放蕩派は淫蕩だが、そもそもあなたも人のことは言えない。
五つの派閥に分かたれた、異世界を救いしあなたのハーレム。いずれもあなたをこの世の何よりも上に置く至上主義であることは共通しているものの、貞操観念の面で決定的に二分に分かれている女達の集合体。
とりわけあなたにとって問題と言えてしまう二つの派閥、愛人派と放蕩派について……ハーレムの頂点生物たるエイラは、あなたを慰めながら説明していった。
「愛人派にしろ放蕩派にしろ、パートナーないし不特定の男達よりもあなた様を最優先にしていることはご留意くださいませ。実際、その、行為のなかで図に乗った挙句、あなた様を揶揄した男が即座に首を落とされた案件は両手の指では足りません。単なる発散の道具にすぎない分際で、あなた様を侮ること。これは絶対禁忌であるというのは両派閥絶対のルールとなっています」
思いの外、血腥い話まで出てきてあなたはなおのこと複雑な心境になった。行為の最中にあなたを馬鹿にしたからと殺したところで、やることはやっているのだからどうだというのだ……と、あなたの傷ついた自尊心がどろりと本音を見せる。
そんな本心をも、長い付き合いのなかで理解しているエイラはあなたに口づけを一つ落とした。軽いものから深いものまで。あなたは一人でない、あなたは愛されていると言葉でなく伝えるように。
「承知しています、あなた様には到底納得できないことでしょう。本音を言うなら私とて、多少理解は示しても共感も納得もできない理屈です。欲求ならば自分一人で慰めれば良い。あるいはハーレム内のメンバー同士という手もあります。忌避感がなければ誰かがあなた様に呼ばれる際、ともに侍るのも良いでしょう。それを、なぜによりによってあなた様以外の男などを使うのか。生まれ育ちから来る感性の違いというものの、難しさを私も常日頃から感じております」
エイラ自身、ハーレムの頂点という立場ゆえに各派閥の中間に立つ身であることから、愛人派と放蕩派の二派閥にも理解を示そうと苦労しているようだった。
しかしどうしても忌避感があるらしい姿に、あなたの心はどこか救われ慰められた。複雑な気持ちのこの心を、やはりエイラは分かってくれているのだと。
あなたとて元は地球の日本、ネット小説やイラストに耽っていた男だ。特殊性癖の坩堝、度を超えた変態の巣窟といえるようなサイトを紳士的に嗜んでいたことも日常茶飯時だった。
しかしリアルでやられるのは話が別だ。フィクションだから、創作だからこそ興奮できるような類の性癖も世にはあり、実際に起きてしまうと、いくらあなた至上主義だなどと言われたところで、でもその口で他の男とも遊んでいるんですよね? と言いたくなる気持ちはたしかにあってしまうのだ。
ついつい唇を尖らせる。そんなことなら、ハーレムなどに入らず隣人として、領民としてでもいてくれれば複雑にならずにすんだのに。
そう、甘えるように本音を告げれば……エイラはその豊満な胸にあなたの顔を埋めさせ、頭を優しく撫でるのだった。
「お気持ちは分かりますが、それでも彼女達にとってはあなたの傍を離れ難いのです。肉体と心、欲求と愛情は別なのですね。けれど、それが一般的な感覚とズレているというのも、少なくとも放蕩派の女性陣は分かっています。ですから、あなた様と過ごす際にはどこか、縋るように甘えて奉仕的に振る舞うのですよね?」
エイラの確認に、あなたはうなずく。
不特定多数の男と関係を持っている放蕩派であれ、ハーレムの一員である以上は時にはあなたと夜を過ごすこともある。触れ合いのなかで生じる病などの懸念についても、英雄たるあなたは奇跡の御業にて自らを含めた領土内の人間すべてを加護しているため一切の心配はないのだ。
放蕩派の女性陣は、普段から経験を積んでいるだけはあり手練手管がすさまじい。それもあなたを組み敷く手法が多めなあたり、他の男相手には相当上位に立って振る舞っているのだろう。
だが──そんな、いわば女王様気質なのだろう放蕩派の者達は、誰も彼もがあなたと過ごすとなると途端に縋るように振る舞うのだ。
まるで捨てないでと哀願するように、希うように。
実際に言われたこともある。放蕩派と呼ばれる派閥のリーダー格、ウマムとの夜に囁かれた言葉を思い返す。
『愛しているわ。愛しているの、愛して────けれどあなたは時にあまりに遠く、私は常にあまりに浅ましい。愚かな私を許して。いいえ許さないで。それでもあなたを愛しているの、それでも私は耐えられないの。捨てないで、せめて他の男を支配するこの心を、あなたにだけは屈服しますから───』
ひどく、屈折した言葉と声音だった。自らの欲求に自覚的で、享楽に開放的で、しかし同時に逃れ得ぬカルマであると断じているそんな様子。
怯えているのだろう、捨てられることに。愛されなくなることに。ゆえに他の男を、おそらくは凄絶に圧倒して搾取して蹂躙しているその心と身体をもって、唯一あなたにだけは絶対的に服従するのだ。
正直なところ、それが正しく愛なのかあなたには判断しかねた。もはや依存ではないのかと思える部分があるからだ。
しかし、同時にそこまで言われてはこちらも見捨てるに見捨てられない情があるのも事実だった。
そもそも、半ば押しかけてきたとはいえハーレムなど受け入れた自分が。多数の女性と関係を持つ自分が。その女達の男遊びは禁ずると言うのもあまりにフェアでない気もするのだから。
あなたはそのあたり、誠実でありたい想いとわがままでいたい本音とが入り混じる人物だった。
薄い本でならこういうのも許せる
薄い本でなら(重要)




