第54話 2人の力
「2人とも無理だけはしないでね」
「はい。私の方は魔力を消費するだけなのでリスクはないです」
青色の魔力回復ポーションを飲むアオイ。アビストータスは先ほどと同じで動かないままだ。
これからアオイとユウカがやろうとしていることは先ほどまでの長期戦とは真逆の短期決戦だ。
アオイの魔法でユウカを補助する。アビストータスにもう一度近付くのは躊躇われるけれど、その状態のユウカなら確実に先ほどの攻撃を回避できるらしいので、最後にそれを試してみることになった。
「私の方はしばらく動けなるらしいから、あとのことはアオイに任せるわね」
「任せて」
どうやらその魔法は使用後にリスクがあるらしい。魔法を受けた側はその反動でしばらく身体が動けなくなってしまう。それもあって、昨日事前に試すことはできなく、ぶっつけ本番になってしまったようだ。俺はその魔法のことを知らず、アオイも昨日ユウカにそれとなく伝えていただけだった。
「……ユウカ、アオイ、頑張って!!」
今の俺には2人に声援を送ることしかできない。無力な自分が本当に恨めしく感じる。
2人のことがすごく心配だけれど、きっと俺が心配したところで何も変わらない。それならば、2人のことを信じて送り出そう!
「任せて、カケル! 必ずあいつを倒してみせるわ!」
「カケル様の期待に必ず応えてみせます!」
「それではいきます」
魔力ポーションを飲んで魔力を最大限回復して、ユウカの前に立つアオイ。
杖を正面に掲げてゆっくりと目を閉じて集中する。
「血潮よ滾れ、骨肉よ超克の理を刻め、彼の魂に力を顕現せしめよ——」
アオイがその目を見開き詠唱を始めると、ユウカの足元に巨大な魔法陣が現れた。
「我が魔力を糧に、無尽の力を解き放て! アンリミテッド・フォース・ソウル!」
「っ!」
詠唱が完成すると、魔法陣が輝き始め、その中心にいたユウカの身体が、赤い光に包まれていく。
「くっ……」
「アオイ!」
詠唱が終わると、アオイが膝をついた。
「魔力を急激に消費しただけなので、少し休めば大丈夫です。それよりも、その状態は長くもたない。ユウカ、あとは任せた」
「……すごい、今まで感じたことがないくらい力が溢れてくる! 任せて、アオイの分までやってみせるわ!」
ユウカは自身の身体の動きを確かめるように手や足を軽く動かす。その身体は赤い光を帯びている。
そしてユウカが駆けだした瞬間にその姿は完全に消え、一筋の赤き閃光がアビストータスの下へ一直線に走った。
「うわっ、なんだこれ! めちゃくちゃ速い上にあの硬いアビストータスの身体をあっさりと斬り割いているよ!」
すでに双眼鏡を覗いて先ほどの攻撃に備えていたレインが声を上げる。
俺もアオイが問題ないことを確認してから双眼鏡を覗く。そこにはユウカの姿はまったく見えなかった代わりに、深紅の閃光が縦横無尽に走り、赤い筋が通ったあとにアビストータスの硬い肌から黒い血液が噴き出していく。
「アオイの固有スキル『魔導王』の力と、ユウカの固有スキル『剣聖』の力が合わさると、これほどの力となるのか……」
アンリミテッド・フォース・ソウル——術者の魔力を使用者の力に変換する肉体強化魔法の最上位魔法だ。
ただでさえ強いこの2人の力が1つになれば、これ以上ない力となるのだろう。どんな祝福者も今の状態のユウカには手も足も出ないに違いない。
「だけどこの魔法は効果時間がとても短いです。おそらくあと3〜4分で魔法の効果が切れてしまいます」
無敵に思えるような今のユウカだが、この魔法の効果はとても短く、身体を魔法の力で酷使してしまうため、魔法が切れるとその反動で使用者はしばらく動けなくなるらしい。
魔法が発動中の5分ほどにすべてを賭けるしかない、まさに諸刃の剣である魔法だ。
『ようやく身体が慣れてきたわ! 大丈夫、このまま押し切ってみせる!』
確かに赤い閃光が先ほど以上の速さで動いているように見える。ユウカが少しずつこの状態に慣れてきたらしい。
……くそっ、事前にこの魔法を試せて、ユウカがこの状態に慣れていればな。アビストータスがソラバルの街に来るまで時間がなかったのはとても痛い。
『影月連華! 龍滅十字斬! 虚空閃撃!』
ユウカがさらにペースを上げ、先ほどまでは使用していなかった剣技を次々と使っていく。
相変わらず俺の目には赤い閃光が動き回って見えるだけだが、先ほどよりもアビストータスの身体から吹き出すドス黒い血液の量が増えた。そして足よりも固い頭にも攻撃を仕掛けているようで、そちらにも大きな傷ができていく。
先ほどに加えてさらに出血量が増加したのに、まだアビストータスは生きている。やはり先ほどは回復に専念していたらしく、血液の量まで回復してしまったのかもしれない。
「ゥルルルル……!」
「っ! さっきの……!」
アビストータスがまたしても巨大な咆哮をあげる。その余波がこちらにまで届き、大地が揺れた。
まずい、先ほどは咆哮と同時に例の攻撃が……。
「大丈夫、さっきの攻撃はないよ! そのまま攻撃を続けて!」
『ええ、断末魔といったところね!』
レインの悪意察知には先ほどの攻撃は来ないことが見えている。近くで戦っているユウカも戦いながらそれを感じ取ったようで、攻撃を緩めることはなかった。もっとも、今の状態のユウカであれば、それすらも防ぐか避けることも容易く思える。
やはり先ほどの攻撃はそう何度も使えるものではなかったらしい。あやうく絶好の機会を逃してしまうところだった。
『これで終わりよ……』
赤い閃光がアビストータスの正面でピタリと止まる。
ユウカはその場で立ち止まり、両手で持った日本刀を上段に構え、精神を極限まで集中させている。
1秒……2秒……3秒……刀を構えたまま、まるで時が完全に止まったかのように静寂の時間が過ぎていく。
『天覇一閃!』
赤い光の筋すらも残さずユウカの姿が完全に消えた。
遅れてその一刀の余波による突風がこちらにまで届き、大地が裂け、アビストータスの巨大な身体が両断された。




