第39話 帰還
「それではユウカ殿、アオイ殿、カケル殿。この度は非常に助かった。どうか、今後とも我と、そしてこのオライオン国と良き関係を築いてくれることを切に願う」
「……身に余るお言葉、光栄にございます。こちらこそ、今後ともレイン様とオライオン国と良き関係でいられることを望みます」
ユウカが右手を左肩に添え、レインに向かって頭を下げる。両隣にいるアオイと俺もそれに続いて頭を下げた。
昨日は散々俺たちにもっと王都へ滞在してほしいとごねていた青年と同一人物にはこれっぽっちも思えないほど厳格な雰囲気を出して、その礼に応えるレイン。今は俺たちだけでなくレインの護衛や他の偉そうな貴族たちもいるので、それにふさわしい言動をしているのだが、本当に普段の言動と全然違う。
さすがにこれまで王族として育ってきたこともあって、その辺りのオンオフはお手の物なのだろう。俺たちからしたら、こっちの方に違和感があるようになってしまった。
「また、王都へ来てほしい。いつでもみなを歓迎しよう」
「承知しました。その際はよろしくお願いいたします」
なぜこんな茶番のような挨拶をしているのかというと、対外的にはSランク冒険者のユウカと賢者のアオイと友誼を結ぶ形にしておいた方が俺の存在がバレないということになったからだ。
例の祝福者の記録に俺のことは伏せておくため、俺は2人の従者ということになっている。ユウカとアオイを表に立たせているようで申し訳ないけれど、2人は快くその提案を引き受けてくれた。王城への招待も冒険者であるユウカに依頼したことだし、俺のことは守秘義務を課した冒険者ギルドマスターしか知らない。始めからこれを見越してユウカに依頼したのだろう。本当にレインはよく考えている。
今後ベルリアの街へ戻ってからもレインとは交流を続けていくので、これなら頻繁に連絡をとっても他者からはユウカやアオイと交流をしているだけと思われるだろう。この友誼は実質的にはなんの効力や強制力もないので、国から呼び出されるということもない。
短い期間であったけれど、王都を回るのはとても楽しかった。いろいろと物価は高かったけれど、ベルリアの街には売っていない物も山ほどあったので、またお邪魔させてもらうとしよう。
「最初はどうなることかと思ったけれど、無事に協力者も得られたし、王都を観光できて楽しかったよ」
「カケルが楽しめたようでよかったわ。……カケルのことが知られてしまったのは問題だったけれど、その相手があれでまだよかったわ」
……確かに未練がそれほど大きな問題でなく、お互いに協力できるレインでよかったけれど、一応は王族だし、あれ呼ばわりはちょっと可哀想だ。確かに普段の言動はちょっとあれかもしれないけれど。
今は王都へ来る時と同じでスレイプニルの馬車に引かれてベルリアの街へ帰っている最中だ。いろいろとあったけれど、王都での滞在は楽しめた。
「屋敷へ戻る途中で一度研究室へ戻って必要な物を持ってくる。早急に屋敷のセキュリティを強化する」
「そうね。まさか私たちのせいでカケルのことがバレるなんて思っていなかったわ……。今まで以上に注意しないと」
「こればかりは仕方がないよ。まさか祝福者をあそこまで見張っている人がいるとは思っていなかったしさ。それに冒険者ギルドの方も休業しても不自然じゃないようにしてくれるらしいし、俺のことも誤魔化してくれるみたいだ」
ユウカの件についてはレインから王族からの直属の依頼を出すとして、冒険者ギルドに伝えてくれる。俺のことについても、違う噂を流して上書きしてくれるようだ。国の諜報部とやらは随分と優秀らしい。
屋敷のセキュリティもアオイが魔道具を使って強化してくれるらしいし、とりあえず今まで以上に安全になることは間違いなさそうだ。
「それにしても、まさか過去の祝福者の固有スキルのリストがあるとは思わなかったよ……。今回の知った情報の中で一番驚いたかもしれないな」
「そうね。同じ固有スキルがあって、同じ時代には現れないというのは考えてもいなかったわ」
「国で情報を管理しているというのも納得。このリストがあれば、他の祝福者からの襲撃に多少は備えることができる」
中の声は外に漏れないけれど、思わず小声になってしまうほど今回知った中では大きな情報だった。言われてみると、かなり昔から祝福者の多かったこの異世界で、剣聖という王道だけれど強そうな固有スキルをユウカが初めて手にしたとは考えにくいもんな。
アオイの言う通り、戦闘系の固有スキルをある程度把握できるので、祝福者と戦う時には大きなアドバンテージになる。どうやらこの異世界には悪事を働く祝福者もいるらしいからな。
……こんな重大そうな国家機密を俺たちに渡して本当にいいのかとも思うが、こちらを信頼してくれている証か。俺たちも他の人には見られないように大切に管理しよう。
「しばらくは日本のフリーマーケットでお金稼ぎかな。とりあえず、これでしばらくはゆっくりと過ごせそうだ」
権藤の件が片付いてから、いきなり王都へ呼び出しがかかって、すぐに王都まで来たもんなあ。
王都での高級宿はとても快適だったけれど、心が休まる暇はなかった。しばらくはユウカの屋敷にこもってのんびりするとしよう。ぼちぼち日本の物を屋敷の中でも楽しんでもいい頃合いかもしれない。




