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第1話 【日本帰還】とSランク冒険者


「……よし、覚悟は決まった。いざ勝負!」


 俺の目の前には歴史がありそうで重厚な石造りの建物があった。正面には剣と盾の描かれた木製の看板があり、日本語とは異なる文字が書かれているこの建物は()()()()()()()()()()


 俺は日本で死んでしまい、この異世界へと転生してきた。この世界で目が覚めたら、俺の姿は28歳であった黒髪黒目の日本人ではなく、茶髪で茶色い瞳をした20歳くらいの外見になっていた。


 そしてこれから俺がこの異世界に転生してきてからの一月……いや、前世を含めても俺の人生の中で一番の賭けを行う。深呼吸をして覚悟を決め、冒険者ギルドの扉を開けた。


「かああ~今日もエールがうめえぜ!」


「オーガのやつは随分手強かったな。その分報酬もよかったぜ!」


 冒険者ギルドの入り口にはテーブルが並び、屈強な男たちが昼間からおいしそうなお酒と料理を楽しんでいた。この異世界で冒険者という職業は危険な魔物を討伐したり、護衛をしたり、店の番をしたりといわゆる何でも屋だ。


 テーブルの奥には受付があり、異世界の服を着た受付嬢がいて、並んでいる冒険者の対応をしている。その受付のひとつに20人近くの多くの人が集まっていた。


「すげえ! まさかブラックドラゴンをソロで討伐できるなんてよ!」


「これがSランク冒険者『剣聖ユウカ』殿の実力か……」


「ユウカ様、今日も一段とお美しいですわ!」


 その人だかりの中心には一人の10代後半のとても美しい女性がおり、老若男女を問わず、多くの冒険者の視線と羨望を集めていた。


 黒く長い髪を後ろに束ね、白銀の鎧に身を包み、腰には日本刀のような刀を差している。長身で引き締まった肢体と自信に満ちた瞳、凛とした足取りで歩を進める彼女からは戦闘能力が皆無の俺ですらわかるほどの威圧感が感じられた。


 ただ、とても綺麗な顔立ちをしているのに、その表情は無表情でどこか寂しく見えた。


 彼女の周りを取り囲んでいる者も冒険者の中では上位の者なのだろう。冒険者の最高ランクであるSランク、それに準ずるAランクかBランクといったところか。ちょうど彼女が無事に依頼を達成して戻ってきたらしい。


 ……そんな中に割って入るのはとても怖いが、予想ではきっとうまくいく。


「すみません、ユウカ様! お時間をいただけないでしょうか!」


 俺が大きな声を上げると、周囲の冒険者たちの視線が俺に集まる。そしてその視線は怪訝なものへと変わっていく。


 今は外套とマスクをかぶって顔を隠しているのと、彼女に声をかけるにはあまりにも貧相な服装をしているからだろう。


「……申し訳ないですが、お断りいたします」


 彼女自身も俺のことを怪しく思ったのか、軽く頭を下げつつ断りの言葉を口にした。周囲の冒険者も断られて当然だという表情を浮かべている。


 もしも俺が彼女と同じ黒髪と黒目であったなら、同郷者として多少話を聞くくらいはしてくれたかもしれない。


 だが大丈夫、ここまでは予想通りだ。


「残念です。それではお近付きの印にこちらだけでも受け取ってください」


「……っ!?」


 俺がバッグから()()()を取り出して彼女に見せると、これまでずっと無表情だった彼女が大きく表情を崩した。


「……いいわ。これからすぐでいいの?」


「ユ、ユウカ様!?」


「嘘、なんであんな男と!?」


「くそっ、あんなに弱そうな男なんかに! ただの紙切れだったのになぜだ!」


 本人よりも周囲の冒険者たちが騒ぎ立てている。一応顔を隠しておいて正解だったみたいだ。


 それにしても、まさか彼女にここまで人気があるとは……。実力があって綺麗な女性だからそれもある意味当然なのかもしれない。




「さすがSランク冒険者様。こんなにすごいお店に入ったのは生まれて初めてだ」


 冒険者ギルドを出たあと場所を彼女に任せると、とても立派な店構えのお店へと案内された。この店がある通りは貴族が利用する通りで、ここまで来るのにだいぶ肩身が狭かったぞ。


