24 とんでもない息子(?)よ
◇◇◇
(何、その……初めて耳にする破壊的な単語は?)
まさか、ヘイリーさんの老化が及ぼす幻聴?
それにしては、特大の秘密を知ってしまった「わたしって、すごい?」って得意げな顔をして、活き活きとしているじゃないの。
(これは、きっと本当のこと)
魂が抜けそうなわたしを今度は、ヘイリーさんが支えるように、寄り添ってくれた。
「嫌ねえ。本当の本当に、知らなかったの?」
「ねえ、ヘイリーさん。もうね、色々と察しはついているけれど、念のために聞くわよ。誰が誰を婚約破棄したわけ?」
「だから……貴方の家にいるサイリ君と、王女さまよ。結婚間近と言われていたのに、突如、サイリ君が逃げたらしいわよ。王女さまの名誉に関わることだから、秘密厳守だって、軍人さんが話していたけど……」
「ほう……。秘密厳守の話を、ヘイリーさんに、ぺらぺら話す時点で、軍法会議ものです。何処の誰ですか? 貴方にそれを話したヤツは?」
「「………………あ」」
思いがけず、ヘイリーさんと、はもってしまった。
太陽を背に、逆光の中で偉そうに腕組みをしている若者。
見た目は地味にしているのに、隠しきれない色気が眩し過ぎて、目が潰れてしまいそうだった。
気がつくと、わたしは無言で、ヘイリーさんと抱き合っていた。
「ヘイリーさん、何をどこまで、その追手に話したの?」
「どこまでって……。ミレーナさんに、サイリ君のことを聞きに来る人がいたら、適当に誤魔化しておいて欲しいって言われていたから、軍人さんには申し訳ないけど、いろんな人を働き先に斡旋しているから、その人のことは分からないって、伝えておいたわよ」
「……そう」
ちらっと、わたしは横目でサイリ君を窺う。
彼は、何やらまた下を向いて、小難しい顔で、考え込んでいた。
(ねえ、そこの君、浸っているところ申し訳ないんだけど、肝心なことについて、半年近く、だんまりだったなんて、酷過ぎるよね?)
いっそ、怒声を上げたいところだったが、サイリ君の無言の圧に、わたしは震えて待つしかなかった。
……そして。
待たされること、数分。
ようやく顔を上げた彼は……。
「ああ、そんなところで、こんな話をしている方が怪しい。ひとまず家の中に入りましょう」
我が物顔で、そんなことを言い出したのだった。
(そこ、わたしの家なんですけど?)
もはや、居直り強盗のような……。
しかし、魔力、知力、腕力……すべてにおいて劣るわたしが、彼に逆らう力なんて持っているはずがないのだ。
「じゃあ、わたしはこれで……」
「ひー! 待ってよ。ヘイリーさん」
逆方向に進もうとしたヘイリーさんのセーターの袖を、わたしはおもいっきり掴んだ。
伸びきっても放してやるものか。
「嫌よ。無理よ。わたしと一緒にいてよ。ヘイリーさん」
「……んなこと言ったって。わたしには関係……」
「関係あるでしょうが……。そもそも、誰がこんな!」
「まったく、何やっているんですか?」
サイリ君が特大の咳払いをした。
「いい歳した大人の女性が見苦しいですよ。取って食いはしないので、とりあえず、落ち着いてください」
「「…………スイマセン」」
(なぜ、わたし達が謝っているのだろう? )
……分からないままに、わたしはヘイリーさんを引っ張って、サイリ君のあとに続いた。
居間の長テーブルの古びた椅子に、ヘイリーさんと並んで着席する。
彼はもはや、自分の家のように、温かいお茶を、せっせっと用意していた。
「ねえ、これから、どうするのよ? ミレーナさん」
「どうするって、ねえ……」
ヘイリーさんがここぞとばかりに、わたしの耳元で対応を促してきた。
逃亡兵を匿ったら、どうなるのかというのは、調べまくっていたけど、王女の婚約破棄して逃げ回っている軍人を匿ったら、どうなるのか……という点については、調べてもいなかった。
(そもそも、何で、わたしがそんなことを調べないといけないのかしらね?)
「たとえば……ね。都会に出稼ぎに出た息子がさ、急に実家に戻ってきて「母さん、苦労かけたね。これから僕が家事でも何でも手伝うよ」と甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、親思いの良い息子が帰って来てくれたのよって、近所中に自慢して歩いていたら、何と、その息子は、都会で高貴なご婦人に乱暴をはたら……」
「僕は、乱暴なんかしていません」
「…………あら、聞こえていたのね?」
まあ、聞こえるように話していたんだけど……。
「何ですか、その喩え? 僕とミレーナさんは親子でも何でもないじゃないですか。謎の想像力を発揮しないでくださいよ」
「じゃあ、サイリ君。婚約破棄というのは、嘘なのね」
「嘘ですよ。………………三分の一くらいは」
「そう。三分の二は事実なのね?」
「………………」
はあ……と、サイリ君が溜息を吐いたので、こちらが泣きたくなった。




