第16話 証拠データ
「なにかございましたか?」
「いえ、失礼しました。こちらはゲームで使うコードのような物なのですが、写真を撮らせていただいても大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫ですが」
「ありがとうございます!」
アオイさんの母親はよく分からなそうにしているが、俺たちが欲しかったのは付箋に書かれた英数字の羅列である。付箋が残っているかだいぶ大きな賭けだったが、その賭けに勝ったようだ。これで少しだけ状況を逆転させられる可能性が出てきたぞ!
「それではお邪魔しました」
「ええ。またいつでもいらしてください」
目的の物を手に入れ、少しだけアオイさんの母親と雑談をしたあとにアオイさんの実家を出る。
「またお邪魔させていただきます。……あの、最後にひとつ変なことを伺いますが、たとえ自分の周辺が騒がしくなってしまったとしても、葵さんの無実が証明される方が嬉しいですよね?」
「ええ、そんなの当たり前じゃないですか」
「……そうですよね。変なことを聞いてしまいました。私も同じ気持ちです」
俺の問いにアオイさんの母親は即答した。
おそらくこの4年間でマスコミや大勢の人から好奇の目に晒され、酷い言葉を浴びせられたに違いない。だけどそれでも、父親と一緒に娘の無実を信じてずっと戦ってきたのだろう。その気持ちは必ずアオイさんに届ける!
再びアオイさんの実家に来る際にすぐに来られるよう、近くで人気のまったくない場所を確認しておく。スマホを操作してあることを確認し、固有スキルを使って異世界へと戻った。
「カ、カケルさん……ど、どうでしたか?」
「カケル、大丈夫だった?」
屋敷へ戻ると、アオイさんとユウカが俺を待っていた。
特にアオイさんはものすごく不安そうな表情を浮かべている。ユウカよりも長いこの4年間、両親が無事であることをずっと祈っていたのだろう。
「ご両親とも実家で暮らしていたよ。アオイさんの無実を信じてずっと戦ってきたみたいだ」
「……っ! お父さん、お母さん……」
アオイさんの碧く小さな瞳から涙がこぼれ落ちていく。俺もユウカもそうだったが、やはり両親の無事がわかると本当に嬉しいものだ。
「カ、カケ……あ、ありが……」
「うん、よかったね」
涙が溢れ、うまく言葉にならないみたいだけれど、俺に感謝していることだけは伝わってくる。
この4年間ずっと両親のことを心配していたのだろう。俺やユウカの時とは違って、自身に冤罪をかけられていた状態だったから、俺たちの何倍も両親が心配だったに違いない。
「あ、あの……さっきは失礼しました」
「ううん、気にしないで。俺も両親を久しぶりに見た時は泣いちゃったから」
「私もカケルに救われた時はすっごく泣いちゃったし、恥ずかしいことではないと思うわ」
アオイさんが落ち着くまでしばらく待った。
見た目はエルフの少女だけれど、中身は俺と同じくらいの女性だから、先ほど俺とユウカの前思いきり泣いてしまったことが恥ずかしいようだ。だけどユウカの言う通り、両親を想って泣くことは決して恥ずかしいことじゃないと、俺も思う。
「改めてだけれど、ご両親や家の方は大丈夫そうだった」
「あ、ありがとうございました!」
アオイさんもユウカと同様、こちらの世界では魔法を研究していてかなりのお金持ちらしい。実家の方が厳しそうだったら生前アオイさんからお金を借りていたと伝えて、金貨を渡そうと思っていたけれど、現状すぐにお金が必要というわけではなさそうだった。
「それと例の付箋に書いてあったログインIDとパスワードを使ったら、ちゃんとサイトにログインできたよ」
「よかった! ……うん、これで間違いない!」
スマホで実際にログインをして、端末にダウンロードしたデータをアオイさんに見せる。これはアオイさんが自分の身を守るために集めていた証拠や上司のパワハラやセクハラの音声を録音していたデータである。
無料のオンラインストレージサービスで、もちろんどこからでもアクセスしてデータを保存できるのだが、ひとつ問題があってアオイさんがログインするためのユーザ名とパスワードの組み合わせを忘れてしまっていたのだ。
まあ、こればかりは仕方がない。いきなり転生して異世界へやってきたわけだし、普段からPCの自動入力機能を使っていたら、あんまり覚えていないものなんだよな。まあ、それをノートPCに付箋で貼っておくのはセキュリティに結構な問題があるんだけれど。
「よかったじゃない。この証拠や音声データをネットに流せば、アオイの冤罪は晴らせそうね」
「うん! ……だけど、4年も前のことを他の人が信じてくれるかどうかわからない」
確かにこれがもしもアオイさんが亡くなった直後だったら、すぐに話題となって瞬く間に拡散されていただろうけれど、今この証拠や音声データをそのまま流しただけでは大して広がらず、例の上司には処分すら下されない可能性が高い。
「俺もこのままこれをネットに流してもアオイさんが無実であることはそれほど広まらないと思う。だけど、ひとつ策がある」
動画編集やプログラミングの技術など、今世ではまったく使わないと言ったが、それは訂正しよう。どうやら俺がこれまでブラック企業で培ってきた技術が少しだけ役に立つかもしれない。




