22 天に選ばれし人たち
「では、ミレーナさん。お聞きしますけどね。今日じゃなきゃ、いつやるんですか?」
「………………明日か、明後日か、明々後日……か」
「永遠にやる気ないじゃないですか。貴方、提出物を締切り日の寸前に仕上げようとして、結局、間に合わなかった人ですよね?」
「……何で、分かったの?」
「締切り日に間に合わせようという意思のある人間は、嘘でも「明日」って答えるものです」
「そういうものなの」
知らなかった。
思わず、感心してしまった。
「締切に間に合わなかった人間」という、最高に不名誉な称号まで与えられてしまったのに。
……悔しい。
けど、頑張りたくはない。
「じゃあ、もう少し温かい時にでも……。来年の春くらいとか」
「別に、いいですけど……」
サイリ君が手を掲げると、懐いているネムちゃんは頭を垂らす。
彼はネムちゃんの、モフモフの頭を優しく撫でながら、ぽつりと言った。
「もったいないですね。ミレーナさん。筋はいいのに」
「誉めても、落ち込むだけだからね。騎獣なんて、出来る人はひょいって出来ちゃうものなのよ。みんな、天に選ばれし人たちなのよ」
「じゃあ、天に選ばれた人たちに、地上で埋め尽くされてしまいますね」
「ええ。わたしは、神に見捨てられた希少人種なのよ」
わたしは、忙しなく動くネムちゃんの背中で、無様に這いつくばりながら、うわ言のように呟いた。
このザマでは、ネムちゃんが飛んでくれたとしても、人生に見捨てられてしまいそうだ。
「なぜ、出来ないと決めつけるんでしょうね。騎獣ができると、楽しいですよ。それに……」
「……それに?」
サイリ君が言い出しにくそうにしていたので、気になって、問いかけみると……。
「騎獣の練習って、軍では二人一組でやるものなんです。僕は運よく一人で乗れてしまったけど、女性は特に、ふるい落とされたら危ないので、誰かと一緒に訓練するものなんです。ミレーナさんは危なかったしいから、僕が見てあげられる時にと思ったんですけどね」
「…………え」
それは……?
(サイリ君も覚悟しているのかしら?)
ネムちゃんがいなくなったら、わたし達の契約も終わる。
……けど。
その前に、終わってしまうこともあるかもしれない……ということを。
「サイリ……君?」
(君は……。時折、すべて諦めたような顔をする)
世の中を斜に見て、疲れ果てて、逃げ場のない緊張感を内包している。
わたしなんて、百年生きていても、そんな表情は作れないのに……。
もう少し、世の中で揉まれて、疲れてみろ……て、感じなのに。
(何が、そんなに虚しいのかな?)
…………どうして、軍を辞めたのだろう?
(わたしは、君が羨ましいわ)
若さも、賢さも、一途さも……。
誰も辿りつけない、華々しい未来が君にはあるはずなのに……。
本来、混じり合うことがなかったわたしと、サイリ君の人生。
わたしは無意識に、そっとサイリ君に手を伸ばしていた。
何ができるわけでもないし……。
本当は、離れる口実を探しているだけなのかもしれないのに……。
………………と、その時だった。
「ちょっと、ちょっと! ミレーナさん、居るの? 大変なのよ!」
相変わらず、癖っ毛が爆発しているヘイリーさんが、わたしとサイリ君の間に割って入るように、全力疾走してきたのだ。




