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17 焼き芋が悪い

◇◇◇


「……そうですか。邪魔だから、何処かに行ってろと、言うのであれば、僕、どこかで時間を潰してますけど?」


 うわー……。

 ますます、苛々させてしまっているけど?


(ああ、わたしったら、やらかしちゃったのね)


 こんなことになるのなら、居間のやたら大きなテーブルで、向かい合って座らなければ良かったのだ。


(……焼き芋が悪い)


 滑り出しは、良かったのだ。

 父の遺した飾り気のない白シャツを、好んで着てくれたサイリ君に「丁度、身体に合ったみたいで良かったわね」などと、ご機嫌を取りつつ、本題に入ろうとしたところで、せっかく、焼き芋を作ってくれたのだ。ひとまず食べようという話になって……。

 良かったら……と、居間を解放してしまった。


(……焼き芋の呪いだわ)


 美味しそうな食べ物を見たら、お茶も注いで、落ち着いて食べたいという欲望。

 けれど、その、がめつい食欲のせいで、この事態を招いてしまったのだ。


「……あのね、別にサイリ君が邪魔だなんて、わたし、まったく考えてもいないのよ。でもね、君だって若いんだし、夜の街に繰り出して、遊びほうけてみたいとか、欲の一つや二つあるんじゃないかって思ったのよ。そういう羽目を外したい願望を、雇い主のわたしには言いにくいんじゃないかって、一応、配慮したつもりだったんだけど」 

「夜の街に繰り出して、遊び呆ける? それって、楽しいんですか? 貴方がそんな二十代を過ごしていたとは、到底、思えないんですが?」

「わたしは…………主に寝ていたわね」

「でしょうね。寝るの、お好きですものね」


 あっさり頷かれた挙句、砂糖大匙、六杯が沈んだコーヒーを涼しい顔して一気飲みされてしまった。


「サイリ君。余計なお節介だったなら、謝るわ。でも、わたしは、ちょっとだけ後悔しているの。もう少し、若い頃に自分のために遊んでおけば良かったって……。今は戦争も終わって、色々、娯楽も増えてきたみたいだし、異性と遊びたいって思うのも、健全な感情の一つだと思ったのよ」

「言ったはずですよ。僕は……恋愛は苦手なんです」

「ああ、別に恋愛じゃなくてもいいんだけど」 

「…………ふ・し・だ・ら・な」

「失礼しました」


 魔物のような形相で凄まれたので、わたしは身を小さくするしかなかった。

 いまどきの人には、こういう直截な言い方はしない方がいいらしい。


(勉強になるわ)


 サイリ君も、熱くなった自分が恥ずかしくなったのだろう。

 赤面しながら、早口で話を続けた。


「そうですね。一理あるでしょう。僕が十代の思春期の子供だったら、男子の生態を気にかけてくれる「母」と「子」という構図で、今の状況が成り立つんでしょう。でもね、生憎、僕も来年で二十六歳。そういうことを、雇い主に、心配されるような年齢ではないのですよ」

「……………本当に、その……ごめんなさい」


 保護者面するなという牽制。

 当然のことだ。

 うーん。

 でもね……。


(わたし、たまに思ってしまうのよね)


 彼のような人が、怠惰なわたしの傍にいて、虫除け+掃除洗濯のためだけに高度な魔法を使っているかと思うと、世間様に申し訳が立たないって……。

 あと、それと、もう一つは……。


(わたしの優雅なお手洗い使用時間を設けたいというのも、本音だったりするけど)


 すぐにお腹痛くなる性分だからなんて、さすがに、若いお兄ちゃんに、言えないわよね。


(さあ、もうこの話はおしまいにしましょう)


 幕引きのつもりで、わたしはずっと頭を下げ続けている。

 こちらが悪いと謝ってしまえば、大抵、その話は流れるはずだ。

 ……けれど。


「それは、何に対しての、謝罪ですか?」


 真正面から、感情の読めない、低い声で飛んできた。

 わたしは、慌てふためきながら、思いついたままを口走るしかなかった。


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