第4話 エリクサーの力
「怪しい者じゃないから落ち着いて聞いてほしい。俺は優華さんの友達なんだ」
「お姉……ちゃん……?」
驚いた様子だけれど、表情があまり動かせないのか、ゆっくりとかすれた声で話す春華ちゃん。
「これが優華さんの生徒手帳やスマホだよ。お姉さんから薬を預かっているから飲んでね」
「くす……り……」
状況がよくわかっていないようだが、強引にこのままの流れでエリクサーを飲ませてあげよう。
マジックバッグに入れていたエリクサーを取り出す。横になった状態ではエリクサーを飲めないので、春華ちゃんを斜めに支えてあげながら、深紅のエリクサーを口元へ当ててゆっくり飲ませてあげる。
「うわっ!?」
すると突然春華ちゃんの身体が光り輝いた。
「えっ、嘘……身体が!」
すると先ほどまで自分で身体を起こすことさえできなかったはずの春華ちゃんが突然上半身を自分の力で起こした。
すごいな、これがエリクサーの力か……。現代医学が完全に敗北しているぞ。
「どうして……? そうだ、お姉ちゃん! お姉ちゃんはどこにいるの!」
「おっと、落ち着いて」
春華ちゃんがベッドから立ちあがろうとしてくるが、倒れそうになってしまったので支えてあげた。彼女の手や腕はだいぶ細い。身体の方は今のエリクサーで治ったようだが、数年動けなかったせいか、筋力が衰えているのだろう。
さすがにエリクサーもそこまでは回復してくれないようだ。だけど今は歩けないかもしれないが、リハビリをしていけばきっと回復していくに違いない。
それにしても、身体が動くようになってすぐに姉の心配か。ユウカさんも異世界に転移したのに妹のことばかり考えていたようだし、とても仲の良い姉妹のようだ。
「実は優華さんはすぐに帰れない遠い場所にいるんだ。だから代わりに俺が来たんだけれど、優華さんは今も元気で生きてるよ」
「……っ! 生きてる、お姉ちゃんが本当に……!」
涙をボロボロと流しながら喜んでいる春華ちゃん。2年前に失踪していたはずの姉が生きていて本当に嬉しいのだろう。
「詳しいことは言えないけれど、君の身体を治したのも優華さんのおかげだよ。詳しくはあとでこの手紙を呼んでね」
ユウカさんから預かっていた手紙を机の上に置く。事前に書いておいてもらった手紙だ。
ユウカさんと相談をしてエリクサーで治療が上手く行った場合に限り、彼女が生きているということを伝えることにした。俺の方にも少しリスクはあるかもしれないが、妹さんや家族に少しだけでも希望はあったほうがいい。
「またすぐに優華さんからの手紙を持ってくるよ。それと手紙にも書いてあるけれど、このことは両親以外には絶対秘密にしておいて。怪我のことは寝て起きたら奇跡的に治ったことにしておこう。特に警察とかには言わないで。俺のことがバレてしまうと、またここに来ることができなくなってしまうかもしれないからね」
「う、うん! 絶対に誰にも言わない!」
……ちょっと脅迫しているように聞こえてしまうかもしれないけれど、実際に俺の固有スキルが警察とかにバレるとどうなるか分からないからな。漫画の読みすぎかもしれないけれど、FBIとかに拉致監禁とかあり得そうだ。
「いい子だね。あと優華さんにメッセージを送れるから、元気になったことをお姉さんに見せてあげてね」
「うん!」
ユウカさんから預かったスマホで動画を撮影する。ユウカさんのスマホは当然電池切れだったが、昨日コンビニで急速充電バッテリーを購入して試したところ、無事に起動することができた。
聞いていたパスワードを入力し、動画モードで春華ちゃんを撮影する。こうしておけばユウカさん本人は日本に来られなくても、無事に春華ちゃんが回復したことを確認することができるからな。
「それじゃあまた来るよ。今度は優華さんの写真も一緒に持ってくるからね」
「うん、約束だよ!」
メッセージを撮り終え、また来るという約束をしてから家を出る。そこから人気のない場所へ移動し、固有スキルを使って異世界へと移動した。
「うおっと!」
日本へ移動した時と同様にユウカさんの屋敷の客室へと戻ってきたのだが、ユウカさんが目の前にいた。どうやら、俺が日本へ帰還してからもずっとこの部屋で待っていたらしい。
「カ、カケルさん! どうでしたか……!」
今にも泣きだしそうな不安な表情で俺を見つめてくる。異世界に来てからこれまで妹さんのためにしてきたすべてが懸かっているのだから、それも当然か。
「無事に成功したよ。筋力が衰えているからすぐに走り回ったりすることはできなかったけれど、少なくとも身体は動かせるようになっていた」
「……っ!」
そう言いつつ、スマホで撮影した写真をユウカさんへ見せる。そこにはピースをしながらにっこりと微笑んでいる春華ちゃんの姿があった。写真を見た瞬間、ユウカさんの頬から涙がこぼれ落ちていく。
「春華ちゃんに聞いたらお父さんもお母さんも少し疲れ気味だけれど、元気だってさ。手紙を渡しておいたし、今度はユウカさんの写真を撮って見せてあげるって約束を――ユウカさん!?」
「うう……ううう……」
「……大丈夫だよ。本当によかったね」
話の途中で突然ユウカさんが俺の胸に抱き着いてきた。彼女の瞳からは涙が次々と溢れてくる。
俺はこういう時にどうしていいのかわからなかったが、ユウカさんが泣き止むまで彼女の頭を撫でてあげた。
「この度は本当にありがとうございました」
しばらくするとユウカさんは泣き止んでくれたのだが、そのあと春華ちゃんのメッセージ動画を最後まで見て再び泣いてしまい、落ち着くまでしばらく待った。
スマホの写真と動画とはいえ、数年ぶりに元気になった春香ちゃんと母親の姿を見たのだからそれも当然か。……まあ、母親の方は魔道具で眠らせていたから少し犯罪臭のする写真だったけれど。
「俺はエリクサーを届けただけで、それを手に入れたのはユウカさんの力だし、俺がユウカさんに保護を求めようと思ったのはこれまでユウカさんがずっと積み上げてきた信用と実績のおかげだよ」
「それでもです。……正直に言うと、エリクサーを持ち逃げされる可能性もゼロではないと疑っていました。これまでも、日本に戻れる可能性を信じて何度か騙されそうになったこともあります」
「そんなことが……」
人生を何度も遊んで暮らせるほど高価なエリクサー。確かに欲に目がくらむやつもいそうだが、ユウカさんの話を聞いてなお、そんなことをするやつは人として終わっていると思う。
だが、祝福者も多く、命のやり取りも少なくなさそうなこの世界では騙したり騙されたりすることが多いのかもしれないし、お金の価値も日本以上なのかもしれない。
日本の物を作ったり、取り寄せたりする固有スキルとかもありそうだし、それを使って人の弱みにつけこみ、祝福者を騙そうとする輩も出てくるわけか。
「このご恩は一生忘れません! この命、すべてカケル様に捧げることをここに誓います!」