 というか、実際にこの店へ入る時に俺は入店を断られそうになった。ユウカさんの紹介としてなんとか入ることができたから、やはりSランクともなると結構な権限があるのだろう。


「……こんな物を手に入れることができるのなら、お金なんていくらでも手に入りそうなものだけれどね。もしかして、まだこちらの世界に来てから時間が経っていないのかしら?」


「だいたい一月くらいです。改めまして、霧島駆(きりしまかける)と申します」


 随分と高価そうな店の個室で、周囲の人の声は届かない。


 当たり前だが、ユウカさんは俺のことをだいぶ警戒しているようだ。まあ、この異世界ではそれも当然だろう。こちらから誠意を見せるため、外套とマスクを外して顔を見せた。


「……なるほど。あなたは()()()ってわけね。私の名前は宮坂優華(みやさかゆうか)。この世界に()()してから2年ほど経ったわ」


 俺の容姿を見て、俺が転移者じゃなく転生者であることがすぐにわかったようだ。転生者や転移者がいると言われてもお互いにほとんど驚かない。


 そう、この異世界には日本からの転生者や転移者がかなり多いようだ。それこそ、ひとつの国に10人程度いるようで、俺たちのような異世界から来た人のことは祝福者と現地の人から呼ばれている。


「早速これのことに教えてちょうだい! これはあなたの『固有スキル』で手に入れたの?」


 俺たちのような者が祝福者と呼ばれている理由。転生者と転移者を問わず、この異世界へやってきた者はひとつだけ特別な力である『固有スキル』を得られる。


 彼女の固有スキルである『剣聖』は剣技を大きく向上させる固有スキルだろう。……まったく、チートスキルのバーゲンセールもいいところだ。


「ああ。この()()は俺の固有スキル『日本帰還』を使って日本から持ってきた物だ」


「っ!!」


 ユウカさんが再び大きく驚く。先ほど彼女に渡した新聞の日付は数日前となっているので、2年ほど前にこの異世界へ転移してきた彼女にとっては俺が持ち込んだという信憑性があるに違いない。


「も、もしかして、あなたの固有スキルがあれば、私も日本へ帰れるの……?」


「それはわからない。俺が祝福者と会うのはこれが初めてだ。もしかすると帰れる可能性はあるかもしれない」


「っ! お願い、私にその固有スキルを試してみて!」


 突然俺の手を両手で握り、真剣な眼差しで俺を見つめる彼女。きっとそれだけ日本に帰りたいという気持ちが強いのだろう。


「わかった。今のところ生きている虫や動物は一緒に移動できなかったけれど、もしかしたら祝福者なら可能かもしれない。ただし、それを試すにはいくつか条件がある!」


「……どんな条件?」


 彼女は握っていた俺の手を離し、一気に警戒心を強めた。彼女は綺麗な女性なようだし、これまで邪なことを考える男もきっと多かったのだろう。


 それにこういった状況で条件を突き付けてくる者を警戒するのは当然だ。とはいえ、俺もこの条件をのんでもらうことは必須である。俺の命に関わることでもあるからな。


「まず、俺の固有スキルのことについては絶対他言しないでほしい」


「ええ、いいわ」


 この異世界で固有スキルは各々の切り札だし、信頼できる者以外に話すことはとても危険である。もちろんユウカさんの『剣聖』のようにすでに広く広まっている場合や、知られてもそこまで問題ないような固有スキルも多いようだが、俺の場合は他人にバレたら面倒なことになる。


