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解析度 30 %―ジャンクフードと変わった癖

玄関のドアノブに手をかける

論理的な思考も、飢えの前では無力だった。


制服のまま、まずコンビニエンスストアで購入した

冷凍食品のパスタを電子レンジに放り込んだ。


レンジのカウントダウンの数字を眺めている間

アヤカの孤独も、サラリーマンの絶望も、一時的に停止する。


このジャンクフードが私にとって、頭をリセットするための唯一の手段だ。


「チン」という音と共に、熱い食品を取り出し

自室へ持ち込む、部屋の中は普段の私とはかけ離れた

極めて非効率的な空間だった。


ベッドもデスクも、小動物をモチーフにしたキャラクターグッズで

埋め尽くされている、頬がピンク色をしたウサギのぬいぐるみ

目がクリクリとしたハリネズミのクッション

そしてPCのモニターの縁には、小さな犬のマスコットがこちらを見つめている

穏やかな空間だ。


私はその可愛いぬいぐるみたちに囲まれながら冷凍のジャンクフードを一口頬張った

口の中に広がる塩気と人工的な旨味が疲れた脳みそのノイズを鎮めていく。


椅子に腰掛け、PCを立ち上げる。デスクトップの背景はお気に入りの子猫の写真だ

私の分析能力は通常の80%程度に低下している


私はPC画面と、冷めてきたジャンクフードを交互に見つめる。


フォークでカルボナーラを大きく巻き取った

口の中に広がるジャンクな味が

また脳の矛盾したノイズを鎮めていく。


同時に、PCの画面には動画サイトのトップページが開かれている

私は迷うことなく「猫 可愛い 動画」という単語を恐ろしい早さでを打ち込んだ。


画面に映し出されたのは、箱の中で丸くなって

眠る子猫たちの映像だその無垢な姿を前に

私の分析能力はもう30%程度まで低下している

彼らの毛並みの質感、無防備な寝息、そして小さな肉球の動き。


――これらは私にとって難しく考えるの必要のない、ただの幸福なデータだった。


「…………可愛い。」


私は満面の笑みで子猫の動画に夢中になりながらフォークを止めることなく

カルボナーラを完食した

食べ終えた容器を横に寄せ大きく息を吐く。


今日の私は、いつもより長時間、喫茶店から

自宅まで街中を歩き回るという慣れない事をした

観察することに没頭しすぎて自分の疲労を完全に無視していた。


「…しまった」


私は椅子から立ち上がったが、制服のスカートの下に散らばった

脱ぎっぱなしの靴下と体操服を見て再び深い後悔の念に駆られる。


私の部屋は癒されるための空間ではなく

性格の不器用さとズボラな性格を体現したような散らかりようだ。


その散らかった服の山を、足で器用に隅へ押しやり

その中から比較的シワの少ない部屋着を探し出した。


風呂場に向かい浴槽に湯を張る、ふと、湯船の縁に置かれた

空のシャンプーボトルが目に入った。


「ああ、そうだった」


数日前に母に「シャンプーが切れそうだった」と言ったばかりだ

しかし、母は最近仕事が多忙で、その情報を忘れている可能性を

見落としていた

なぜか家族の単純な行動予測だけは疎かになる


結局、シャンプーがないため、湯船に浸かって疲労を流した後

お湯だけでざっと髪と体を洗い流す


私はそのまま冷蔵庫へ向かい、一気に冷気を浴びる、取り出したのは

刺激的な舌触りが脳を活性化させる冷たいコーラだ


やっぱり甘いものはいい。


コーラを手に自室へ戻り、再びPCの前に座る。


コーラを一口飲みPCの前に再度座った、冷たい炭酸の刺激が

疲労で鈍っていた脳の回路を一気に再起動させる、思考の疲れは回復した。


画面には、先ほどまで見ていた子猫動画の再生リストが並んでいる

私はその中から特にお気に入りの「箱から出られない子猫」という

動画のサムネイルをクリックしようとした。


その瞬間、ポンっと画面の右下から、通知音と共にニュース速報が飛び出した。


【速報】連続通り魔事件、今月で3件目!警戒強まる


