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16 ニールさんの提案

◇◇◇


 今年は、秋の訪れが早かった。

 落ち葉が雪のように積もるのは、年の瀬が近づいてからだろうと、わたしは高を括っていたのだ。

 ……なのに。

 過ごしやすい気候になった途端、庭全体が枯葉の山となった。


(いつもなら、虫との戦いが落ち着いて、一服した頃に、落ち葉問題が発生するものなのよ)


 枯葉をどうにかしないと、家が埋もれるし、温かくなった時、気持ちの悪い虫が繁殖しやすいし……。

 しかし、わたしが頭を悩ます前に、とっくにサイリ君が動いていた。

 非現実的だから、忘れてしまうことが多々あるが、彼は優秀な魔法使いだ。

 風の魔法を使って、枯葉を集めて、一気に炎の魔法で燃やしてしまうという、その手があったか……て、普通は出来ないからという手段で、簡単に解決してしまった。


 さすが、サイリさま。

 一家に一人必要な高性能な方だ。

 これはまた特別手当を出さなければならないような気がする。


(だけど、あの子って一体、何にお金を使っているんだろう?) 


 服にも、おしゃれにも、食べ物にも、大好きな本にすら、我が家の処分し損なった古書ばかり読んでいて、お金を使っていないような気がする。


「そりゃ、当然、まとまった金があれば、男は、女と酒と……。人によっては博打なんじゃないかな。私も若くて元気な頃は、よく遊んでいたからね。ふふふっ」

「…………笑い声が、気持ち悪いわ」


(まったく、一体、何を思い出し笑いしているのか……)


 好々爺の典型のような優しげな佇まいをしているのに、とんでもない球を投げてきた。


 このオジイサン、いえ、老紳士は、サイリ君の前に雇っていた使用人・ニールさんだ。


 ネムちゃんやわたしのこと、きっと気になっただろうけど、特に何を聞くこともなく(興味がなかったのかもしれない)三年もの間、使用人として勤めあげてくれた。


 ネムちゃんのブラッシング中に、ぎっくり腰になってしまって、そのまま静養に入って辞めることになってしまうのだけど、動けるようになったので、律儀に最後の挨拶に訪れてくれたのだ。

 サイリ君は、庭先で拾った落ち葉を焼いて、季節先取りの「焼き芋」を作っているので、客間にはいない。

 だから、わたしはおもいきって、ニールさんに聞いたのだけど……。


(人選、間違ったかしら?)


 同性の方が、気持ちも分かるのではないかと思ったのが、人にもよるみたいだ。

 おかげで、わたしは、知りたくもなかったニールさんの若気の至りを聞くことになってしまった。

 はっきりいって、今、長々と聞く話ではない。


「で、でもね、ニールさん」


 わたしは、延々話すつもりでいるニールさんの話に無理やり割り込んで、話題を変えた。


「サイリ君は一人で街に出ている気配がないのよ。ここに来て、三カ月以上も経つのに、わたしと一緒の行動しかしていないわ。休みの日もね、仕事は抜きで、自由にしていいのよって話しても、なぜか、わたしの目の届くところにいるのよね。こんな辺鄙な何もないところにいて、鬱憤がたまらないか心配だわ。心無しか、なんか、苛々しているような気もするし」


 苛々……と言うと、語弊があるかもしれない。

 サイリ君が、感情をむき出しにすることがある……という話だ。


(まあ、わたしに慣れてきたっていう意味でもあるんだろうけと)


 それと……。

 四六時中、二人+一匹でいるのが、おかしく感じていた。


 特に、自業自得とはいえ、お腹が弱く、体調不良をしょっちゅう起こす、わたしにとって、一人の時間が確保できないということは、なかなか、辛いことなのだが……。


(………て、あれ?)


 それは、わたしの個人的な感情ではないか。


「あー……。そりゃ、駄目だねえ」


 一瞬、わたしの心の声に、駄目出しされたのかと思った。

 そんなはずないのに……。

 ニールさんは、寝ているんだか起きているんだか分からない糸目を眇めて、濃い目のコーヒーを啜りながら、気持ちよさそうに顎の無精ひげを撫でていた。

 彼は頭髪がないツルツルなので、手持無沙汰に触っているのは、いつも髭だった。


(変なの……) 


 少し前まで、ネムちゃんにどつかれながら、扉の修繕をしていた腰の曲がった小柄な老人はどこにいったのか……。

 今のニールさんは、なぜか、生き生きしていた。


「その子、相当、溜めこんでいるんじゃないかな? だって、まだ二十五歳でしょう。遊びたい盛りでしょう?」

「…………遊ぶ?」

「ミレーナさんが目を光らせているから、自分からは言い出しにくいのかもしれないね。それとも、ネムの世話が手間取るから、夜は早めに就寝しようと心掛けているのかもしれない」

「ああ、そういえば、朝早くに目が覚めてしまうって話していたわ。あれは、まさか、わたしに対する気遣い? ネムちゃんのための嘘?」


 生真面目すぎる、サイリ君のことだ。

 日の出の前に、ネムちゃんの状態を見ておかないと、使用人失格だとか、考えていてもおかしくはない。


「ミレーナさん。一度、遠回しに話してみたらどうかな? 台所に貼ってあるじゃないですか。気になることがあったら、適時、報告って」

「そうよねえ。それはそうなんだけど……。結構、私的なことだし、わたしが立ち入って良いものなのか……」

「でも、気になるんだろう? あんたが、お人好しだってことくらい、サイリ君とやらも分かっているはずだろうから、悪いようにはされないだろうよ」


 頼もしいニールさんの後押しだったが……。


 ――結局、悪いようになってしまったのだ。


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