います。もちろん合法的かつ相手方には納得いただける報酬をご用意しますので」
「いやいやいや!」
思わず突っ込んでしまった。さすがにそれは人としてどうかと思う。
「失礼しました。そういったことを望まれる方も過去におりましたので、一応そういった提案もさせていただきましたのですが、訪問者様には不要なようですね」
「……ええ、大丈夫です」
過去にはそれを要求した日本帰還スキルの持ち主もいたのか……。
今考えると、話をしに来たのがモデルのような美人である夜ノ宮さんであったのはそういう理由も含んでいるのだろう。さすがの俺でもこれがハニートラップであることはわかる。それほどまでに異世界の情報や物を本気で欲しがっているのだろう。
ただ、強制的に俺に言うことを聞かせようとするつもりはないように思える。過去に日本帰還スキルの祝福者と取引をしたことがあるのなら、俺は一瞬で異世界へ帰ることができることを知っているはずだ。本気で逃げようとしたら異世界へ引きこもるだけだし、平和的な取引を望んでいるのかもしれない。
「取引を受けたとして、こちらに制限はあるんですか?」
「いえ、ございません。訪問者様の自由に過ごしていただきつつ、取引ができればと思います。……ですが、こちらの用意した快適な場所に護衛をつけて過ごしてほしいというのが本音ですね。あちらの世界で過ごされる訪問者様も多くいらっしゃるのですが、そのまま音信不通になる場合が多いのです。聞くところによると、あちらは随分と危険な世界らしいですから」
「なるほど……」
先日アビストータスをこの目で見た俺にはまったくもって否定できない……。
ふ~む、異世界の物を渡しつつ、元の世界の南の島などでのんびり過ごすという選択肢もあるわけか。
「……とりあえず、お話は分かりました。1~2日ほど考える時間をいただいてもいいですか?」
さすがにこれだけのことがあって、今すぐ決断することはできない。今のところは問題ないように思えるけれど、みんなにも相談して決めたい。
「ええ、もちろんです。ご検討いただけましたら幸いです。こちらが我々の連絡先となりますので、いつでもご連絡ください。また、取引をしない場合でも、なんでもご相談にのりますので、どうぞお気軽にお声掛けください」
夜ノ宮さんとは喫茶店で別れ、人気のない場所へ移動する。今この瞬間も上空にある衛星で捕捉されているのかなと空を見上げたが、当然衛星なんて肉眼では見えなかった。
それにしても取引か。どうしたものかな……。
「ただいま」
「おかえりなさい。思っていたよりも遅かったから心配したわ」
「カケル様、なにかあったのですか?」
屋敷へと戻ると、ユウカとアオイが心配そうに駆けよってきた。
今日はユウカの家にお金を返しに行き、アオイの家の様子を見て、少しだけ買い物をしてから帰るつもりだったけれど、例の件があって予定よりもだいぶ遅くなってしまった。
「いろいろあったんだ。ちょっと2人に相談したいことがある」
まずはISEOという組織と夜ノ宮さんのこと、過去の祝福者がその組織と取引を行っていたこと、取引を持ちかけられたことをすべて話した。
「……なるほど、そんなことがあったのね」
「私のせいでカケル様のことがバレてしまいました……。どのように責任を取ればいいのか……」
「そこは気にしないで大丈夫だよ。前にも言ったけれど、俺が権藤を許したくなかっただけで、俺が選んだことだ。それに取引をする相手としては悪くないようにも思えるから、むしろ見つけてもらってよかった気もする」
日本で身分証を必要としない小規模なフリーマーケットで物を売るのにも限界はあった。お金をそこまで多く稼げないというのもあるが、先日参加したフリーマーケットでは公園内を警察官が巡回していて、心臓が縮みあがった。なにせこちらは身分証がなく、職務質問をされたら一発でアウトである。
向こうは衛星写真まで使える大きな組織みたいだし、俺の身分証まで用意できると言っていた。本当に俺に害意がないのなら、ポーションや魔道具を渡すことで、秘密裏に必要な日本の物資を手にできるすばらしい取引相手にもなりそうだ。
「一応ユウカのことはまだバレてなさそうだったけれど、春華ちゃん経由でバレる可能性は少しありそうかな」
ユウカの家に行く時は直接宮坂家の裏庭に移動している。衛星写真で確認するのも日本全国を網羅することは無理だろうし、監視カメラの映像が残っているのは長くても1月くらいらしいから、それよりも前にユウカの家へ最初に行った時の映像は残っていないだろう。
あるとすれば、脊髄損傷により四肢の動かなくなった春華ちゃんが突然奇跡的に治ったことから、異世界のポーションなどの存在がバレることだ。




