第40話 久しぶりの味
「おっ、ベルリアの街が見えてきた」
昨日王都を出発し、行きに通ってきた街の同じ宿に泊まり、今日も快適な馬車の旅路を進み、日が暮れる前にベルリアの街が車窓から見えている。
行きは魔物の群れに襲われている馬車に遭遇するトラブルがあったけれど、帰りは特に何事もなく無事に帰ってくることができた。やっぱり馬車を引いているスレイプニル自体が強い魔物なのと、あまりにも速くて誰も追いつけないのだろう。
「帰りもなにもなかったわ……」
無事に街まで帰ってくることができたというのに、少し残念そうにしているユウカ。
ちなみにアオイは今日の途中で馬車を降り、自分の研究室によって、魔道具を作成するために必要な道具などを持ってくるそうだ。ひとりなら飛行魔法を使えるので、急げば今日中に屋敷まで戻ってこれるらしい。
久しぶりに自分の家であった研究室に戻るのだから、それほど急がずに、少しくらいゆっくりと過ごしていけばいいのになと思ってしまった。
「王都も楽しかったけれど、やっぱりこの街が落ち着くなあ。なんだか、帰ってきたって感じがするよ」
「ふふっ、カケルがそう思ってくれて嬉しいわ」
滞在した期間で言えば、俺が最初に転生してきた街が一番長かったけれど、あっちに滞在している時は生きるのに必死で寝床も点々としていたから、暮らしていたという認識はあまりなかった。
やっぱりこの街のユウカの屋敷が今の俺の帰る場所なのだろう。
「お待たせ。王都だとずっと豪華な料理ばかりだったから、今日はシンプルな和風料理にしてみたわ」
「うわ、ご飯とお味噌汁のいい香り!」
「やっぱりこういうのがいい!」
久しぶりにユウカの屋敷へ戻ってきて、お風呂に入って旅の疲れを癒した。こっちの世界だと高価だけれど魔道具があるので、前世と同様にお風呂がある。その辺りは日本からの転移者ということもあって、しっかりとお風呂付きの屋敷を選んでいたようだ。
アオイもユウカの屋敷に帰ってきたところで、ちょうど晩ご飯の支度ができ、みんなで椅子へと座る。
今日の晩ご飯はご飯、味噌汁、肉じゃが、ほうれん草のおひたし、出汁巻き卵という晩ご飯だった。アオイの言う通り、今はこういうのがいい!
「ああ~おいしい! 本当に落ち着く味だよ!」
醤油とみりんの甘辛い香りが食欲を刺激する。じっくりと煮込まれたお芋が口の中でホロホロと崩れ、ニンジンの自然な甘みとトロトロになったタマネギ、たっぷり出汁の染みこんだ牛肉が一体となって絡み合う。
そこから白くふっくらと炊きあがったご飯を一口食べれば、甘じょっぱい肉じゃがの汁とほんのり甘いご飯が至福のハーモニーを奏でる。
出汁の染みた卵焼きやほうれん草のおひたし、慣れ親しんでいた味噌汁の味が五臓六腑に沁みわたる。
「王都の料理もすごくおいしかったけれど、あれがずっと続くとちょっときつい……」
「ええ。どの料理も最高級の食材を使って、工夫の限りを凝らしていたけれど、さすがに連日だと飽きちゃうわよね」
「うん、本当に沁みるなあ。やっぱり日本人は米なんだろうね」
アオイとユウカの言う通り、街の宿や王都の宿と王城で出てきた料理は前世を含めてこれまで一度も食べたことがない、高級でとてもおいしい料理だった。しかし、それが連日続くと少し飽きてしまう。
この異世界に来てから一月はずっと貧しい食生活を送っていた俺だけれど、慣れというのは怖いものだ。そしてそんな料理が連日続いた後に食べる今日の肉じゃがは本当に胃に沁みた。たぶんしばらく外国の料理を食べ続けたあとに日本食を食べるとこんな感じになるのだろうな。
レインから聞いた、過去に日本の米で争いになった祝福者の気持ちも少し分かるというものだ。確かに日本の米をこっちの世界に普及させることは今後のためにも大事なのかもしれない。
「2人とも喜んでくれてよかったわ。肉じゃがはよくお母さんと春華と一緒に作っていたのよ。野菜はこっちの世界にもあるけれど、ちゃんとした出汁やみりんなんかを用意できたのはカケルのおかげね」
「そっか。そのおかげでこんなにおいしい料理が食べられてラッキーだったよ」
「私も久しぶりに肉じゃがの味が楽しめた。ユウカに感謝する」
冒険者になって料理を作るようになったと前に行っていたけれど、その前から家でも母親の料理を手伝っていたようだ。
そして出汁や醤油にみりんなどの調味料は日本のものには敵わない。日本の調味料とユウカの料理の腕のおかげでこんなに落ち着く日本の味を楽しむことができたことに感謝しよう。
さて、無事にベルリアの街へ戻ってきたけれど、明日からもやる事が多い。とりあえず明日と明後日は土日なので、フリーマーケットでお金を稼がなければな。
せっかくだから、明日はみんなにちょっとしたお土産を買ってくるとしよう。




