第57話 訪問者様
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「お役に立ててよかったです」
翌日、ユウカの実家にお邪魔して、先日借りていたお金を返しに来た。今日はユウカの母親だけのようだ。
アビストータスを倒してから今日まで、連日フリーマーケットに参加して必死にお金を貯めた。今回のアビストータスとの戦闘で用意したドローン、双眼鏡、インカム、その他の護身グッズなど、10万円も借りてしまったから、俺も必死にお客さんの呼び込みをしたぞ……。
その甲斐もあって、無事にお金を完済することができた。ただでさえヒモのような状態で、さらに借金まである状態だと人として終わっているからな……。
「お金もそうですが、ご心配をおかけしました」
「優華が無事でほっとしました。優華が決めたことですが、親としてはあまり無茶はしないでほしいのですけれどね」
「本当にすみませんでした!」
再び母親に向かって深く頭を下げる。お金よりもこっちのほうが問題だ。
アビストータスのことについてはもちろんユウカのご両親に話してある。危険はほとんどないと伝えたのだが、結果的にはハイポーションを使うくらいの深手を負ってしまったし、アオイの魔法の反動で1日動けない状態になってしまった。ご両親からしたら、せっかく無事とわかったユウカが危険な目に遭うのは避けてほしいに決まっている。
その間はひとりじゃ歩いたりご飯を食べるのも困難だったからな。俺もご飯を食べる手伝いなんかを手伝おうとしたのだが、結局アオイが全部率先してやってくれたので申し訳なかった。
「いえ、カケルさんを責めたわけじゃないんですよ。あの子は昔から一度自分で決めたことには一直線というか、一途というか……。きっと私たちが止めたとしても、恩人であるカケルさんのために動いていたでしょうね。あんまり無茶はしないように、カケルさんの方でも見張っていただけると助かります」
「はい!」
なぜか逆に頭を下げられてしまった。悪いのは頼んだ俺なのだが、本当に申し訳ない。
言われてみると、春華ちゃんを助けるために異世界へ転移してからもわき目も降らずに頑張っていたみたいだし、たったの2年でSランク冒険者まで上り詰めていたので、そういった意志は強いのかもしれない。
さすがに今回のような件はもうないだろうし、冒険者をしばらく休業することもレインが手を回してくれるようだから大丈夫だろう。
「……よし、アオイの実家も問題なさそうだな」
ユウカの実家に続けて、アオイの実家にもやってきた。こちらの方もマスコミや動画投稿者などの面倒な輩が家周辺にまとわりついている様子もない。SNSなどを見てみると、権藤の炎上は多少落ち着いてきたようだ。裁判などは開始から判決が出るまで、結構な時間がかかるから、それまでは逐一状況を観測するとしよう。
ここまできたら、アオイの実家を確認するのは俺の実家と同様に一月に一度くらいでいいかもしれない。転生した後に実家を見に行った後も一月ごとに様子だけは見に行っている。なんとなく転生した後も実家のことは少し気になってしまうんだよな。
さて、あとはいつものように買い物をしてから異世界へ帰るとしよう。
「ん?」
アオイの実家の確認を終え、いつものように人が誰もいない街外れの公園へ向かっていた。いつもアオイの実家を確認する時には人気のないこの公園へやってきて、周囲に人がいないことを確認し、虚無のローブを羽織ってから日本帰還を使う。こうすれば万一俺がスキルを使う瞬間、人に見られても俺のことは認識されないからだ。
その公園へ入る手前、普段はこの通り自体に人がいることすらなかったのだが、今日は公園の前に人がいる。ピッチリとした黒いスーツに身を包み、真っ黒なサングラスをしている長身の女性。
なんというか、ビジネス街でもないこの静かな場所にはあまり見ない格好だ。……決してその大きな胸元が気になったから目についたわけじゃないぞ。そしてなぜかその女性は俺の方を見ている気がした。
俺の外見が外国人というのと、前世よりもイケメンだったこともあって人に見られることはこれまでも多くあったが、このまま公園へ入るのは躊躇われる。仕方がない、今日は別の場所から日本帰還を使って帰るとしよう。
「初めまして、異世界からの訪問者様」
「っ!?」
明らかに俺に向かって言われた言葉に頭の中が真っ白になる。
だが、先日のアビストータスの予期せぬ攻撃で学んだこともあり、身体が動いてくれた。首飾りを握り、護身用の魔道具を発動させて、俺の周囲に見えない障壁を発動させる。
このまま意識を集中して、日本帰還を使って異世界へ——
「お待ちください、我々はあなたに危害を加えるつもりはございません! どうか、少しだけ話を聞いてください!」
「………………」
目の前にいるスーツ姿の女性が両手を挙げて俺に害意がないということを示しているところを見て、俺は日本帰還を使うことを止めた。
確かによく考えてみれば、この人に害意があるのなら、俺に声などかけずに攻撃をしたり、監禁目的なら即効性のあるスタンガンや睡眠薬を背後から使っていたはずだ。
話とはなんだ? というか、なぜこの人は異世界の存在を知っている?




