第46話 俺の恩人
「そういえばソラバルの街の詳しい話はしていなかったっけ。あの街では同じ駆け出し冒険者の人や冒険者ギルドの教官さんにもお世話になったけれど、一番お世話になったのは街の門番をしていた衛兵のブルーノさんだ。この世界に転生した直後、何も持っていない俺に水とパンをくれて、いろいろ教えてくれた恩人なんだよ」
俺がこの異世界へ転生した時は何も持っていない状態でソラバルの街が見える草原にいた。街の門番をしていたブルーノさんは異世界に来て何も知らず、何も持っていない俺に水や食料を恵んでくれ、冒険者になれば生きていけるくらいの日銭は稼げると教えてくれた。
この異世界に来た時から固有スキルの日本帰還は使えたが、日本でも身分証がなければ何もできないのは前に伝えた通りだ。飲み水だけは日本の公園で確保できたが、たぶんブルーノさんに助けてもらわなかったら、食べる物がなくて、日本で万引きなどの犯罪行為をしていたと思う。
そういった意味でもすごくお世話になった人である。このベルリアの街へ移動する時も挨拶をしたけれど、もう一度改めてお礼を伝えにいこうと思っていた。
「……なるほど。この世界でそこまで他人へ親切にしてくれる人はほとんどいないから、本当に優しい男性みたいね」
「ああ。俺だけじゃなくて、街にいた貧しい子供たちにも優しくしていたんだ。自分が孤児であの街の人に優しくしてもらって育ったから、その恩を他の人に返しているって言ってたよ」
ユウカの言う通り、日本ほど豊かじゃないこの世界で、他人にあれほど優しく接してくれる人は本当に少ない。そもそも多くの人は自分の生活だけで手一杯だからな。
『そんな優しい人もいるんだね。でも、このままだとソラバルの街は危ないよ。アビストータスは村や街のある場所を目指して進む習性があって、今はソラバルの街を目指して進んでいる。そしてその村や街にある家や畑などを地面ごと喰らいつくすんだ。大地喰らいと呼ばれている由縁だね』
「街を喰らいつくす……。なんとかして防ぐ方法はないの?」
『う~ん、アビストータスは一度進路を決めると、本当に真っ直ぐ進んでいくからね。進む速度が遅いのと、人的被害がほとんどないけれど、天災と呼ばれるほどの脅威なんだよ。これまでに多くの冒険者や実力者が挑んできたけれど、誰にも倒すことができていない魔物なんだ』
「そうか……」
そう簡単に進路を妨害できるほど甘くはないか。100年近く誰にも倒されていない魔物だし、その脅威は相当なものだろう……。
『だけどそこには剣聖のユウカさんと魔導王のアオイちゃんがいるからね。もしかすると2人の力なら、アビストータスを倒せるかもしれないし、倒せないまでも進路を変えさせることができるかもしれないよ』
「……いや、2人にそんな危険なことは絶対にさせられない」
「カケル……」
「カケル様……」
Sランク相当の魔物という話を聞いた時に一瞬同じSランクである冒険者のユウカと賢者のアオイならという考えが一瞬頭の中に浮かんでしまった。
だけど、俺個人の願いのためにそんな危険な魔物と2人を戦わせるわけにはいかない。ブルーノさんやあの街のことについては少し思うことがあるけれど、住民は避難しているのは不幸中の幸いだろう。
『ああ、ユウカさんとアオイちゃんの身の安全については心配する必要はないと思うよ。アビストータスはものすごく大きくて硬い魔物だけれど、動きがとても遅いから撤退は容易なんだ。これまで多くの者がアビストータスに挑んだけれど、そのほぼ全員が帰還している。もちろん死者もいるけれど、自身の力量を大きく見誤った者ばかりだし、2人なら間違っても撤退の判断は見誤らないと思う』
「えっ!?」
『たとえ負傷したとしても、こっちの世界にはポーションなんかがあるから危険は少ない。なんだったら遠距離からアオイちゃんの全力の魔法を撃ってみてもらって、それが駄目ならすぐに撤退すればいいだけだし、試してみる価値は十分にあると思う。もちろん僕も全力でみんなに協力するよ!』
「………………」
よほど強い魔物らしいけれど、俺が思っているよりも危険は少ないらしい。
確かにレインの言うように、遠距離から魔法を放つだけならリスクは限りなくゼロだ。王都へ行く時に見たアオイの魔法はとても強力だったけれど、あれはまだ全然本気じゃなったようだし、本気の力ならたとえ倒すことができなくても、進行方向を変えさせることはできるかもしれない。
「……ユウカ、アオイ、レイン。俺は何の力もないけれど、みんなの力ならなんとかできるかもしれない。少しでも危険があるのなら、こんなことを言うべきことじゃないことはわかっているけれど、あの街にはお世話になった人が大勢いて、俺はあの街の人たちの力になりたい。どうかみんなの力を貸してほしい!」
俺はみんなに向かって深く頭を下げた。
あの街の人たちにはお世話になったし、短い間だったけれど思い出もある。それにブルーノさんはあの街で30年もの間、門番として街を守っていたことが自身の誇りだといつも言っていた。俺は恩人である彼の力になりたい!
「ええ、任せてカケル! 私たちの力ならいくらでも貸すわ!」
「カケル様の恩人は私たちの恩人でもあります! 絶対に街を守りましょう!」
『僕たちチームの初陣だね。ふっふっふ、たぎってくるじゃないか!』
「みんな……本当にありがとう!」
俺の頼みにみんなは迷いなく付き合うと言ってくれた。こんなに嬉しいことはない。
俺は本当にいい仲間を持ったみたいだ。
「カケルが初めて私たちの力を頼ってくれて嬉しいわ! ふふっ、今の私ならどんな魔物にも負ける気がしないわね!」
「カケル様に多少なりともご恩を返せるまたとない機会! 必ずその魔物を倒してみせる!」
『100年間続く魔物の伝説に終止符を打つ。カケルくんの伝説にふさわしい一歩だね!』
……俺が思っている以上にみんなやる気になってくれているらしい。




