第18話 新製品発表会
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とある高層ビルの一室。そこには大勢のビジネススーツを着た人が集まっている。席の前面には大きなカメラを持ったマスコミ関係者と思われる者も多くいた。
場内の照明がゆっくりと落とされ、ざわついていた観客席が静まり返る。
「皆さま、本日はご多忙の折、ご来場いただきまして誠にありがとうございます。ただいまより、第59回新製品発表会を開始させていただきます」
スピーカーから司会者の大きな声が響き、大きなスクリーンには『新製品発表会』と鮮やかなグラデーションをした文字が浮かび上がった。
とある上場企業の会場。定期的に行われている決算発表会やこの新製品発表会には多くの同業者や取引先、マスコミなどが集まっている。
「まずは代表からのご挨拶です」
発表会は予定通り進み、代表の挨拶が終わったあとは各事業部が開発した新しい商品を順に紹介していく。各々の事業部の代表者が、開発した商品を来場している者たちにアピールする。
各々は成果を発表し、今後の新製品の売上や自身の評価が決まる場でもあるため、熱心にアピールしていた。会場の後ろには実際に製品を試すデモンストレーションの場なども設けられている。
「第三開発部の山下事業部長、ありがとうございました。続きましては第四開発部の権藤事業部長、お願いいたします」
第三開発部の新製品の発表が終わり、会場が拍手に包まれた。続いて第四開発部の発表の順番となり、普通の者よりもひとまわり太った40代の男がステージへ上がり、マイクが手渡された。
「ご紹介にあずかりました第四開発部の権藤と申します。当開発部の新しい製品をこの場で発表でき、とても光栄でございます。こちらの製品は開発スケジュールギリギリの完成となりましたが、当開発部の優秀な社員たちのおかげで無事に完成することができました。それでは皆様、ご覧ください」
権藤の挨拶が終わり、拍手が収まるとスクリーンに映像が映し出される。他の事業部の発表の時と同様に、まずは会社のロゴが浮かび上がった。
「……む?」
ステージに上がっている権藤が違和感を感じてスクリーンを見上げる。本来であれば、ロゴが浮かび上がったあとすぐに製品のプロモーション映像が流れるはずなのに、なぜかスクリーンは暗転したままだ。
『【告発】2022年、同社の社員である黒崎葵氏はここにいる権藤満に横領の罪を被せられた』
「なっ!?」
画面が切り替わり、ニュースのような見出しの映像が流れ始め、無機質なナレーションが響く。
突然の出来事に周囲がざわめきたつ。
『黒崎氏は日々、権藤によるセクハラ行為とパワハラ行為に苦しんでいた。その行動は徐々にエスカレートしていき、ホテルにまで無理やり同行させようとする。それを拒絶した黒崎氏だが、あろうことか権藤は自身で行っていた会社資金の横領の罪を彼女へなすりつけた。そして同社は黒崎氏が横領を苦に自殺したと情報操作を行った』
「なっ、なんのことだ!」
明らかに権藤が動揺して大声で叫ぶ。司会の者や他の者も想定外の出来事に慌てている様子だが、なおも映像は続く。
『横領の証拠及び、セクハラとパワハラの証拠をここに公開する。真実が明らかになる前に不慮の死を迎えた黒崎氏の無念が晴らされることを切に望む』
「おい、今すぐ映像を切れ!」
権藤がステージの裏へと消えるが、なおも映像は続く。
黒崎葵が横領をして振り込みが行われたとされる時間にはアリバイがあり、彼女のPCを操作できる権限を持つ者は限られていることを示す証拠。権藤からの不鮮明なお金の流れ、彼女への日々のパワハラやセクハラなどの音声が会場に流れ続けた。
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「おい、貴様ら、さっさと映像を止めろ!」
アオイさんの上司であった権藤がステージ裏へと慌てた様子で駆けこんできた。
「そ、それが、なぜかパソコンに見えない壁のようなものがあり、触ることができないんです! 映像を繋ぐコードにも触れることができません!」
「そんな馬鹿な話があるか! な、なんだこれは!」
権藤が映像をスクリーンに映し出しているパソコンとマウスを操作しようとするが、確かにそこにいる社員が言っていた通り、まるで見えない壁があるかのように触れることができない。
まるで魔法のような現象——まあ、魔法そのものなのだが、これは俺がユウカから借りている護身用の魔道具の力だ。有事の際はこの魔道具を発動し、見えない障壁によって身を守るために渡されていた物だが、今はその対象をパソコンとスクリーンに繋がるケーブルを指定している。
かなり高価な魔道具らしいので、一般人の力程度では障壁を壊すことはできないようだ。これで物理的にパソコンやコードを破壊して映像を止めることはできない。
「い、いったい何が起こっているんだ!? ま、まさか、あの女の仕業なのか……」
わけのわからない現象が起こり、まるで亡霊にでも祟られたように慌てふためく権藤。もちろん今回の件は俺とアオイさんが起こしたことなので、ある意味では正解だ。
先ほど流れた映像。あれは俺がアオイさんの残した証拠や音声データなどを編集して作った動画である。より衝撃的に見せるタイトル、BGMや視覚的効果など、まさか再びブラック企業で培ってきた技術を使うことがあるとは思ってもいなかった。
「くそっ、この無能ども、早くなんとかしろ! クビにされてえのか!」
「ひ、ひい!」
ちなみに今の俺は灰色のローブを着ており、現代日本ではものすごく目立つ格好をしているのだが、ここにいる者は誰も俺を気にした様子がない。このローブはアオイさんが用意してくれた魔道具だ。彼女は魔法を極め、魔道具まで自分で作り出すことができる。人の認識を著しく低下させるらしいので、監視カメラには映っているだろうが、それでもとんでもない道具だ。
……魔道具を使えば簡単にこのビルへ入ることができ、俺の固有スキルがあればこのビルへ何度も簡単に出入りすることができた。認識されなければ流す予定の動画を差し替えることも容易である。
魔法という力の前には現代日本のセキュリティなどあってないようなものであった。
「うおっ、なんだ!?」
「きゃあ」
明かりが突然消えて真っ暗になり、少しして再び明かりが点く。どうやらこのフロア全体の電源を一度落としたようだ。確かに今の状況で動画を止めるにはそうするしかない。
動画は止まってしまったようだが、ここでの目的は果たした。一企業の発表会で謎の告発文が流れ、大きな騒ぎが起きたことだし、4年前の事件を掘り起こすきっかけは十分にできた。
さあ、本番はここからだ!




