第2話 固有スキルの検証
「心残り……」
「俺の場合は28歳で突然死んでしまった。そこまで悔いの残る人生でもなかったんだが、家族のことだけは心残りがあった。就職をして働いていたんだが、そこが結構なブラック会社で、仕事を始めてからずっと実家に帰っていなかったんだ」
「………………」
「実際に死んでこの世界で目覚めた時、最初に思い浮かんだのは両親のことだった。大したことじゃなくても、もっと親孝行しておけばよかったなって本気で後悔した。だから俺が固有スキルを使って日本へ帰った時に初めてしたことは両親の姿を見ることだった。……さすがに直接会って異世界に転生したとは言えなかったけれど、本当に久しぶりに父さんと母さんの姿を見ることができて、この固有スキルをもらったことにとても感謝したよ」
「……そう」
気が付くと隣にいたユウカさんの頬から涙が流れている。俺の気持ちを少しだけわかってくれたのかもしれない。言わなかったが、俺も両親の姿を見た時は思わず涙が出てしまった。
……そうだよな、彼女は俺よりもずっと若いし、未練は俺よりも山ほどあっただろう。それに俺と違って転移だから、もしかすると元の世界へ帰ることができるかもという希望を持ちながらこの数年間を過ごしてきたのかもしれない。
「ええ~と、両親や友人に直接会って何かを伝えたりするのは難しいかもしれないけれど、手紙なんかを送ったり、様子を見て支援したりとかはできると思う。もちろん元の世界のことに触れるのが嫌だったら、もうこれ以上は触れない」
「私も日本に心残りがあるわ! わかった、私はあなたを外敵から守りながら、資金を提供する。他に条件はある?」
「いや、それで大丈夫だ。本当に助かるよ。ユウカさんが駄目だったら、他の祝福者がいる場所まで移動するお金もなかったし、日々の食事もまともにとれなかったからさ」
「……あなたもいろいろと大変だったのね」
「戦闘能力は皆無で、持ち物すらなく、いきなりこの姿に転生していたから、冒険者になって街のドブさらいや清掃なんかの安全な依頼をずっと受けてその日暮らしの生活をしていたんだ……」
この一月は本当に大変だった。もちろんこの固有スキルを悪用すれば万引きし放題なのだが、犯罪だけはしたくないという思いもあって、まっとうな方法で地道にお金を稼いできた。
こっちの世界だと、マジで戦闘力や何らかの技術がないと何もできない。転移者や転生者が多く、トランプやリバーシなんかの知識チートも無理。
特にこれまで残業しまくって働いていたプログラマーの技術なんて何ひとつ役に立たなかった。
「お、お邪魔します」
店を出てやってきたのはまさかの彼女の家だった。一軒家とは思えないほど大きくて豪華な造りの屋敷で、そのまま客室へと通される。屋敷の中に客室がある時点でどんな規模なのかは察せられた。
……一人暮らしの女性の家にお呼ばれするすることなんて初めてだ。もちろん、俺の能力を試したり、今後のことを考えるという理由なのは百も承知だが、それでもドキッとしてしまうのが男なのである。
いよいよ俺の固有スキルでユウカさんを日本に帰還させることができるかを検証する。ただ、それを試す前にユウカさんの家に保管しているある物を持っていきたいというわけで、ここまでやってきた。
「お待たせ。ちゃんとあったわ」
「おおっ、すごい!」
10分ほど待つと、ユウカさんが客室へ戻ってきた。その手には日本でよく見かけたスクールバッグがある。彼女がこの異世界へ転移した際に持っていた物も一緒に転移してきたようだ。
「バッテリーは切れているし、ネットは繋がらないと思うけれど、充電してwifiのあるところでなら使えると思うわ。あと学生証やお金なんかもあった方がいいわよね」
ユウカさんの事情も知らずにこれを言うのも悪いけれど、転生ではなく転移だと羨ましいと思ってしまう。スマホやお金が少しあるだけで、日本へ戻れた時に全然違うからな。
「……お願いします」
「ああ、いくよ」
ユウカさんが緊張した様子で俺の正面に立つ中、俺は固有スキルの力を発動する。この力は俺がこの異世界へ転生した時から使うことができた。なんというか、自転車の乗り方のように感覚で使い方がわかる感覚だった。
固有スキルを発動すると、一瞬で屋敷の玄関から景色が切り替わる。
「……駄目だったか」
いつも転移している人気のない山の中。その麓にはこの異世界にはないマンションや家などが見えるので、間違いなく日本に戻ってきている。
しかし、俺の正面にいたはずのユウカさんはいない。これまでにいろいろと試してみたところ、俺の所有物であると認識している物は持っていくことができたのだが、生きている生物は移動することができなかった。祝福者ならばもしもと思ったけれど、どうやら駄目ならしい。
再び固有スキルを発動して、先ほどの場所へと戻ってくる。
「今度は手を繋いで試してみてもいいかな? もしかすると、直に触れていたらできるかもしれないからさ」
「ええ、もちろんお願いするわ」
そう言いながら手を差し出してくるユウカさん。その手は女性の割にとても硬く、これまで彼女がこの世界で必死に剣を振るって生きてきたことがよくわかった。
……ちなみにこれは決してセクハラ目的ではないぞ。
「やっぱり祝福者でも無理か。期待させて申し訳ない」
何度か試してみたが、やはりユウカさんを連れて日本へ帰還することはできなかった。やはりこの固有スキルは生きている者を伴うことは不可能なようだ。
「残念ね……」
ものすごく落胆した様子だ。無駄に希望を持たせてしまったので少し罪悪感はあるが、どうしても一度は祝福者でも試す必要があった。
「ごめん……でも、もしかしたら他に方法はあるかもしれない」
「ええ、カケルさんはまだ異世界に来たばかりだしね。それにこのミルクティーはとっても久しぶり。これであなたが本当に日本へ帰れることは証明できたわ」
ユウカさんの財布に入っていた小銭を使って自動販売機で購入してきたミルクティーの味がよっぽど懐かしかったのか、初めて笑みを浮かべているユウカさん。日本へ行った証明のために買ってきた物だけれど、こんなに喜んでくれると嬉しいものだ。
「……えっ!? ユウカさん?」
そしてその表情をしてから一変し、なぜか突然真剣な顔で俺に向かって深く頭を下げてきた。
「試すようなことをしてごめんなさい。お願いします、どうか妹を助けてください!」




