会議は紛糾し、各派閥は罵り合う。
『この際だから言わせてもらうわね──清楚派! あんたら何様のつもりよ!?』
『……鏡に向かって吠えても仕方ないのではなくて? 何様と言いたいのは、それこそあなた方以外のこの場の全員でしてよ』
『そういうところなのよ、苛つかせてくださって!!』
『そうよ、そうよ!』
『何を、間男に入れ込んでる連中が!!』
響く怒号。堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに叫ぶビタネスに、追従と反発の二種類の声があがった。
まずは清楚派に対して怒りを叫べば、スィートは冷静に嘲笑を浮かべて返す。そしてビタネスに同意する愛人派の面々と、それを糾弾する他派の女達。
恐るべきやりとりだ。魔竜王相手にも一切怯むことなく挑んでいったあなたも、会議室の閉じられたドア越しにも伝わる異様な雰囲気には本能的な怯えを抱かざるを得ない。
すかさずそれを抱きしめ慰めるエイラ。現状、間違いなく彼女こそがどの派閥のどの女よりも得をしていた。
「とうとう始まりましたか……仕方のない人達。等しく英雄様の下に集っておきながら、その英雄様を置いてきぼりに相争って。これではハーレムとやらもかたなしですね」
ため息交じりの囁きが、あなたの耳を優しくくすぐる。怒号に比べてあまりに自愛に溢れた声色だが、発する言葉の意味そのものは皮肉や嫌味に属するものだろう。
エイラは心底から呆れていた……各派閥、結局根底にあるのは自我、エゴイズムだ。あなたそのものより、あなたに対する自分達各人のスタンスを優先させて主張しているとしか言いようがない。
愛は本物だろうが、表現の仕方がおかしいと率直に思うのだ。ゆえにエイラはただ、あなたを甘やかしかき抱く。これこそが真に捧げるべき愛の姿だと、人知れず誇るように。
エイラはハーレムに異論はなく、あなたほどの英雄ならばそれでこそだとさえ思っている。しかし、それでもあなたに最も愛され、あなたを最も愛しているのは間違いなく自分であると確信してもいるのだ。
いわば正妻。他の女達の誰もが否定できない、あなたと彼女だけの絆。
それがあるからこそエイラ一人は派閥などという枠組みに最初からいない、あなたのたった一人の特別として事態を冷静に客観視できていた。
『純愛派! アシディ!!』
『は、はい!?』
『あんたらもあんたらでね! 鼻につくのよ、まるで自分達だけは一番まともな派閥ですみたいに! どうせ私らのことが嫌いなら、スィートみたいに露骨な態度とってきなさいよ!!』
『ご、誤解です、とは言えませんけど……! そ、そんなこと言われる筋合いはありません! 八つ当たりみたいなこと、止めてください!』
『出た、そのあざとい仕草! あんたらのがよっぽど裏で間男囲ってそうじゃない!』
『そうよ、そうよ!』
『ひ、ひどい……』
そして、今度は純愛派に矛先を向ける愛人派。アシディ率いる彼女らに対しても普段から溜め込んでいるところはあったようで、口々にビタネスはじめ派閥の女達が怒りを口にしている。
対する純愛派達は嘆くばかりだ。無理もない……言われるように彼女らとて、たしかに内心では愛人派を嫌悪している節はある。
それをひた隠しにしているのは、気づかれなければまだしも気づかれていたならば、陰で馬鹿にされていると受け取られても無理はない。
さすがにあなたは立ち上がった。これ以上、彼女らの喧嘩を聞いているだけにはいかない。こうなることを防げなかったのはひとえにハーレムの主たる自身のせいだとさえ悔いつつ、彼は意を決して隣の会議室へと向かおうとする。
しかし、それを身体ごと後ろから抱きついて、エイラが止めたのだ。
「落ち着いてくださいませ、あなた様。ここで彼女らを止めたところで、すぐにまた、今度はあなた様のいないところで喧嘩を始めるだけです──ある程度、思うところを吐き出させてあげましょう。どうせここまで拗れた仲です、多少暴言を吐きあったて、せめて気持ちのうえだけでもスッキリとさせるべきかと。そこから何か、展望は見えてくるかもしれません」
淡々とした声色だが、あなたを止めるその身体にはたしかな力が籠もっている。そしてそこに宿る、説得力──
すでにことは起きたのだ。隣の会議室にて愛人派の怒りが爆発し、それに応じて各派閥も火が付いている。こうなることを止められなかったのはあなたやエイラにも責任はあるが、本質的にはやはり価値観の相違という、言ってしまえば彼女ら自身の問題でもあるのだ。
ここが、このハーレムの肝心要なのだろう。ここで互いに思う存分に本音をぶつかり合わせ、そしてその後に何かしらの良い方向への進みがあるかもしれない。
そんなことを述べるエイラに、あなたは深く息を吐きながらも冷静さを取り戻し、うなずいた。
『そして中立派!!』
『っ!?』
『……私らに寄り添おうとしてくれてるのは感謝してる。でもねあんたら、分かるのようっすらと。私らのこと嫌いなんでしょ、放蕩派や清楚派のように。中途半端でどっちつかずを標榜するからには、どんな方向であれ過激で極端な連中は認めがたいものね』
『そんなことはありません、私達は常に公平と公正を掲げて──』
『誰にとっての公平と公正よ! それを測るあんたらが常に真ん中にいる保証は、一体どこの誰がしてくれるのかしら!?』
『!!』
口撃はなおも続く。次は中立派のソルティ達めがけてビタネスの不満がぶちまけられた。
中立派の掲げる公平と公正。それに助けられたことは受け止めつつもしかし、それでも中立というのはお題目でしかないだろうという本音だ。
ソルティ達中立派は、決してそんなことはないと言いたげな様子だったが、しかし……
無意識の図星。審判者を気取りながらもどうしても抱かずにはいられなかった内心の負の想念を指摘されたことで、彼女らは思わずして怯んでしまったのも事実だった。




