第50話 戦略級極大魔法
『カケル、聞こえる? 目標を視認したわ』
『カケル様、聞こえますか? こちらも敵を確認しました』
「どちらの声も聞こえるよ。こっちも遠くにだけれど、黒い甲羅を確認できた」
2人はこの場にいないが、耳元のイヤホンからユウカとアオイの声が聞こえてくる。
これは日本で購入してきた無線型のインカムだ。詳しいことは俺もよくわからなかったのだが、秋葉原のお店の人が数キロ離れた場所でも使えるデジタル簡易無線機というものを教えてくれた。これがあればリアルタイムで通話をして連携を取れつつ、ハンズフリーのイヤホンなので戦闘に支障はきたさないはずだ。
「先ほどのドローンという道具に加えてこんな道具まで……」
「国宝級の魔道具ほど距離は飛ばせないけれど、魔力も使わず小さくて邪魔にならず、リアルタイムで情報を共有できるから、間違いなく戦争の仕組みそのものが変わっちゃうよね」
またしてもギュスターさんが驚いている。すでにレインには返した国宝級の魔道具である水晶ほど遠くの距離は無理だが、それでも数キロメートルの距離を繋ぎ、複数人で簡単に連絡がとれてしまう。
レインの言っていることも過言ではないのかもしれない。日本の物資は使い方次第で軍事的な脅威にもなってしまう。俺に伝手はないけれど、なんなら戦車とかをこっちに持って来ることすら可能なのかもしれない。
うん、本当に使い方には注意しないとな。
「目標はそのまま直進中。予定通り、もう少しこちらに進んで、開けた場所に出たら攻撃を開始しよう」
『『了解!』』
アビストータスはゆっくりとだが、確実にこちらへ近付いてきている。
俺たちの後ろにはソラバルの街がある。どうにかここで食い止めたい。
「……それにしても、本当に大きい。あいつが歩くだけで地響きが起こるぞ」
「さすがに天災と呼ばれている魔物だけあるよね」
「やつの通ったあとにはしばらく草木も生えないようです」
アビストータスがこちらに一歩近付くたびにズシンという音が響き、大地が震えた。
ここからはまだだいぶ距離があるというのに大きな漆黒の山が動くところが見える。今も高くそびえ立っていた巨木がアビストータスに噛み砕かれ、一瞬のうちに消えていった。
先ほど回収したドローンでアビストータスが通ってきた跡を見たが、木々は一切なく、その巨体に踏み潰された平らな大地が続いているだけであった。大地喰らい、あるいは天災と呼ばれている魔物だけのことはある。
「アビストータスが開けた場所に出た。アオイ、頼む!」
『はい、お任せください!』
アビストータスが草原の中心へと歩みを進める。ここなら遮る物や障害物はない。
『天を巡る星々よ、虚空の彼方より出でて、滅びの炎を呼び寄せん——』
インカムからアオイの呪文詠唱が聞こえる。
この異世界の魔法の発動方法には詠唱魔法、詠唱破棄、無詠唱の3つがあるらしい。詠唱をすると時間がかかり隙は多いが、一番威力が高くなる。アビストータスの動きは非常に遅いので、じっくりと詠唱をしながら、最大の火力で攻撃が可能だ。
どちらにせよ飛行魔法で空を飛んでいるアオイにアビストータスの攻撃はまったく届かないがな。アオイの魔法はノーリスクでアビストータスを一方的に攻撃することが可能である。
『大気を焦がし、遍くすべてを灰燼に帰せ! メテオ・カタストロフ!』
アオイが詠唱を終えた瞬間、空に巨大な魔法陣が浮かび上がり、そこから10メートルほどの燃え盛る炎に包まれた隕石が5つも現れ、アビストータスに向かって高速で落ちていく。
周囲にとてつもない爆音が轟き、だいぶ距離を取っているというのに、その魔法の余波がここまで届いてくる。
「……これが賢者であるアオイ殿の魔法ですか。本当に祝福者様の固有スキルというものはとてつもないですな」
「アオイちゃんがエルフという種族なのも関係あると思うよ。エルフという種族は生まれながらにして高い魔法適正を持っているから、アオイちゃんの『魔導王』との相性が抜群にいいんだろうね。歴代の『魔導王』の固有スキルを持った祝福者でも、ここまでの魔法はそう簡単に扱えなかったと思うよ」
「………………」
とんでもない威力の魔法を目の前にして驚いて言葉が出なかった俺の横で、冷静にギュスターさんとレインさんがアオイの魔法について述べる。
前にシルバーウルフという魔物を倒した雷魔法とは一線を画す威力の魔法だ。確かにあの時は全然本気じゃなかったんだな……。まさか隕石を落とすとは、魔法とは本当にとんでもない……。
事前にアオイから聞いていた火魔法と土魔法の混合魔法である『メテオ・カタストロフ』。広範囲に及ぶ、戦略級極大魔法。祝福者同士の戦いで地形が変わってしまうと言うのも、決して誇張ではなかった。
『……駄目ですね、周囲の魔物はすべて殲滅できましたが、アビストータス自体は動いております』
先ほどのアオイの魔法により、まだ周囲は土煙に覆われているが、アオイの目からはすでにアビストータスが生存していることが見えたようだ。
「アビストータスの甲羅は高い魔法耐性がありますからな。とはいえ、あの規模の魔法でも動きを止めないとは驚きました」
あの漆黒の甲羅には高い魔法耐性があると事前に聞いていたが、ギュスターさんの言う通り、あれほどの魔法をくらってもその歩みを止めることがないとは、本当に規格外の魔物のようだ。
今の魔法で倒せれば話は早かったのだが、ここまでは想定内である。本番はこれからだ。




