第47話 ソラバルの街
「見えてきた、ソラバルの街だ」
レインからアビストータスの報せを聞いてから1日で準備をして、ベルリアの街からスレイプニルとまではいかないまでも速い馬車を使ってソラバルの街までやってきた。まだ例の魔物は街まで到達していないらしく、ひとまずほっとする。
ベルリアの街や王都の街と比べるとだいぶ小さく、付近にはそれほど大きな村もない辺境の街だ。とはいえ、俺にとっては異世界に来てから初めて訪れた街で、一月ほど過ごした思い入れの深い街でもある。
「気付いたらちょうどあの辺りの草原にポツンとひとりで立っていたんだよなあ。でも、街が見える範囲に転生してきたのは助かったよ」
「私は森の泉付近に転生してきましたけれど、すぐ近くに村がありました。いきなり身体が小さくなっていて、泉に映った自分の姿を見たらエルフだったので、夢かと思いましたね。村の人には良くしてもらったのですが、とにかく前世のことが気になって、あまり良い態度ではなかったかもしれません……。今回の件が落ち着いたら、私もあらためてお礼を伝えにいきたいですね」
「アオイも最初は大変だったのね。私も最初は街の近くに転移してきたわ。もしかすると、村や街の近くに転移や転生をするのかもしれないわね」
俺だけでなく2人も村や街の近くに転移や転生をしたらしい。ただし、場所は全員バラバラで、そもそも別の国に転移や転生する可能性もあるらしい。
そんなことを話しながら、馬車は街へと近付く。街の門付近は多くの人が慌ただしくしており、馬車で街から出ていく者がその大半であった。すでに街には避難勧告が出され、付近の村や街へ避難が始まっているのだろう。
「おい、あんたら。今この街にはバカでけえ魔物が近付いてきてんだ。あんたらもさっさと避難を……ってカケルじゃねえか!」
「ブルーノさん、お久しぶりです」
ソラバルの街の門の前に到着し、馬車を降りて入口へ向かう。
薄茶色の髪をして無精ひげを生やした40代くらいの衛兵が近寄ってきたと思ったらブルーノさんだった。一月以上前にこの街を出ていった俺のことを覚えていてくれたみたいだ。
もう忘れられてしまっているのではと思っていたから、ちょっと嬉しい。もちろん俺も恩人のブルーノさんのことはしっかり覚えている。前に会ったとそれほど変わっていないが、慌ただしかったのか髪が乱れ、無精ひげがだいぶ伸びていた。
「久しぶりだな、元気そうで何よりだぜ! おいおい、可愛い彼女を2人も連れてくるなんて、随分と立派になって帰ってきたな」
「ああ、いや、彼女じゃないんだけれど、今とてもお世話になっている2人なんだ」
「初めまして」
「は、初めまして」
俺がそう紹介すると、ユウカとアオイは笑顔でブルーノさんに挨拶をする。アオイは人見知りでブルーノさんはちょっと怖い顔をしているけれど、俺の知り合いということもあってか、それほど怯えてはないみたいだ。
2人にはフードをかぶって、黒い髪やエルフの長い耳を隠してもらっている。今回は目立ちたくないこともあって、2人の素性は隠している。
「ブルーノだ。カケルもお嬢さん2人もせっかくソラバルの街までに来てくれて嬉しいんだが、今はやべえ魔物がこの街に向かってんだ。先日この街の騎士や冒険者たちが総攻撃を仕掛けたんだが、そいつはビクともせずにこっちへ向かっている。今は街のやつら全員で避難しているんだ。カケルたちも早く避難してくれ!」
どうやら俺たちが来る前に、街にいる人たちで総攻撃を仕掛けたらしい。撤退は無事にできたみたいだけれど、やはりアビストータスを倒したり、進路を変えたりすることはできなかったらしい。
「わかりました。ブルーノさんたちも早く避難してくださいね。門番の誇りもすごく大事ですけれど、自身のことも大切にしてください」
ブルーノさんから聞いていた30年間この街で門番として街を守っていた誇り。
もちろんそれも大切だが、今はブルーノさんの命の方が大事だ。彼なら大丈夫だと思うけれど、一応言っておかないと。
「おう、俺たち衛兵も街のやつらを全員避難させたらすぐに逃げるさ。今は俺のちっぽけな誇りなんてどうでもいい。俺たち衛兵の名にかけて、怪我や病気で自力じゃ動けねえ者、ガキんちょやじいさんばあさんたちを含めた街のやつら全員を絶対に避難させてみせるぜ!」
「……はい」
心配する必要はなかったみたいだ。そうだよな、ブルーノさんならそう考えるか。
先に街の人の避難を手伝おうと思っていたけれど、こっちはブルーノさんたちに任せておけば大丈夫そうだ。俺たちも今できることをするために、レインと打ち合わせていた場所へ移動しよう。
「ブルーノさんはすごくいい人みたいね」
「イケオジだった。カケル様が気にかけている理由もよく分かりました」
「うん。どんな状況でも街の人たちのことを第一に考えているんだ。見るからに怪しくて何も持っていない俺にまで優しくしてくれた、俺の恩人だよ」
本当に前に会った時のままだったな。
自身の誇りをちっぽけと言い切れる彼のことは本当に尊敬できる。なんとか彼の誇りを守ってあげられればいいんだけれど……。




