第55話 戦いの反動
真っ二つとなったアビストータスはそのままピクリとも動かない。
どんなに治癒力があったとしても、身体を両断されてしまえばさすがに絶命しただろう。
「うわあ~まさか、あのアビストータスを甲羅ごと一刀両断しちゃうなんて本当にすごいね!」
「ええ、歴代のどの剣士よりも見事な剣戟にございました。あれほどの一撃をこの目で見られたことを誇りに思います」
レインとギュスターさんの言う通り、本当にすごい戦いだった。残念ながら俺の目には何が起こっていたのかほとんど見えなかったけれどな。
「カケル、やったわ!」
「ユウカ、本当にすごかったよ」
そんなことを話していたら、ユウカがこちらに戻ってきた。あれほどの激闘だったというのに、まだ余力はありそうだ。
初めてユウカの戦いを見たけれど、本当にすごかった。アオイの魔法もとんでもなかったし、俺の護衛をしている2人は本気でこの世界で一番強いんじゃないかと思ってしまう。……改めてそんな2人に俺の護衛してもらっていいのかなとも思うが。
「きゃっ!?」
「っ!? ユウカ!」
ユウカの身体を覆っていた赤い光が消えていくと同時に、ユウカが倒れそうになり、慌てて身体を支える。
「だ、大丈夫?」
「え、ええ! アオイの魔法が切れたのね。本当に身体から一気に力が抜けちゃったみたい……。カケル、ありがとう!」
「う、うん」
慌てて身体を支えたので、抱き抱えるような形になってしまったけれど、セクハラとか言われなくてほっとした。
……それにしても、あれだけの激闘を繰り広げていたというのに、ユウカの身体は本当に細くて可憐な女の子なんだと改めて思ってしまう。
「お楽しみのところを悪いけれど、すぐにここから離れないとね。さっきの咆哮を聞いて、様子を見に来る人がいるかもしれない。ギュスター、アビストータスの素材は難しいと思うけれど、魔石の回収だけ頼むよ」
「承知しました」
レインに言われ、ギュスターさんはすぐにアビストータスの方へ走っていった。
今回アビストータスを倒したことが俺たちであると知られないよう、すぐに撤収する。もちろんあんなバカでかいアビストータスの素材を全部回収するのは無理だが、魔石だけは回収する。100年以上生きてきた魔物の素材だから、かなり高値で売れそうだけれど、俺以外のみんなはお金に困っていないだろう。
王都の魔道具屋でアオイがいくつか購入していた魔石だが、魔物には魔力の源となる魔石という器官が存在する。大きいほど魔力を蓄えており、いろんな魔道具に使えるらしいので、それだけは回収していかなければな。
「僕たちは先に馬車のところまで戻っていよう。ユウカさんはまだほとんど動けないみたいだから、悪いけれどカケルくんが背負ってもらえるかな?」
「っ!?」
「ああ、もちろん!」
ユウカは先ほどの魔法の反動で、自分ではまともに歩くことができない状態みたいだ。身体能力があれほどまで向上していたのだから、それくらいの反動は当然なのかもしれない。
みんなが死力を尽くしてここまで戦ってくれたのだから、俺も何か力にならなければ!
前世だとまったく運動をしていなかったが、こっちの世界ではずっと肉体労働をしていたこともあって、女性を背負ってソラバルの街まで歩くことくらいはできるはずだ。
「ユウカ、失礼するよ。嫌だったらいつでも言ってね」
「……ううん! よろしくね、カケ——」
「カケル様、魔力がある程度回復してきたので、私に任せてください!」
ユウカを背負いやすいように背中を向け、ユウカが俺の背中に体重を預けようとしたその時、一気にユウカの重さが消えた。
後ろを見ると、アオイが魔法でユウカを浮かせてくれたらしい。
うん、さすがに男である俺に身体を触れられるよりも、アオイの魔法で運んでもらった方がいい気がする。
「そうだね、アオイに任せるよ。あっ、後ろに吹っ飛んでいったドローンとかも回収しないと! ちょっと待ってて」
「あっ……」
先ほどのアビストータスの攻撃によって横に置いてあったドローンや他の荷物なんかが吹っ飛んでしまった。
特にドローンは絶対に回収しないといろいろとまずい。今は一番元気な俺が動くとしよう。
「……アオイ、本気で恨むわよ」
「抜け駆けはさせない。私も同じくらい戦闘に貢献した」
「ふふっ、これはこれでちょっと面白いかもしれないね! やっぱりカケルくんの周りは面白そうだなあ。僕もベルリアの街へ引っ越したいところだよ」
俺が吹き飛んだ荷物を回収していると、後ろの方で3人がなにかを話している声が聞こえた。
アビストータスとの戦闘では3人ともとても息があっていたなあ。アビストータスを倒せたのは3人のおかげだ。100年近く誰も倒せなかった魔物を倒すなんて本当にすごいことだよ。
これでソラバルの街を守れたし、恩人であるブルーノさんの誇りも守ることができた。3人にはあとで改めてお礼を伝えるとしよう。




