放蕩派は自らの欲に抗えないが、別の方向からあなたに尽くしている。
「……朝から嫌な顔見ちゃった。男の匂いを纏わせた雌豚の顔だわ」
「あらごきげんよう。すみませんね、昨日もつい昂ぶってしまって」
あなたのハーレム内、女達が住まう白亜の居住区の通路にて。二つの派閥のメンバー同士が、朝早くからたまたま出会していた。
清楚派──あなたに心底から恭順し敬服し、この世の何よりもあなたを最優先するハーレムのなかでもとびきり極度にあなたを信仰する女達の派閥。そのリーダー、青髪ロングヘアーののスィート。
放蕩派──あなたを誰より愛する点では他派閥にも負けじ劣らじながらも、その身に宿す欲求を抑えきれず不特定多数の男達に溺れる日々を過ごす女達の派閥。そのリーダー、褐色肌に情熱的な肉体のウマム。
いわばあなたを巡っての最右翼派閥と最左翼派閥。
そんな両者のそれぞれ率いる者同士が、偶然にも鉢合わせてしまっていたのだ。
スィートが舌鋒鋭くウマムを攻撃する。
「穢らわしい。英雄様に愛を囁くその口で、その身体で他の男達にも言い寄る女が。このハーレムにいること自体があまりに不名誉なのです、いい加減に心得なさい」
「うふふ、ごめんなさいねスィート様。一言一句正論すぎて私にはとても言い返せません。自分でもほとほと、困ってますのよ? こんな浅ましい性には……最低限、ハーレム内に男を入れていないことをもってどうか、見逃してもらえないかしら?」
「よくもまあ、そんな当然のことを大したことのように言うわね? 英雄様以外の男をこの場所、この園に入れないなどと当たり前のこと。盛りのついた雌犬は、脳内にまで間男への情に侵食されて常識すらも分からないのかしら?」
「手厳しいわね、相変わらず」
口汚いと言ってもいいレベルの厳しい物言いだが、言われて当然だとウマムは思う。
何も言い返せない……昨夜も5人もの男を相手に好き放題振る舞っていたのだから。ハーレムにとって不名誉だと言われるのも無理はない。
男達をここに連れ込まないというのも言うまでもないことで、引き合いに出して許しを請うなどとあまりにおこがましいことだ。
それでも言うしかなかったのは、ひとえにウマムが、彼女自身に宿る獣的なまでの欲求発散への渇望に自嘲と嫌悪を覚えているからだろう。
そも、放蕩派はそうした者が多い。飢えたな自分、爛れた己を恥じて戒めんとしつつもどうしてもそれができない本能の虜。本来ならば英雄たるあなたのハーレムに加わるなど、たとえすべてを擲って縋ろうとも叶うはずのない願いだったのだ。
それでも、とウマムは呻いた。
「それでも……それでも。英雄様は私達のような者も愛してくださっているわ。英雄様だけに身体を預けられない私達に、嫉妬と嫌悪を抱きながらも」
「…………英雄様は、お優しいもの。あなた方のようなどうしようもない者達にさえ、救いの手を差し伸べるほどに」
「ええ。だから、私達もここにいて英雄様にせめてもの心を捧げられるのよ。ふさわしくない身体でも、心ばかりはせめて、御方にと祈って。きっと、英雄様にだって理解してはもらえないでしょうけど」
「ふん……心ばかりは、ね。放蕩派の、社会的活躍については認めます。英雄様にすべてをささげることに余念のない私達では、たしかにあなた方のような方向性ではお力になれないでしょう。そこは、素直に称賛しますよ」
軽く鼻で笑いつつも、スィートはウマムに素直な褒め言葉を送った。自分よりもいくらか身長が高く、さらに大幅に女性的な肉体はたしかに男ウケはいいだろうし持て余すものはあるかもしれないと内心では思う。
散々悪しざまに言った。そのすべてが本音ではあるのだが、その実、スィートはじめ清楚派はこれでも放蕩派についてはまだ、その存在そのもの自体は否定しないスタンスでいた。
放蕩派の女達の最大の問題点たるふしだらさは、彼女ら自身にも抑えきれない欲求が起因だ。
それは軽蔑に値することではあるが、とはいえ心はあなたに捧げきっているというのも嘘ではないことをハーレムの女達は知っている。
ことあるごとに自嘲し、自罰し自虐し。それでも自業を自戒することができずに涙する姿を見た者は少なくない。
泣けば許されるわけでは断じてないのだが、精神的なセラピーを受けてもなお自制が利かないのであればそれはもう、そういうものだと受け取るしかない。
そのうえで放蕩派は、あなたを苦しめている償いと言わんばかりにハーレム外で功績を挙げているのだ。学問を修める者、商売を始める者、研究開発に携わる者……品性に欠ける欲の度合いと比例するかのように、彼女らはビジネスへの意欲と能力が高かった。
そうした活動によって稼いだ資金は、あなたの私財ではなく領地経営のための運営費としてプールされている。馬鹿にならない額だ。
以上の功績もまた、あなたが複雑な心境に至らざるを得ない一因でもあるのだが。
さすがにそこまでの功績を叩き出せてはいない清楚派や他の派閥としては、こんなでも彼女らは本気であなたを愛しているのだなと理解は示せるのであった。
ちょっとこう……フィクションにおける癖として
浮気性だけど心は一途、みたいなキャラも良いよねって(*´ω`*)




