9 雇用に当たっての取り決め
(歴代の使用人さんたちは、高齢のためか、ぼうっとしていることが多くて、仕事も抜けている部分がよくあったけれど、一度、慣れてしまうと、わたしも黙って好きなように振る舞うことが出来たので、楽だったのよね)
優秀で、出来過ぎる子っていうのも、ドキドキだ。
掃除の手抜きや、埃の積もり具合をつぶさに観察されているのではないか?
(もう一度、労働環境に関する会議……が必要かしらね?)
台所脇の壁に、二人で書きなぐった【雇用に当たっての取り決め】がピン留めされている。
二人で思いつきを、口に出しながら、書いていったので、汚い字かつ、読みにくかった。
わたしは(老眼疑惑で)見えにくい目を眇めて、再びそれを確認した。
【雇用に当たっての取り決め】
・二階はミレーナの個人的空間。一階の離れがサイリ君の自由な空間。お互い、許可なく、立ち入らないようにする。
・サイリ君の仕事は、ネムちゃんの住居の掃除。虫退治。ミレーナにできない力仕事、全般。
・もし、他に頼みたいことがあれば、その都度、ミレーナが交渉。
・一件につき、別料金で対応。
・仕事以外の時間は、自由時間。外出も許可。ただし、翌朝、ネムちゃんが起床するまでには戻ること。
・食事は、別々。
・お風呂とお手洗いは、一階に一か所しかないので、共同で使用。
・掃除分担は、月の前半はミレーナ。後半はサイリ。
※他にも適時、話し合いで、良い形に改善していく。気になることがあったら、都度、報告すること。
(うーん。特に、居間の使用時間とか、お手洗いやお風呂の使用についても、詳細を決めてないわよね)
規則を決めてしまうと、億劫になって、使用することを我慢してしまうのではないかと、気を回したつもりだったけど……。
(その方が、使いづらかった?)
腕組みして、炊事場で唸っていると……。
手前の四角い小窓をこんこん叩く音がした。
「……え?」
ガラッと開けて、覗きこむと、だぼっとしたシャツに半ズボン姿。楽そうな格好をしたサイリ君が突っ立っていた。
後ろ髪の寝癖が、湿った風に、ぴょんぴょん跳ねているのは、愛嬌だろう。
「おはようございます。丁度良かった。ネムちゃんの小屋の掃除が終わったんで、報告しようと思っていたんです」
「早いわね。ご苦労さま。それで、あの……。君、朝食は……?」
「ああ、そうそう。食事についてなんですけど……」
「うん、どうしたの!?」
ずいっと更に顔を窓に近づけると、わたしの食いつきに、サイリ君が驚いて、目を丸くしていた。
「あっ、やっぱり、気にしていましたね?」
「気になるわよ。当然でしょ。食べないと、死んでしまうわ」
「……ですよね。だったら、話が早い。ネムちゃんの食事のことなんですけど。今まで、病気の快復期だから、水だけで絶食してもらってましたけど、そろそろ、食事を再開させてもいいんじゃないかと思って」
「…………え、ネムちゃん?」
「はい、幻獣の食事です。僕、ネムリアの食事については、よく知らないんですよね。一体、何を主食にしているんですか?」
「……えー……と」
――どうしました?
と、問いながら、サイリ君がきょとんと首を傾げていた。




