愛人派は激怒し、そしてあなたは理解に及ぶ。
激昂した愛人派筆頭、ビタネスの激怒は続く。清楚派、純愛派、中立派に対してそれぞれ思っていた不満と憤激をぶちまけてなお、彼女の声色と勢いはまるで留まることを知らないようにあなたには聞こえていた。
対して清楚派のスィート、純愛派のアシディ、中立派のソルティは各自異なる反応をしているようだった。あなたの発達した聴覚が、彼女らの微かなつぶやきをも拾ってしまう。
『まったく……隣の部屋に英雄様がいることも忘れてこの始末とは。つくづく、御方には相応しくありませんわね。何から何まで』
清楚派、スィート。彼女だけは明確に、会議室の隣にいるあなたのことを意識し続けていた。それゆえにビタネスへの反論も最低限、かつ最小限の静けさで行っていたのだ。
その声音にたしかに宿る呆れと嘲り。あなたはそこに、ビタネスの激昂を彼女がある程度予測していたのだろうことを察した。
いずれ、爆発することを見抜いていたのだろう。言ってしまえば奔放なのが愛人派だ。
自分達にとってなんらおかしなことでもないセカンドパートナーのことで、こうまで四面楚歌になったのなら……ストレスもただごとではなかったのは容易に想像がつく。
そこに来てこの、あからさまに愛人派と放蕩派を狙い撃った会議の場となれば、感情的なビタネスが暴発するのは目に見えていた。
想定していたがゆえ、他の女達とは異なりスィートだけは怒鳴り返したり反発することなく、努めて冷静にその怒りをいなしたというわけだった。
『愛人派の人達、あなた達は自分のやっていることの下劣さを棚に上げて何を言ってるんです……!? 落ち着いて、考え直してください! 本当にそんなことで、英雄様に侍る資格があると思うのですか!?』
一方、純愛派のアシディは懸命に愛人派に向けて訴えかけている。糾弾や反論でない、反省を促す呼びかけだ。
そこにあなたは健気な慈悲慈愛を感じ取った。他ならぬ愛人派達のため、彼女は本気で叱咤しているのだと気付いたのだ。
アシディとて愛人派のことは決して好いてはいないだろう。清楚派に比べて穏健なだけで、彼女ら純愛派にとってもあなた以外の男の匂いを漂わせている者達など、近くにもいて欲しくないのは変わらない。
しかし、それが愛人派を排除する理由になってはいけないとも考えているのだ。マイルドで心優しいスタンスならではの、ある種の甘さとも言える。
だが今のあなたにとってそんな彼女が清涼剤となっているのは否めなかった。
はっきり言えば過激すぎるスィート達よりも、このくらい穏健なアシディのほうがあなたの性には合っているのだ。
『私達中立派の、公平と公正は誰が保証する……? それは、英雄様に決まっています。英雄様の名のもとにこそ、私達の中立、そしてそれを中心とした完璧なハーレムは成立するのですから。その、はずです』
他方、中立派のソルティも清楚派同様に落ち着いて冷静な様子だ。ただしそのつぶやきから感じ取れる内心は、スィートほど強かなものではなく、困惑と戸惑い、そしてわずかな疑念だけだ。
公平、公正を標榜し、かつ常にそれにふさわしい審判者たらんとすべく精進してきた。あなたの意思に沿い、あなたの意向こそが絶対唯一無二の公平と公正なのだと。そう、狂信に近い。
そんな狂信者が。あなたのためならばなんでもしようと心して疑わない彼女達がだ。明らかに狼狽し、自らに疑念を抱いている。愛人派の怒りを込めた指摘は、たしかに彼女を動かしていたのだ。
ただし、それが良い方向に転ぶかは別の話だ。何しろ愛人派にはそもそも人望が一つもなく、今も現在進行形で周囲に当たり散らすという形で、孤立の一途を辿ろうとしているのだから。
『そして放蕩派! ウマム! 私達はあんたらが一番納得いかない!!』
『まあ、でしょうね……なぜ私達よりあなた方のほうが孤立しているのか。そういうことでしょう?』
『そうよ!! なんなの!? あんたらこそ今こうして囲まれて袋叩きにされてるべきじゃない!!』
『一応、ここで囲まれているのはあなた方だけでなく私達もなのだけれどね……』
『それでも責められてるのは私達愛人派だけ!! あんたらのほうが穢らわしいのに! あんたらのほうが汚らしいのに!! そんなに悪いの、人を愛することが!! 英雄様が一番なのはもちろんなのに! 二番目を作ることはそんなに悪いことなの!?』
そしてとうとう、最後には放蕩派のウマムに叫び出すビタネス。他のどんな派閥に啖呵を切るよりも、なお深い怒りと悲しみがその叫びには込められている気がしてあなたは目を見開いた。
人を愛すること。一番目はもちろんのことだが、二番目を作ることがそんなに悪いことなのか。そんな彼女らの言い分に、たしかな迫力を感じ取ったのだ。
セカンドパートナーの是非。最愛を二人作るということの是非。勝手に見知らぬ男と比較される側としては複雑だが、彼女らにとっては至極当たり前の行為であり愛のあり方なのだ。
それを、こうまで一方的に囲まれ糾弾されている──愛など欠片もなく欲を満たすためだけに身体を開けている放蕩派よりも、ずっと責め立てられている。
そのことにビタネスは我慢ならなかったのだろうと、あなたは気が付いたのだ。
筋の通った理屈とは到底思えないにしろ、そういったたしかな物差しの下に今、彼女達愛人派が激怒しているのだと理解したのである。




