第48話 レインの従者
ソラバルの街を出て、レインと落ち合う場所へとやってきた。開けた草原で、アビストータスの進路上、ここを通るらしい。
すでにこの周辺には人が来ないよう勧告が出されていることもあって、周囲には誰もいない。先日行われたソラバルの街の総攻撃が駄目だった時点で、すでに避難に切り替えているのだろう。
「おっ、レインも来たみたいだ」
先日俺たちが乗ってきたスレイプニルの馬車が草原までやってきた。
……外から見ると、スレイプニルの馬車はこんなに速かったんだな。そしてその威圧感はとんでもなく、さすがAランクの魔物と思わせるほどだった。これを超えるSランク相当の魔物であるアビストータスとは一体どんな魔物なのだろうな……。
馬車からレインともうひとりの男性が降り、スレイプニルの馬車はここから退避して離れたソラバルの街まで去っていく。俺たちが乗ってきた馬車もソラバルの街まで避難しているので、俺たちが退避する時も一度街まで戻る。
「みんな、待たせちゃったね」
「俺たちも一度ソラバルの街へ寄ってきたから、さっき到着したばかりだよ。それよりも、今回は俺の頼みのためにいろいろとありがとう」
「いやいや、カケルくんは僕の恩人だからね! むしろ僕を頼ってくれて嬉しかったよ」
レインは笑顔でそう言ってくれる。レインだけでなく、ユウカとアオイもありがたい限りだ。
「それで、そちらの方が……」
「うん、僕の護衛兼従者のギュスターだよ」
「お初にお目にかかります。第四王子レイン様の従者のギュスターと申します」
50代後半の初老の男性で、赤みがかった髪には幾筋かの白髪が混じっている。この異世界の軍服のような黒いコートに身を包み、その腰の両側には2本の剣を携えていた。
右手を左肩に添え、俺たちに頭を下げながら、低く落ち着いた声で初対面の挨拶をしてくる。
「初めまして、カケルと申します」
「ユウカと申します」
「アオイです」
俺たちもギュスターさんと同じように礼をする。
「なるほど、レイン様の他に3人もの祝福者様がこの場にいらっしゃるとは、これはまた面白い運命ですな」
俺たちを見ながらそう告げるギュスターさん。そう、彼には俺たちが祝福者であることをすでに話している。
先日魔道具でレインと通信した際、彼にだけ俺たちのことを告げていいかと確認されたため、それを承諾した。レイン側にもひとり俺たちの事情を知っている人がやりやすいという理由と、レインひとりでは王城の外に出られないことが大きな理由だ。
レインの固有スキルは便利だけれど、自身の戦闘能力はないから、王城の外に出る時は護衛が必須となる。本来であれば複数人の護衛が必要らしいけれど、彼ならばひとりでも問題ないらしい。ギュスターさんはレインが生まれる前からこの国に仕えており、レインが生まれてからはずっと彼に仕えているようなので信用ができる。レインの普段の口調も知っているようだ。
「Sランク冒険者のユウカ殿、そのお噂はかねがね。ふむ、噂に違わぬ強者のようですな」
「……ギュスターさんこそ、相当な場数を踏んでおられるようですね」
「それなりに歳を重ねておりますからな。賢者のアオイ殿は随分と強大な魔力をお持ちですね。エルフの祝福者様とは初めてお会いしました」
「そ、それほどでもない……」
うん、戦闘に関してはまったくド素人の俺でも、彼がユウカやアオイのように只者でないことはすぐに察知できた。なんというか、強者の風格が滲み出ている。
たとえ固有スキルを持たずとも、強大な魔力を持った才能の持ち主や自らを鍛え上げた強者がこの異世界には存在する。ギュスターさんもそのうちの一人のようだ。
「そしてカケル殿。レイン様が裏でなにやら動いていたことは知っておりましたが、まさか祝福者様の世界へ渡れる祝福者様がいらっしゃるとは思ってもおりませんでした。まずはレイン様のわがままにお付き合いいただき、誠にありがとうございました」
俺は一体何を言われるのかと思ったけれど、普通にお礼を言われて頭を下げられた。
レインが最初に会った時からあんな感じだったから、その従者のギュスターさんもそんな感じなのかと思ったけれど、すごく真面目な人みたいだ。
「いえ、ちゃんと対価はもらっていますし、私も今回のように手を貸してもらいましたので。ギュスターさんもご協力いただき、本当にありがとうございます」
「とんでもないです。……レイン様が勝手に国の機密情報を持ち出したことを知り、カケル殿の情報を隠しておけと言われた時は随分と頭が痛くなりましたが、その相手がカケル殿のようなまともなお方でほっとしました」
「ギュスターは相変わらず大袈裟だなあ。カケルくんなら大丈夫だって言ったでしょ」
「「「………………」」」
ギュスターさんがこめかみを押さえながら頭を傾ける。
うん、俺も本当にいいのかなと思っていたし、どちらかというとギュスターさんのほうが普通の反応だよな。どうやらレインに言われて俺のことは国に話さないでくれているらしい。なんだか犯罪に加担させているようで、すごく申し訳ない。
「そしてカケル殿。先日いただきましたショートケーキという菓子はとても美味でした。甘いクリームと甘酸っぱい赤い果実のバランスが実に見事でしたよ。祝福者様の世界ではあのような甘い菓子があることに驚きました」
「え、ええ。それはよかったです」
先日俺たちが食べたケーキを漫画と一緒にレインにも2個送っておいたのだが、どうやらそのうちのショートケーキをギュスターさんも食べたらしい。
こちらの世界のケーキよりも日本で販売されているケーキのほうが優れているみたいだからな。ギュスターさんには今後ともお世話になりそうだし、今回の件が落ち着いたら、また送ってあげるとしよう。
「さあ、自己紹介も終わったことだし、ぼやぼやしているとアビストータスが来ちゃうよ。早速作戦開始といこう」
「ああ。まずは偵察からだ。それはこっちに任せてくれ」
そう言いつつ、俺はマジックバッグから日本で購入してきたドローンを取り出した。




