あなたはなるべく平和的にいきたいが、やはりハーレムはギスギスしている。
夜になって、ソルティはあなたと褥をともにした。英雄盛りのあなたに抱かれ、あなたを愛し、愛され、そしてすべての悦楽を究め法悦へと至ったのだ。
何度も、何度も、何度となく何度も。
この時ばかりはソルティの心に、公平や公正なる物差しの介在する余地はない。あるのはひたすらにあなたに奉仕し、快楽を捧げ、授かり続けることへの執着のみ。
ともすれば浅ましい肉欲とさえ言ってしまえるだろうそんな瞬間の連続の果てに、ソルティはようやく落ち着いて深夜遅く、あなたの身体にその細くしなやかな肢体を絡ませて興奮冷めやらぬ吐息を小さく漏らしたのだ。
「は、ふぅ……は、ぁん。英雄、様……今日も、す、すごいぃ、ですぅ……」
あなたの耳元に、これでもかと発情した声で囁くソルティは未だ体力が残っていた。だが相手は文字通り昼も夜も百戦錬磨の超絶倫人たる英雄だ、このペースで挑み続けてはどうあがいても夜明けをともには過ごせない。
競い合うのでなく、ともに至るために──こんなところでも中立派らしい価値観を自然発露させつつ、ソルティはひとまず小休止がてらのピロートークと洒落込むのだった。
「英雄様……愛人派のビタネスさんが、また今夜も出かけているみたいですね。放蕩派のウマムさん達も」
始まった。あらかじめ予想していた話題に、あなたはソルティに悟られることなく心の身構えをした。
理解していたことだ、今宵のソルティは一段落すれば必ず、愛人派や放蕩派の話題を口にすると。
あなたもすでに仔細は把握していた。というよりいつものことだ、と受け流すほどにまでなっていたと言うべきか。
愛人派と放蕩派は、あなたと過ごす番にない日はそれなりの頻度で夜、ハーレムを抜け出て市井に出る。市井に出て、他の男と交友する。
愛人派であれば特定の相手と、セカンドパートナーとの逢瀬を楽しみ。放蕩派であれば不特定多数の男達を相手に、さながら女王蜂がごとく好き放題に振る舞うことをあなたは知っていたのだ。
ゆえに衝撃は薄い。ただ、決して聞きたい話題でもないのは事実だった。ソルティを強めに抱き締めれば、彼女は眉を下げてあなたの頬に唇を何度も落とし、慰撫した。
「ごめんなさい、英雄様には面白くない話ですよね……ですがそろそろ、あの二派閥に関して清楚派が我慢ならなくなってきているということだけはご承知いただいてほしいんです。たぶん、それすらももうエイラさんから聞いているんでしょうけど念のために」
申しわけなさげな彼女のまなざしは、心底からの謝意と忠誠、愛が込められている。同時に裏腹の内心だろう、愛人派や放蕩派への愉悦や憤り、あるいは憐れみさえも微かに。
あなたもすでに分かっていることだが、中立派の女達にはこういうところがある──芯から中立たらんとしているが、本性というべき好き嫌いにはやはり振り回されるという、人として当たり前の価値観が。
ソルティに限っても結局のところ、ビタネス率いる愛人派やウマムをはじめとする放蕩派を内心では嫌厭しているのだ。同時に清楚派のスィート達にも同様の感情を隠し抱いていることを、あなたはすでに見抜いていた。
そして、それも含めて受け入れ認めている。愛人派や放蕩派の男遊びを、一応にでも黙認しているのと同じだ。なんだかんだとあなたはあなたを慕い集った者達を、どうにも無下にできないのだ。
それがあなたの英雄性だった。
「……私達中立派は、同じハーレムの女である以上は誰に対しても中立に振る舞います。たとえやることが極端でも、間男とあなた様を秤にかけていても、複数の男を弄んでいても。あなた様が容認なさるうちは、私ども中立派はあなた様のご意思の下、中立たらんことを常に心に誓っているのです」
敬虔な信仰のように、あなたへの忠誠とそこからくる中立のスタンスへの意志を示すソルティを、あなたは慈悲を込めて頭を撫でる。
それぞれの派閥のスタンスについては、当然あなたもあなたで思うところはあるものの……総じてあなたを最優先にしていることはいかなるメンバーであれそこは間違いないのだ。であればとやかく言うことはしない。
愛人派と放蕩派についても、そもそも多くの女を囲っている自分が言えたことかという自覚はあるため、やはりこれも気にはしても指摘はできない。
ゆえに中立派にも、あなたはあまり中立に拘らなくても良いのにと思うばかりだ。清楚派にも純愛派にもそれは変わらない。
だからこそ、こうして派閥に分かれて紛糾しているのも正直、あなたとしては複雑な気持ちだ。理解はできるが可能な限り、ハーレム内で揉めるというのも避けてもらえるに越したことはない、と。
そう思うし折に触れて女達に言いもするのだが、さすがに愛人派と放蕩派の男遊びだけは擁護の余地がなく……他のことはともかく、この点においてはいつか折り合いがつかなくなるだろうというのは、常からエイラと話し合っている懸念であった。




