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18 神・サイリさま

「えー……っと。君の尊厳を傷つけたというような謝罪……かしら」

「了解。相変わらず、貴方は適当ですね。僕は別に怒っていませんよ。非効率的だなって思っただけで。気になることがあったら、適時報告というのが、最初に二人で考えた取り決めだったじゃないですか。だから、別に貴方は間違ってない。ただ、僕の私的なことをダシにして、自分優位に動かそうと考えていることに、僕は納得していないだけです」

「小難しいわね……。いや、わたしは、あくまでも君が……ね」

「ミレーナさん、違うでしょ? 今まで、ずっと自分中心に生きてきた人が、急に僕のため……だなんて、危険をおかしてまで、そんな繊細な話を持ち出してくるはずがないじゃないですか。丸々、善意だったのなら、貴方は逆に言おうか言うまいか、悶々と、永遠に悩んでいるだけじゃないんですか?」

「………………うっ」


 言ってくれるわね。

 八十年近く年下のくせして、生意気な……。


(けど、的確に見抜いている)


 たった三カ月の間で、わたしが日頃被っている「善人面」を……。

 そして、そんな痛ましいわたしに気付いているくせして、尚、ここに留まるつもりらしい。


(何、変人? いや、狂人なの?)


「そうだなあ。貴方にとって、僕との共同生活の何がしんどいんでしょう? 一応、私的空間は分けていますし、仕事……ネムちゃんの餌以外は、あまり接触しないようにはしていますね。当然、不可抗力ということはありますが……。だとすると、二人で使っている水回り関係……でしょうか?」

「…………いや、もういいのよ。サイリ君。わたしのことは気にしなくていいから」


 これでは、まるで、わたしが子供みたく駄々をこねているみたいだ。


(もういいの。別に、気にしないで。わたしが悪かったから)


 ……と。

 目をつむって、下を向いているけど、でも、彼はぶつぶつ一人で呟いたまま。

 そして「ああ」と低い声で、ひとりごちると、さらっと言い放ったのだった。


「あー……そうだ。いっそ、浴室と、お手洗いを、もう一つずつ造りましょうか。そしたら、貴方も気が楽でしょう。常に僕の気配があると、嫌だろうから、その辺りを考慮して場所を決めれば」

「……出来るの!? そんなことが?」


 思わず、わたしはすべてを忘れて、身を乗り出してしまった。


「できますよ」


 即答。

 さすが、神・サイリさま。

 わたしの夢の生活をいとも簡単に叶えられると断言してしまうのだ。

 浴室はともかく、常に腹痛に怯えているわたしにとって、お手洗いの使いやすさは、生きて行く上で必須なのだ。


「昔の話ですが、軍を率いて野営している時、僕、ぴかぴかのお手洗いを作るのが趣味だったんです。最近では、軍隊にも女性が増えていますから。せめて、そういうのが綺麗でないと、定着してもらえません」

「……それは、大変だわね」


 お国のために、ご苦労さまだ。

 頭が下がりすぎて、他に言葉が出てこない。


「もし、貴方が必要であるのなら、本格的な冬が来る前に、とっとと作ってしまいましょう。そうすることは、ひいては、僕のためでもあるので、材料費だけ頂ければ、作業代はいりません」

「そんな、悪いわよ」

「幸い、使うあてもないので、お金には困っていないんですよ」

「だったら、嬉しいけど?」

「そうしてください」

「………………だけど、何で、君はわたしに、そこまでしてくれるのかしら? 君流に言うと、赤の他人に対して、仕事の範疇を越えているような気がするけれど」

「それは……」


 長い沈黙。

 やっぱり何かがおかしいような気がする。

 本題から煙に巻かれている感じがするのだ。


 おそらく……。


 ………………彼は、わたしに隠していることがあるのだ。

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