第31話 執念
「あっ、確かに」
相変わらず視線が泳いでレインさんに慣れていないアオイだが、彼女の言う通りだ。
俺たちは彼の固有スキルが『予知夢』とか『遠視』あたりの遠くのものを見るものだと考えていた。そうでなければ、俺の固有スキルを知った説明がつかない。
「やっぱり僕の固有スキルでカケルくんを見つけたと思っていたみたいだね。残念だけどそれは誤りだよ。……ええ~と、ちょっと言いにくいんだけれど、僕がカケルくんのことを見つけられたのはユウカさんとアオイちゃんのおかげなんだ」
「「……えっ!?」」
2人が声を出す。
俺はてっきり他の祝福者がいて、そっちの人の固有スキルかと思っていたが、そういうわけではないようだ。2人のおかげとはいったいどういうことだ?
「僕はずっと他の祝福者のことについて調べていたんだ。僕の目的のために、日本と関わることができる固有スキルを持った祝福者をずっと探していたよ。僕の固有スキルは情報収集にはむかないけれど王族というこの身分があったし、この固有スキルで家族に貢献できたこともあって、国の諜報部を使わせてくれたんだ」
……レインさんも日本へ戻る方法をずっと探していたのか。
8年前に祝福者であることを伝えたと言っていたから、もしかするとユウカやアオイよりも長い期間探していたのかもしれない。
「そんな中でユウカさんとアオイちゃんのことはもちろん調べていたし、2人のように日本へ未練がある祝福者は特にマークしていた。ユウカさんの目的はとてもわかりやすかったね。冒険者になってお金を稼いで、とても高価なエリクサーを購入したのは日本に戻って事故か病気で苦しんでいる大切な人を助けたかったからでしょ?」
「っ!?」
驚いたな……。ユウカやアオイについてそこまで調べていたのか。
確かに2人とも有名な祝福者だったみたいだし、あえて目立つように行動していたこともあって、情報は集めやすかったのかもしれない。
「そんなユウカさんのところへ、突如見知らぬ男が接触してきた。しかもその男はこの国にはない文字と写真の載った白黒の紙を見せてきたらしい。それを見たユウカさんは血相を変えてその男と冒険者ギルドをあとにした。そのあと熱心に冒険者活動に勤しんできた君が突然活動を休むと冒険者ギルドに伝え、市場を歩いている様子はこれまでの無表情な君ではなく、とても生き生きした表情だったと報告されているよ」
「あっ……」
冒険者ギルドでのユウカとの接触は極力注意していたけれど、そこまで把握されていたのか。確かに日本人ならば、俺が見せた物が新聞であるということまでわかる。
それにユウカの表情の変化まで見られていたとは……。
「そしていつも自身の研究室に籠って魔法の研究をしていたアオイちゃんが突然ベルリアの街へ飛行魔法を使って文字通り飛んできた。ユウカさんと定期的に連絡を取って協力関係にあったことはすでに把握していたから、この時点で僕にはカケルくんの存在と固有スキルが把握できたんだよ」
「……っ!」
ユウカとアオイが真っ青な表情をしている。自分たちのせいで俺の存在がバレたと思っているのだろう。
なるほど、確かにそこまで把握できていれば、ユウカに接触した謎の男がエリクサーを日本へ届け、ユウカの願いを叶えたと推測できる。そのあとに日本へ帰るために協力していたアオイを呼びよせたことも考えると、ほぼ確信できるレベルになるわけか。それでさっき言っていた日本へ往復できる固有スキルか、物を送れる固有スキルと推測したわけだな。
俺も自分のことがバレないよう慎重に動いてきたつもりだけれど、いくらなんでも、そこまでしていた人がいるとは思ってもいなかった。
……それほど周到に祝福者のことを調べていたとは、ここまでくるともはや執念だな。2人にも存在がバレていないということは、この国の諜報部とやらはよっぽど優秀っぽい。
「まあ、僕以上に2人のことを注視していた祝福者はたぶんいないと思うから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ。なんなら僕の方でもカケルくんの情報が広まらないように協力するからさ」
「それは助かる。とりあえず、そっちの事情はよくわかった。……失礼」
「おっと」
そう言いながら至近距離からレインさんにの右腕に向かって硬貨を投げてみると、まるでそこに硬貨が投げられることがわかっているかのように硬貨をかわす。
「悪意は小さかったし、僕の固有スキルが本当に『悪意察知』か確かめたかったのかな?」
「ああ、悪かった。なるほど、悪意の大小もわかるのは便利だな」
「まあね。あとは見えないところも反応できたら完璧だったんだけれどさ。……ええ~と、それよりもそっちの2人を抑えてもらっていいかな? 今のカケルくんの比じゃないくらい僕に悪意が向けられているんだけれど……」
「「………………」」
横を見ると、ユウカとアオイがレインさんを睨んでいた。
……自分たちのせいで俺の固有スキルがバレたと責任を感じているのかもしれない。でも、俺の固有スキルがバレないようにレインさんを口封じとか絶対にダメだぞ。
それに俺のことがバレてしまったけれど、ある意味レインさんのような協力できそうな祝福者で助かった。
「2人とも大丈夫だから落ち着いて。こちらからの条件としては俺たちのことを他言しないことと、有事の際は俺たちに協力してもらうこと。もしかすると、その諜報部やレインさんの王族としての権限を使わせてもらうかもしれない」
「うん、全然問題ないよ。……というか、本当にそれだけでいいの? もっといろんな願いを叶えられると思うけれど」
「今のところはそれで大丈夫だ」
レインさんの固有スキルは直接戦闘にはあまり向かないみたいだけれど、俺のことを調べあげた国の諜報部や第四王子の権限はとても強力だ。俺も自分の身を守るために手段を選ぶつもりはないし、ぜひ協力してもらおう。
「なんなら、女の子とかでも可能だよ。こっちの世界の娼館には人族以外の種族もたくさんいるから、10人くらいに囲まれて一夜限りの極楽を——いや、やっぱり今のはなし! じょ、冗談だから落ち着いて!」
「……やっぱりこいつは今ここで口封じしておいたほうがいいわね!」
「……カケル様にとって有害極まりない。今すぐ排除すべき!」
ユウカとアオイが剣と杖に手をかけて立ち上がると、レインさんの笑顔が一瞬で凍りつく。
うん、たとえ冗談でも、女性のいる前でそういった発言は慎むべきだよな。2人とも冗談で返しただけだと思うけれど、そういった冗談にも悪意察知スキルは反応するらしい。




