清楚派は価値観の違いを否定しないが、受け入れ難ければそれは拒否する。
中立派筆頭ソルティと、愛人派トップのビタネスが深夜に人知れず、静かに不穏な語らいを嗜むさなか。この日の夜もあなたはハーレムの女を相手に手合わせしていた。
基本的に50人もの女を囲うあなたの夜に孤独の二文字だけはない。毎日誰かしらを相手にし、互いに愛を育み合うのは魔竜王を倒してからのあなたの新たな日課となっている。
そして今夜の相手はスィート……清楚派のリーダーその人だった。色気ある汗とともに欲望を発散させ、青髪ロングを振り乱した彼女の肢体を抱きしめながらも、あなたは耳元で囁く彼女の声をたしかに受け止めた。
「はぁ、ふぅ……ふふ。英雄様とともに過ごすこの褥こそ、私にとって至福の時……他の何物にも代え難い、この世の天上ですわ……!」
小柄なスィートの浮かべる表情は、夜戦のさなかということもあり昼間にはない艶美な妖気に満ちている。それに応じるかのようにあなたもまた、その身の精力を増してさらなる戦いに臨む覚悟を固め続けている。
だが今は一旦休戦だ、女の身体を優しく抱きとめて二人力を抜く。暫しの憩いのなか、ピロートークとは程遠い声音でスィートは、さらに続けてあなたに告げた。
「ねえあなた様、お聞きになりまして? またビタネス達雌犬派……もとい愛人派が勝手な真似をしていますわ。風見鶏の長が今、出迎えておりますわね」
甘く蕩けた声に、たしかに感じる憎悪。この世すべての悪意と怨恨を煮凝らせた、哀れなりし魔竜王とて裸足で逃げかねないほどの薄暗い背徳的に甘美な色合いのスィートの囁きは、あなたが先ほどから察知している外の気配とやり取りを彼女もすでに掴んでいることを知らせた。
風見鶏の長……ソルティのことだ。おそらく事前に打ち合わせていたのだろう、深夜帰りになるビタネスを、ソルティが待ち構えるようにと。
さらに言うならば他の派閥の長も、あるいはあなたにとっての最愛エイラでさえも把握しているのだろう。
愛人派はただでさえそのスタンスから全派閥から嫌悪、ないし懐疑的に見られがちな派閥ゆえ、ことに絡めば他派閥はそれぞれの立場を一旦棚上げして共通してことにかかるのが常だ。
「放蕩派までもが嫌うというのは、同族嫌悪というものでしょうから私としましては滑稽としか言えませんが……程度問題だけを見ればたしかに、愛人派というのは放蕩派よりもなおひどいでしょうね。よりによってあなた様を、そこいらの男と天秤に掛けた挙句にそのことを悪びれもしない。両者ともを愛するなどとまるで自分達こそが主体だと言わんばかりの思い上がり、それを清楚派は断じて許せませんのよ」
憎悪の泉から苛立ちの雫が溢れたかのように、矢継ぎ早に捲し立てるスィートを落ち着かせるべくあなたは抱きしめる腕に力を込めた。軽い喘ぎ声とともに、雰囲気が霧散するのを安堵の心地で感じ取る。
彼女の物言いは、包み隠さず言うならばあなたの心を癒すものではあった。愛人派による、どちらが間男かももはや分からないような扱いをされたことで少なからず複雑な心境が、傷ついた自尊心が癒される思いになるのだ。
とはいえ、愛人派とて愛人派なりの主張があることはあなたも重々承知していた。
いまいち納得に苦しむものではあるが、アレで彼女らはそれでもあなたをこそ至上としているつもりなのだ。
別に男はいる、愛してもいる。なんなら肌を合わせた回数だけなら、あなたよりも多いほどのまさしくセカンドパートナーだ。
けれど、愛人派の女達曰くどちらか片方を選ぶとしたら迷うことなくあなただと、心の底からなんの衒いもなく言ってのけているのだ。同衾する度、常識を語るように聞かされている。
そしてそんな主張を、愛人派は他の派閥にも常からしているのだろう。まるで火に油を注ぐようなことで、あなたは自らの心の痛みも忘れて天を仰ぎたくなる。
スィートはあなたを慮って抱きつき返し、鍛え抜かれた肉体に頬擦りしながらもやはり、囁いた。
「生まれ育ちの違いもあるのでしょう。言ってしまえば各派閥とは畢竟、その違いのなかで生じた各々の物差しの種類別による違いと言えます。愛人派には愛人派の物差しがある……それ自体は否定しません。しかしとはいえ、受け入れがたい物差しを無理矢理受け入れてこちらの物差しを曲げる必要も、私達にはございませんのですわ。彼女らは明確に、自らの物差しにふさわしい使い所と置き場を間違えています」
強い断言。相手の物差し、すなわち価値観に関してそれそのものは否定せずとも、少なくともこのハーレムにあってはあり得ないものであると確信込めて言い放つスィートに、あなたは軽い溜息を吐いて小さくうなずいた。
否定できない。本音のところでは。あなたを至上としておきながらあなたを他の男と同列に扱っているとしか思えない振る舞いでは、どうしたところで肯定のしようがない。
ハーレムの一員として自ら志願してきたのが彼女らならば、それを前提として振る舞うべきではあるのだ。選ぶ側に立ちたいのならば、選ばれる側の領域に居を構えようとしてはいけなかったのだろう。
選ばれる側でありながら選ぶ側に立とうとする……選んでほしいはずの相手を、逆に他の何某かと比べて選ばんとするその矛盾、支離滅裂さ。
それこそが愛人派の最大の問題点であり、そして他派閥から厭われる理由なのだった。
ヤンデレと悪女が入り乱れるハーレム(*´ω`*)




