第29話 レイン第四王子
「……さて、これで邪魔者はいなくなった」
「っ!?」
レイン第四王子の呟く言葉に緊張が走る。
まさか、これは罠だったのか!
「立ったままだとしんどいから、こっちのソファで座って話そうか。あとおいしいお菓子とジュースなんかもあるよ」
「「「………………」」」
そう言いながらこの部屋にあったソファにどかっと座り、足を崩すレイン第四王子。
突然ガラリと変わった態度や口調に一瞬全員がフリーズしてしまう。
「……それでは失礼します、レイン様」
ユウカが頭を下げ、ソファへと座り、俺とアオイもそれに続く。この場では冒険者ギルドを通して依頼を受けたユウカが中心に話を進めていく。貴族相手の作法などを多少なりとも知っているのはユウカだけだ。
それにアオイは初対面の人が苦手だからな。今もだいぶ居心地が悪そうにしており、目線が泳ぎまくっている。
「一応人前では体裁ってものがあるから、さっきはごめんね。第四王子なんていっても、大した権限もないし王位を継ぐ気なんてこれっぽっちもないからさ。あっ、この部屋の中の声や音は外には漏れないし、敬語なんかもいらないよ」
「「「………………」」」
先ほどまでの厳格な雰囲気から一変し、ニコニコとした表情でお菓子をつまむレイン第四王子。まさに人が変わったという表現が一番正しい。
「日本から来た同じ祝福者として、ぜひ仲良くしてほしいな」
……やはりこの人自身が祝福者であったか。この国の王族の象徴である白銀色の髪と瞳を持っている時点で転移者ではなく転生者ということになる。
「『剣聖』の固有スキルを持つSランク冒険者のユウカさんは転移者。『魔導王』固有スキルを持つ賢者のアオイちゃんは転生者。エルフに転生なんてだいぶレアだね。そしてカケルくんは転生者ってわけだね。ああ、ようやく僕の望んだ固有スキルを持っている祝福者に巡り合えたよ!」
「っ!」
やはりこの人は俺の固有スキルをことを知っている。
隣にいるユウカとアオイも警戒を強めたらしく、剣と杖に手をかけた。
「あっ、ごめんごめん、警戒させちゃったよね! 僕から君たちに危害を加えるつもりは一切ないし、そもそも君たちに傷を負わせることなんて実力的にできないから安心して。ただ僕はどうしても前世に心残りがあって、カケルくんの力を借りたいだけなんだよ!」
そう言いながら降参の意を示すように両手を宙に上げるレイン第四王子。
確かに敵意があるのならもっと仕掛ける場所はあった。2人もそれをわかってか、剣と杖から手を離す。
「協力できるかは詳しい話を聞かせてもらってからだ。そっちの事情を聞いてからこっちの3人で相談させてもらう」
俺たちの予想でもこの人の固有スキルは戦闘系のものではない。どんな固有スキルかはわからないけれど、王族という立場もあるだろうし、同盟を結んでくれるのならとても心強い。
俺の固有スキルにもできることとできないことがあるし、まずは詳しい話を聞いてからだ。
「うん、了解だよ。だけどその前にひとつだけ教えてほしい。僕は確信を持っているんだけれど、カケルくんの固有スキルは自分、あるいは他人を日本に往復させることができるスキルか、日本の物とこちらの世界の物を交換、配送なんかができるスキルのどっちかだよね?」
「……ああ、そうだ」
おそらく固有スキルで俺のことを知ったのだろう。向こうも王族であるのにひとりで俺たちを前にしてリスクを負っているし、何らかの確信もあるみたいだ。それならば、こちらもある程度は歩み寄ろう。
後半の予想はどこから出てきたのかわからないけれど、前半が当たっているので正直にそう答えた。
「よし!」
レインさんがガッツポーズをする。やはり彼の望みは日本のことに関することで間違いないようだ。
「……あなたのことは街で少し調べたけれど、ほとんど情報がなかったわ。問題のある人物という噂もなかったし、そもそも祝福者であるという話も聞かなかったわね」
「そうだろうね。僕にとっては王位なんて煩わしいだけだし、祝福者であることを理由に王位継承権は放棄するって親族には伝えてあるから、そういった騒動に巻き込まれるつもりもないよ。僕の望みはのんびりとここで不自由のない生活を送ることだけだから、問題を起こすつもりなんかこれっぽっちもないし」
時間はなかったがベルリアの街でユウカが集めてくれた情報によると、レイン第四王子の悪い話は聞かなかった。というか、第四王子の話自体ほとんどなかったらしい。第一王子や第二王子がとても有能ということ噂はあったが。
それにしても、王位を継承するつもりはないのか。第四王子が俺の力を借りたいということだったから、王位継承争いに俺の固有スキルで持ってきた日本の物を使うということも若干考えていたけれど、それは違うらしい。
……それにユウカとアオイとは違ってレインさんはすごく明るく、とてもなんらかの未練を日本に残してきたようには見えないぞ。
「それじゃあ、レインさんの心残りを聞かせてくれ。先に言っておくけれど、俺の固有スキルにはできることとできないことがある」
「うん。たぶんカケルくんたちからしたら、それほど難しい望みじゃないと思うよ。ああ~ついに長年の望みが叶う時が来た! 僕の心残り……それは漫画だ!」
「「「………………」」」
ドンッという効果音の付きそうな決めポーズと共にレインさんは大声でそう告げた。
……漫画ってあの漫画だよな? 俺の聞き間違いじゃないよな?
「カケルくんたちの言いたいことはよくわかるよ。確かに他の祝福者からしたらちっぽけな心残りかもしれないけれど、僕にとってはとても重大なことなんだよ! この異世界には漫画やアニメなんかがなくて、本当に退屈なんだ。そして何より、僕が死んだ一週間後に発売される予定だった、僕の一番好きな錬金術を使う主人公の漫画の完結巻……あれを読むまで、僕は死んでも死にきれない!」




