純愛派も他の派閥に思うところはあるが、それでも派閥のなかでは一番穏やかだ。
数日後。清楚派リーダーのスィートはハーレム内の庭園、軽い茶会を開くのに適した休憩所にて別派閥の女と並んで座り、語らっていた。
愛人派や放蕩派ではない──両派閥に対してはありえないほどに穏やかな、友を見る目と表情を浮かべている。
「それで、今宵はアシディ。あなたが英雄様にお呼ばれしているのね。ふふ、長い夜を存分に楽しみ満たされると良いわ。もちろん、同じくらい御方を楽しませ満たすようにね」
「はい! ……えへへ、なんだか恥ずかしいですけど、スィートさんにだけはこういうこともお話できちゃいます」
その女へかける声もまた、穏やかの一言だ。友愛と信頼を込めたその相手は、中立派のソルティでもない。
純愛派筆頭、天真爛漫にして純朴なる小柄なアシディ。清楚派ほど極端ではないものの中立派よりはそちら寄りな、あなたに対して絶対の貞操と純愛を捧げている派閥の長だ。
そうした方向性の派閥ゆえに、清楚派からすると自分達ほどではないがあなたへの愛を貫く同志として純愛派にはシンパシーを抱けるのだ。
同様に純愛派にとっても、清楚派は多少極端なものの抱く想いは等しいため、仲良くしていきたい派閥として見做していた。
「それにしても、こないだの夜……ソルティさんがビタネスさんを待ち構えたみたいですけど、その後何かありました?」
「いえ、特には聞かないわね。まあ風見鶏のことだもの、雌犬相手にも良い顔をしたのでしょう。内心は良い顔などしていないくせに、バランサー気取りで中立ごっこなどしている女どもよ、あれは」
「そう、ですか。純愛派からすると、中立派とはそれなりに仲良しではあるんですけどね」
「好きになさいな。清楚派からすれば下らない連中というだけで、あなた方にそれを強制するつもりもないもの。それか、派閥替えでもする?」
「あはは、遠慮しときます」
鋭い口調で厳しい物言いのスィートに比べ、アシディは苦笑い交じりの愛想良さでそれをオブラートに包む。中立派をも嫌う清楚派とは異なり、純愛派は中立派のスタンスをそれなり以上に気に入っていた。
そも、ハーレム内の五派閥のうち清楚派、愛人派、放蕩派はそれぞれ別方向に極端すぎるというのは純愛派、中立派共通の見解だ。
清楚派はまだ良い。極端に走る向きがあなたであることは、純愛派にとってはむしろ敬すべきことだ。だが愛人派と放蕩派のような、よりによってあなたを蔑ろにするような動きを見せる派閥は、はっきり言えば嫌いなのがアシディの本音だった。
特にやはり、愛人派はどうにも受け入れられない。
「愛人派の人達……正直、どうなんでしょうね? 中立派の人達ほど優しくなれませんし、どうしても嫌悪感はあっちゃうんですよね。スィートさん達ほど、できれば今すぐ消えてほしいってほどでもないんですけど」
「そうねえ。憎むほどではないけれど嫌いなのは嫌い……あなた達はある意味、風見鶏以上に中途半端だけれどそのものの考え方は正しいと思うわ」
「……それは、なんだか複雑な評価です……」
「褒めてるのよ。風見鶏みたいな八方美人に比べたらはるかにまともじゃない。ああ、愛人派の雌犬どもと放蕩派の雌豚どもは論外よ。アレらに比べたら風見鶏ですらまだマシだものね」
肩をすくめて苦笑い。恐縮するようにおびえた様子のアシディだが、スィートはこれでそれなりに彼女を評価している。
好き嫌いは強制できない。価値観の違いなのだから、それこそ愛人派や放蕩派を無理やり追放に踏み切るつもりがないように純愛派や中立派のスタンスを否定するつもりもない。
ただ、それぞれに隔たりがあるだけだ。しかして純愛派が、例の二派閥を快く思っていないことはそれなりに気分が良い。
風見鶏でしかない中立派などより、よほど愛嬌があるというものだろうと彼女は思っている。まさに妹分を見るように、スィートはアシディを柔らかな眼差しで見据えた。
「あなた達はそれはそれで良いわ。私達は私達で、勝手に中立派のことを風見鶏として見下し、愛人派を論ずるにも値しない者どもとして見下げ果て。そして放蕩派については、多少筋が通っている分だけ愛人派よりはいくらかマシなだけの連中と白眼視するだけだもの」
「は、はあ」
「……それに、結局派閥争いとか言ってもね。英雄様が良しとなさっている以上は敵視はしても排除はできないし、それはエイラが許さない。彼女だけは風見鶏と同列には置けない真なる中立、そして英雄様に最も近しいこのハーレムの核心だもの。決して敵には回せない」
「あー……それは、そうですね。さすがにあの人には、誰も逆らおうとも思いません」
五つに分かれた派閥によるこのハーレムにおける、たった一人の例外。あなたの最側近にして、メンバー誰もが逆らえない真なる中立にして頂点たる女──エイラ。
その名を出されればアシディはうなずかざるを得ない。いや彼女だけでなくスィートはもちろんソルティも、ビタネスも、そしてウマムとてなんら抗弁の余地はないだろう。
畢竟、結局のところこのハーレムの構造とはエイラが中心なのだ。本来ならば英雄たるあなたとエイラだけで完結していたところに、他のメンバーは無理に押しかけて半ば強引にハーレムを構築したに過ぎない。
その時点で彼女にだけは、派閥問わず誰もが頭が上がらないという関係性が確立しているのだった。