わずかに眉を寄せ、子猫を諦めてニュース記事を開いた

疲労から早く逃れたいと体が訴えるが情報の収集と

分析は私の不治の癖だ。


コーラを啜りながら、記事に書かれた

被害者の服装、犯行時間、犯行現場の細かな情報

(街灯の切れ方、監視カメラの死角)を整理した。


被害者の持ち物の特徴

犯人が残したどこか見慣れた足跡のパターン

逃走経路の風向きと路面の湿度


そして、私の分析は即座に核心を突いた。


ニュース記事に記載された

『現場周辺で採取された複数の足跡

という記述がある。警察はこれで複数犯の可能性として捉えているようだった

しかし、私の考えは違う、記事に付随する現場写真の

雨で濡れた足跡の乱れは単に特定の癖の違いでしかない。


写真をよく見る、右足の踏み込みに対し、左足の踏み込みが常に浅く

現場を歩き回る事でそれがかえって捜査に邪魔になっているようだ

これは、複数犯ではなく、犯人が右足に古傷がありわずかに引きずっていること

そしてそれが疲労時に顕著に出る身体的特徴であることを示していた。


そして、ニュース記事に書かれている

「警察は捜査を続けています」という空虚な文章から

警察が私の知っている情報の三割にも満たないことまでも看破する

犯人の行動パターンを「無差別」と断定しているが

被害者全員が「特定SNSの裏アカウントのフォロワー同士」という共通の属性を

持っている。警察がこのSNS上のつながりという最も重要な接点を無視している時点で、彼らの情報把握は浅いと断定できた。』


「特定の匿名アカウントが関与するSNSコミュニティの元メンバー」

「無差別ではなく特定の人物を狙った犯行」

「それを操る人物」


『ああ、全部わかった』


溜め息と共にパンダの抱き枕に顔を埋めたくなった衝動を抑え

キーボードを叩いた。警察の匿名情報提供窓口にアクセスし

通報メールのフォームを開く。


「……面倒臭い。」


導かれたデータをそのまま専門用語で送れば、かえって情報源を疑われ

私の身元にまで調査が及ぶリスクがある

目的は、情報を効率よく提供し、関知しないことだ。


私は、匿名で「近所に住む怖がっている女子高生」を演じることにした。

震えるような感情を装いつつ、最も重要な情報を散りばめていった。


『件名:通り魔の件で、すごく怖くて、でも…』

「あの、うちの近所でこんなことがあったなんて、本当に怖くてたまりません

友達と話していたんですけど、あの犯人、もしかしたら左足をちょっと引きずっているんじゃないかって

3件目の現場の、あの汚い路地の写真をニュースで見た時、なんか左足の足跡だけ、いつも浅い気がして…。あとSNSでも似たような話があって

私、そういうの気にしちゃうんです

全然気のせいかもしれないんですけど、もし本当にそうなら、夜中の逃げ足が速くないはずだから、もしかしたら次の犯行も人通りが少ない特定の時間帯なんじゃないかって、すごく不安になって。警察の皆さんには全然関係ないかもしれないけど、近くに住んでるから不安で…」


我ながらよくできた方だと思う。


分析によって得られた最も重要な手がかり(右足の引きずり、犯行時間帯の予測)を、「ただの不安な女子高生の勘」という体裁にカモフラージュした

これならば、警察は「市民からのヒント」として扱い、私の身元を深追いすることはあり得ない、効率的かつ安全だ。


送信ボタンを押し、即座にPCの電源を切る。返事を待つ必要はない

彼らがその情報をどう扱うかは、私の関知するところではない。


「疲れた……」


飲み終わったコーラの空き缶とインスタント食品に空き容器、カトラリー類をぬいぐるみで埋め尽くされた床にあるごみ箱に放り投げた


もうこれ以上のデータ解析は無理だ

体力が、完璧な頭脳にストップをかけている。


そのままベッドに潜り込み、部屋で一番大きく、フワフワした

少しくたびれたお気に入りのパンダの抱きまくらを強く抱きしめた。


そして意識は、すぐに深い眠りへと落ちていった…

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