第15話 部屋にある物
「この度はご愁傷さまでした。お悔やみ申し上げます。こちらはつまらないものですが」
用意しておいた数珠などを使ってお線香をあげさせてもらい、菓子折りを母親へ渡す。
仏壇にはメガネをかけた前世でのアオイさんの遺影があったが、父親の遺影はなかったのでほっとする。居間の様子を見ても2人で暮らしている生活感があったので、まずご両親の無事は確認できた。
横領罪などで裁判が行われている最中に被疑者が死亡した場合、その裁判は公訴棄却されて無罪有罪を争わなくなる。横領のような場合は相続人であるご両親に対して会社から裁判によって損害賠償を請求をすることができるらしいが、先ほど調べたところアオイさんの会社はそれをしなかったので、両親に金銭面の負担がなかったのは不幸中の幸いだ。
「ご丁寧にありがとうございます。葵は大人しい子で友人があまりいないと思っていたのですが、カケルさんのような友人がいることに驚きました。随分と日本語がお上手なのですね?」
「日本人とのハーフなので、むしろ日本語しか話せないんですよ。実は外国にも行ったことがありません」
……まあ、外国には行ったことはないが、異世界なら毎日往復しているわけだが。
「葵さんとはゲームの中での繋がりだけで実際に会ったことはなく、ご挨拶が大変遅くなってしまって申し訳ございません」
「そうでしたか。本当にあの子は大人になってもそのゲームのことばっかりで……でも、すごく楽しそうにゲームのことを私や夫に話してくれていたんですよ……うう……」
アオイさんの母親が涙ぐむ。昔のアオイさんのことを思い出しているのだろう。
アオイさんからは両親には自分が異世界に転生したことを言わないでほしいと頼まれている。やはり転生だとすでに戸籍は存在せず、身体も前世のものとは異なって、完全なる別人となってしまう。俺も同じ気持ちで、両親には言えなかったからな。
……そしてこんな空気の中でこの話を切り出すのは申し訳ないが、これはどうしても確認しなければならない。
「ええ~と、私は絶対に信じておりませんが、ネットではなぜか葵さんが会社のお金を横領していたと……」
「娘は絶対にそんなことをしていません! 確かにあの娘は人付き合いが少し苦手だったかもしれませんが、人様のお金に手を出すような娘ではありませんでした!」
先ほどまでずっと穏やかだったアオイさんの母親が大きな声を上げる。他の人にも散々疑われ、酷いことを言われてきたのかもしれない。
「もちろん分かっています。葵さんは夜遅くまで働いていて、すごく大変だけれど、ゲームのためなら頑張れるといつも言っていました。絶対に横領や自殺なんてする人じゃなかったと私も信じています。でもだからこそ、どうしてそんな話になっているのか私にはわからなくて……」
「あっ……失礼しました。そうですね、病院や警察の方からは急性心筋梗塞という血管が詰まってしまう疾患が原因と言われていたのですが、どうしてか自殺という話が広まってしまっていて……」
「なるほど」
そうなると予想通り病院や警察の方は関与していなさそうだ。
移動をしている際に改めて調べてみたが、確かに警察からは最初に病死という発表があった。それがなぜか自殺という噂の流れに変わっていったのは、会社やマスコミなどによる情報操作のあった可能性が高いという証拠でもある。
「辛いことを思い出させてしまって申し訳ございません。そういえば少しだけ葵さんのお部屋を見せていただくことは可能ですか?」
「ええ、構いませんよ」
母親にお願いをして、二階にあるアオイさんの部屋へと案内してもらう。
「……すみません、一応これでも片付けたんですよ」
「い、いえ。私の部屋も似たようなものですから……」
アオイさんの母親の手前そう返したが、俺の部屋もここまでは物が溢れていない。アオイさんの部屋にはベッド、ワークデスク、本棚などがそのまま残っているようだ。そして別の棚や壁には例のソシャゲである剣スタのフィギュア、アクスタ、ポスターなどのグッズが溢れている。どうやらアオイさんは結構なゲームオタクだったらしい。
俺がアオイさんの部屋である物を回収すると相談している時にアオイさんが微妙な顔色をしていたのはこのせいか。
……俺が転生した際の部屋はたぶん大丈夫なはずだ。人に見られるとヤバいブツはPCの中の偽装フォルダに入れていたから、PCの中を深く探されていない限りは絶対に大丈夫である。転移でも転生でも、残した物の後始末には困るものだな。アオイさんも本当に見せたくなかった物はご両親に見つかっていなかったと祈ろう。
「これか!」
思わず声が出る。部屋のワークデスクの上にあったノートPCに付いている付箋。これが今回アオイさんの実家までやってきて手に入れたかったものである。




