第32話 手付金
「とりあえず、こっちの要求は呑むということで、同盟は成立だな。まあ、漫画を購入してくるのは可能だけれど、問題はこのリストの漫画を全部購入する日本のお金がないことだ」
先日のフリーマーケットでだいぶ安く商品を販売したこともあり、2日間で結構な額を稼ぐことができたのだが、日本の米や調味料、愛知県への新幹線代や服代に加えて細々した物を購入したこともあってもう2万円くらいしかない。
このリストの物をすべて購入するなら、数十万円はかかりそうだ。
「えっ? お金ならこっちでなんとかするよ。日本で金貨を換金するだけでなんとかなるんじゃない?」
……やっぱりみんな最初はそう思うよなあ。
俺は改めてレインさんに転生で身分証がないといろいろ制限されることを伝えた。しかも今は金が滅茶苦茶高騰していて、少し売るだけでもすぐに目立ってしまうことも伝える。
「……なるほどねえ、それは盲点だったなあ。日本を往復できるなら簡単にお金を稼ぐことができると思っていたよ」
「俺も最初はそう思っていたよ。それにこっちで日本の物を大量に売ったら、祝福者達がすぐに集まってきそうでさ」
「うん、それは正解だと思うよ。やっぱり祝福者の中でも素行の悪い連中もいるからね」
「あっ、やっぱりそういう祝福者もいるんだ?」
そういえばレインさんは祝福者の情報を集めていたと言っていた。その中には固有スキルを悪用している祝福者もいるらしい。
「富、名声、女、そういった欲は抑えられないものだからね。こっちの世界だと固有スキルによっては村や街なんかを簡単に制圧できちゃうから、そういったことを考える祝福者も少なくない。僕の把握している中でも盗賊団の団長をしている祝福者がいるし、祝福者で徒党を組んでいる者もいる。強力な固有スキルを持った集団はこの世界では何より強力な集団だからね」
「冒険者ギルドでも指名手配されている祝福者がいるわ」
「危険な魔法を研究している祝福者もいる」
「………………」
やはりと言うべきか、そういった輩はどこにでもいるらしい。転生や転移をしてくる人は善人ばかりじゃないだろうし、そんな連中が固有スキルという強大な力を手にしたならば、そういった行動に走るやつがいても不思議じゃないか。
そういった連中に捕まったら、何をされるかわかったものじゃない。……やっぱり俺の判断は正しかったみたいだ。
「そういった連中に対してこっちも祝福者の集団を作るわけか。いいんじゃない、実に理にかなっていると思うよ」
「いいわね! 冒険者みたいにパーティを作りましょう!」
「カケル様親衛隊!」
うん、親衛隊は却下だけれど、なんとか同盟団みたいな名前をつけても格好いいかもしれないな。
祝福者の組織とか中二病っぽくてちょっと格好いいかも。
「ちっちっち、ユウカさんもアオイちゃんもわかってないなあ。こういう時は決まっているんだよ。異世界を、大いに盛り上げるための、カケルくんの——」
「長いし、ダサいわね」
「さすがにそれはない」
「えええ~! 僕のころは流行りまくっていたアニメから取ったのに……」
……16年前だとそんなアニメが流行っていたのか。とはいえ、さすがに今風ではないのかもしれない。
「名前は置いておいて、祝福者同士での協力組織を作るのはいいかもしれないな。まあ、その辺りは後で考えよう。話を戻すけれど、簡単に日本のお金を稼ぐことはできないから、フリーマーケットとかでお金を稼ぎながら、少しずつ揃えることになるな」
「了解だよ。日本の漫画を手に入れられることがわかっただけでも大きく前進だ。日本のフリーマーケットで売れそうなものだね、すぐに用意するよ。……だからさ、とりあえず手付金ということで、まずはこのリストの上から順番にちょっとだけお願い!」
レインさんとも話して日本で購入するためのお金はそちらで用意してもらうことになった。もちろんこっちのお金は使えないので、日本のフリーマーケットで売れる物を対価にもらう感じだな。
こちらも俺の固有スキルを証明するために、まずは日本の本屋で漫画を買ってくることになった。
「それじゃあ、5000円分くらい買ってこよう。ちょっと古いのもあるけれど、古本屋へ行けば安く揃うかな」
「ああ~カケルくん、多少高くても、可能なら本屋で買ってきてほしいかな」
「ん? 別に構わないけれど、そっちの方が高くつきそうだぞ」
「うん、古本だと作者さんに印税が入らないからね。ちゃんと漫画家さんには正当な報酬を受け取ってほしいんだよ!」
「な、なるほど……」
綺麗な方がいいのかと思ったけれど、そういう理由ではなさそうだ。
薄給だった俺にとっては安ければいいと思ってしまうが、ちゃんとしたファンはそういったことを考えるらしい。
「……気持ちはわかる。推しには課金で応えることがファンの務め!」
「うん、それこそが僕たち読者にできることだよ!」
よくわからないところでアオイとレインさんが賛同している。時代は違ってもそういった考え方は変わらないのかもしれない。
さて、とりあえず日本の本屋へ行ってみるか。少なくともレインさんの言っていた最終巻は売っているといいな。
その間にレインさんは俺たちにお昼をご馳走する準備をしてくれるそうだ。王城での食事はどんな料理が出てくるか少し楽しみである。