「そしてこっちの方が本題なんだが――」


「……なに?」


 ユウカさんの息をのむ音が聞こえてくるようだ。俺の固有スキルを使う条件、それは――


「お金を恵んでください! あと俺の護衛をしてください!」


「………………はあ?」


 俺がユウカさんに向かって思いきり頭を下げると、しばらくユウカさんは沈黙し、そのあとものすごく間の抜けた声を出した。Sランク冒険者でもこんな声を出すんだな。


 まあ、いきなりヒモにならせてくださいと言っているようなもんだからなあ……。


「いや、ユウカさんの言いたいことはよくわかる……。日本とこの世界を行き来できるなら、簡単にお金を稼ぐことができると言いたいんだろ?」


「えっと、違うの? 正直なところ、こっちの世界の金貨を日本で換金して、日本の物をこっちで売るだけでも簡単にお金を稼げそうだけど……」


「俺もそう思っていたよ。たぶん転移だったら、話はもっと簡単だったんだけれどなあ……」


 俺も初めてこの異世界へやってきた時は、よっしゃあ、こんなチートな固有スキルをもらったら、商売で金儲けをしてのんびりスローライフだぜとか思っていた。


 だが、その甘い考えは一瞬で打ちのめされてしまった。


「金貨を売るというのは俺も一番に考えた。だけど、俺の場合は日本ですでに死んでいて、戸籍と住所がなくなっている。金貨や物を売るための身分証を持っていないし、作れないんだよ」


「あっ、確かに……」


 日本へ戻って図書館のネットを使っていろいろと調べた。金を売れる場所は意外とあって、貴金属買取専門店、質屋、リサイクルショップなどが買取を行っている。


 だが、そのどれもが買取には免許証などの身分証を必要としていた。もしこれが転移だったら俺の住所と戸籍は残っていたのに……。


「そこらへんに歩いていた身分証を持っている人に頼んで換金してもらえないか試してみたけれど、すべて断られた。最近では外国人による犯罪や闇バイトなんかも多いから、普通の人ならこんな怪しい格好をした人の話には乗らないよな」


「確かにそうかもね……」


 転生した今の俺の容姿は外国人みたいだし、こちらの世界の服は怪しすぎる。服を日本で買って着替えたくても、そのお金がないんだよ。


 もちろん万引きをしてこちらの世界へ戻れば簡単に金は得られるだろうけれど、犯罪行為はしたくない。


「身分証や住所がないとバイトもできないし、元手になる金すらないと本当に何もできない……。向こうで拾ってきた物をこっちで売って、変な貴族やこっちの祝福者の目にとまったらその時点でアウトだ」


「……そうね、その判断は正解かも」


 ユウカさんに渡した新聞のようにゴミ箱から拾ってきた物をこっちで売ってお金を稼ぐ手段も考えたが、この異世界には祝福者が多いみたいだし、日本の物を売っていたらすぐに目に留まる。


 そいつがまともなやつならいいが、悪いやつなら俺を脅迫して従わせようするだろう。


「転生者と転移者が多いなら、絶対に悪いことを考えているやつも多いと思う。その点、ユウカさんは有名なSランク冒険者の祝福者で悪い評判もなく、たくさんの人を助けてきたと聞いていて、一番信じられたんだ」


 俺は彼女に賭けた。この一月で地道に稼いできたお金をすべて使ってこの街まで移動し、初めてこの固有スキルのことを他人に話した。俺の固有スキルに戦闘能力は皆無だし、彼女が俺を守ってくれるのなら非常に心強いことだが、彼女が俺に悪意を持った時点でぶっちゃけ詰みである。


 だからこそ、俺ができることをちゃんと伝えておきたい。


「もしかしたら俺の固有スキルを使えばユウカさんも日本へ行けるかもしれないし、日本でお金を得る方法が見つかれば、向こうの物をこっちに持ってこられる。……それにもうひとつ。ユウカさんは向こうの世界に心残りはない?」


この作品を読んでいただきありがとうございます!

毎日更新頑張ります!

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