第59話 取引
「続いて、こちらの映像から、なぜ我々が訪問者様は異なる世界を行き来できることを知っているかについて説明いたします」
そうだ、確かにこの映像からは俺が瞬時に消えているように見えるが、異世界を行き来できることの証明にはならない。
瞬間移動や他者に意識されない超能力のようなものがあると考えてもいいはずなのに、異世界なんちゃらという組織まで存在している。ということはもしや——
「我々は過去に数度、別の訪問者様と接触し、取引をしておりました」
「っ!」
レインから聞いた祝福者の法則。同じ固有スキルを持った祝福者は同時期に現れないが、過去には同じ固有スキルを持った祝福者がいる。
やはり、日本帰還を持っていた祝福者が過去にいて、その人と接触していたのか。それなら異世界の存在や魔法や魔道具の存在、そして日本帰還スキルのことを知っていることにも頷ける。
「その方々は過去に日本で行ったことのある場所へ異世界を通して自在に行き来をしており、他にもこちらの世界にはない技術の道具を持っておりました。その方々に接触を図り、異世界という存在を知ってこの組織ができたのです」
なるほど。そもそも、過去の日本帰還スキルの持ち主たちと接触したことによってその組織ができたというわけか。
「……ちなみに過去の訪問者はどうやって見つけたんですか? 昔は衛星写真なんかもなかったでしょうし、監視カメラの映像もそう簡単に手に入れられるものでもなかったんじゃないですか?」
初めてこちらから質問してみた。ここまで完璧に調べられたのでは言い逃れが難しそうだし、俺も詳しい話を聞いてみたい。
「はい、そうですね。最初に発覚したのは繰り返し窃盗を行っていた者が瞬時にその場より消えたことから調査が始まりました。初めは瞬間移動などの超常現象かと思っていたそうなのですが、その者となんとか接触でき、異世界の存在が発覚したそうです」
「………………」
窃盗かあ……。俺も犯罪はしたくなかったけれど、餓死寸前まで追い込まれたら最終手段は万引きとかをするしかないと思っていた。そこから発覚する可能性も十分にあったわけか。
日本帰還のことを知っているのなら、たとえ拘束をしたとしても瞬時に異世界へ帰ることができるので、最初から俺と敵対する気がなかった理由も頷ける。
「とりあえず、夜ノ宮さんの組織の存在についてはわかりました。それで、具体的な取引はどんな内容なんです?」
「ISEOのことを信じてくれてありがとうございます。取引についてですが、こちらは訪問者様の望むことを可能な限り叶えることができます。日本での活動に必要な資金や物資、安全に過ごせる場所など、ありとあらゆる物を用意させていただきます」
「ありとあらゆる物……随分と大きく出ましたね」
「それだけ異なる世界というものは価値があるのですよ。レアメタルや原油の何万倍もの価値があると言えば多少は伝わるでしょうか。魔法という現代日本の技術とはまったく異なる原理の存在、特に我々が期待している物は異世界に存在するポーションです。現代医学を完全に上回る不可思議な存在で細胞の動きやDNA遺伝子、再生医療、不老不死など、様々な研究が可能となります」
なるほど。ポーションやハイポーションなどを研究すれば、現代医学が比較的に進歩する可能性がある。
それに春華ちゃんを治療したエリクサーのように、現代医学では治療できない重傷者を回復できるのはとても魅力的だろう。
「他にも新たなエネルギー資源、未知なる物質、四次元理論、生物学、あらゆる分野で異世界というものは非常に価値のある存在なのです。それらを提供していただけるのであれば、こちらも相応の報酬をご用意させていただきます」
魔法という未知のエネルギー、ミスリルや魔石などのこちらには存在しない物質、新しい理論や原理に魔物という未知なる生命。
……言われてみると、異世界とはまさに宝の山だな。様々な分野での発展が期待できる金脈で、それと引き換えならできる限りの物を用意してくれそうだ。
「過去の例からですと、日本での戸籍や護身用の道具などが多かったですね。それと世界中の美食や無人島が欲しいと仰っていた訪問者様もおられました」
「戸籍……それに無人島ですか」
過去の祝福者も戸籍に困っていたのだろうな。それに無人島とはそんなものまで手に入るのか。この組織のすごさというか、ヤバさが伝わってくるな……。
「もちろん物以外でも可能です。例えば、先日の件で逮捕された権藤満氏を如何様にすることも可能ですよ。黒崎葵氏にそれほど親しい者の存在は確認できなかったので、おそらく異世界へ転生した黒崎葵氏に依頼されて今回の出来事を起こしたのではないですか?」
「………………」
そこまでバレているのか……。
少なくともアオイの実家のことも把握されているし、気味が悪いくらいに調べ上げられているな。
「他には女性などもご用意できます。もしも訪問者様がよろしければ、試しに私を抱いていただくことも可能ですが、いかがでしょう?」
「ゲホッ、ゴホッ、ガホッ!」
アオイのことを把握されていることに動揺し、落ち着こうとするために飲んでいたお茶が入ってはいけないところに入った。
夜ノ宮さんがいきなり真顔でとんでもないことを言い始めたぞ……。




