第13話 冤罪
「ちょっと待ったあ!」
「えっ!?」
「……だ、誰?」
いきなりこの屋敷の中で戦いが起こりそうになったので、急いで隣の客室へ割り込む。
せっかくユウカが俺のことを隠そうと守ってくれていたのに申し訳ないが、それでユウカがアオイさんと命懸けの戦闘をすることは止めなければならない。
『剣聖』と『魔導王』、チートな固有スキルを持った者同士が本気で戦えば、下手をするとこの屋敷どころか、周囲の地形ごと変えかねない。……というか、このままだと俺が2人の戦いに巻き込まれて死んでしまう可能性が高い。
「アオイさん、俺はカケルと申します。大変失礼ですが、隣の部屋であなたの話を聞かせていただきました。俺の固有スキルで日本からこれらの物を持ってきたんです」
「ちょっ、カケル!?」
「っ! ……い、いったいどういうこと?」
俺がマジックバッグから出した日本の醤油や味噌のパッケージを見せると、彼女は驚きの表情を浮かべた。そしてその長い両耳をぴくぴくと動かす。
客室へ移動してきてアオイさんの容姿を初めて見たが、小学校高学年くらいの小さな少女である。ただし、その肌は透き通るように真っ白で、輝く金色の髪の隙間から出ている両耳は人族のものより長い。ユウカから聞いていた通り、彼女の種族はファンタジーなアニメなんかでよく見かけるエルフの姿そのものであった。
一口に転生といっても様々な種類があるが、ユウカから聞いた情報によると、この異世界へ転生してくる際は2つのパターンがあるようだ。1つ目はこの異世界の現地人の子供として、生を受けるパターン。
そしてもうひとつが俺や彼女のように、新しい肉体が構成されてこの異世界へ転生してくるパターンとなる。その際は今の俺みたいに容姿や年齢が変わるわけだが、それだけではなく、獣人やドワーフ、エルフなどといった人とは異なる種族の身体に転生することもあるらしい。
「そんな感じで俺は日本へ帰ることができるけれど、ユウカは帰ることができませんでした」
「……と、とりあえず、あなたが日本へ帰れる固有スキルを持っていることは理解した」
ユウカとアオイさんによる本気の戦闘が起こりそうだったため、割って入って俺の固有スキルとこれまでの経緯を話すことにした。昨日フリーマーケットの帰りに購入してきた日本の物をいくつか見せると、アオイさんも俺が日本へ帰れる固有スキルを持っていることをわかってくれたようだ。
先ほど一触即発だった状況の割には冷静に俺の話を聞いてくれている。……というか、少しアオイさんの様子が少しおかしい。俺と決して目を合わせようとせず、落ち着かない様子で挙動不審だ。ローブに付いているフードをかぶり、先端に高そうな水晶のついた杖を前に出している。
やはりユウカから事前に聞いていた通り、アオイさんは内向的で人見知りする性格らしい。ユウカが最初に彼女と出会った時もそんな感じだったようだ。
そういった性格も踏まえて、屋敷に直接呼んだわけなのだが、まさかいきなり戦闘になるとは俺たちの考えが甘かった。きっとアオイさんの想いがそれほど強かったのだろう。
「ユウカ、さっきはごめん。頭に血が上ってしまった……」
「構わないわ。……事情が事情だったし、たぶん私が逆の立場でも、力尽くで聞きだそうとしていたと思う」
アオイさんがユウカに謝罪をする。2人の事情を考えたら、日本へ帰るヒントをどんなことをしてでも掴みたいと思ってしまうのも仕方がないように思える。
とはいえ、今は落ち着いて、俺やユウカに無理やり何かをさせようという気はないみたいだ。それならば、こちらも協力できることがある。
「アオイさん。はっきり言いますが、俺にはその人を殺す手伝いはできません。ですが、もしもアオイさんが持っていたという裁判の証拠が残っているのならば、アオイさんの冤罪を晴らし、その上司に正当な罰を与えることができるかもしれません。それとアオイさんのご両親を支援することが可能です」
「っ!! お、お願いします! わ、私にできることなら、なんでもします! どうかカケルさんの力を貸してください!」
アオイさんが俺に頭を下げる。
よかった、少なくとも今はその上司を殺すことよりも、その身にかけられた冤罪を晴らし、両親のことを優先してくれるようだ。
「わかりました。ですが条件がいくつかあります」
まずはアオイさんとも契約を結ぶ。内容はユウカの時と同様に俺のこと他人にを喋らないことと、しばらく俺の護衛をすることをお願いした。
お金についても支援をお願いしようとしたけれど、それはユウカがひとりで支援してくれると譲らなかったので、それは省いた。俺もフリーマーケットのおかげで多少はお金を稼げそうだし、ようやく完全なるヒモの状態から少し脱することができたようだ。
……まあ、女性2人に護衛をしてもらうという時点でちょっとあれだが、こちらの世界で性別なんてあまり関係ないからな。
アオイさんを連れて日本へ移動できるかも一度試してみたが、ユウカの時と同様にそれはできなかった。もちろん、アオイさんも日本へ戻れた場合はひとりでその上司を殺しに行く可能性が高いため、一瞬で戻って来るつもりだったか、それは不要な心配だった。
アオイさんとユウカと相談をしてまずは情報収集をするために日本のコーヒーショップへやってきた。
昨日ユウカの父親にスマホの再契約を頼んだけれど、さすがにまだネットは繋がらなかったから、無料のwifiを繋げて、ユウカのスマホを使いアオイさんの件について情報を集めている。
「……なるほど、事態はアオイさんが予想していたよりも悪い方向へ進んでいたみたいだ」
必要な情報を集め、スマホの画面をスクショする。
お店を出て人気のいないところまで移動し、異世界の屋敷へと戻った。
「ど、どうでしたか?」
屋敷へ戻ると、ユウカとアオイさんが俺を待っていた。ユウカはずっとアオイさんを警戒をしており、刀に手をかけている状態だ。協力することになったが、まだ完全にアオイさんを信用したわけではない。とはいえ、ネットで調べた情報とアオイさんの言っていた本名は間違いなかったから、多少は警戒を解いてよさそうだ。
だけど、今から調べた内容のことを話すとアオイさんが激昂して暴れてしまうかもしれないから、いざとなったらユウカに押さえてもらおう。
「落ち着いて聞いてね。やっぱり、会社のお金を横領をしたのはアオイさんっていうことになっていて、ニュースにも載っていた」
「っぐ……!」
スマホでスクショした一枚目の画像を見せる。そこには業務上横領罪の容疑がかけられていた黒崎葵さんが被疑者死亡により裁判が終了したとの見出しが出ている。
それを見てアオイさんの表情が険しくなるが、問題は次のスクショの方である。
「しかも、ネットではアオイさんが会社のお金を横領をして、それを苦に自殺したことになっていたんだ」




